第九章 転回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
案の定皇宮内で出刃包丁を振り回し大立ち回りをして啖呵を切ったお陸は、すぐに連行された。
お陸は、デモ隊に向かって「いいかい!これは奴らの威嚇だっ!ひるむんじゃないよ!そのままデモを続けるんだ!」と叫ぶと、今度は禁軍の兵士に向かって、全身で抵抗しながら叫んだ。
「ええい、あたしをどこに連れていくつもりなんでぃ!」
「皇牢だ!」
お陸は中ノ国の伝説のくノ一であるから当然皇牢の場所を知っていた。
”あの丘の中に連れて行くのか、、、”
”それにしても、成多王朝の祖は、なんであんな所に牢を作ったのかねぇ。”
そう思いながら、禁軍の詰め所から地下につながる階段を今度は全く抵抗せずに自ら歩いて行った。
お陸は、皇牢に入った瞬間から大声で「なんで小高御典医長を捕まえたんだい!いったい何の罪だっていうんだい!」と繰り返し叫び始めた。
するとある時点で皇牢の扉から入って右手の奥から「私も理由を知りたいわ。」という劉煌の声が響いてきた。お陸は、それで劉煌が捕らえられている場所の辺りをつけると、今度は小声で看守たちに囁いた。
「ねえねえ、中ノ国ってどうなっているのよ。無理やりわけもなく人を牢屋に入れるのかい?」
看守は答えられないことに腹を立てて「ええい、うるさい女め!」と言ってお陸を殴った。
勿論看守の遅いパンチくらい簡単によけられるお陸であったが、お陸はわざと彼に殴られよろけるようにして独房に入っていった。そして藁の寝台の所まで行くとそこに倒れ込むようにして突っ伏し、上掛けを頭からひっかぶった。
”もうあの看守、ここを出たら500倍にして返してやるっ!”
お陸は心の中でそう固く誓いながら、奥へ手を伸ばし藁を布団の中にかき集めていた。
そして看守がいなくなるといとも簡単に屋根裏に上り屋根裏伝いに劉煌の独房に向かった。
お陸が劉煌の独房の屋根裏についた時には、独房内にこそ他に人はいなかったが独房の前に看守が2人立っていた。
劉煌はすぐにこの独房の屋根裏にお陸の気配を感じ取ると、独房の中で看守から一番離れた場所まで移動した。
お陸はすぐに自分の髪の中から孔羽からの信書を取り出し、看守が見ていない隙に劉煌の方に勢いをつけてそれをほうり投げた。劉煌は目にも止まらぬ速さでそれをパッと掴むと、すぐにそれを読み、真っ青になってお陸の方を見上げた。珍しく真剣にお陸は、彼に頷いてみせてから、劉煌を指さしてから自らの曲げを指さした。劉煌はその意味がわからず困った顔をしていると、お陸は声をださずに頭を指しながら口の動きだけで”赤い”と教えた。
劉煌は何のことかわからなかったが手鏡を懐から取り出して自分の頭を映し出した。
すると蝋燭の側ではわからなかった劉煌の頭が、なんとほんのりと赤く光っているではないか。劉煌は慌てて部屋の中央に戻り、おそるおそる手鏡で頭を見たが赤い光は明らかに弱まっていた。劉煌の頭の曲げの中には3体の蒼石観音像が互いに触れ合わないように入れてあった。
”3体揃うと青く点滅していたのに、なぜここでは赤いのか、、、”
そう思った時、劉煌は、はたと皇宮に隠されている西乃国の龍はこの近くにいるのではないかと閃いた。
そして手鏡で頭を確認しながら房内を歩くと、西に近づくに連れて明らかに赤味が強くなっていた。
”なるほど、だから西側の壁だけ鉛でできているんだな”
劉煌はここに入れられる時、そこだけ壁と同じ素材の窓なし扉だけがついた全面金属でできた一角を通りすぎてすぐにこの独房に入れられたことを思い出した。そして、禁軍の詰め所から地下への階段が続き、そこを北西に向かって歩いていたが、その後上り階段をのぼったことも思い出した。
劉煌は自分の頭の中でこの2か月弱探索しまわった皇宮内の地図を広げ、自分が今歩いてきた道のりをそれに照らし合わせて大きく頷いた。
”ここは、あの不自然な丘の所だ!”
”そうか、今までどこを探してもかすりもしなかった訳だ。まさか丘の中に建造物が隠されているなんて。おそらく隣の鉛の部屋に龍がいるに違いない。しかしどうやったら隣の部屋を開けられるのだ。恐らくあの扉はダミーだ。あそこから出せるはずがない。さあ、どうしたものか、、、そうでなくても劉操が軍を引き連れて迫ってきているというのに!”
劉煌はいつの間にか、それをどっぷり考えていたために、頭を傾け腕を抱えて独房の中をいったりきたりうろうろしていた。
そんな劉煌の様子をお陸は屋根裏からじっと忍耐強く眺めていた。
その頃、万蔵は百蔵を屋根裏に待たせて宰相府で備中に会っていた。
「万蔵、それは誠か?」
「確かかどうかは、、、」
「そんな裏も取れていない情報を持ってこられても、陛下に報告して偽情報だったらわしの首が飛ぶ。そのような重要な情報は、ちゃんと裏が取れてから持ってこい。なんだ頭領でなくなったら、そんな分別もつかなくなったのか。」
「しかし、もし本当だったら裏を取っている間に攻撃されますよ!」
「そんなこと言われなくてもわかっておる。わしが言っているのは、骸組だって西(西乃国)に潜伏しているんだ。それなのに御大からは何の報告もないんだ。御大だぞ!それが本当なら御大が掴んでないわけないだろう?」
「ですが、こっちの情報はお陸から、、、」
「なんだと?お陸はまだ生きているのか?」
”生きているどころか60位若返ってるし、、、”そう心の中で苦笑しながら万蔵は、言った。
「姐さんは少なくとも150までは生きるでしょう。腰もまっすぐでぴんぴんしてますよ。」
「なんと、、、」
「そのお陸が慌てて備中殿に知らせろと言ってきたのです。」
「で、お陸はどこからの情報だと?」
「それが姐さんはそれについて絶対口を割らなかったんです。ただ、わしの勘では小高蓮が絡んでいるのではないかと。」
「なんだと?いったいあいつは何者なのだ。」
「わかりません。ただ姐さんが命懸けで守っていて、、、只者ではないことは確かだと、、、」
と万蔵が言った瞬間、備中と万蔵の間に百蔵が屋根裏からシャーッと飛び降りてきた。
備中が曲者!と叫ぼうとした瞬間に百蔵は備中の口を手で押さえて言った。
「頭とおいらのことは、皇帝の命で骸組が葬ったとみんな思っている。だからこの皇帝には恩も無ければ情もない。あるとしたら恨みだけだ。だが、おいらは中ノ国人だ。だからこの国がみすみす西に乗っ取られるのを見て見ぬふりなんかできないんだ。そして、小高蓮を守るのは何も姐さんだけじゃない。おいらだって奴を守る。おいらの命を2回も助けてくれたんだ。それもおいらは奴を売ろうとしたのによ。そんな情け深い奴が西の皇帝になったらいいと思わないか?」
万蔵は途中から百蔵の言うことについていけなくなり「百蔵、いったい何を言っているんだ?」と聞いた。
万蔵のこの一言で、ようやく自分の口を塞いでいるのが百蔵だと気づいた備中は、「お前その顔、、、」と言って絶句した。
百蔵は備中の口から手を放すと、彼の目をしっかり見ながら言った。
「そうだ。おいら間違っていた。小高蓮がおいらの命を救ってくれたのは2回じゃなかった。この顔を含めると3回だ。忍者をするにはちょっとイケメン過ぎるがな。奴の美意識だと醜く変えるのは、奴のポリシーに反するんだそうだ。」
「ああ、それはわしも言われた。。。」万蔵はそこで思いっきり頷いたが、備中は小高蓮のなよなよして小指を立てている姿を思い出し、うええと露骨に嫌悪感100%の顔をして見せた。
百蔵が話を小高蓮の美意識に変えていたのに、万蔵は先ほど百蔵が言った言葉が頭の中で大きなしこりとなって残っていた。今まで万蔵が感じていた、年若いのに、何かとてつもなくはかりしれないほど大きなスケールを感じる、外側はオネエ、中身は漢の小高蓮に関する万蔵の中の不協和音が、百蔵の言葉で何か世にも美しい音色を奏でるコードに変身しそうな感覚を覚えていた。
万蔵は百蔵が言った言葉の中で自分の理解を超えていた部分を思い出していた。
”百蔵は、以前小高蓮を売ろうとしていた。”
”そんな情け深い小高蓮が西乃国の皇帝になったら、、、”
その瞬間、万蔵の中の小高蓮情報に関する点がすべて線で繋がった。
亀福寺にいた小高美蓮という女の子は、小高蓮の妹じゃない!小高蓮その人だったのだ!
男の子を女の子にしてまで匿う必要があったのは、その子が追われていたからだ。
あの亀福寺にあった男の子の正装は、小高蓮の物だったのだ。
つまり、小高蓮というのは偽名で、彼こそ西乃国の先帝の忘れ形見、劉煌皇太子殿下その人だったのだ。
真っ青になった万蔵は思わず「まさか、小高蓮は西の劉煌殿下、、、」と口走ってしまった。
百蔵はさすがお頭と思った瞬間、彼の目の前で備中が頭を抱えながら
「ああああああああ!!!!!!!」
と、叫んで飛び上がった。
万蔵と百蔵が耳を押さえて顔をしかめている中、備中はさらに大声で叫んだ。
「私としたことが、なぜ気づかなかったんだ!若かりし頃の劉献陛下に生き写しではないか!ああ、何と言うことだ!」
備中はまたもや頭を抱えた。
百蔵も万蔵も状況証拠から劉煌の身分を探り当てたが、備中は”彼の顔”で思い出したのだ。
それを聞いて百蔵も万蔵も自分たちの推測が正しかったのだと確信した。
しかし、備中はよほど気づかなかったのが悔しかったらしく、今度は何度も地団太を踏みながら叫んだ。
「そうだ、奴があんまりにも女っぽいので気色悪くて直視できなかったからだ。くそー、やられた。劉煌殿下だったら羅天語だって流暢なはずだ。千年に一人の天才で6歳にして博士に教えていた位のお方だったから。まさか、あの殿下があんなになよなよとまるで女のように成長されるとは。。。」
備中は、3か国の祭典で皇帝の名代でやってきた9歳とは思えない立ち居振る舞いだった男の中の男の劉煌殿下を思い出して、両手をグーにして悔しがった。
「備中殿、小高蓮の外側に惑わされてはなりません。武術の腕前もピカ一です。」
万蔵は、皇宮の暗闇で自分を攻撃してきた小高蓮を思い出しそう告げると、百蔵はまるで自分が褒められているかのように自慢げに答えた。
「そりゃー、そうですよ。なんてたって姐さんが仕込んだんですから。」
すると今度は備中が目を丸くして「なんだと!?」と叫んだ。
百蔵は続けた。
「はい。10年以上前、姐さんが自分を超えるくノ一になるって言って育ててやした。」
万蔵はそれに両眉がくっつかんばかりに顔をしかめると、
「じゃあ、劉煌殿下はくノ一教育をお陸に受けたって訳か、でも何でまた、、、」
「取り返すおつもりなのだろう。」
備中は突然シリアスになってそう言った。
それに百蔵は何度も頷きながら、何故か鼻高々に答えた。
「おいらの推測では、最初から国を取り返すつもりだったんじゃないかと。政変1年半で、このおいらをかわせていた位だったから、国を追われてすぐ姐さんに弟子入りしたんじゃないかと。」
万蔵と備中は、わずか9歳の一人ぼっちの男の子の壮大な計画に圧倒されていた。
余裕の出てきた百蔵は、お茶を入れながら話し始めた。
「話は元に戻りますけど、姐さんが持ってきた紙切れを見やしたが、あれは間違いなく伝書鳩が運んできた文書っす。でも中の筆跡はおいらが見たことがないものでやした。もしかすると殿下は国に連絡を取れる秘密の配下がおられるのでは?」
「うーむ、しかし先帝派や劉煌殿下と親しかった者は皆殺しにあったと聞いているぞ。」
「うーん、でもこの文書の内容が本当だったら、中ノ国は滅びますよ。なんてたって、無敵の女将軍があっちにはいるんですから。」
「戦場の女神と評判の女だったな。たしか白凛と、、、」
「戦場の女神?戦場の死神でしょう。」
お読みいただきありがとうございました!
またのお越しを心よりお待ちしております!