第三章 隠密
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
劉煌が寺に来て4か月が経った。
気を付けて生活していても、ふとした拍子に本来の男の言葉やしぐさが出てしまい、自身も清聴も冷汗をかくこともあるけれども、その後のフォローがうまくいっているのか、尼寺の女の子達のみならず村人たちも、本当は彼が男であることに全く気づいていなかった。
そんなある日の朝餉の時間、祈り終わった清聴は、いつもお供は夏朮か秋梨かだった月に1回の市場への買い出しを、今回は劉煌を御供で連れていくと宣言した。
御供の役目は荷物持ちであるけれども、今回の劉煌の場合は、それに加えて彼の社会勉強のためでもあった。
もうすっかり劉煌の性格を把握していた清聴は、何を言わなくても劉煌は、1回の機会さえ与えれば、実地で必要なことを全て吸収していくとわかっていたからである。
早々に寺を出た二人が市場に着くと、清聴は、書いてきたリストに従って店を周り、物を購入していった。思った通り、その後ろについて劉煌は、買い物を学んでいた。
買い物が一段落すると、清聴は、「疲れたから、お茶を飲もう。」と言って、劉煌を茶屋に連れて行った。
清聴は、劉煌に、そこにあった紙を渡した。劉煌がそれを受けとって見ると物の名前と値段が書いてあった。「これはね、お品書きと言って、」と言いだすと、すぐに劉煌が、「これを見て頼むんだね。」と先を越して言った。
”本当に頭がいいねぇ。”と感心しながらも清聴は、「人の話を遮らないの。ま、いいわ。好きなものを頼みなさい。あ、でも何個も頼まないよ。」と言った。
劉煌は、初めて見るお品書きに夢中だったが、清聴から好きな物を頼んでいいと言われると嬉しさのあまり、お品書きから清聴に目線をうつし変えると、彼女に向かって上品に微笑んでから、ウェイトレスを呼び止めてお茶とおこしのセットを頼んだ。「ままは?」と聞かれた清聴も劉煌に微笑むと、「私も同じものを。」と言った。二人でおこしを食べお茶を飲み終わると、清聴は、ウエイトレスがテーブルの上に置いた木札を持って番台に行き、そこでお金を払った。
勿論それも全て劉煌の庶民化のための教育に他ならなかった。
二人が店の外に出ると、少し日が西に傾いていた。
「さ、帰ろうかね。あ、皆には二人でお茶したことは内緒だよ。夏朮も秋梨もすぐにお茶したがるから。」
そう清聴が劉煌に念を押すと、劉煌は、口を閉じたままニッコリ笑い、大きく1回頷いた。
そしてやおら腕を伸ばすと、清聴の持っていた荷物も彼が持った。劉煌の思いがけない行動に清聴は、大いに慌てて「あ、そんなに女の子一人で持っていたら怪しまれるよ。」と荷物を劉煌の手からほどこうとしたが、「村に入る手前になったらままに返すよ」との返答に思わず顔をほころばせた。
二人は市場の西門に向かってゆっくりと歩き出した。そんな二人を、何人かの人が噂話をしながら走って抜き去って行ったので、劉煌が耳を傾けていると、彼らから口々にケイジバンという知らない言葉が発せられていた。
劉煌はすぐさま「まま、ケイジバンって何?」と聞くと、清聴は得意そうに笑って「説明よりも見たほうが早いわ。」と言うやいなや、突然速足になって門へと向かいだした。
清聴は門の内側の人だかりの前でようやく歩みを緩めると、大きな荷物を沢山持ちながらも清聴に遅れることなくついてきた劉煌に向かって、顎で門の内側をさした。劉煌は、頷いて荷物を清聴の側に置くと、人を掻き分け門の内側近くまでやってきた。その門の内側の板には、いろいろな張り紙が貼ってあった。その多くは行政の告知だった。
”なるほど、ケイジバンとは周知したい情報を掲示する板なんだな。。。”
社会勉強のため、一つ一つ張り紙を目で追っていた劉煌は、ある張り紙のところで、大きく目を見張った。
その張り紙には、
『緊急募集 忍者候補生 年齢20歳以下 2月15日選考考査 朝9時 大門寺集合』
と書いてあった。
ゴクリと唾を飲み込むと、劉煌はその張り紙を穴があきそうなほど凝視した。
その頃になると、掲示板の前の黒山の人だかりも散らばっていて、清聴と劉煌の間には人が誰もいなくなっていた。しばらくして我に返った劉煌は、清聴の方を振り向き「まま、あとで相談したいことがある。」とポツリと呟いた。
市場からの帰り道、人気がなくなった所で劉煌は、清聴に先ほどの張り紙の話をし、忍者候補生の選考考査を受けたいと話した。
清聴は、全く予想だにしない劉煌の発言に、完全に度肝を抜かれてしまい、珍しくどもりながら「な、何故、ま、また、そ、そんなものに。」とかろうじて呟くと、劉煌は、静かに、でも力強く、しっかりと
「奪われたものを、いつか取り返すために。」
と答えた。
それを聞いた清聴は、足を止めて彼を凝望した。
そこには、上から下までピンクに揃えた、どう見ても女の子にしか見えない男の子が、静かに佇んでいた。
清聴は、今度は顔を酷く曇らせ、眉を寄せると「本気で言っているのかい。」と、本当に心配そうな声をあげた。
劉煌は、ピンクの着物とピンクの簪とピンクの耳飾りを着けた姿のまま、動揺する清聴の影響をみじんも受けずに
「今の私には兵も無ければ金もない。劉操に真正面から向かっても焼け石に水だ。一人で立ち向かうには、一人での戦い方を知る必要がある。忍者の術が手に入れば、可能性が見えてくるかもしれない。」
と落ち着いて言った。
劉煌の話の最中、ずっと俯いていた清聴は、彼の発言が終わってもしばらく黙って下を向いて立ち止まったままだったが、突然顔をバッと正面に上げると遠くをジッと見て「引き返すよ。」と言うや、くるっと向きを変え、市場の方へと足早に歩き始めた。
訳がわからない劉煌が、慌てて清聴の後ろで「えっ?」と呟くと、歩きながら清聴は前に向かって「それなりの男の子の服がいるだろう。」とだけ言った。
劉煌は、それを聞いて笑顔になると、嬉しそうな声で「うん」と言いいながら、清聴の後を嬉しそうに追いかけた。
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