第九章 転回
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
中ノ国に平和な時が訪れていたころ、西乃国では劉操の命で皇宮内の大捜索が繰り広げられていた。
中ノ国から帰ってきて約1か月、皇宮内総出で捜索しているのに蒼石観音が見つからないとは!それも1体も!
劉操は怒り心頭だった。
そしてその怒りの矛先は宦官たちに向けられた。
そのため、皇宮内の面々は毎晩のように天乃宮の”お掃除”もしなければならなかった。
日中は、蒼石観音像の捜索、夜中は天乃宮の掃除と、ほぼ休みなしで働かされた面々は、冬場の寒さも重なり、どんどん倒れていった。
そのため西乃国皇宮の御典医たちも休む暇がなくなるほど忙しくなってしまった。
西乃国の首都京安は、医者が開業するためには、まずインターン研修、開業してからも継続研修が必須だったのだが、その講師は御典医だったので、当然町医者の教育もままならなくなっていた。
さらにそんな事情を知らない町医者は、研修のために皇宮内の靈密院(皇宮内医院)に訪れ、そこに溢れかえる咳き込む患者達を見てヤバイと思った時にはすでに感染してしまっており、町医者が皇宮から京安市内に悪性の風邪を広めてしまった。
そんな非常事態に劉操は、いつもの通り自分が逃げることしか考えていなかった。
そしてどこに逃げるかと考えた時、彼は中ノ国の皇宮に行こうと思い立ったのだ。
何しろ昨年末、中ノ国の皇帝を脅して聞き出したことを実践しようと思っても、まず一月以上探しているのに、肝心の蒼石でできた観音像など皇宮内のどこにも見つからないのだ。そして彼はふとこう思った。
3つの蒼石観音像が龍解放の鍵ならば、何も西乃国の物ではなく中ノ国の蒼石観音像で中ノ国に封印されている西乃国の龍の封印を解けるのではないか?
彼は中ノ国の皇帝を再度脅せば龍を解放できると思い込み、軍を引き連れて春節の祝いとかこつけて中ノ国の皇宮に侵略することを思い立ってしまったのだった。
”李白部隊はたった10人で北盧国を占拠できたのだ。軍隊を引き連れていけば中ノ国などすぐに陥落するだろう。”
”朕に似非情報を渡すとどうなるのか思い知らせてやる!”
中ノ国皇宮訪問の表向きは春節の挨拶としていたが、真の目的はもちろんトップシークレットで、劉操から中ノ国皇宮を狙うと聞いたのは、筆頭宦官の石欣、禁衛軍頭領の龔琳、黒雲軍将軍の白凛、首相の毛杢と兵省大将軍の成戦の5人だけだった。
その夜、白凛は久々に皇宮を出て実家に顔を出した。
劉操は簡単に考えているようだが、前回のことがあるので、そうやすやすと彼らは西乃国一行をまず国内に入れないだろうし、入れたとしても命あって帰るのは至難の業かもしれない。そう考えた白凛は、これが今生の別れになるかもしれないと思いながら、小白府の門を叩いたのに、なんと彼女はあっけなく門前払いされてしまった。
帯刀する者は、いつも死と隣り合わせだ。
だからなによりも生を大切に思う。
だが、文官の実父は、実は誰にでもすぐ側に死神がいて、いつでもその鉈を振り落とせるなどと露にも思っていないのだ。だから白凛がなぜ今日、小白府を訪れたのかなど、実父はまったく考えが及ばなかったのだった。
白凛はそのまま皇宮に戻る気にもならず、とぼとぼと京安の町をあてもなくさまよい歩いていた。
西乃国一番の都市で、少なくとも12年半前までは活気に溢れていたこの町も、すっかり劉操の悪政でさびれてしまっていた。
夕餉の支度の時間だというのに、庶民の家からは煙の一筋もたっていない。
確かに彼女の夢は将軍になることで、それは叶った。
でも彼女はこんな国でこんな将軍になりたかったのだろうか?
”人を人とも思わないような皇帝を守っている私って、、、”
白凛は、全く活気の無い町をあてもなく彷徨い続けた。
すると突然見知らぬ男から「白将軍!」と声をかけられた。
白凛は驚いて振り向くと、その男は店から飛び出してきて彼女の前で丁寧にお辞儀をしてから、自らのことを薬舗の番頭だと名乗った。
彼は白凛を店舗に招くと、いつも小白府に薬を届けている旨を話し、将軍は美しい母君の生き写し等と持ち上げた後、突然白凛になんと広告塔になって欲しいと言い出したではないか。
「なんで私が薬屋の宣伝をしないといけないの。」
「いやー、なにしろ白将軍は若い女性に絶大な人気ですから、若い女性向けに開発した、人々の夢をかなえる薬である、心夢丸のイメージキャラクターになっていただければと思った次第でございます。」
そう言って彼が出してきたのは、どこにでもありそうな皿に乗ったこげ茶色の丸剤が数粒、契約書一式と山のように積まれた金貨だった。
白凛は、胡散臭いと思いながらもそのこげ茶色の丸剤を一粒つまんでその手を上にあげて丸剤を眺めながら聞いた。
「夢を叶えるって、どんな夢?なんで若い女性だけが対象なの?」
「それは、避妊薬だからですよ。これを飲んでおけばいくらやってもできないってね。心配御無用の無と夢を引っかけて心夢丸ってね。」
それを聞いた白凛は慌ててその丸剤を手放すと、その手で薬舗の番頭の襟を掴み、口から唾を飛ばしながら鬼の形相で叫んだ。
「あんた、いい度胸してんじゃないのさ!私に避妊薬の広告塔になれって?私は妓女じゃない。将軍なのよ!ふざけんじゃないわよ!」
白凛の迫力に薬舗の番頭は、すっかり怯え、目をそらし、チビリそうになっているのを震える両手で押さえて我慢していた。白凛が彼の襟からバンと手を放すと、薬舗の番頭はその反動で床に転がり倒れた。
ヒッと言って固まっている番頭の前で、白凛は怒りまくって脇差しに手をかけた。番頭は泣きながらもう失禁のことは諦めて、命乞いのために両手を合わせて白凛に拝み始めた。
そんな彼に容赦なく白凛は鬼の形相で脇差しを抜くと、エイ!と言ってその剣を振った。
ギャーっという悲鳴と共に番頭の前に契約書が真っ二つになってひらひらと落ちてきた。
「あんたなんか切るわけないでしょ。私の剣が腐る!」
そう捨て台詞を残して、白凛は薬舗を後にした。
先ほどとは打って変わって白凛は、ムカつきながらズンズン町を歩いていた。
白凛の全容からは怒りがあふれ出し、見える人が見ると真っ赤なオーラになって歩いていたが、そういう物が見えないし、信じない人からでも彼女に近づくと危ないと察することができるほど、彼女は怒っていた。
そしてとうとう白凛は、孔羽と梁途と共に行った講談師のいる店に殴り込んでいった。
店に入った彼女は、酒だけ注文して、講談師が壇上に上がるのを待った。
そして講談師が現れ、everybody's favoriteな『女将軍慰浪事情』を語り始めると、彼女は酒を飲みながら話を聞き始めた。
「白凛は、そこにいる兵士達全員を一直線に並べ、一人ひとり上から下、下から上へとゆっくり眺めてからそのうちの一人を選び、その男を自分の部屋に引き入れ、、、」
「入れてない!」
「白凛は、その日焼けした厚い手で男の襟を掴み、勢いよく着物を左右に引きはがし、、、」
「してない!」
「白凛は、その男の体を舐めるように見て、、、」
「見てない!」
講談師のセリフの度に、観客席から女の否定の合いの手が入ることに講談師も観客も苛立ち、とうとう講談師が席から立ちあがって、白凛に向かって彼女を指さしながら営業妨害だと怒った。
それに対して白凛は全くひるむことなく席から立ちあがると、
「何を言っているのよ!それならこちとら名誉棄損よ!」
と叫んだ。
その言葉に講談師も観客も、名誉棄損と叫んだ人物こそ本物の白凛本人なのだと気づいた。
講談師も店の者も観客も、初めて見る本物の女将軍に目が釘付けとなり言葉を失った。
そんな中、店主はそろそろ観客が飽きてきたこの講談に、まるで彗星のごとく飛び込んできた新ネタに商機を見逃さなかった。
店主は白凛の前に躍り出て講談師の非を詫びると、講談師の代わりにここで話さないかと勧め、さ、どうぞどうぞと白凛を銀幕ステージの上へと誘導した。
白凛は、酒も入っていた勢いで背中を押されるままステージ上に立つと、観客は総立ちになってワーと叫びながら拍手喝采した。
観客の多くは白凛が初の女将軍ということや、講談師の表現から勝手にゴリラのように逞しい肉体とそれにマッチした強面で男のような容貌の限りなく男に近い女を想像していた。
ところが実際にステージに立った本人は、化粧こそしていないが目鼻立ちの整った非常に美しい顔立ちをしており、その細身の体形から彼女がそこで軍服を着ているのにも関わらず、そんな顔も体つきも柳のような彼女が、長槍を振り回すことができるなど、そこにいる観衆には到底信じられなかった。
自分のお株を取られてしまった講談師は、ステージの袖から悔し紛れに叫んだ。
「お前、本当に白凛なのか?あまりに言われている姿と違うだろう!この偽物め!」と叫んだ。
観客達も講談師の巧みな言い回しに、確かにこんな美しいうら若き女性が、あの白凛の訳がないと思い始め、だんだんとトーンが訝し気になってきた。
白凛は、劉操と実家と薬舗での怒りとすきっ腹に飲んだ酒の勢いで、突然講談師の机の上にあった『女将軍慰浪事情』の台本をパッと天井めがけて投げ上げると、自らもヤーという掛け声と共に飛び上がり、右手で瞬く間に鞘から取り出した剣を上空で存分に振り回した。
すると、その台本は瞬く間に紙吹雪となって観客の頭上にひらりひらりと降ってきた。
そして白凛は、ステージの上に一糸乱れなく着地するとくるッと回ってサッと剣を鞘に収めた。
これを見た観客も講談師もしばらく茫然自失となっていたが、その中でいち早く我に返った観客が、指笛を鳴らして
「スゲー!本物だ!」
と叫んだ。
すると、他の観客達も総立ちになってヤンヤヤンヤの大喝采となった。
これで白凛は、ますます若い女性から憧れられ、今まで彼女に興味のなかった男性陣からもその華麗な容姿で大人気になってしまった。
久々の観客の大盛り上がりに、店主は上機嫌で、どうやったら白凛をステージパフォーマーとして採用できるか真剣に考え始めた。
そんな時、客席から手拍子と共に「剣舞!剣舞!剣舞!剣舞!」のシュプレヒコールが上がった。
白凛はステージ上で眉をしかめながらその声を聴いていたが、先ほどの上空で剣を振り回した勢いですっかり酔いがさめた彼女としては、彼女が観客のために剣舞を披露する必要など全くないことを判断すると、観客の声を無視してそのままステージから降りようとした。
すると慌てて店主が白凛の元に駆け付け、白凛の説得に当たりだした。
しかし、白凛はそれを手で制すると、スタスタとステージから降りた。
それでも諦めきれない店主は、白凛を追い、彼女の腕を掴んだ。白凛は咄嗟に掴まれた腕を払いのけ、逆に店主の胸倉をその手で掴むと、睨みながら「あんた、誰に向かって話していると思って?」とひくーい声で言った。
その紛れもない本物の将軍の迫力に恐れ入った店主は、恐怖のあまり薬舗の番頭のようにチビりそうになっていた。
そこへ、「お凛ちゃん、こっちへ!」という囁き声と共に彼女の腕を誰かが掴み、彼女を出口の方に誘導する人物が現れた。その声や手の厚みから、彼女の腕を掴んでそこから救ってくれている人物が孔羽だと察すると、白凛は無言で彼について行った。出口の側で突っ立っている店子に酒代とチップを渡して孔羽はこう言った。
「しばらくお客さんを外に出すのに時間をかけて。」
店から出た二人は北西の方向に走り始めた。
2つほど路地を通り越したところで息切れした孔羽は膝に手を当てて肩で息をしていると、前方で孔羽が付いてきていないことに気づいた白凛が後ろを振り返った。孔羽はようやく顔を上げると、彼女の顔をジッと見た。
「どうして、、、あんな、、所に?しかも、、、一人で、、、軍服、、、着て。飛んで火にいる夏の虫、、、じゃないか。。。お凛ちゃんらしくない。。。」
孔羽は、息をゼーゼー切らし、途中途中で何度も息継ぎしながらそう白凛に聞いた。
「私だって憂さ晴らししたい時だってあるもん!」
そう居直った白凛は、いーだという顔をしてみせた。
孔羽は仕方ないという顔をして、相変わらず肩で息をしながら彼女に提案した。
「じゃあ、、、僕の一押しの、、、麺の屋台に行こう。。。もうこの時間だったら、、、そんなに人もいないから。。。酒も屋台とは、、、思えない、、いいものを置いている。。。」
白凛は孔羽の提案を断る理由も無かったので、それに対して1度だけ頷くと、孔羽の立ち位置まで戻って彼に手を貸した。
白凛のヘルプでようやく膝から手を放すことができ、人間らしい二足歩行の立位に戻った孔羽は、自分とほとんど背の高さの変わらない白凛と目と目があうと、「どうした?」と一言だけ聞いた。
白凛は、それに待ってました!とばかりにまず薬舗からの広告塔依頼の件を話し始めた。
いくら気心の知れた幼馴染で、いわゆる男女の関係とは無縁の相手であっても、さすがに依頼されたのが、性に関連する薬の宣伝とは言えず、白凛は避妊薬の避の字も匂わせることなく、ただ薬舗の番頭が常識や礼儀をわきまえないと壊れたレコードのように愚痴り続けていた。
孔羽位の年の男であれば、このうら若き女性が怒る宣伝内容についておぼろげながらでも、あっち系統の物ではないかと想像がつきそうなものだが、何しろ悪いことに相手は誰でもない、花より絶対団子の孔羽である。いくら匂わしても食べ物にしかその鼻は利かない奴との会話は、平行線のままだった。
結局屋台についても、白凛はただ怒っていて、孔羽はその理由が皆目見当がつかずに注文した酒がまず届いた。
2人で酒を酌み交わしても、白凛はまだ苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
麺が配膳され、ようやく緊張感が取れ、麺をすすった孔羽は、なぜ薬舗の広告塔でそんなに白凛が怒ってるのかわからず、「ねえ?それでどうしてそんなに怒っているの?」と質問してしまった。
その瞬間白凛は、昔李亮にからかわれる度に見せていた、おもいっきり嫌な顔をしてみせると、酒の勢いもあって今まではお茶を濁してはっきりとに孔羽に伝えていなかったことを、くっきりはっきり伝えた。
「私を避妊薬の宣伝に使いたいって言われたのよ!」
彼の予想を遥かに超えた話の展開に、思わず孔羽は食べていた麺が変なところに入ってしまい激しく咳き込んでしまった。
しばらくして咳はおさまったものの涙目のままの孔羽は、かろうじてこう言った。
「そんな酷いことがあったのか。。。しかしその薬舗も命知らずだよな。よくお凛ちゃん切るのを思いとどまったなぁ。」
「私は絶対につまらない者は切らない。」
「まあ、それは怒って当然だな。それで、元凶の講談師の所に行ったのか。」
「うん。だってそいつのせいで、私は12年ぶりに京安に戻ったというのに家にも帰れないのよ。」
「家に帰れないって、まさかご両親がお凛ちゃんを家に入れないのか?」
「そのまさかよ。そんな講談があるなんて知らないから、京安に帰って早々皇宮で父と会ったらあばずれって言われたのよ!」
「え?そんな僕だってデフォルメってわかるのに、まさかご両親あんなの信じたの?だって容姿からして嘘八百じゃん。」
「両親が講談を直接聞きに行ったとは思えない。たぶん周囲から後ろ指を刺されたんじゃない?」
「でも実の娘のことだろう?かばわないなんて信じられない。」
「私は信じられるわ。だってずっとそうだったもの。小さい頃から私のことが気に入らなかったのよ。いわゆる御令嬢じゃないから。」
さすがに李亮の山勘が当たったとはいえ、科挙を史上最年少で合格しただけあって孔羽はこの時、白凛の真の問題は薬舗のことなのではないのだと気づいた。
孔羽はおもむろに白凛の盃に酒を注ぐと、自分の盃を彼女の盃にチョンと当ててから、一気に自分の盃を開けた。
「飲もう!今晩は徹底的に!大丈夫僕が皇宮まで送って行くから。」
白凛も自分の盃を持ち上げると、それを孔羽の方に掲げてから一気に飲み切り、盃を逆さにして見せた。
二人はしばし酒を酌み交わしていたが、お互いに顔がほんのり赤くなった頃合いで白凛が愚痴った。
「何が悲しいって、文官には武官の気持ちが全くわからないってことよ。こちとら陛下の側で毎日命張ってんのよ、今度京安を離れたらもう二度と会えないかもしれないってどうしてわかんないのよ。」
「今度京安を離れたらって、お凛ちゃんどういうこと?」
「もう役所には連絡が行ってるんでしょ?陛下がまた中ノ国を訪問するって。酔っ払いついでに良いこと教えてあげる。西域にも訪問してたわよね。その訪問を中ノ国にするの。」
「何?」
「しかも、前回の訪問で間違いなく彼らは私らに警戒しているっていうのにね。」
その白凛の爆弾発言に、酔っぱらったふりをして孔羽は身を乗り出し、白凛の顔との距離わずかに10cmまで自らの顔を近づけると、急に真剣な小声で語気を強めて囁いた。
「前回は皇太子の結婚式に行ったんじゃなかったのか?」
それに白凛は、体を起こして孔羽の顔との距離を伸ばすと、左手で盃を持ち上げながら、右手の人差し指を左右に振って「チチチチチ」と舌打ちをしてみせた。
一気に酔いが覚めた孔羽は、身を乗り出したまま口を半開きで絶句した。そんな孔羽に白凛はわざと泥酔しているように振舞っていたが、彼は彼女の目が決して酔っていないことを見抜いていた。
管を巻き机をバンバン手のひらで叩きながら白凛は呟いた。
「だからね、私としては羽兄ちゃん!あのね~。絶対西乃国を守りぬいてよぉ~。他の国になんかに取られてぇ~たまるかぁ~ってね。」
孔羽は全く思ってもみなかった話の展開に内心激しく動揺しながらも、酔っぱらったふりをして白凛の肩をバシバシ叩きながら「わかった。まかせておけ!」と言った。
白凛は何回も頷きながら「さすが羽兄ちゃん」と言って、先ほどの孔羽の肩叩きの3倍の勢いと力加減と回数で彼の肩を勢いをつけてバシバシ叩いた。
孔羽は、白凛に思いっきり叩かれた肩をさすり先ほどとは違う意味で涙目になりながら「じゃあ、送ってこうか。」と白凛に行った。彼女は「おう」と言ってそれに答えると、孔羽の肩を組んだ。
孔羽は白凛と肩を組んで歩きながら、この話をすぐに李亮に伝えなければと思った。勿論白凛の情報のどこまで彼らが信じていいのか、皆目見当がつかなかったが、劉操にさんざんひっかきまわされている行政機関の一員としては、白凛の言うことが全くの嘘とは思えなかった。
先日の観音像の件以来、李亮はとりあえず何でも情報を送るように彼に依頼していた。
『必ずしもこっちが情報の取捨選択をする必要はない。判断は、アイツがする。逆にこっちが重要性が低いと思ったものが高かったりしたからな。だから俺たちはただ入手した情報をアイツにいち早く伝えさえすればいいんだ。』
”それにしても、白凛は何故そんなトップシークレット中のトップシークレットである極秘情報を自分に伝えたのだろう?”
酔っぱらった勢いでぽろっとしゃべってしまった?
いや、それは違う。彼女は明らかに意図して彼に伝えていた。
彼女の話しぶりでは梁途もまた同行させられるに違いないが、彼から梁途にその話をしてもらいたいはずはない。なぜなら梁途と接触するのは彼よりも彼女の方がよっぽど簡単だからだ。
では、誰に?
もしかして、亮兄に連絡しろということなのか?
でも亮兄に伝えてどうするというのだ。彼は遥か北の果てにいるのに。
彼がそこにいて北を抑え込んでなければ中ノ国の攻撃に乗じて元北盧国が反旗を翻しかねないから、亮兄にはてこでもそこに居てほしいはずだ。ただそこに居てほしいのにわざわざ戻ってきかねない連絡をして欲しいはずがない。
それではいったい誰に伝えろと言っているのか?
李亮、梁途と孔羽の3人は、白凛が李亮を助けたことはあったにしろ、彼女は劉操派だと信じているので、こんな重大なことを中央省司の人間とはいえメールボーイの孔羽に伝えるはずがないと思っていた。
”ま、まさか太子が生きているって知っていて太子に知らせろってか?”
”それで、、、僕が太子に知らせれば、僕が謀反人だってわかるって寸法か。。。”
そんな孔羽の懸念をよそに、彼と肩を組みながら白凛は、上機嫌に前を向いて鼻歌を歌っていた。
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