第九章 転回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
劉煌が頭の中で今後の展開をシミュレーションしながらそれらの結果に悶絶していると、なぜか突然バッと劉操の首に白凛が彼女の剣を突きつけたではないか。
梁途は、それを見ると咄嗟にサッと白凛の背部に自らの背面を向けて立ち、白凛が襲われないように西乃国軍に向かって刃を向けた。
劉操も、その場にいる梁途と白凛以外の者全員も、勿論中ノ国側の面々も、いったい何が起こったのか全くわからなかった。
しかし次第に劉操は、白凛から漂う氷のように冷たい殺気に、白凛が芝居ではなく本気で自分を殺そうと思っているとわかってしまった。
彼は助かりたい一心で小春に突きつけている剣を前にポンと投げて手放した。
小春はその隙に劉操の足を、ご丁寧に自身の膝を高くあげてからガンと踏み、さらに彼の腕を思いっきり噛むと、彼はギャーと叫んで膝から地面に落ちた。
小春は、その体形からはありえないほど迅速にその惨劇の場から逃れて、足元に転がっているのが実父の遺体とは全く気づかずにまるでハードルの選手のようにそれをピューッと飛び越え、腕を広げて待っている劉煌ではなく、迷わず照挙の胸に飛び込んだ。
小春が横を通り過ぎた瞬間、腕が空振りして恰好のつかない劉煌に「太子兄ちゃん、今です!」と、白凛はあたり一面に響き渡る甲高い声でそう叫んで喝を入れた。
その瞬間、劉操は歯ぎしりしながら呪った。
「おのれ~、白凛、裏切ったなあ!」
「いいえ、裏切ったことはありません。5歳で初めて太子兄ちゃんに会った時から、決めていました!この命、太子兄ちゃんに捧げると!」
白凛の宣言を聞いて、すぐに梁途がヒューッヒューッ!と歓声をあげた。
照挙の胸に飛び込んだ衝撃で照挙が潰され、照挙の上にまたがっていた小春は、白凛の寝返り宣言の意味が判らず、自分に押しつぶされてあっぷあっぷ言っている照挙に、白凛を指さしながら「あの女のどこがいいの?」と食って掛かった。
照挙は息も絶え絶えに答えた。
「あの女の言う太子とは、私のことではない。」
しかし小春の脳力では全くそれを理解できず、感情に任せ嫉妬で怒り狂って叫ぶ。
「あなたじゃなくっていったい他にどこに皇太子がいるっていうのよ!」
照挙は、何とか上がる右手を震わせながら挙げて劉煌を指さした。
そこまでしても小春にはわからなかった。
「はああ?」と顔を歪めている彼女に、照挙は彼女が馬乗りになっているせいで、肺が圧迫され呼吸がままならずに休み休み答えた。
「小高、、、蓮、、、は、、、西、、乃国、、、の、、、皇太子、、、、だったのだ。」
「へっ!?」
小春は照挙に馬乗りになったままそう言って後ろを振り返り、照挙はその下で彼女が振り返った振動による苦しみのあまりウググとうなった。
このように中ノ国皇太子夫妻が夫婦間の誤解を苦しみぬいて解いている中、西乃国側では、これで殺されるかもしれないという恐怖と劉煌との未来への期待から体中からアドレナリン、コルチゾンさらにドパミンまで噴き出し、瞳孔が開いて完全にナチュラルハイになっている梁途が、白凛に呼応していた。
「俺もだ!太子!ようやくこの時が来たんだ!」
それに外野がガヤガヤと騒然となる中、中ノ国の皇帝を守りながらお陸が叫んだ。
「あーー、残念。おっきいお兄ちゃんもおでぶちゃんもこの場にいないなんて。」
それを聞いた梁途は彼らの代わりにお陸に上ずった声で答えた。
「李亮兄は北盧国、孔羽は西乃国を守ってんのさ。この場に姿が見えないだけで、今も一緒に戦っているんだ。」
それを聞いた劉操は愕然としながら呟いた。
「なんだと?李亮も裏切者なのか?」
「亮兄も孔羽も、俺と一緒に小さい頃から太子に忠誠を誓ってたんだ!だから政変の時から3人でこの日のために準備してきたんだ!」
梁途は、劉操に自分だけ無視されたという怒りも込めて、誰に向かって言っているのかわからない方向を向いてそう叫んだ。
その梁途の告白を聞いて、たまらなくなった劉煌は、部屋に飾ってあった剣を「陛下、お借りいたします!」と叫んで掴むと、その剣を自分の目の高さまで上げてからサーッと剣を鞘から抜いた。
剣はこ気味の良いキーンという音色をあげながら、劉操目掛けて振り降ろさんと劉煌の頭上を舞った。
と、その瞬間、まったく思いもかけない言葉が劉操の口からポロッと出た。
「ふん、お前だって皇后の息子じゃないくせに。」
その一言で劉煌は完全に固まってしまった。
”いったい劉操は何を言っているんだ?”
”そうだ。これは心理戦だ。でたらめを言って私がひるんだすきに狙うつもりだ。そうだ。そうに違いない。”
「そんな嘘で私がひるむとでも思ったのか!」劉煌は再び剣を上げた。
「やればいい。でも朕を殺せばお前の本当の母親は一生わからぬままだ。」
「この期に及んででたらめを申すでない!私の母は、楚玉だ。楚皇后陛下だ!」
「そう思っておけ。皇兄はお前が生まれてからすっかり変わってしまった。皇后の息子でもないのに、年端も行かないお前を立太子した。条件は朕と同じではないか。許せると思うか!いや違う!皇帝の息子で皇后の息子ではないことは一緒だが、朕の方が年上だ!おかしいではないか!でも皇兄は思い直してくれると信じていた。それなのに、まだ9歳のお前に譲位すると言い出したんだぞ!力づくでわからせてやるしかないではないか!」
劉煌は、お陸からどんな時でも動じない訓練を受けていた。
そのはずなのに、この土壇場で今迄全く想像もしていなかったことを言われ、彼の表情は全く変わっていなかったが、頭の中は完全に疑問符と感嘆符で埋め尽くされており、パニック状態だった。
そんな愛弟子の人間らしい未熟さを久しぶりに感じたお陸は、すぐにその場からバッと飛び上がり、屋根裏に入り込むと、劉煌を守るべく劉煌と劉操が対峙している場所の真上まで進んだ。
劉煌は劉操を睨みつけながら肩で荒く息をしていた。
劉操は劉煌の前で胡坐をかきながら、不敵な笑みを浮かべて劉煌を睨んでいた。
劉煌は、今の今まで劉操を殺すつもりでいたが、自分自身の出生の秘密を臭わされてしまったために、どうするべきなのか迷いが生じてしまっていた。
劉操は、劉煌の予想通りの反応に右の口角だけ上げてニヤリと笑うと、俯く素振りで足から武器をサッと取り出した。普通の皇太子や武将であればそれを見抜くことはできなかったであろうが、劉煌は普通の皇太子でもなければ武将でもない。
彼は、くノ一の中のくノ一から教育を受け、そのくノ一から絶賛されるほどのくノ一なのである。
劉操が武器を取り出したタイミングで劉煌はその場からパッと飛び上がり、劉操の頭でハイニー足踏みをし、最後に踵で後頭部を蹴る劉煌スペシャルを劉操にお見舞いした。
劉煌は、その後空中で反転し、白凛の横に寸分の乱れもなく着地すると同時に剣先を前に倒れている劉操の首元にバッと突きつけた。
すると今迄ただ上空で見守っていただけの龍がサッと劉煌の後に飛んでくると、そこで勢いよく反転し、突風を起こした。西乃国の劉操についていた者は全員それで後ろ向きにバタバタと倒されていった。
龍はその後すぐに劉操の上に着地し、躊躇なくその鋭い爪で劉操の喉を掻き切った。
劉操から次から次へと噴き出るどす黒い血を、龍は自分の体に吸収し、龍の身体の色は目の覚めるような鮮やかな黄金色から黒味を帯びてくすんだ金色に変わっていった。
部屋にいる全員が劉操の断末魔のうめき声を耳にしている中、西乃国の龍は劉操の屍の上でずかずかと反転すると、倒れている西乃国軍の宦官、将校と兵士たちに向かって宣言した。
”””我こそは西乃国の守護神、金龍也。我を呼び起こせる者は西乃国の皇帝だけである。そして千年ぶりに我を呼び起こしたのは、他でもないここにいる劉煌陛下だ。陛下の御前だ。控えよ!”””
そして次の瞬間、龍は飛び立ち楼の屋根を突き抜け陽の光を浴びながら天空で3回右回りに回転すると、黒がかった鱗がみるみるうちに元の鮮やかな眩しい黄金色に戻り、劉煌めがけて降りてきた。
龍は劉煌に向かってひれ伏し、”””私のマスターよ。さあ。””” と言って、劉煌に自分の背中に乗るよう呼びかけた。
劉煌はそれに1回頷きながらも龍に向かって言った。
「ちょっと待っててくれないか?お別れの挨拶をしてくる。」
劉煌は、まずその場にいた西乃国の兵士たちに、軍の撤退を命じ、帰国まで白凛と梁途に従うことと付け加えた。
そして、その場を見渡し石欣を見つけた劉煌は、冷たくこう言い放った。
「天乃宮のお掃除は慣れているでしょ。ここも同じように綺麗に跡形もなく掃除するのよ。ただし、備中殿のご遺体は丁寧に扱いなさい。劉操の遺体は国に持って帰るわ。申し訳なくてここで処分なんてできないでしょう。さ、さっさと片づけなさい!」
白凛が睨みを利かせている中、あの石欣が言われるがままに自分の着物を契って床を拭き始めた。そのありえない光景を見た西乃国の宦官や兵士たちは、震えあがり、すぐに慣れた手つきで一緒に床の掃除を始めた。
劉煌は、中ノ国皇帝:成多照宗の前に進むと、丁寧にお辞儀をして叔父の非礼を詫び、清掃終了後、仲邑備中を殺めた石欣の身柄を中ノ国に引き渡すと伝えた。
照宗は、慌てて劉煌の腕を取り、涙を流しながら震える声で劉煌に伝えた。
「劉煌殿、何を仰るか。まさか我が命の恩人が劉煌殿だったとは。生きておられたのに、あの後どうしてすぐここに来られなかったのか。東乃国も我が国も貴方を喜んで助けただろうに。」
「ありがとうございます。陛下。」
「我らに害が及ぶと思っていたのであろう?まったく9歳とは思えないお方だったが、、、それにしても本当に父上によく似てこられた。」
照宗は、劉煌の腕を握ったまま目を細めて何度も頷きながら劉煌の顔を見た。
劉煌はこれにまたお辞儀をすることで返すと、「今度お会いするのは2年後の3か国の祭典です。それまでに何とか国を立て直したいと思っておりますので、失礼とは存じますが、これでお暇いたします。」と伝えた。
それに皇帝の横で彼を支えていた皇后が答えた。
「そんな、2年後なんて随分と先の話で残念だわ。」
「おお、そうだ。なあ、劉煌殿、もう、服喪とかは、、、せめてこれだけは除外にしませんか。もうあまりにも長い間3か国が集まれていなかった。もう一度昔の、あの仲の良かった3か国に戻りたい。なんとか今年の秋、ここに来てくれませぬか。」
照宗は、劉煌の腕を放そうとせず、逆に握る手に力を込めてそう懇願した。
劉煌にとって叔父である劉操は、確かに血縁ではあるが、父母の敵でもあり、はっきり言って喪に服する必要はないと思っていた。それを隣の国の皇帝が後押ししてくれたのだ。渡りに船と思った劉煌は、中ノ国の皇帝の顔を立ててこう言った。
「そうですね。故人を忍び弔うことは大切ですが、それよりも生きている人の幸せの方が大事です。ずっと3か国の祭典ができていなかったのですから、早くまた3か国で集まった方がいいですね。わかりました。今秋、馳せ参じます。」
それでも皇后は、非常に残念そうに続けた。
「劉煌殿にはうちの女官たちがお世話になって本当に感謝しています。」
「もう私がいなくても皇后陛下がお困りにならない位女官たちができますから、どうぞご安心を。」
と皇后に言っている劉煌の横で、いつの間にやってきたのか唐妃が跪き「劉煌陛下、数々のご無礼をお許しくださいませ。」と言ってひれ伏した。
劉煌は、照宗に一礼してから照宗の腕から出て、慌てて唐妃を起こすと「いつでも気が向いたらお里帰りなさい。」と言った。唐妃は泣き笑いしながら「はい。」と返事をすると、その場から下がって行った。
それから劉煌は、辺りを見回して小春を探した。
小春は愕然として、圧死している照挙を起こしてあげることもせず、その場に突っ立っていた。
小春と目があった劉煌は、彼女の方へと足を進めた。
劉煌は、小春の前に立つと口元だけでなく目からも心底優しい微笑みを浮かべて小春を見た。
「小春、以前言ったこと覚えている?いつか必ず小春を迎えに来るって。その時が来たら僕と結婚してほしいって。君が憧れる皇后にするから。」
ずっと女だと思っていた劉煌が実は男だったという、あまりに衝撃的だった出来事だったため、さすがに記憶力の悪い小春でもこればっかりは覚えていたが、、、
で、覚えていたからって?何?
小春は口を閉ざしていた。
劉煌は大胆にも小春の手を取ると、「今がその時なんだけど、僕と一緒に行かないか?」と囁いた。
小春はすぐに劉煌から手をバン!と荒々しく放すと劉煌と目を合わさずに言った。
「この枯蓮!何を寝ぼけたこと言ってんのさ。私はもう結婚しているの!この国の皇太子と結婚しているの!」
それに対して劉煌は心の中で叫んでいた。
”だけど身代わりの偽装結婚じゃないか!!!”
「だけど、僕と一緒にいた時の方が長いじゃない。どうして僕じゃだめなの?」
「蓮とは一緒に育った。蓮のことは好きだけど、兄妹なのよ。私にとって蓮は、夏朮や秋梨や柊と同じなの。ただのおねぇ、、、お兄ちゃんなの。照挙にはなれない!」
中ノ国の皇帝楼では、たった今中ノ国存続の危機を救ったヒーローが、公衆の面前で撃沈するというありえない展開に、誰もが息をするのも忘れて、目を白黒させてしまった。
劉煌は苦しそうに何とか「じゃあ、それでいいんだね?」と囁くと、小春は何故か涙を流しながら「それでじゃない。それがいいんだよ!私は照挙を愛していて、蓮のことは愛していない!私は照挙とずっと一緒にいるんだから!」と全くオブラートに包むことなく、西乃国の新皇帝を大衆の面前で振った。
数分前まで殺気や熱気で異常興奮状態だった空間が、一気に凍り付き、西乃国人も中ノ国人も全員どうしたらよいのかわからなかった。あの、白凛でさえ、まるで金縛りにあっているかのように完全に動揺して固まってしまっていた。
ある程度覚悟していたとはいえ、自分の本当の身分がわかれば状況を打破できるのではと一縷の望みに賭けていた劉煌は、拳をグーにして体側に置き、肩も目線も落としてしばらく黙ったままでいた。
彼の心の中は、まるで乱気流に巻き込まれたかのように激しく上下左右斜めにアットランダムに揺れていた。
今迄、小春から彼は、女男だの、気持ち悪いだの、枯蓮だの散々な言われようをしてきたのに、なんだかんだピンチになると必ず真っ先に彼に助けを求めていた小春だったので、好きな相手に素直になれないタイプなのだろうと、呂磨で内緒で購入し、夜な夜なベッドの中でこっそり読んでいた恋愛小説のヒロインと小春を勝手に重ね合わせ、最終的にはその小説のように、彼の元に彼女がやってくるものだと本当に信じていた。
しかし、現実は小説のようにはいかなかった。
自分の何がいけなかったんだろう?
自分の心が1mmすら動かない親蓮隊や宮蓮盟の女の子達には愛されるのに、世界でたった一人、自分が愛している相手には、愛してもらえなかった。
いや違う。劉煌は小春に自分のことを愛してもらおう等と思ったことなど一度もなかったのだ。ただ彼の側に、彼女が居てさえしてくれれば、それでよかったのだ。
でも、それは、、、きっと叶わぬ夢なのだろう。
劉煌はまだ俯いたまま目を閉じた。
長年の望み通り国は取り返すことができたが、誰よりも大切な人を失ってしまった。
そう思った瞬間劉煌は、涙が出そうになって慌ててギュッと目を瞑り、上を向いた。
しばらくその状態でいる西乃国新皇帝を外野は皆見て見ぬふりをして、何事もなかったかのようにそれぞれのやるべきことを始めた。
劉煌は、鼻から息をふーっと吐き出すと、小春に目線を戻し、小春には今までとなんらかわりなく優しく、
「そうか。。。幸せになって。」
と、なんとか心臓に鋼鉄の鎧をつけてそう言ったが、ようやく体力を回復し起き上がって寄ってきた照挙には、睨みながら釘を刺した。
「いいか。絶対に小春を泣かせるんじゃないぞ。もし小春を泣かせたら絶対容赦しないからな。」
「彼女は私の妻だ。私が絶対に幸せにする。」照挙は真剣に劉煌の目を見てそう言った。
劉煌はしばらく照挙の目を真剣に見ていたが、そこに一点の曇りもないことを確認すると観念して目を閉じ、照挙の肩をぽんぽんと叩いてその場を立ち去った。その劉煌の後姿を心配そうに見守る白凛の視線に気づくことなく。。。
そのまま皇帝楼から出て、外を見渡した劉煌は、西乃国の兵士たちが、梁途の指揮のもと、戦闘で壊れた物などを綺麗に掃除しながら退去していっている光景を目撃した。すると何故か今の今まで彼を支配していたメランコリックな気分がすっ飛び、何か新しい希望に満ちた夜明けのようなワクワク感が彼の中でふつふつと芽生え始めた。
そうだ。これは終わりではないのだ。
それどころか、これからこそが始まりなのだ。
あらゆる分野で荒れ果てた西乃国を再興し、明るく住みやすい街に、下々まで夢を追え、楽しく生きられる国にしなければならないのだ。
劉煌の肩の荷は、今下りたのではなく、逆にずっしりと重い物が乗ってきたのだと、劉煌は改めて悟り、そして自らの気をグッと引き締めた。
そう感慨にふけっている劉煌の横に、お陸、万蔵と百蔵がやってきた。
劉煌がお陸に向かって口を開こうとした瞬間に、お陸は劉煌の身分を証明する聖旨を彼に投げつけるように渡し、こう言いたいことだけ言ってサッサとクルっと回ってドロンと消えた。
「お嬢ちゃん、あれだけ口酸っぱく自分をコントロールするように言ってきたのに、肝心かなめでダメだったじゃないか。もうあんたにはホトホト愛想が尽きた。これだけこの私がマンツーマンで心血注いで仕込んできたのに、あれじゃ~ね~。だからこれ以上続けても時間の無駄。もう金輪際あんたはもう私の弟子でも何でもないから。縁切ったからね、勝手にして。」
お陸のお別れの言葉の意味を深く理解できていた劉煌は、お陸がさっきまでいた場所で跪いて頭を垂れ「師匠、ありがとうございました!」と叫んだ。もちろんお陸がこれを草葉の陰ならぬ屋根の上から見ていて、「だから言ったじゃん、師匠じゃないって。」と思いながらぽろぽろ涙を流していることなど、劉煌にはお見通しだったし、お陸も劉煌がそれをわかっているのを知っていた。
本当はもっと早く手放すつもりだったのが、、、
これがカリスマってのかねぇ~
離れがたくて、結局今日まであたしが、あの子にくっついていてしまった。
これ以上涙がこぼれないようにお陸が空を見上げると、西乃国の龍が気持ちよさそうに空高く飛んでいた。
お陸は、心の中で叫んだ。
”頼んだよ、金ちゃん、お嬢ちゃんのこと、ホント頼んだからね!”
「陛下、おかげさまで、わしらは骸組を立て直すために皇帝直属の間者になりました。」
万蔵が、立ち上がった劉煌にそう伝えると、劉煌はひどく残念がって「そうなのぉ。残念。お二人には西乃国に来ていただけたらと思っていたのに。」と応えた。
「ふるさとの土地は何物にも代えがたいものがあるんすよ。」百蔵がそう説明すると、劉煌は何度も頷きながら「まさにその通り。」と感慨深げに呟いた。
「でも、もし、万一、ここが嫌になったら、絶対に西乃国に来てよね。お二人なら大歓迎よ。あ、そうそう、西乃国に間者をよこしても無駄だってわかってるわよねぇ。」
手の内がお互い全部バレている3人の男たちは、そこで身分の違い、国の違いに関係なく、大声で楽しそうに笑い続けた。
お読みいただきありがとうございました!
またのお越しを心よりお待ちしております!