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第九章 転回

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 それを聞いた清聴は、劉煌があのイケオジにやられたかと思い、飛び上がって「なんだって?私の蓮がさらわれたって?いつ?」と、眉毛が無いだけでも普通に怖いのに、さらにこわーい顔でその女の子に食ってかかった。


 しかし、女の子は当初眉毛の無い清聴の迫力にびびったものの、すぐに反対に顔をゆがめて怒りだした。


「私の蓮って、おばさん、それ、どー言うことよ!蓮先生を独り占めしないって親蓮隊のルール破っちゃだめでしょ!」


 そうすると、彼女の方に向かって四方から同じピンクの法被とピンクの鉢巻をした女の子たちがぞろぞろと集まってきた。


 清聴はいつの間にか、眉毛があるのに清聴よりもずっと迫力のある怖い顔をしてずるいずるいと叫んでいるピンクの集団に囲まれていたが、とにかく劉煌が心配で「ええい、うるさい!あたしは蓮の母親なんだよ!息子の心配して何が悪い!」と叫んだ。


 それを聞いたピンクの法被軍団はピタっと動きを止め、口をあんぐり開けたまま静かになった。


「とにかく、いつさらわれたんだい?犯人は見つかっていないのかい?いったい大理寺(中ノ国の警察及び司法機関)は何やってんだい!すぐに行ってとっちめたる!」


 清聴がそう叫ぶと、先ほどの娘が我に返り「蓮先生のお母さま?」と聞いてきた。


 清聴は内心しまったと思いつつも、それで何か困ることは無いだろうと思いなおし、そのまま肯定も否定もせず「知りたいんだよ。いつさらわれたんだい?」と自分を囲んでいるピンクの法被集団の一人一人を見ながら言った。


 すると親蓮隊の隊長が一歩前に出ると、突然清聴の前にひれ伏し、


「お母さま、大丈夫です。蓮先生が皇宮の御典医に召喚されたことを私たち親蓮隊の間では誘拐されたと言っているんです。なんてたって私たちのアイドルですから。御典医にされたのは、さらわれたも同然なんです。わかりますでしょ?」


と言った。


 清聴はこの紛らわしい奴らめと内心怒りでいっぱいだったが、とりあえず劉煌が無事でいそうだとわかったので安心した。

「じゃあ、京陵の家は、、、」

「まだ開業してますよ。先生はいらっしゃいませんが、美容関連商品とか売らないと暴動が起きますからね。」


 すると最初に絡んだ彼女が「もしかすると蓮先生が帰ってきていらっしゃるかもしれないから、みんなで杏林堂に行ってみましょうよ。」と提案してきた。


 清聴はその杏林堂とやらに行ったことがなかったので「そうだね、そうしようか。」と言いながら、ピンクの法被軍に続いて歩き出した。


 杏林堂に着いた清聴は、中に入ると辺りを興味深げにじろじろと見回した。

「何かお探し物でも?」

 そう声をかけられて振り返った清聴を見て、声をかけたお陸の方が驚いた。

 ”お鈴、なんでここに?”


 清聴は声をかけてきた若い女性;お陸に「店員さん?小高先生に会いに来たんだけど。いないんだったら言伝(ことづて)を頼めるかな。」と答えた。


 ”お鈴が備中に出会うかもしれないのにわざわざここに来たってことは、お嬢ちゃんに危機が迫っているってことか......”


 お陸は、一度頷いてから清聴を別室に案内した。


 その部屋の扉を閉めた瞬間、清聴が口を開く前にお陸は先ほどとは打って変わって地声で清聴に聞いた。

「あの子に危機が迫っているのかい?」


 その口調と声で清聴の目の前にいる見た目の若い女が、実は高齢の元くノ一だとわかった清聴は、驚いて2,3歩後ずさるとその場で黙って観念して跪いた。


「安心おし。お嬢ちゃんはあたしが仕込んだんだ。そんじょそこらのくノ一じゃない。あたしの最高傑作だよ。そんなお嬢ちゃんをかくまってくれたあんたを突き出すほど私は鬼じゃないよ。」

 清聴は自分の進退のことなど気にしてはおらず、とにかく劉煌の心配ばかりしていた。

「でも、、、村に骸組の知らない奴が蓮の素性を探りに、、、」

「なんだって?どんな奴だい。」

 清聴は素直に村に来たイケオジの容姿をお陸に伝えると、お陸は溜息をつきながら言った。

「まったく、万蔵は血書を書いたのに懲りてない。今度会ったらしばいてやる!」

「万蔵?頭領の訳ない、だって顔が全然ちが、、、」と言ったところで、清聴は顔を上げ、目の前にいるお陸の姿を見て全てを悟った。


「ようやくわかったようだね。お鈴、お前は寺に戻りな。あたしが(そのことを)お嬢ちゃんに伝えるから。」

「師匠!」

「とにかく、帰るんだ。」

「でも、頭領にあの子の着物を見られたんです!」


 清聴はそう叫ぶとその場に泣き崩れた。


「ど、どういうことだい?」”ま、まさか......”


「あの子を見つけた時に着ていた着物を、、、」

清聴は元くノ一とは思えないほど完全に取り乱していた。


「なんで、そんな物を後生大事に持っていたんだ!くノ一ともあろう者が!あたしの弟子とは到底思えないよ!」


 ”だって、劉煌の物だもの、、、捨てられる訳がない!”

 心の中でそう叫びながら清聴はその場で泣きながらうなだれていた。


 お陸は取り乱している清聴に今度は優しく声をかけた。


「とにかくこのことはあたしにまかせて、あんたはもうお帰り。また万蔵が性懲りもなくやってくるだろうから。とにかく一度見られちまった物だ。処分したら余計怪しまれる。前と同じところに同じようにして置いておきな。東(東之国)と違って、西(西乃国)もここ(中ノ国)も皇族のお召し物には違いが無いから、それが西の物とは気づかないだろう。」


「師匠、そこまで、、、」”知っていたのですか、、、”


 お陸は清聴の心の声を全て聞き取っていた。


 彼女は清聴の肩に手をかけると「お嬢ちゃんが私を訪ねてきた時からわかっていたよ。でもあんたが絡んでいるとはしばらく知らなかった。お嬢ちゃんは私にだってあんたの存在を知られないようにとかばっていたからね。だからあんたはこのままお嬢ちゃんに何者なのか悟られないようにお気をつけ。さ、早くお帰り。さ、さ。」と言った。


 うなだれた清聴が別室から出てくると、待ってましたとばかり彼女を親蓮隊が囲んだ。


「お母さま!蓮先生の小さい頃のお話とか、聞かせてくださいませ~♡」

 と黄色い声が響く中、清聴の後ろから出てきたお陸が親蓮隊に向かって説教を始めた。


「もう、誰だい、この女をここに連れてきたのは?これで10人目なんだよ。小高先生の親を騙る詐欺師は。あのね、小高先生の両親は死んでるの。もうこの手の詐欺には騙されないように。あたしゃ、この女を突き出してくるから今日の営業はもうこれで終了。店閉めるから出て、出て。」


 そう言うとお陸は親蓮隊を一人残さず追い払い店の扉を閉めた後、振り返って白い目で清聴を見た。


「あんた、自分からお嬢ちゃんの母親だって言いふらしてどうするの。」

「すいません。誘拐されたって聞いたものだから焦って、、、」

「まったく仏門に入ってもそのあわてんぼう、全然変わらないじゃないか。だから漢字の読み方も間違えたまんまなんだよ。」

「え?」

「もう、あんた般若心経の恐怖をきょうふって唱えてるだろう。お嬢ちゃんが間違えて覚えていたんだから。こっちが恐怖で固まっちゃったよ。」


 そんな会話をしている所に、ギーという扉を開ける音がした。


 お陸はすぐに清聴を診察室に閉じ込め、自らは扉の方に向かった。


 そんなお陸の目に飛び込んできたのは、フレッドと彼がエスコートしている万蔵だった。


 フレッドは北盧国語でお陸に話しかけた。

「扉を叩いているから、整形手術後の再診を希望しているんじゃないかと思って。ただ参語だから私はよくわからなくて。」

 お陸はフレッドに微笑んで見せると、フレッドは震えあがりすぐに2階へと消えていった。


 万蔵と二人っきりになったお陸は、彼を睨みつけた。


「万蔵、何しに来たのかい。」


 あれ以来肌身離さず持っている血書を懐から取り出して、目の前でひらひらさせながらお陸は万蔵に聞いた。


 その行為だけでお陸に全てバレていると悟った万蔵は、そこでバッと土下座するとお陸に言った。

「頼む、姐さん、小高蓮のこと教えてくれ。」

「うちの大事な看板医師だよ。今は御典医長やってるけど。それ以外に何があるってのさ。」

「どこで生まれて、どこで育ったのか、家族や、、、」

「この国で生まれて、この国で育って、家族は私だよ、それが何か?」

「姐さん、はぐらかさないでくれよ。」

「誰に頼まれたんだい?皇帝に見放され、骸組からも追放されたお前がなんでそんな探りを入れる必要があるんだい。」

「宰相殿だ。小春殿を心配している。」

「それなら心配いらないよ。小高蓮は、小春を守ることはあっても危害を加えることは絶対にない。それどころか、こっちの方がそういう意味では心配なんだよ。小春が蓮の災いの種になりそうでさ。」

「へ?」

「とにかくだ。小高蓮が中ノ国に災いをもたらすことは絶対ない。それにあんたは宰相から金貰ってるのかい?宰相が助けてくれたことはあったかい?ただ皇帝にあんたを突き出していないだけだろう?もうあんたは骸組の頭領でも組員でもないんだ。宰相のことは無視しとけばいい。」


 そこまで痛いところをつかれても万蔵は、まだ渋っていた。


「それでも小高蓮を嗅ぎまわるって言うんだったら、私にも覚悟がある。ここで勝負しな。」


 お陸にそこまで言われてようやく万蔵は観念した。万蔵がそこから居なくなろうとした瞬間、間の悪いことに劉煌が帰ってきてしまった。


 すぐにお陸は劉煌の側に寄ると忌々しそうな顔をして告げ口した。

「まったくあんたのことを宰相が嗅ぎまわっているらしいよ。こいつには気をつけな。あんたが折角顔変えて命救ってやったのにさ、恩知らずも甚だしいんだよ。」


 それを聞いた劉煌は、万蔵をギロッと一睨みした。


 その瞬間、なぜか万蔵はまるで金縛りにあったかのように動けなくなった。


 ”ど、どういうことだ?私ともあろう者がこんな若造の一睨みでビビるなんて。”

 ”姐さんが守っていることといい、只者じゃないことは確かだ......”


「宰相が欲している情報はただ一つ。私を敵にするための証拠。いくら味方である証拠を示したって満足しないのよ。私を敵にしないと気が済まないんだから。だから万蔵さん仕事したって無駄よ。そんなものはないんだから。」


 劉煌はそう言うとサッサと部屋を出て、二階に上がっていった。


 冷や汗をかきながら万蔵は心底思った。

 劉煌の言葉は宰相よりも誰よりも説得力があると。


 すっかり劉煌の迫力に当てられた万蔵は、お陸に向かって項垂れながら呟いた。

「姐さん、提案を受け入れるよ。しばらく身を隠す。」


 お陸は万蔵の目を見て、それに嘘が無いことを確認すると、出口の扉を開けて彼を外へ出した。

 そして万蔵が杏林堂から出て1時間経った時、お陸はようやく清聴を診察室から出し、2階の劉煌の部屋へエスコートした。


 その晩、劉煌の部屋からは、若い男と中年の女の声が絶え間なく一晩中響いていた。


 ~


 翌朝、清聴は杏林堂を出ると、京陵の老舗傘屋:雅竹に向かった。


 そこは、山村柊の奉公先で、彼女の育ての母である清聴は店の前で打ち水をしている丁稚に声をかけると、自らの身分をあかして、柊がここに居ないことを知りながら柊に合わせて欲しいと伝えた。


 困り果てた丁稚は、すぐに店の奥に飛んでいき、呑気に茶をすすっている主に黒船来航を伝えた。


 おろおろしている主を見かねた女将は、彼の耳たぶを掴んで客間に連れて行くと、その丁稚に清聴を連れてくるように命じた。


 皇宮御用達老舗傘屋雅竹の奥の客間で、すまなそうにしている主と怒り心頭な女将と対峙した清聴は、最後に雅竹に何が起こっても因果応報だからと捨て台詞を残し、ぷんぷん怒りながら伏見村に戻っていった。


 一方、後宮の桃香の楼では、新しく彼女の世話係になった3人の宮女が桃香の人使いの粗さに音を上げていた。


 そんな彼女らに千歳一隅のチャンスがやってきた。


 週一回だけ許されている息子の第二皇子である照明の、実母訪問の日がやってきたのだ。


 照明は、あの落馬事故で助かったものの身体は半身不随になり、過去の記憶も曖昧になっていたが、性格は以前と変わらずとても優しかった。しかも桃香は照明の前では猫を被っているので、照明がいる時ならば桃香は事を荒立てない。


 その日もいつものように照明を迎えた桃香は、いつもと違って照明が気もそぞろであることに気づいた。彼女の芸妓時代の触覚がスーッと伸びて、彼女の目が捕らえたのは、我が息子照明が嬉しそうに宮女の一人と話している姿だった。これが普通の女であれば気づかないところだが、桃香は中ノ国一の芸妓だった人物である。桃香が、照明の目の奥に現れた、普段他の宮女との接触時には決して見せたことのない、スパークを見逃すはずがなかった。


 桃香はその宮女に照明の好物を厨房まで取りに行かせた隙に、女官に2つのことを言い渡した。


 そして、その2日後、劉煌が月1回の西乃国訪問からの帰り道、亀福寺で清聴と密談していた頃、山村柊は唐妃の宮女であった物延稲芽と共に皇太子妃の所に派遣されていた。


 皇太子妃楼の客間で、皇后から送られた女官:蘇賀木練が、唐妃から送られてきた宮女:物延稲芽と桃香から送られてきた山村柊に、これからの主が誰であるのか、これからの主を裏切る行為は許されないと、自分が皇后に逐一皇太子妃の一挙手一投足を報告していることを棚に上げて力説していた。


 何しろ後宮において、自分の配下の者を新しい後宮の住人にプレゼントすることは慣例であり、それはすなわち新人へスパイを送り込むということに他ならなかった。


 だから木練が皇后に、唐妃と桃香から皇太子妃へ宮女が送られてきたことを伝えた時、皇后は全く驚かなかったが、桃香が送ってきた人物の名前を聞いて皇后は椅子から飛び上がって驚いた。


 スパイさせる訳だから、当然依頼人と深い信頼関係ができている人物をスパイとして送り込むのに、桃香はなんと桃香付になって1週間も経たない宮女を送り出したのだ。


 ”もしかして、桃香さんは皇太子妃が波留ではなく小春だと気づいているのかしら......”

 “やっぱり波留さん殺しは桃香さんの差金!?”


 これは皇后が木練にすら言っていない秘密中の秘密だ。


 皇后に報告を続けている木練を前に、皇后はその話も耳に全く入らず、考え込んでいたが、急に木練の報告を手で制すると、すぐに皇太子妃と宰相を皇后楼に連れてくるようにと伝えた。


 木練に連れられて小春が皇后楼にやってきた時には、もう宰相である波留・小春の父である仲邑備中は席について頭を抱えていた。


 狸過ぎるから頭が痛くなるのだと思った小春は、備中に軽口を叩こうと口を開いた瞬間、備中が小春に袈裟懸けをしかけてきた。

「桃香からお前に送られてきた宮女が誰だかわかっているのか?」

「木練が対応していたから知らない。確か明日皇太子妃楼の全員と顔合わせになるって聞いたけど。」

「山村柊だ。」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 後宮のみならず皇宮中に響き渡るような絶叫を残して、みんながひるんだすきに小春は皇后楼を飛び出した。


 慌てて木練が追いかけたが、小春はそのぽっちゃり体形からは考えられないほどの速さと持続力で皇宮内を一路皇宮医院目指して走った。


 “絶対蓮が私のことを売ったんだ!あの女男!そんなにしてまで私を照挙から引き離そうなんて、やることが汚すぎる!”


 小春は、柊が皇宮内にいることを見つけていち早く彼女にそれを警告したのが劉煌だった事をすっかり忘れ、怒りで全身からアドレナリンを放出させ、さらに走るスピードを上げた。


 小春は伏見村というど田舎中のど田舎で育った野生児だったからこれが可能だったが、後を追う木練はそういう訳にはいかない。


 すぐに息切れして小春を見失うとそこで力尽きた。


 そんな後の状況を気にする余裕もない小春は、走り続けながら思った。


 ”小高蓮め、殺したる!本当に文字通り枯れ蓮にしたる!”




お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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