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第九章 転回

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 午前中こそ皇后楼で缶詰になっているが、その他の時間は結婚3日目から父にいいつけられていた、なるべく皇太子妃楼から出ないようにという指令を完全に忘れた小春は、皇宮内を自分の庭のように自由に歩き回るようになっていた。そして義妹にあたる照子と出会い、兄弟と言えば男ばかりの照子にいたく気に入られてしまい、小春は毎日照子と遊ぶようになっていた。


 皇后が皇宮および後宮規則を小春に教えるようになって1週間が経ったある日のこと、いつものように午前中分厚い本と睡魔という最大の敵と戦い、お昼のあと皇帝楼に来た小春は、これまたルーティンになってから10日ほど経つ、皇帝のあんまにやってきた。


 小春はいつものように「陛下~。来ましたよ!」と明るく声をかけると、皇帝のベッドによじ登った。

 それは小春があんまを開始して30分経った時だった。


 いつものように皇帝の往診に、御典医達がやってきたのだが、いつもと違っているのはそれに皇太子:照挙もついてきたことだった。


 小春は照挙に向かって微笑んで見せると、その場から降りることもなくあんまを続けた。

 照挙は、皇帝に向かって声をかけた。

「陛下、新しい御典医長が決まりました。今日から彼に診てもらいます。京陵一の腕利きと評判なんですよ。」


 紹介された御典医長はずっと頭を下げたままで、皇帝に話しかけた。

「陛下、お初にお目にかかります。医師の小高蓮と申します。」


 それを聞いた小春は、自分の空耳だろうと思い、思わず顔を上げて「小高蓮?」と聞いてしまった。


 その瞬間、小高蓮こと劉煌と成多波留こと旧姓備前小春の目がバッチリと合った。


 驚愕していることをおくびにも出さず劉煌は、彼とは対照的に目をひんむいてその場で固まってしまった小春を見つめた。

 ”この驚き方は、忘れもしない私の小春!My loveがどうしてここに?”


 そんな皇太子妃の状況に気づかない照挙は嬉しそうに「先生、皇太子妃と顔を合わせるのは久しぶりだろう?」と劉煌に声をかけた。


 ”皇太子妃!?”


 劉煌は、この時ほどくノ一修行で感情を表に出さない訓練をしてきたことを忌々しく思ったことはなかった。彼は目をそらした小春に向かって頭を下げながら「皇太子妃殿下におかれましては、ご成婚誠におめでとうございます。()()()()()でございます、()()()でございます。」と、小高蓮の所をわざと歯ぎしりしながら挨拶をした。


 ”わらわら、どうしよう。” 小春の小さい脳みその、そのまたさらに小さい活動部位は、未だかつてないほど高速に動いていた。


「ああ、思い出そうとすると頭が、、、」


 小春はすぐに誤魔化し体制に入り、皇帝の陰に隠れ大げさに頭痛を装った。


 ”間違いない。この誤魔化し方は小春!仲邑波留殿を装っているのがバレたら命はないぞ!何を考えているんだ!” 


 劉煌は怒りでめまいがしそうだった。


 一方照挙は、ここのところ記憶障害以外はいたって元気だった波留が頭を抱えて辛そうに横になったことに動揺し、明らかに心配して波留に囁いた。


「無理に思い出そうとするからだ。大丈夫か?小高先生に御典医長になってもらったのは、陛下の病状を診て貰いたいこともあるが、君の記憶障害も診てもらおうと思ってね。何しろ君の病状をよく知っているのは小高先生だから。」


 ”き、記憶障害だと?小春!お前、記憶障害って漢字で書けないだろう!って言うか、その前にその意味を知っているのか?”


  劉煌は怒りで気が遠くなりそうだった。


「御典医、、、長?!」

 小春は息も絶え絶えにそう呟くと、照挙は大きく頷きながら平然と「陛下を任せるのだからな。」と答えた。


 小春は青ざめながら「ならば私のことはどうぞお気になさらず、陛下のことを。」と囁くと、劉煌が突然再度大げさにお辞儀をしてしゃしゃり出てきた。


「皇太子殿下、波留さまのこともどうぞこの小高蓮にお任せくださいませ。()()()()()()()の原因を探りましょう。」


 劉煌は、低い声で顎を左前に突き出しながら小春を睨んでそう宣言した。


 劉煌の睨みに小春は震えあがって「こ、小高先生、私のことはどうでもいい。記憶が無くても何も困っていないから。それより陛下をお願い。」と告げると、皇帝陛下をぴょんと飛び越えて、瞬く間にその場から消え去った。


 劉煌が口をへの字に曲げ、鼻の穴を大きく開きながら小春の後姿を睨んでいると、照挙が彼に声をかけてきた。劉煌は普通の顔にもどしてから照挙の方を振り返るとお辞儀をしてから、皇帝の傍に赴いた。


 そこは忍者もといくノ一修行を積んできた劉煌なので、スッと医師:小高蓮モードにもどると、いつものように大袈裟に袂をバッと引いてから手首をクルっと回し小指を立てて皇帝の脈を取り始めた。


 20人ほどいる御典医たちを侍らせながら皇帝の診察を行った劉煌は、脈だけでなく舌の状態や腹の状態を彼らに見せながら、皇帝の身体の状態がどうであるのかを要点を押さえて解説していった。そして皇帝に、「なるべくご自身でお歩きくださいませ。」と伝えた。


 これには、照挙は驚き、御典医たちはもっと動揺した。

「陛下に何かあったらどうするのですか?」白髪の御典医が青くなってそう聞くと、劉煌は涼しい顔で「逆にこのままでは何かあってしまいますよ。皇帝陛下が痛がってらっしゃるのは血流が悪くなっているからです。じっとしているとそれだけで血流が悪くなります。血流が悪くなるとまた血の塊ができて血管を詰まらせますから、血流をよくするには運動が必要なんです。」と答えると今度は照挙に向かってこう言った。


「皇太子殿下はどうお考えになりますか?」


 照挙は皇帝の方を振り返った。

 皇帝は左手をグーにしてみせた。

 照挙は言った。「では起き上がらせてみよう。」


 御典医たちがすっかりビビッて遠巻きにしている中、劉煌は皇帝が起き上がるのを手伝い彼をベッドに座らせた。そして末端から少しずつ刺激を入れていった。


「もう10日以上寝たきりになっていたので、今日は座るまでにします。明日は立ってみて、明後日から歩行訓練に入りましょう。では私は薬を調合してまいります。」


 劉煌はそう言うと、皇帝と皇太子に丁寧にお辞儀をしてから退出した。


 連れられてきた道を怒りながら戻っていった劉煌は、皇宮医院で薬を調合し煎じ始めた。皇帝楼を出てからずっと小春のことを考えていた劉煌は、先日清聴を訪ねた時のことを思い出していた。


 ”あれはこういうことだったのか。”

 ”それにしても、どうして小春が皇太子妃に、、、まさかままは承知なのか?”


 今度は、傷だらけだった仲邑波留と顔の傷が癒えた後の彼女のことを劉煌は思い出した。


 ”他人の空似だと思っていたが、仲邑波留殿と小春は、まさか一卵性の双子?!”

 ”と言うことは、仲邑波留殿の実母はままで、小春の実父は仲邑備中?!”

 ”そんな馬鹿な、、、、ありえんだろう。。。”

 ”でも波留殿が本当の自分の娘だったらあんな大けがをしていたら宰相夫人はもっと取り乱すはずだ。”

 ”うーむ、そうなるとやっぱり仲邑波留殿の実母はまま、、、となると小春の実父は仲邑備中、、、”


 こうして劉煌は完全に思考の無限ループにはまっていった。


 そうこうしているうちに火にくべた煎じ薬の入った土瓶の注ぎ口から、湯気がゆらゆらと出始めてきた。まだ勢いのない湯気は、空気の対流の力に負けてチョウ舞のリボンのように右へ左へと流されていた。

 そんな煎じ薬の匂いが湯気に乗って部屋に充満してきても、劉煌は煎じ薬のことまで頭が回らなかった。


 ”小春の実父である仲邑備中は皇后と親戚関係であるほど、生まれながらにして身分が高い。”

 ”そんな人物と出会えたのだから、ままは、それなりの身分があるか、仲邑家の使用人だったか、、、”

 ”まず、ままの身分が高かったとは思えない、かといって使用人だったなら、なぜ仲邑家にとどまらない?少なくとも使用人からは身分が上がるだろうし。いったい他にどういう人物だったら仲邑備中と出会えるのか?”


 そう思った瞬間、彼はあることを思い出してハッとした。


 汁を一滴もこぼさず、足元の悪いあぜ道を速足で歩いてきたままのことを!

 そしてその時、彼はいったいままが何者なのかと疑ったのだった。


 ”ままは、もしかして骸組のくノ一だったのでは?”


 そう思った瞬間、劉煌は、おじさんと言ったらお兄さんと言ってほしいと言った、彼が初めて会った忍者を思い出した。


 ”もしかして、宰相のセクハラが酷くてやめたっていうくノ一は、ままのことなのでは?!”


 あまりにいろいろな思いが交錯していた劉煌は、皇宮医院の下男が彼の肩を叩いて彼の意識がここに戻ってくるまで、煎じ薬がだいぶ煮詰まっていることにも気づかなかった。

 劉煌は、慌てて火から土瓶を降ろすとふたを開けて中身を確認した。


 ”ひやーもう少しで薬をだめにするところだった。これならなんとか大丈夫だ。”


 劉煌は、煎じ薬を湯呑に入れて、また皇帝楼を目指した。


 ~


 一方、完全に終わったと動揺した小春は、生まれて初めて眠れない一晩を過ごすと、翌朝女官に化けて宦官を引き連れ大理殿へとつながる一本道の内門の裏に隠れて、仲邑備中が来るのを今か今かと待ちわびていた。


 小春は仲邑備中がやってくるや否や、宦官の制止を無視して彼の前に躍り出ると、女官のお辞儀をした。


 備中は、皇宮内で女官が彼の行く手を塞ぐような無礼な態度を取ってきたのは初めての経験だったので、彼女を諫めようと思った瞬間、彼女が顔を上げたのでその顔を見て思わず息をのんだ。


 我に返った備中は、彼女を睨みながら小声で語気を強めて言った。

「ここで何をしているっ!」

「非常事態発生。(朝議が)終わったら彼と私のところに来て。」

 小春は一緒に来た宦官を指さしながら答えた。

 備中が「なに?」と言っている時に、他の政府高官がやってくるのを見た小春は慌てて「ですから、宰相殿、皇太子妃がホームシックでお食事も喉に通らない状態なのです。どうか妃を見舞ってあげてください。この通りです。」とわざと他者にも聞こえるように言うと、備中にお辞儀をしてから速足で後宮の方に向かった。


 その日の朝議も皇太子:照挙が皇帝の名代として出席し滞りなく終わった。


 珍しく備中は立ち話もしないでサッサと大理殿を後にしたので、周囲の者達は早朝に聞いた宰相と皇太子妃の女官の噂話を始めた。時々、皇太子妃という言葉が聞こえることが気になった皇太子:照挙は、その中の一人に話を振った。

 すると彼からとんでもない回答が返ってきたではないか。


「小波留が病気だと?」

「はい。その女官が言うには食事も喉に通らないとか。」

「まったく、その女官はなぜ私に言わない!」


 照挙は顔をしかめてそう吐き捨てると、側の宦官に小高御典医長をすぐに呼んでくるよう命じた。


 ちょうどその頃備中は、皇太子妃楼内にいて、皇后と小春との3者で、広い皇太子妃の寝室にて人払いをして話し込んでいた。


「なんで照挙ちゃんは、よりによって小高蓮を呼んできたのかしら。家柄も良くないのに。」皇后は溜息をつきながらそうこぼした。


 それに備中はおでこをさすりながら答えた。

「波留の見舞いの時に何度か彼に会っていたからでしょう。確かに医師としての腕は一流でしたな。それより小春は何で小高蓮を知っているんだ?」


 この備中の爆弾発言に小春は大いに慌てて両手を前で振りながら「え?し、知りませんよ。この前も知らないって言ったじゃない。」と否定したが、皇后ですらそれが嘘だとわかってしまった。


 皇后が、成多波留こと小春と小高蓮こと劉煌の関係を問いつめようと構えた時、皇后付きの女官がその部屋に飛び込んできた。


「何をしているのです。緊急事態でない限りここに入ってはならないと言ったでしょう。」皇后がその女官をしかりつけると、女官は床に何度も頭をこすりつけながら話した。


「皇后陛下、申し訳ございません。ただ皇太子殿下と御典医長がこちらにお見えになっていて、木練が粘っていますが、突破されるのも時間の問題かと。」


 それを聞いた3人に一気に緊張が走ると、いち早く「私は床につきます!」と宣言した小春がベッドにぴょんと飛び込んだ。それを見た皇后は「私はここに!」と言って小春のベッドの脇にサッと座って小春の手を取り、いかにも嫁が心配で見舞いに来ている優しい姑を装い、最後に残った備中が行き場がなくオロオロとその場で右往左往していた。


 すると廊下が急にあわただしくなり、ほどなくして皇太子と彼に続いて劉煌が寝室に入ってきた。


 小春は寝たふりを通り越してまるで死んだふりをしているように、ピクリとも動かず息をひそめて布団をかぶっていた。


 照挙は心底心配しているようで、すぐに小春の元に駆け付けると、小春のおでこに手を当てようと手を伸ばした。


 “キーッ。私の小春に手を触れるな!”


 劉煌は今の自分が置かれている立場をすっかり忘れて、すばやく照挙の伸ばした手をブロックし「皇太子殿下、まずは私が診察しますので、どうぞあちらに。」と言って、まず照挙を追っ払った。


 次に劉煌は、皇后と備中を部屋から追い出す画策を始めた。

「あと他の皆様も患者のプライバシーがありますから全員この部屋から出て行ってください。さ、さ、早く。」

 と二人に有無を言わさず部屋から追い出した時、横からスーッと小春も部屋から脱出しようとしたので、劉煌は腕をグイっと伸ばして小春の首根っこを掴んだ。


 歯ぎしりしながら劉煌は、「皇太子妃殿下、すぐ診察いたします。」とひくーい声で言うと、首根っこを掴まれた小春は足が空中で空回りした状態で元の位置に戻されてしまった。


 オロオロしながらベッドに座った小春に、劉煌は薬箱から打腱器を取り出して見せた。


 その金槌のような形に小春は嫌な予感がして、「それは、、、」と打腱器を指さして言うと、劉煌は目をキランと光らせて俯きかげんに振り向き「これで身体を叩くのよ。」とひくーい声で言った。


 完全に震えあがった小春は「小高先生、本当に私は大丈夫だから。」と言いかけた時、劉煌は打腱器を頭上高く持ち上げ「まだしらばっくれる気?」とさらに声を低くして小春を威嚇した。


 悪知恵だけは働く小春は、隠し通すのが無理なら小高蓮を抱き込むしかないと判断し、バッと劉煌に駆け寄りその足元に抱きつくと「ごめん。蓮、許して。ままの命令なの。」と小声で言った。


「何だと?ままに売られたのか?」

「うーん、正確に言うと皇帝の命令、、、それを狸親父がままんところに持ってきて、ままがあたしに行けって言った。でもお願い、照挙(でんか)には黙っていて。あたしのこと波留(あね)だって信じているから。」

「皇帝もぐるなのか?」

「ぐるって人聞きの悪い。皇帝が決めたのよ。波留が死んじゃったから、照挙がショックを受けないように双子の妹をすげかえようって。」


 ”なんと、波留殿は亡くなったのか?”

 ”ばかな、もう峠は通り越して歩けるようになっていたのに。”


 劉煌は自分が診ていた患者のことを思い出し、ハッとなった。


 ”そうか、火事の後、往診に行って追い出されたのは、波留殿はもうこの世にいなかったからなのか。”

 ”待てよ。火事だって、あそこまで回復していたのだから逃げられたはず、、、”


 小春は、唖然としている劉煌に背を向けて箪笥の引き出しを開けるとそこから聖旨を取り出して彼にふんと言って顎を突き出してそれを渡した。


 劉煌は聖旨なのに乱暴にバッとその巻物を開くと、食い入るように中を見た。


 なんと、そこには皇太子妃にする者の名前は固有名詞ではなく、何ともアバウトな”仲邑備中の娘”と書いてあるではないか!


 ”これでは、波留でないことがバレても仲邑備中に害は起こらないが、小春は波留を装って照挙殿をだましたとして罪に問われかねない。というか、このまま皇帝が死んでしまったら小春は殺される。”


 劉煌は聖旨を広げた時とは逆に丁寧に巻きながら、今までの高圧的な態度から一変して媚びるように助言した。


「小春。悪いことは言わないわ。このままでは小春は殺されてしまう。私と一緒にここから逃げましょう。」

「え?逃げるなんて無理だよ。見つかっちゃうよ。」

「大丈夫よ。呂磨に建物はなくなっちゃったけど私の土地があるし。いくらなんでも西域にまで探しに来ないでしょう。そうよ、駆け落ちしましょ♡」劉煌はポッと頬を染めてプロポーズした。

「はああ?誰と誰が駆け落ちするの。」

「だから小春とわ・た・し♡」劉煌は、恥じらっていつもよりも3倍身体をくねらせて瞬きをばたばたしながらそう言った。

「気持ち悪いこと言わないでよ、私は照挙が好きなんだから。だからどこにも行かない。照挙と一緒にいる。」

「なんで?あんなののどこがいいのよ!」

「全部♡そのうえ皇子様だなんて完璧じゃない。」

 ”私だって皇子だ!” そう叫びたいのをぐっとこらえた為に、劉煌は身体を捩りながら悶絶した。


 そして悶絶している劉煌に小春はとどめを刺した。

「それより、私のことを絶対バラさないで、ままだって道連れになるんだから!」


 劉煌と衣食住を共にすること6年、彼に何もかも知られている小春は彼に嘘は通用しないが、逆に彼女も彼の弱点を把握しており、その切り札をここで迷わずビシッと使った。


 ままのことを持ち出されては手も足も出ないと観念した劉煌は、苦虫を嚙み潰したような顔になりながらも、父から言われたこの皇宮内に隠されている西乃国の龍を手に入れるためには、皇太子妃の弱みを握っていることは好都合であると考え直した。


「わかったわよ。百歩譲って今のところは内緒にしておいてあげる。今のところはね!」


 まさか劉煌にそのような下心があるとは思いもしない小春は、彼がこう言った瞬間、勝った!と思った。


 高貴な身分とは思えないどや顔をしている小春に向かって劉煌は呟いた。


「それにしても、どうしてままは宰相の所で暮らさず、シングルマザーで仏門に入るなんて厳しい道を選んだのかしら?」

「知らない。ままと狸親父の関係を詮索する気はない。だってあの二人が一緒にいるなんて気持ち悪いもん。想像するだけで吐き気がする。」

 ”確かに。。。”

 劉煌が小春の答えになっていない答えに妙に納得していた時、扉をノックする音が響いた。


「小高御典医長、まだ診察は終わりませんか?」


 劉煌と小春はお互いに目くばせすると小春はベッドに飛び込んだ。


 劉煌が扉を開けると、外に出された3人が飛び込んで小春の近くまで駆け寄った。

 皇后はまた嫁のベッドの脇に座り嫁の手を取って優しい姑の続きの演技を始めたが、皇太子:照挙は、劉煌をベッドから離れた所に連れていき小声で劉煌に小春の様子を聞いた。


「皇太子殿下にご回答いたします。皇太子妃殿下の身体に異常はありません。恐らく環境の変化で一時的にストレスがかかったのでしょう。以前のことを無理に思い出そうとすると頭痛が起きるようですので、無理に記憶を蘇らせるようにする治療はお勧めしません。」


 劉煌はわざと微妙な位置に立っている備中にも聞こえるようにそう答えると、皇太子はわかったと答え、備中は明らかにホッとしていた。


 ”とにかくこうなった以上、皇帝を絶対死なせることはできないわ。”


 そう決心した劉煌は、皇帝を診に行くと断りを入れてから小春の部屋を後にした。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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