第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一方、劉煌のセクシーウォークを見て、『小高美蓮』を天性のくノ一と見込んだ老婆は、以降は、劉煌が最も知りたかった忍術を徹底的に彼に仕込んでいった。
まず、赤のセクシー忍者スーツの翌日は、早速、目の訓練と歩法の訓練に入った。
老婆は、劉煌の目を見ながらまずこう言った。
「いいかい。忍者の仕事ってのは、敵の情報収集、調略、攪乱だ。それを遂行するために最も大切な武器って何だと思う?」
劉煌は、自分の中の忍者のイメージから、忍者の武器と言えば、、、
「手裏剣...」
老婆は曲がった腰をさらに深く曲げてガクッとすると、「武器は何も物とは限らないよ。」と言ってから、こう付け加えた。
「いいかい。武器に限らず何でも文字通り受け取らないように。応用力・臨機応変力も忍者にとって重要な要素だからね。」
聡明な劉煌は、それですぐに「身体能力?」と語尾を上げて答えると、老婆は今度は嬉しそうな顔をして、「そうだね。身体能力、知力、精神力が必要だ。身体能力ってのは、何も高く飛び上がれる、早く走れるだけじゃないよ。むしろそれよりも五感が重要だ。とりわけ目が大事。真っ暗でも見えたり、遠くまで見えたり、視界のきわにある砂粒位の物に気づくか否かで生死が左右されることもある。だからまず目を鍛える。」
そう言うと老婆は、農具を置いている小屋に劉煌を入れた。小屋の中はこのあたりの建物にしては珍しく中は真っ暗で、外からは一筋の光すら差し込まない構造だった。外で老婆の声がする。
「これは夜目を鍛える暗目付の修行だ。目が慣れたら外に出ておいで。」
劉煌はしばらくして目が慣れたので小屋から出たが、出た瞬間に太陽の眩しさに思わず顔をしかめ手で両目にひさしを作った。それを見ていた老婆はニヤリと笑って、『真っ暗な場所にいる⇔明るい場所にいる』を繰り返すよう宿題を出した。
「いいかい。真っ暗な場所ってのは、この小屋みたいに一筋の光も入らない、本当に真っ暗な場所でないと練習にならない。それから、ろうそくの灯くらいでは、この修行でいう明るいにはならないからね。今やったみたいに日中に真っ暗な場所を用意して修行するんだ。」
そして次に老婆は、長い糸と1枚の小銭を取り出し、小銭の穴に糸を通すと、いつもの緩慢な動作からは想像もつかない軽やかさで、ピョンと木の枝に飛び乗り、それを木の枝に吊るし、その小銭がちょうど劉煌の顔の前にくる位の長さに糸を調整した。
その老婆の動きに劉煌は、思わず興奮した。
”できる!この老婆、やはりただものではない。師として十分過ぎるくらいだ。あの大門寺の忍者募集がダミーで、この老婆に出会えたのは、天功だ。すなわち、私がこの修行を行うというのは、天意ということだ。この老婆に食らいついていけば、必ず道は開けるに違いない!”
劉煌は、吊るされた小銭よりも、老婆が見せた高い身体能力に気を取られて、老婆が吊銭目付の説明をしているのも上の空で聞いていた。
「・・・じゃあやって。」
劉煌の前の小銭が左右に揺れる。
”きっと、これを目で追って行けばいいんだな。”
劉煌は右に左に目を動かして小銭を見ていた。
木の上の老婆が、足をぶらぶらさせながら劉煌に話しかける。
「銭に何て書いてある?」
”!?”
劉煌は、必死に目で小銭を追うが、左右に揺れている小さな銭の中に書かれている更に小さな文字など見えるはずがなく、全く何が書いてあるのか判別できなかった。
「ううう、わ、わからない。」”無念である~~~!!!”
「うん。続けていればわかるようになるさ。だからさっきも言った通り、これはただ左右に振れている銭を見る修行じゃないんだ。動いているものの、その細部までを見極められるようにする、動体視力の訓練だ。これもただ練習あるのみだ。次は視野を広げる修行だ。」
いつの間にか老婆が劉煌の側に立っている。
”いつ木から降りたんだ?全く音がしなかった。す、凄すぎるっ!!”
老婆は、劉煌の両腕を左右に広げさせると、視線は正面で両腕を伸ばしたまま身体を中心に両腕の角度を180度に維持したままゆっくり腕を右回転、左回転とさせた。
「だめだよ。目を動かしちゃ。目は正面。それで指先の更に先に何があるかを感覚で掴み取るんだ。そうそう。いい感じになってきたよ。それもおうちで繰り返してな。」
劉煌は老婆のOKが出た後、思わず目を両手で覆った。
「目が疲れただろう。普段そんな風に目を使うことなんてないからね。あともう一つ基本の目の修行、八方目付があるんだけど、それはまたにして、歩き方に行こうかね。じゃあ、白い着物に着替えて。」
老婆は、いつの間にか手に劉煌用の白い着物を持っていた。
劉煌は言われた通りにすぐ白い着物に着替えると、老婆は劉煌にその着物に汚れ一つ付けずに歩くよう指示した。
まず劉煌は、抜き足差し足で歩いてみたが、それでも汚れがつく。
すると老婆は、「見ててご覧」と言うと、またもや、目にも留まらぬ速さで動き始め、くるっと回ったかと思うと、一瞬で白装束になった。
”この老婆、もはや、人間を超越している!この前の門の上の男忍者の術は、遠目で見ていても見破れたが、この老婆の技は、こんなに側にいてしっかり見ていても全くわからなかった!!この老婆、本当にできる!!!できるぞ!!!!”
興奮している劉煌を尻目に、老婆はサーと劉煌の前を行ったり来たりした。
すぐに劉煌が、老婆の足元を見ると、白い着物に汚れひとつついていないではないか。
いつも、うんこらせと歩いている老婆のあまりの変貌に、「どうやって?」と驚愕している劉煌に、彼女は、まるで普通のことのように言う、
「土が飛び散らないように、かつ飛び散った土が着物に着かないように歩くだけさ。」
劉煌はわかったようなわからないような顔をしていたので、老婆は「今度は私の足元を集中して見な、特別にスローモーションでやってあげるから。」と言って、また実演してみせた。
劉煌はすぐに真似をしたが、全然うまくいかない。
何度も何度も繰り返している彼を見て、老婆は、うんうんと嬉しそうに頷くと、「あんた、なかなかなもんだよ。1日目でそれだけできるなら、大したものだ。あとあんたに必要なのは、土と仲良くなることだね。」と言った。
あまりに突拍子もない回答を得て、劉煌は眉間に皺をよせ、戸惑いながら「土と仲良く?」と小声で聞いた。
しかし、老婆は、戸惑っている劉煌を無視して至極当然のように答えた。
「そうさ、土の上を歩くのは、言わば土と人間の共同作業だ。土が協力してくれるようになれば、忍者として一人前になるのも近い。」
「・・・・・・」
目が点になっている劉煌を完全に無視して老婆は続けた。
「土だけじゃない、水、火、金、木。全てと仲良くなるんだ。この五行をいかに自由に操れるかが、一人前の忍者になれる鍵だ。」
ここにきてようやく劉煌は、老婆が何を言わんとしているのかが掴めてきた。
それが嬉しくなった劉煌は、思わず「なるほど、医術と同じですね。」とポロっと言ってしまった。
老婆に「ほお、あんた女の子なのに、医術がわかるのかい。」と言われ、彼は焦りまくった。
参語圏三か国である東之国、中ノ国、西乃国のみならず、周辺国どころか西域に至っても、どこの国でも女で医術の道に入る者など、ほとんどいない現状を思い出して、劉煌は、背中に思いっきり冷汗をかいてしまった。
彼は、理由を聞かれてもいないのにすぐに「父の身体が弱くて、少し習ったことがあります。」とフォローしたが、老婆は、女の子が医術を学んでいることのアブノーマルさには全く触れず、嬉しそうに
「医術、薬草の知識があるなら、アドバンテージ高いよ。あたしらに必須の知識だ。」と言った。
劉煌は、少しホッとしながら、これ以上ボロがでないように、戦略的に話を変えていった。
「畑をされているのは、土と仲良くなるためですか?」
「食べるためだよ。食べないと生きていけないからね。だけど、土の性質をつかんだり、風を見たり、天候を読んだりできないと作物はできないからね、結局忍術と同じさ。」
老婆のこの回答に真髄を観た劉煌は、思わず、
「おばあちゃんはいったい何者なんですか?」と口にしてしまった。
すると、老婆はとっても嫌そうな顔をした。
「全く、失礼だね、この子は。レディーに対しておばあちゃんって呼ぶなんてどういうことだい。あたしゃ元くノ一、その世界では『お陸姐さん』と呼ばれた、この道六十云年の…」
劉煌はこれを聞いて目が皿のようになった。
「ろっ、六十云年!?今いったいいくつなんですか?」
この率直な質問にお陸は、すぐに皺くちゃな顔に更に皺を寄せて、
「アイヤー、レディーに年は聞いちゃいけないよ。今日はもうとっととお帰り。」というとドロンと消えていなくなった。
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