第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
劉煌は、その後、午前中の空いた時間は、今までのように机には向かわず、亀福寺の庭にいるようになった。
まず、暗夜目付修行用に、農具や外掃除用具を置いている物置の隙間を全て埋めて、中を真っ暗にした。これには清聴が閉口したが、劉煌から耳元で忍者修行に必要と言われたので、渋々承諾した。
そして、劉煌は真剣に畑仕事に取り組み始めた。
毎日風や天候、そして作物の成長と土の状態の記録を細かくつけ、それを事あるごとに読み返した。
さらに劉煌は、ほとんど毎日のように土に向かって話しかけたり、裸足で歩き、手で触り、地面に耳をつけ、時には土を口に含んでみたりもして、五感で土を捉える努力を怠らなかった。
そして、そんな彼の傍らには、いつも草花で遊んでいる小春がいた。
劉煌のくノ一修行を始めてから一ケ月後、全ての目の修行法を毎日続けたおかげで、彼の目がだいぶ利くようになっていることがわかったお陸は、ようやく彼に遁術を教え始めた。
遁術とは文字通り、逃げるための技術である。
お陸は、「いいかい、忍者と兵士の違いは、どっちも依頼主の為に戦うけど、究極的には、忍者は生きてなんぼ、兵士は死んでなんぼ。忍者は情報を依頼主に届けなければならないからね。だから、武術も、兵士は相手を殺すために使うが、忍者は基本相手から逃げるために使う。まあ暗殺は例外だけどね。ま、とにかくだ、同じ武術のように見えても、兵士と忍者じゃ目的が全く違うんだ。だから、くノ一のあんたは、とにかく、どんなことがあっても死んじゃいけないんだよ。逃げるが勝ちっていうだろう?だから、いつでもどこでも、どうやったら逃げられるかを考えて行動する。逃げ道の確保をしてから行動する。わかったね。」と言うと、劉煌を大きな池に連れて行った。
「水も隠れるのにいい場所だ。」とお陸が言うと、
間髪入れずに、「潜るのかしらん?」と劉煌が頭と身体をくねらせながら聞いた。
「潜るだけもよし、潜ったまま泳ぐもよし。水面を滑るもよし。」とかったるそうに言った後、お陸は、
「特殊な呼吸法もあるが、それを教える前に、まずは限界まであんたの肺活量を鍛えるのさ。」というと、劉煌が考える暇もなく、彼を池につき落とした。
突然のことに、池の中でバシャバシャもがきながら「あ~れ~!いきなり何をするのよ~!私の美しい髪が台無しじゃないっ!」と文句を言う劉煌に、「あたしの言ったこと、全然聞いてないじゃないか!」とお陸が逆切れした。
「え?」
「『いつでもどこでも、どうやったら逃げられるかを考えて行動する』ってさっき言ったばかりじゃないか。実戦だったら、あんた今死んでたよ。」
「・・・・・・」
その後、劉煌の入浴タイムは、ほとんど潜ったままとなったことは言うまでもない。
次にお陸が教えたのは、木遁の術であった。
ある日、お陸は、開けた草むらとその裏に林がある人一人いない広大な場所に劉煌を連れてきた。
「今あんたは追手に追われているとする。逃げる為に木や草の影に隠れるというのも術の一つだ。じゃあ、あの木の影に隠れてみな。」とお陸がいうと、劉煌は一目散に走って木の影に隠れた。そして、自分の呼吸が普通であることに驚いた。”なるほど、水遁の術を先に教えたのはこういうことだったのか。”と思った矢先に、お陸が後ろから劉煌の頭をポーンと叩いた。
「やーん。い、いつの間に。」劉煌が頭を手で押さえてそう言うと、
「アイヤー、あんた敵に見えるように逃げてどうするんだい。」とお陸が頭を抱えて言った。
劉煌は首を振りながら「だって、この木の影に隠れろって言ったじゃないっ。」とふくれっ面になって反論すると、
「いいかい、木の影が有効なのは逃げ方によるんだ。ただ木の影に隠れるんじゃ、子供の鬼ごっこと何が違うんだい?」
「・・・・・・」
「よく見てなよ。」とお陸が言うと、瞬く間に消えていなくなった。
「あれ、師匠、どこ行っちゃったのぉ?」と劉煌が困った顔をして呟くと、「こっちだよー。」とお陸が別の木の影から手を振ってみせた。
劉煌は、茫然としながらお陸の方向を見ると、お陸は、「今はあんたの教育のためにわざと足跡を残してきたから、それをたどってこっちまで来な。」と叫んだ。
劉煌は、改めてお陸の方を見たが、残された足跡はよくわからなかった。地面を這ってみたり、東に行ったり西に行ったりして見てもよくわからなかった。そして、ふと、何の気なしに上から見てみたらと思い、木に登って上から見下ろしてみた。すると、お陸の隠れている木までの間に、ところどころ草が倒れていて、倒れた草が模様となって『頭使え』という文字ができていた。
劉煌は、怒りながら木から降りて、倒れた草の通りに進むと、お陸が木の下で眠っていた。それを見た劉煌は、普段は押し込まれている彼の男性性がムクムクと目覚めると、劉煌は”このぉ~くそばばあ~!”と思った。しかしその瞬間、お陸は目をつむったまま、「あんた、今、私のこと”くそばばあ”と思ったろ。」と言うと、片目を開けて「ま、いいよ。では、そのくそばばあの逃げ方はどうだったかね。」と続けた。
劉煌の男性性は陰に潜み、代わりに女性性が表に出ると、彼は、口を尖らせながら、「追手からしたら、普通に追っているのではわからない逃げ方だわ。ふん。」とふてくされて言った。
お陸は、「実戦なら、草も1本も倒さないで逃げるんだよ。そのためにあんたに最初に着物を汚さない歩き方を教えただろう。」と言うと、お陸は立ち上がって、「いいかい。全ては繋がっているんだよ。木遁は木遁とか、歩き方は歩き方とかでくくっちゃいけないよ。全ての術を臨機応変に組み合わせるんだ。」と言った。
すると、お陸は、腰がまがったまま前屈と後屈をして左右に身体をひねると、「じゃあ、今から私と鬼ごっこだ。」と言って、「1.2.3....」と数えだしたので、劉煌は両腕を高く上げ「きゃあー」と言ってから、慌てふためいて足跡を残さないように逃げだした。
その後劉煌は、午前の畑観察の時間を減らして、寺の女の子達を誘って鬼ごっこをやるようになった。
しかし夏朮、秋梨と柊がどこに隠れていても、いとも簡単に劉煌に見つかり、逆に劉煌が隠れる側だといつまでたっても劉煌だけ見つからないという、劉煌一人勝ちばかりで、彼女らも劉煌もつまらなくなってしまい、3日も経たずに鬼ごっこは誰もしなくなった。
さて、賢明な読者の皆様は小春はどうしたの?と思うだろう。
そう、小春はというと、彼女の場合、鬼ごっこ自体が成立しなかったのである。
なぜなら、隠れる側になっても鬼側になっても、いつでも彼女だけ途中で寝てしまっていたのだった。どうも小春にとって数字を「1、2・・・」と数えるのは、催眠術に掛かってしまうようで、他人が数えようが自分が声を出して数えようが、5まで行きつく前にいつでも寝てしまっていた。
それゆえ、劉煌の午前の空いた時間は、全て暗目付修行、畑観察と土との対話に戻った。
劉煌が真剣に土と向き合っていると、小春は次第に劉煌の横から後ろに回り、最近は劉煌に背中をピッタリくっつけながら地べたに座るようになった。劉煌と一緒にいる位置関係は変わったものの、相変らず小春は劉煌の邪魔はせず、彼の後ろで木の枝で地面に絵を描いたり、草花で遊んでいた。
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