第二章 変改
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
生まれつきの天才で、しかも千年に一人の天才と誉れ高かった劉煌は、家事の何かしらで当初3日間は清聴を呆然自失とさせたものだったが、1週間で一通りの家事を理解しできるようになると、1か月後には、他の誰よりも秀でるようになり、何でも他の子の半分の時間でできるようになっていた。
朝は誰よりも早く起きて、庭の掃き掃除をし、清聴が庭に来る頃には既に終わっている日も多くなってきた。他の子供たちが起きてきて寺の掃除を始めるまで、劉煌は自然と庭で清聴と話すようになり、いつの間にかそれが劉煌と清聴の情報交換の時間になっていた。
そうなると、劉煌の耳にも否応なしに祖国での劉操の悪政の噂が入ってきて、西乃国の民が劉操によって苦しめられていることを知った彼は、一人心を痛めていた。
彼は初めて清聴から祖国の噂を聞いた時、真っ先に毎日あの鬼住山で一緒に汗を流した五剣士隊のメンバーに思いをはせた。
聡明な劉煌は、この時彼らの命を守るために、今後一切他の五剣士隊のメンバーと関わってはいけないと強く心に誓った。
”私とつながりがあると知ったら、劉操は間違いなく彼らを殺すだろう。”
特に白凛については、宮中の多くが劉煌と仲が良いことを知っていたので、その身を酷く案じていた。
”お凛ちゃん、どうか無事でいてくれ......”
そう思うと、劉煌は居ても立っても居られなくなるが、それでも9歳の後ろ盾の無い元皇太子が一人で何ができるわけでもなく、劉煌は父に教わった帝王学を思い出しては、密かに一人で悔し涙を流していた。
そして夜になると、今迄全く見なかった悪夢を時々見るようになった。
それはいつも、劉操に待ち伏せされ殺されそうになり命からがら逃げ出したあの時の記憶がなせる夢で、彼はいつも夢の中で暗闇を全速力で逃走している途中でガバっと目覚めた。
そんなある日のこと。
いつものように劉煌は、朝起きて庭の掃除をし、小春を起こして本堂の掃除をし、朝の御勤めに参加していた。
そしてこれもいつものように清聴の唱えるお経を手を合わせて聞いていたのだが、いつもと違っていたのは、劉煌がお経を聞いていると彼の心が落ち着くことに気づいてしまったことだった。
彼は清聴の手にしている経典を穴が開くほど見つめた。
”あれがあれば悪夢をみないかも。”
朝の御勤めが終わると、すぐに朝食の準備に向かうのが日課だったが、その日劉煌は台所に行く前に清聴を呼び止めた。
経典を貸してほしいという劉煌に、清聴は顔をしかめて「これは大事な物なんだよ。子供の遊び道具じゃないんだ。いったいどうして経典なんか借りたいんだい。」と訝し気に答えた。劉煌は、清聴のそんな顔を全く意に介さずニッコリと笑うと「書き写す。」と一言だけそう言った。清聴は、まさか9歳の男の子が写経をしたいと言い出してくるとは思わず、呆気に取られていると、劉煌は清聴の手にある経典を掴んで、それを嬉しそうに自分の懐に入れて懐を撫ぜた。
呆然としながら清聴は「なんでまた写経なんか。」と聞くと、劉煌は全く悪びれずに「このお経が好きだから。それにまま大事な物だったらもう1冊あった方がいいじゃない?ままの分も書き写してあげるよ。じゃあね。」と言って、清聴の返事も聞かずに速足で自室に向かって行った。
それからというもの、劉煌は、毎日空き時間に硯に向かうと、墨を丁寧に擦って写経を続けた。
何しろこの尼寺に来てから数か月、目まぐるしい日々を過ごしてきた劉煌は、自分の悪夢だけではなく、同居人達の気分の波にも翻弄されていた。
大抵それは、ままから始まった。
すると数日後に、夏朮がイライラし始め、最後に秋梨のお腹が痛んだ。そして少し平和な日常が訪れると、またままの気分が揺れ始めた。当初劉煌は、何か自分の知らない伝染性の病なのかと案じていたが、やがてそれが女性のお月の物だと気づいた。
”見事に教科書通りだ。”と感心しつつも、その時の彼女らの気分の波は激しく、そのたびに劉煌は生きた心地がしなかった。
それが何気なく始めた写経を毎日無心に行っていると、その間に自分が瞑想状態になることに彼は気づいた。すると、彼女らの気分の波の影響も受けにくくなり、書いている間に至っては全く気にならなくなった。
そして、彼はそれをさらに発展させることを考え、無心に机に向かいながら、
”私はこれからどう生きるべきか。”
わずか9歳の男の子でありながら、そう自問しながらひたすら写経し続けた。
9歳の西乃国元皇太子で、現在は隣国の平民の女の子として生きている劉煌の精神統一の先に見えた答えは、なんと”親の敵を討ち、奪われたものを取り返し、乱れた国を立て直す”だった。
また写経の効果からか、劉煌は、あの悪夢を見る頻度も減り、それまで悪夢を見た後は一睡もできなかったのが、悪夢を見た後お経をそらで口にすることでその後は安眠できることにも気が付いた。
そうなると、劉煌は、ますます写経が気に入り、劉煌は、空き時間はひたすら文字を書いているようにはたからは見えた。そんな劉煌を見て、他の子たちは、村の娘がみんなそうであるように、彼女らも文盲だったので、『小高美蓮』は女の子なのに文字が読めて書けることに感動した。
当初家事ができないことを散々馬鹿にされてきた劉煌だったので、まさか彼を馬鹿にしてきた女の子たちが、千年に一人の天才と言われてきた彼にとってみればたかだか経典の字を書き写すくらいの低レベルなことを「凄い!凄い!」と口々に褒め称えるようになるとは全く思いもしなかった。
さらに、劉煌が筆を動かす度に目を見張られることに、劉煌としては、まさか今どき文盲がいるとは思わなかったので、この現実にも大いに驚いた。
”西乃国も同じような感じなのだろうか。国に戻ったら調査しなければ。”
そして、劉煌は何を思ったのか、興味津々に筆の動きを見ている彼女たちに、「最新のトレンドは、女の子も字が書けること」と言って、彼女たちに紙の代わりの砂箱と筆の代わりの木の枝で読み書きを教えるようになったのだった。
4人の女の子たちは、いつか筆を持って字を書く自分の姿を夢想して、喜んで読み書きの練習を始めた。
一番才能があったのは、柊で、彼女はどんどん文字を覚えて行った。上二人は最初こそ頑張っていたものの、トレンドでも生活に役立つようには思えないという理由で、筆を持つには至らずに離脱していった。
御多分に漏れず、一番読み書きがダメだったのが小春だった。それでも上二人が離脱しても小春は、劉煌について文字を習った。何故なら、みんな事あるごとに小春を馬鹿にするのに、劉煌だけはどんなことでも馬鹿にせず、いつでも何でも根気よく教えてくれたからだった。
今日も小春は、劉煌の所へ行くと、床に直接寝ながら、どうでもいい話をしはじめた。劉煌はそれを遮って昨日の続きを教えようとすると、小春は「私さ、読み書きはもういいわ。できないものはできない。」と言ってきた。
”これで小春も離脱か。明日から会う時間が少なくなるな”と残念に思いながら、「じゃあ、なんでここに来たの?」と劉煌が尋ねると、小春は間髪入れずに「美蓮のことが好きだから。」と答えた。
”なんと、小春も私のことが好きだったとは!”
劉煌は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
勿論小春としては、お友達としての好きという発言だったのだが、劉煌自身は初めて小春に会った時から小春のとりこになっていたので、自分自身が女としてここにいるという設定がすっかり外れてしまい、
「私も小春が好きだ。」
と劉煌として本気で告白してしまった。
劉煌の『親の敵を討ち、奪われたものを取り返す』野望に、取り返した後、『乱れた国を立て直す』に加えて『小春を皇后にする』が彼の心の中にしかっと刻まれた瞬間だった。
劉煌、9歳の冬のことだった。
その後、小春と劉煌は、朝から晩まで、いつでもくっついているようになった。
そして寺から清聴の怒鳴り声も消えた。
何故なら、劉煌が、朝必ず小春を起こして髪を結い、本堂まで運んでくれるし、四角い部屋を丸く掃除する小春の横で、しっかり隅々まで掃除してくれるし、頼まれたことも気が乗らないとやらない小春の代わりにやってくれるから、清聴が怒る必要がなくなったのである。
だから、他の子たちも以前よりずっと暮らしやすくなった。
何しろ彼女らにとって、小春はずっと足手まといで目の上のたん瘤のような存在だったから、劉煌のおかげで、小春の面倒を見なくてよいし、清聴の目玉も食らうことがないという平和を手に入れることができたのだった。
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