第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
次の日、またもや待ち合わせ時間の30分前に到着していた劉煌は、手持無沙汰なので畑の雑草をむしっていた。
すると、しばらくして昨日の老婆が、昨日と同じ農作業服を着て道の向こうからやってきた。
彼女の足取りは、昨日と同じく、うんこらせ という感じで、ト、、、、ボ、、、、ト、、、、ボ、、、、と歩き、1分で1丈(3m)歩けるかどうかという歩みだった。
劉煌は、すぐに老婆の元に駆け寄り「こんにちは」と元気よく挨拶したが、老婆は、劉煌に向かって不思議そうな顔をして「あんた誰?」と聞いてきた。
劉煌の年齢から見ると、老婆の顔は全員同じに見えなくもないことから、彼は人違いをしたのかと思いながらもとりあえず「昨日の小高美蓮です。」と弱々しく呟いてみた。
すると老婆は、途端に素っ頓狂な顔に変わって「アイヤーお嬢ちゃん。あんた姿はいいけど、おつむは弱いようだね。忍者がそんな目立つ格好してどうするんだい。」と彼の着物を指さして言った。
それは、彼が先日、白い着物を墨で染めて作った、渾身の彼の”イメージ通り”の忍者服だった。
「えっ、だって忍者って黒装束なんじゃないの?」とびっくりして彼が聞くと、「そりゃ、闇夜に紛れこむ時は着ないこともないけど、真昼間にそんなもの着てたら『私は忍者です。』って名札付けているようなもんじゃないか。さっさと脱ぎな。」と老婆はあっさり言った。
彼は、思いもよらないことを言われて狼狽しながら、「脱げって、ここで!?」と言うと両手を広げて、ピューっと風が吹いているだけの殺伐とした広陵を見渡した。
「そうだよ。さ、早く、これに着替えて。」と、老婆はどこから取り出したのか、真っ赤な見たこともない衣服を彼に渡した。
彼は、眉間にしわを寄せ、左右の眉がくっつかんばかりに困惑して「この色だと黒と同じ位、いやそれ以上に目立つと思うんですが。」と口を尖らせて言うと、老婆は、彼のあからさまな不満顔を完全に無視して「これは練習着。これで町中歩けなんて誰も言ってないよ。早く着替えて。」とせかしてきた。
彼がブツブツ言いながら、その服を両手で広げてよくよく見ると、胸元が深いV字になっており、Vの部分は大きな網状で、地肌が透けて見える構造になっていた。そして、腰からは短いヒラヒラしたものがついており、そのヒラヒラは、尻を隠せるか隠せないかの長さで、脚の部分は、誰か履けるやついるのか?と思うくらい細いズボンになっていた。劉煌がやっとの思いで、その変な真っ赤な服に着替えると、老婆は、彼を頭のてっぺんから、つま先までなめるように見ながら、彼の周りを1周して「あんた、何歳?」と聞いてきた。「9歳です。」と彼が答えると、「9歳じゃまだ体型はこれで仕方ないか。でも脚は及第だよ。いいかい、この細くて長い脚を維持するんだよ。絶対に太くしないように。」と言うと、徐に「じゃ、歩いて。」と言った。
劉煌が、普通に老婆の前をスタスタ歩くと、老婆はすぐに
「アイヤー、だめだめ。あんたは誰?くノ一だろ?くノ一が大股でサッサと歩いてどうするんだい。ほら、科作って!」
とダメ出しをした。
「し、科って?」
「媚びるような感じにするんだよ。あんた周りに女はいないの?」
そう言われて、彼はハッと気づいた。
今の彼の周囲は、女だらけのはずなのに、なぜかみんな劉煌よりも遥かに男っぽい女ばかりだった。
そして、女、女、周りの媚びるような女と記憶をたどっていくと、今迄すっかり記憶の彼方にあった西乃国の後宮の妃たちのことが思い出されてきた。
”母上のことを思い出してはいけない…”
そう必死に母の記憶が浮上しないよう押さえていると、彼の大きな目にはいっぱい涙が溜まってきて、それが左目から溢れると、大きな丸い涙の玉となり、それがポロっと一粒頬を伝い地面にこぼれ落ちてパチンと弾けた。
それを見た老婆は狼狽し、「アイヤー、久しぶりのくノ一希望者なのに、厳しくやりすぎたかね。ごめんごめん。」と一生懸命取り繕い始めた。
劉煌は手の拳を一層強くギューッと握りしめた。
”劉煌よ、お前は何をしにここに来ているのだ。屈辱に絶え、なぜ生きているのだ。劉煌よ、敵を討ち、奪われたものをとりかえすためであろう!泣くな、泣くんじゃない、劉煌!”
そう、自分に言い聞かせた時、彼の中で何かがパチンと弾け、シフトチェンジした。
劉煌は涙を手でぬぐい、「いいえ。美蓮、歩きます!」と気合を入れて言ってから、父が後宮に来た時の後宮の妃たちの動きを思い出しながら、それを真似して歩き始めた。
それを見た老婆は、目も口を大きく開けて、
「そう!そうだよ!あんた天才だ!そんな幼児体型なのに、もう色気まで出てる。これはイケる。いいかい、これからはそうやって歩くんだよ。」
と叫んだ。
それを聞いた劉煌は、さらに後宮にいた妃の中で一番強烈だった楊妃をチャネリングして、身体をくねくねさせながら、「ええ、あたし、どうしたらいいか、わかったわ。せんせ、あ・り・が・と♡ん、チュッ」と言って、首をくねらせてから口を尖らせて、最後に空中でチュッとして、ウインクした。
老婆はもう狂喜乱舞せんばかりに喜んで、「いい!いい!いい!」と叫ぶと、小型の手鏡を劉煌に渡し、
「いいかい。自分のそのお顔を見てごらん。あんたは本当に美人だ。美人の中の美人だ。世界一の美人だ。毎日暇があれば鏡を見て自分の顔をチェックするんだよ。髪が乱れていないか、どの角度がいいか、チュッとした時の唇の突き出し具合がどの程度が一番よいか。自分を研究するんだよ。そして、毎日、その鏡にうつるあんたの目をしっかり見て『私は女の中の女、世界一の美女』と言い続けるんだよ。」
と教えた。
それ以来、真面目な劉煌は、常に手鏡を懐に入れて、酷いときには1分置きに自分の顔を見るようになった。
それでも劉煌は、老婆の言う通り、鏡に映る自分の顔を見ることはかろうじてできたが、その後は老婆の教えとは違って、鏡から目を逸らし俯いて毎分毎に消え入るような声でこう呟いた。
「私は女の中の女、世界一の美女。」
はじめの頃は羞恥心が混じって自分にしか聞こえないくらいの小さな声でブツブツ念仏のように唱えていた劉煌であったが、次第にそれに手のジェスチャーが加わり、身体の科が加わってくると、今度は顔つきが変わり始め、3週間目には鏡に映る自分の顔を斜めからしっかり見つめて、
「《・》私は女の中の女。世界一の美女|。」
とはっきり言えるようになった。
すると、一月も経たないうちに、彼の仕草も言葉遣いも、何から何まで特に繕うことなく自然に女になってしまった。
彼が、類まれなる後天的自己容姿型ナルシストに変身したのは、このアファメーションが効いたためであることは、言うまでもない。
この劉煌の女性化に、清聴は、当初彼の精神状態を酷く心配したが、彼の置かれている状況、すなわち隣国の皇太子だとバレたら命が無いことを考えると、彼が自然に女っぽくなればなるほど、ますます敵を欺けるわけで、複雑な思いをしながらも、何も言わずにジーっと彼を見守っていた。
『小高美蓮』のこの変化に、寺の子供たちは、『美蓮は、女の中の女だ』と思い、ますます尊敬のまなざしで彼を見るようになった。
ただ、小春だけは、彼のこの変化をわかっているのか、わかっていないのかわからないほど、前と変わらず劉煌と一緒にいて、劉煌に対する態度も言葉も何一つ変わらなかった。
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