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第九章 転回

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 劉煌が皇太子妃楼を出てフーと溜息を着いた時、小道の左側に控えていた女官から声をかけられた。


 その女官は皇帝の愛妾:桃香付の者と名乗った。


 劉煌は片目を細めながら胡散臭い彼女の話を聞いていた。


 ”こそこそと私を拉致しようとしていたくせに。男の私を宦官でなく女官に迎えにこさせるなんて、私が皇宮・後宮規則を知らないと思ってるのね。私を拉致しようなんて100万年早いのよ。”


 いつの間にか、開き直り方まで師匠に似てきた彼は、口元だけ微笑みをたたえて彼女に回答した。


「わかりました。が、あいにくこれから陛下の診察がありますし、男の私が後宮を一人でうろつくのもいかがと思いますので、うー、それではどうでしょう?明日のお昼に皇宮医院に来ていただくのは。」

「それをなんとか今来ていただけないでしょうか。私が桃香様に叱られてしまいます。」


今度はギロッと睨みをきかせた劉煌が、


「あなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()私に言うのですか?!」


とあたり近所に響き渡るような声で彼女を威嚇すると、すぐに皇太子妃楼から女官たちが次々と門前に出てきた。


「そう言う意味では、、、」と言いながらも、恐らく手ぶらで帰っては桃香に秘密裏に抹殺されるからであろうか、桃香の使者は引き下がる気配がなかった。そうこうしている内に、皇太子妃楼から皇后と宰相が出てくると、劉煌の側に寄り、わかっているのに何事かと聞いてきた。


 備中も皇后も、仲邑波留殺害は桃香の陰謀だろうと読んでいたので、小春からうまく小高蓮を抱き込んだと言われていても、桃香が小高蓮に何を聞き出そうとしているのか気が気ではなかった。


 皇后は体の向きを劉煌から桃香の女官にくるっと変えると彼女に向かって冷たく言った。

「まったく桃香さんもあなたも後宮規則を破っていることに気づかないのですか?桃香さんをすぐに皇后楼にお連れしなさい。さ、早く行きなさい!」

 桃香の女官は、後宮の主からそう言われたことに慌てて「御意。」と言ってひれ伏すと、すぐに立ち上がって後宮の奥へと走り去った。


 彼女の姿が見えなくなったところで皇后はようやく劉煌の方を振り向くと「いい機会だから他の後宮の住民を紹介しておくわ。」と言ってから、備中に目くばせをした。


 中ノ国皇宮のある京陵は盆地であるので、真冬は日中でも凍えるほど寒い。


 そんな中、劉煌は、白狐の毛皮のコートを羽織っている皇后の後で、上着も着ていないのに寒さを感じる余裕もなく黙々と歩いていた。


 彼は紫色の医官の制服に眉毛まで隠れる高さのない黒い烏帽子を被っていたが、一息ついて余裕のでてきた皇后と西乃国出身の唐妃が、彼が何者なのか気づいてしまうのではないかと内心気が気ではなかった。


 しかし、この機会はピンチであるけれども、逆に西乃国の龍を見つけられるというチャンスでもあった。


 なぜなら後宮は、皇族の女性の住居であり、男の劉煌が、中ノ国の皇族でもないのに後宮を勝手にうろつくことはできないのだ。だから彼の父から言われた西乃国の龍が、もし後宮に隠されていたとしたら、龍を探せるこのチャンスを逃すまいと彼は五感を研ぎ澄ませていた。


 劉煌は皇后に付いて歩いている7人の女官の一人に小声で話しかけた。

「後宮は広いですね。私はさっぱりどこを歩いているやもわかりません。」


 それを聞いた皇后は突然歩みを止めると、後ろを振り返り「紹介が終わったら、後宮も全部案内させるわね。」と劉煌に告げた。劉煌が皇后が餌に飛びついたことにスキップしたい気持ちを押さえながら、しなしなしながら皇后に向かって礼を述べた。


 皇后楼の謁見の間では、もうすでに女官から伝達が行っていた唐妃と桃香が前後に立って彼らの到着を控えていた。


 皇后の入室を知った彼女らは、すぐにその場にひれ伏し、皇后は彼女らの横側を、姿勢をただし、鼻をツーンと上げて歩いて行った。


 毛皮を女官に取らせ、正面の皇后の椅子に座った彼女は、皇帝の自分以外の配偶者の二人を立ち上がらせ面を上げさせると新しい御典医長を紹介した。


 劉煌は、二人、特に西乃国出身の唐妃からよく顔が見えないように自分の顔の前で両手を併せて頭を下げながら挨拶した。


 その間、皇后は宦官に何やら耳打ちすると劉煌にその宦官についていくようにと伝えた。


 結局劉煌はその宦官に連れられて挨拶もそこそこに皇后楼を後にした。


 極寒の後宮の道を宦官より薄着で歩いている劉煌のことを見かねたのか、後宮の宮女の一人が、走って劉煌の前に現れるとお辞儀をしてから蔓の模様の描かれた青銅の手炉を劉煌にわざわざしなをつくり、色目を使って渡した。その身に着けている衣から、一番身分の低い女であることがわかった劉煌は、彼女の下心に気づかないふりをして、彼女に対して丁寧に頭を下げて礼を言った。そして顔をあげた瞬間、劉煌は我が目を疑った。


 相手は身分を心得ているようで、顔をあげても決して劉煌の顔を直視しなかったが、その顔は忘れもしない、亀福寺で長年一緒に暮らした柊に間違いなかった。


 劉煌の頭の中が激しく回転し始めた。


 たしか山村柊が奉公に出たのは、京陵の傘屋のはずだった。

 それなのに何故皇宮の後宮の宮女に?


 後宮には宮女の数が少なくとも1万人弱はいるはずだが、彼女のいでたちから宮女といっても世間的には下女と言った役どころで、しかも特定の女主に仕えているのではない。となると、当然行動範囲が後宮全域になるため、他の女主付の宮女よりも、はるかに小春に出くわす確率が高くなる。


 ”小春に伝えなければ。。。”


 しかし、小春は皇太子妃として後宮に住んでいる。男の劉煌が簡単に接触できる存在ではないのだ。そうでなくても、今日のことで、小春は自らすすんで劉煌に会おうとするなど考えられない。


 ”はてさて、どうやって小春に接触するか......”


 まだ龍がみつかっていない以上、事を荒立てて皇宮から追い出されてしまっては元も子もない。


 劉煌は龍を探しているのに、また余計な邪魔が一つ増えたことで大きな溜息をはああとついた。


 そのため息は空中で昇華され、劉煌の通り過ぎた後でもそこでまるでクリスタルのようにキラキラと輝きながら漂っていた。


 ~


 一方皇后楼では、皇后が後宮の規則について口酸っぱく説教をしていた。


 そして最後に、皇宮医院の御典医を指名できないこともはっきりと伝えた。


 これには、それまでいい子にしていた唐妃も難色を示してきた。

「どうしてですの?」

 あれだけ一緒に何とか小高蓮の美容術を受けようとしてきた皇后のこの変化に、唐妃は納得できずに珍しく皇后に口答えした。


 皇后も唐妃の口答えにムッとして言う。

「小高御典医長は、皇帝のために皇太子が連れてきた特別な医師です。たまたま以前皇太子妃の怪我も診てきた方なので、皇太子妃も彼に引き続き診ていただきますが、皇帝が完全にご回復なさるまでは、この二人の専属医師です。他は何人たりとも彼の診察は受けられません、皇太子も()()です。」


 唐妃は諦められずに粘った。

「そんな、皇后陛下、一緒に美容術を受けたいと言ってたじゃないですか?それなのに皇后陛下はそれでいいんですか?」

「今はそんなことを言っている場合ではないのです。皇帝陛下の病状は深刻なのですよ。」

 珍しく強い語気でたしなめるように言った皇后に、唐妃は口をとがらせて小声でぶつぶつ呟いた。

「だって、エイジングを心配してらしたから、、、」

「何か?!」皇后はキッとして唐妃を睨みながら叫んだ。

 唐妃はとうとう下を向いて囁くように言った。

「いえ、何も。」

 皇后はそれに頷きながら、桃香にビシっとくぎを刺すのを忘れなかった。


「桃香さんもいいですね。ちゃんと自分で歩けるのだから医師の診察を受けたければ、御典医を呼びつけず自分から皇宮医院に行くこと。それから男性を呼ばなければならない場合は、必ず私に届けて私の宦官とあなたの宦官が一緒にその方をお迎えに行くのを省略しないこと。今回あなたは違反したので杖刑10回を命じます。」


 二人がえっと言って固まっている中、皇后は険しい表情のままその場にすくっと立って、杖刑執行人に声をかけた。


 今まで黙っていた桃香は杖刑執行人が近づいてくると我に返り慌てて、「皇后陛下、お慈悲を!皇后陛下!」と手を前に伸ばしながら叫んだが、彼女はすぐに両腕を宦官に捕まえられ、自分の意思とは逆にどんどん後ろ向きに引きづるように進まされた。


 それを見ていた唐妃も、皇后が初めて刑罰を与えたことに驚きを隠せず、無理やり桃香が台の上にうつぶせにされたのを見た瞬間、目を丸くして慌ててその場から立ち去った。


 ”たしかに、御典医とはいえ、男性を後宮に連れ込もうとしたのは大問題だけど、未遂に終わっているのに、、、”


 皇后楼を出た唐妃は、小高蓮と偶然を装って会うためにしばらく小路に立っていたが、あまりの寒さにしぶしぶと自分の楼に向かって歩き始めた。


 ふと視線を上げた彼女の目に飛び込んできたのは、いつの間にかすっかり白くなってしまった山の頂きだった。


 ”今年の春節もこの様子では楼内でもお祝いはできないわね。”


 毎年春節のお祝いを楽しみにしている娘の照子内親王をどうなだめたらよいかと思うと、唐妃は大きな溜息をついた。


 ~


 劉煌はその夜全く寝付けず、しばし天井と睨めっこしていたが、あきらめて皇宮医院の調合部屋で皇帝の薬を調合することにした。居室から出て回廊に足を一歩踏み出した時、劉煌はサッと人影が上空を飛んでいるのに気づいた。劉煌はすぐに懐からペーパーナイフを取り出すと、真っ暗な中人影の動きを読んで正確にそれを投げた。案の定ナイフは命中してその怪しい人物は屋根の上に不時着した。彼が体制を整えようとするや否や、廊下から飛び上がった劉煌が彼の目の前に現れた。


 新月の夜、明かりの全く無い皇宮医院の屋根の上で、怪しい人物は、すぐに短剣を逆手に持ち劉煌に襲いかかってきた。劉煌はまるで子供と遊んでいるかのように、自分に向けられる短剣をひょいひょいとよけ、いつの間にか相手の背面に回ると彼を羽交い絞めにした。ところが相手もなかなかの達人で、羽交い絞めにされながら短剣を劉煌目掛けて刺してきた。劉煌は短剣を避けるために飛び上がって相手から離れると、自分も短剣を取り出し、彼の場合は順手で相手に向かって行った。

 剣と剣がキーンと唸りながらぶつかり合い、互いに引くことなく押し続けて相手の顔を至近距離で睨んだ。


 その途端、その人物も劉煌もお互いの顔を見てギョッとし、同時に同じ言葉を呟いた。

「どうしてここに?」

「どうしてここに?」


 二人は同時に剣を外すと、劉煌はあたりを見回してから彼に囁いた。

「とにかく私の部屋に。」


 1本だけろうそくを点けた部屋で劉煌は万蔵の怪我の手当てをしていた。

「先生、どうしてここに?」最初に口を開いたのは万蔵だった。


「見てのとおりよ。ここの典医になるよう招聘されたの。それより万蔵さん、どうして顔を変えたのに捕まったの?」万蔵の着ている囚人服を見て劉煌は首をかしげて聞いた。


 それを聞いた万蔵は、小高蓮に自分が守ってきた小春が波留ではないと気づかれるのではないかと気が気ではなくなった。


 ”このまま皇宮から出るつもりでいたが、出られないではないか。”

 ”顔を変えてくれた恩人ではあるが、波留の秘密を知られては厄介だ。殺るしかないか。”


 そんな万蔵の心の動きを、くノ一修行を受けてきた劉煌はすぐに察すると、突然あっちを向いてフッと鋭い息をろうそくに勢いよく吹きかけた。


 その瞬間部屋の中は真っ暗になった。


 しかしあたりが真っ暗になっても、万蔵の視界はクリアだった。

 それなのにあたりを見回しても小高蓮の姿は見えない。

 万蔵は中腰で身体を回転させながらあたりの様子をうかがっていると、

「まったく、身代わり死体も用意せずに脱獄するなんて、万蔵もヤキがあがったのかね。」

 という聞きなれた女の声が響いた。


「お陸姐さん!姐さんがどうしてここに?」

「アイヤー、私のゴッドハンドに何かあったら困るからね~。引っ越しの手伝いがてらやってきたら、さっそく恩人に命狙われてるし。」

「あいつにここに居られては不都合なのだ。」

「皇太子妃のことだろう?」

「な、なんのことだ?」

「アイヤー、しらばっくれてもダメだよ。そんなの、こちとらとっくに知ってるよ。私のゴッドハンドなら暴露しないから安心おし。」

「信用ならねえ。」

「それなら今ここで私と勝負だ!」

「何?」

「こちとらゴッドハンドがいなくなったら、この顔を!この体形を!維持できないんだよ!だから私と勝負だ!」


 そう叫ぶや否や、お陸は容赦なく手裏剣を万蔵めがけて打った。手裏剣が万蔵の鼻先をかすめた瞬間、万蔵はお陸が本気だとわかった。

「ま、待ってくれ、お陸姐さん、姐さんと袂を分かつつもりは毛頭ねえよ。」

「だけど小高蓮の命は狙うんだろう?それは私と袂を分かつって言っていることなんだよ!」


 お陸は今度は懐剣を取り出して刃先を万蔵に向けながらそう吐き捨てた。

 万蔵は両手を上げて降参のポーズを取ると、

「わ、わかった。絶対に小高蓮に手出ししない。」と言った。

 ところが今度はお陸がそれに対して

「信用ならねぇ!」と叫ぶと、パッと飛び上がった。

 そして次の瞬間、万蔵の右手の人差し指の先端に痛みが走った。

 万蔵は「あっ」と叫んで自分の手を掴むと、突然部屋にともしびが蘇った。

 万蔵があたりを見回すと、お陸が”小高蓮”の前に立ち、片手を前に突き出していた。その片手には無地の紙が一枚あり、お陸は「あんたのその血で書くんだよ!絶対に小高蓮を襲わないってね!」と言いながらその手を何回も万蔵に向かって振って見せた。


 万蔵はお陸に切られた指先で血書をしたためながら思った。

 ”姐さんがここまでして守ろうとしている小高蓮とは一体何者なんだ?”


 勿論、万蔵が考えていることなどお見通しのお陸は、目の前で万蔵に書かせながら、後にいる劉煌に向かって、「今日は(エステを)たっぷりやってもらうよ。そうでなくてもここのところ引っ越しであんまりやってくれなかっただろう?ほらここ見て、もう皺になってるから。全くドクトルが死んじまって、これができるのがあんただけになっちまったから本当に困るんだよね。」と、わざと万蔵にも聞こえるように言っていた。


 ~


 その晩、劉煌とお陸から釈放された上に身代わり死体も新しい着物も用意してもらった万蔵は、その足で宰相府を訪れた。


 案の定、備中は床に就かず、机の上で書き物をしていた。


 備中は、手を休めることも視線を変えることもなくこう呟いた。

「ようやく出てきたか。」

「へい。」


 備中はそれでもまだ顔をあげずに、何やら書き物を続けていた。

 しばらくの沈黙が続いた後、備中は大きな溜息をつきながら万蔵に尋ねた。

「小高蓮という医師を知っているか?」

「はい。」と答えた万蔵に、ようやく備中は顔をあげ、万蔵の顔を下目使いで見ながら呟いた。

「詳しく調べてほしい。。。特に、、、小春との関係だ。」

 万蔵が一度大きく頷いてから

「御意。」

 と答えた時には、もう彼の姿は見えなくなっていた。

 備中は、ふんと言うとまた自分の書き物に集中していった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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