第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
ある日劉煌は、突然行動範囲を広げたいと思い立ち、寺の裏山に登ってみようと思った。
劉煌は、小春を担いでも逃げられる逃げ道を用意周到に確保してから、寺の裏山を探索していると、その中腹に小さな洞窟を見つけた。
その洞窟は、大人だと屈んで入らなければならない所だったが、子供だと立って十分に歩ける所で、地面は所々凸凹なっていたがおおむね平らで歩きやすかった。
洞窟の入口から中を見ると、奥には上に抜ける穴が開いているようで、そこから光が入り、洞窟内をその光が漂い、全体的には決して明るくはなかったが、所々暗い中に薄っすらと白い靄がヴェールのようにかかり、幻想的な赴きだった。そして洞窟の内側に入ると、奥に進むにつれ、上に抜ける穴から入り込む光の影響で明るさが増し、不思議なことにその穴を通り越しても奥はさらに明るくなっていた。そのまま少し進むと、洞窟は右に鋭く曲がっていて、その先には外に抜ける出口があり、そこから白い光が洞窟内に燦燦と差し込んでいた。
”そうか、それで明るかったのか。”
劉煌は、何かに導かれるようにそのままその出口の方に進んで行ったが、進むにつれ、前から聞こえてくる音に眉をしかめた。出口の近くまでやってきて、ようやく劉煌は気づいた。なんと出口のすぐ先は滝の裏側だったのだ。そのまま注意して出口の側迄来た劉煌は、そっとそこから外をうかがった。そこは、白い水しぶきとゴーっという音が鳴り響く場所で、そのまま一歩でも外に足を出すと滝に飲まれ、滝つぼに落ちてしまうようになっていた。
”これはいい。ここを秘密基地にしよう!”
そう思った瞬間、劉煌の脳裏に、浮上しないよう押し込んできた五剣士隊の面々が浮かんできた。慌ててそれを抑え込もうとすればするほど、なんの屈託もなく心の底から笑えていたあの日々が次から次へと彼の意思とは裏腹に思い出され、彼が気が付いた時には彼の顔は、涙で濡れていた。劉煌は、慌てて顔を袖で拭うと、決意を新たにした。
”秘密基地は封印だ!”
翌日劉煌は、縄と藁と着物と刃物を持って洞窟にやってきた。
まず劉煌は、上に抜ける穴をよじ登って、登りきった所の近くにある木に縄を巻きつけ、その縄の端を洞窟に続く縦穴に落とし、いざとなった時、小春でもその穴を登れるようにした。
次に藁で案山子を作って着物を着せ、虎や熊等の人間の生命を脅かすような動物がそこを巣としないよう案山子を設置した。
そして、最後に刃物を取り出すと、洞窟の壁に向かって立った。
彼は、ただ壁に向かい無になってザッザッと音を立てて刃物で壁を刻んでいった。
もう最近はアファメーションが効きすぎて、自己容姿型から超のつく自己陶酔型ナルシストに変身していた劉煌は、昨晩床につきながら、彼が見つけた洞窟を小春と自分との二人だけの”愛の巣”にすることを思いついたのだった。
洞窟の壁面を、nid d'amour(愛の巣)と刻み終わった劉煌は、ちょっと離れてそれを眺めると、その字体を見て惚れ惚れした。
”我ながらなんてエレガントな字!”
自画自賛した劉煌は、その場で彼の刻んだ字にチュッとした。
翌日、早速小春を誘い、途中から歩くのを嫌がった小春を担いで裏山の洞窟まで行った劉煌は、辺りを見まわして誰もいないことを確認するとそこで小春を降ろした。
小春は、洞窟を見るのは生まれて初めてだったので、「へえー、こんな所があるんだ。」と感嘆しながら、中に入っていった。
キョロキョロしながら壁面を伝って歩く小春に、劉煌はちょっと得意になって、「素敵な所でしょ。」と言った。小春は「うん、声が響いて面白い。」と嬉しそうに言った。
劉煌は「ここは内緒の場所だからね。誰にも言っちゃダメよ。ままにも内緒。私と小春二人だけの秘密の場所。」と頬を染めて小春に言った。
小春は珍しく素直に「うん、わかった。美蓮と私だけの秘密。」と言うと、小指を立てた左手を劉煌の前に突き出した。
劉煌は、いそいそと自分の小指を小春の小指に絡ませると、小春は「指きりだよ。」と言ってから、突然
「指きりげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。」
と歌った。
劉煌は、約束厳守宣言として五剣士隊のメンバー達とよく指きりをすることはあったが、まず指きりの歌など無かったし、まして指きりにこんな脅しのような文句がついていることなどなかったので、内心泡を吹くほど衝撃を受けていた。
”こ、これは中ノ国の習慣なのか、はたまた小春独自の指きり歌なのか”
と一人悶々としていると、小春は顔をあげて劉煌を見つめ、「これで、約束破ったら針千本飲まなきゃだよ。」と言って笑った。
この洞窟を既にnid d'amour(愛の巣)と名付けている劉煌は、この約束を自らが破るはず等なく、脅し歌詞のことはすっかり忘れ、うっとりして「うん」と言うと、自分が女であるという設定がすっかり外れてしまい、小春の両肩に手を当てると、思わず小春の頭の上にキスをしてしまった。
それは大きく結った髪の上だったので、小春は劉煌が何をしているかわからず、小春は髪に手を当てて「なんか頭についていた?」と劉煌に聞いた。
劉煌は優しく小春を見つめながら、「そうだよ。山道にはいろいろ落ちてくるからね。ほら。」と言うと、地面の上の大きな黒蜘蛛を指さした。
普通、女の子ならそれを見てパニックになり劉煌に飛びつくだろうと狙っていた彼であったが、小春はここでも普通の女の子ではなかった。
なんと小春は大きな蜘蛛を見るなり「キャー、蜘蛛さんだ!」と叫んで、怖がるどころか、大変喜んでそこにあった小枝を掴むと、すぐに蜘蛛を小枝でツンツンつつき始めたのだ。
一方劉煌は、キャーと言って恐れのあまり彼の胸に飛び込む小春を想定していたので、小春がキャーと言った瞬間に彼の両腕が空振りとなり、彼の両腕は彼自身を抱きしめることとなった。
それでも自己陶酔型ナルシストな劉煌は、自分の頭の妄想=小春を抱きしめていると、現実=自分を抱きしめているとの差にしばらく気づかなかった。
彼が我に返り、ふと足元を見ると、小春が蜘蛛を虐待していて、自分の両腕は小春ではなく自分に巻きついていた。
劉煌は思わず、わああと叫んで足踏みしながら、自分を抱きしめている自分の腕を慌てて振りほどいた。それでも小春はそんな劉煌を全く意に介さず、「美蓮、ここ気に入った。着物が汚れても大丈夫なように、着替えも置いておこうよ。」と提案した。
それからというもの、時々二人は午前の一時を、中ノ国伏見村亀福寺裏山の中腹にあるnid d'amour(愛の巣)という名の洞窟で過ごすようになった。
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