第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
西乃国の政変から1年経った。
劉煌は、その日は忍者の修行を初めて休んで、お陸の教えどおり逃げ道を確保してから、中ノ国の皇宮の南大門門前の人だかりの中に、いつも通りピンクの着物を着た女の子の姿で立っていた。
ほどなくして、東之国の一行が馬車で到着すると、一行は外野に振り向きもせず、すぐに門の中に消えていったが、待てど暮らせど劉煌のお目当ての西乃国の一行は現れなかった。あまりにやってこないので、劉煌が、別の門に到着しているのか?と疑い始めたころに、ようやく見慣れた西乃国の騎馬隊が、バーンと彼の視界に飛び込んできた。西乃国の騎馬隊は、東之国一行と同じく南大門の門前につけ、まず隊長らしき男が馬から降りると門番に大きな声で、「西乃国の皇帝は欠席する。代わりに第8騎馬隊隊長、袁騎が参加する。」と宣言した。観衆もこの宣言にざわついたが、中ノ国の門番たちはもっと動転して、そのうちの一人が慌てて宮中にこの件を伝えに行った。
さらに、袁騎は、自分が無条件で入宮できなかったことに不服を申し立て始めた。彼は、彼が皇帝の名代なのに何故宮中に入れないのか、これは西乃国に対する宣戦布告かと、権限の無い門番に因縁をつけはじめ、中ノ国の門前にさらに大きな緊張が走り、辺りは騒然となった。
押し問答がしばらく続いた後、ようやく宮中から、「まあまあまあ。」と言って腰に両手の甲を当てた恰幅のいい紫の冠服を着た背の低い男がゆっくりと歩いてやってきた。
その男は、西乃国の使者を見ると、「中ノ国宰相の仲邑備中と申す。」と言って恭しくお辞儀をした。
袁騎をはじめ、西乃国の面々もお辞儀をすると、袁騎は、先ほど門番に言ったことと、一字一句違わぬ言葉を備中に告げた。備中は袁騎が話している間中、うんうんと頷いていたが、彼の話が終わっても、その動作を続けたままだったので、袁騎が失礼ではないかと怒りだした。
仲邑備中は、「いえいえ、そういう事でしたら、どうぞお入りください」と言って、袁騎をあっさり門の中に通した。が、その後騎馬隊がそれに続こうとしたのには、短い両腕を広げて、ピタっと制した。
それには、袁騎もその他の騎馬隊員たちも狼狽して、「何をする。」と一触即発状態になった。
仲邑備中は、それに全く怯むことなく、1mmも表情を変えずに「ご招待しているのは、皇帝と皇后及びそのお二方の子女、すなわち皇子と皇女だけです。皇帝の名代は袁騎殿ですが、あなたたちは、袁騎殿のご家族ですか?私には到底そうは見えませんが。それなので、袁騎殿お1人のみお入りください。」と言った。
袁騎が、ムムムと言いながら苦虫を嚙み潰したような顔をしていると、仲邑備中はすかさず、袁騎に向かって、「名代でいらっしゃるということは、当然儀式の手順もご存知という事でしょうな。なあに、何も心配いりませんよ。去年は9歳の子供が名代で何も教えずに完璧にできたのですから、あなたにはお茶の子さいさいでしょう。」と言ってハッハッハッと大声で笑ったが、その目は全く笑っていなかった。
それを聞いた袁騎は、門から出て馬に飛び乗ると、「私を辱めたということは、西乃国の皇帝を辱めたと同じことだからな。覚えていろよ。」と吐き捨てると、中ノ国の皇宮の門前の人だかりに向かって西乃国皇帝から預かってきた聖旨を投げつけ、騎馬隊を引きつれて元来た道をわざと土埃を立てながら走り去っていった。
土埃による咳き込みも相まって、ガヤガヤと騒然となっている中ノ国の皇宮の門前の人だかりの中で、一人だけ落ち着いてことの成り行きをみていた劉煌が、道端に投げ出された聖旨を静かに拾うと、「お嬢ちゃん、拾ってくれてありがとう。」という声と共に、丸い手がパッと差し出されてきた。
お陸に付いて半年以上毎日忍者、、、もとい、くノ一修行を積んでいる劉煌は、無意識に差し出されたその丸い手を観察していた。
”すべすべの丸い手。武道は殆ど経験の無い文官。だけど、年に2回の狩りには同行させられるので、時折しぶしぶ弓の練習をしている。”
劉煌は、パッと出された手だけで備中の情報をそれだけ読み取ると、差し出された手は借りずに立ち上がった。
すると、劉煌の前の仲邑備中も腰を伸ばして立ち、劉煌が手にしている聖旨に手を伸ばしてきた。劉煌は、取られまいと腕をサッと後ろに回して聖旨を渡さない素振りをすると、仲邑備中は笑いながら「ああ、そうか。」と言ってから、袂から銀子を取り出して劉煌に渡しながら「これでいいかな。」と言った。劉煌は、少し考えた後、手を出して銀子を受け取ってから、聖旨を仲邑備中に渡した。
仲邑備中は、すぐに聖旨を開いてその中を見たが、やがてやれやれという顔をした。
劉煌は、いたいけな子供のふりをして、背伸びをして仲邑備中の手の中にある聖旨を覗き込みながら、「おじちゃん、それなんて書いてあるの?」と聞いた。仲邑備中は苦笑して、「子供は知らなくていい事だよ。さあ、行った、行った。」と言って、先ほどとは打って変わって、劉煌に向かってシッシと追い払うような手つきをしながら、自身は皇宮の門の中にそそくさと入っていった。
劉煌は、この時全く気づかなかった。
銀子を手の中で弄びながら、仲邑備中が門の中に入っていくのを目で見送っていた劉煌の姿を、商人の大旦那に変装したお陸がジッと見守っていたことを。
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