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第九章 転回

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 西域ではクリスマスイブと呼ばれている日に、西乃国皇帝一行20人が中ノ国の首都:京陵にやってきた。


 中ノ国の皇宮に入ろうとした一行は、孔羽の予想通り門前払いを喰らった。


 白凛は怒りで顔を真っ赤にしている劉操の隣で、あの日講談を聞きながら孔羽が言った言葉を思い出していた。


『内輪だけでやる。贈り物も辞退するって書いてきているのに押しかけて行って入れてもらえる訳ないだろう?絶対門前払いされるよ。しかも行く連絡もしなければ贈り物も持っていかないんだろう?失礼極まりないじゃないか。そんな奴を隣の国の皇帝だって言っても、まず信じてももらえないだろう。お互い面識があるわけでもないんだし。』


 ”散々常識外れと言われた私でも、非常識だって思うわ。”


 白凛がそう思っていた時、彼らの背後からやってきて皇宮の門番に何やら話を始めたずんぐりむっくりの親父がいた。


 その親父は西乃国皇帝一行に向かって恭しくお辞儀をすると「西乃国劉操皇帝陛下、中ノ国宰相の仲邑備中と申します。皇太子殿下の婚約者の父でございます。ご存じのように明日婚礼の儀が皇宮で執り行われますので、皇宮は準備で私でも入れない状態でございます。つきましては、拙宅にておもてなしさせていただければと存じます。」とよどみなく言った。


 それに列の先頭にいた梁途が粘った。


「中ノ国宰相仲邑備中殿、拙者、西乃国禁衛軍梁途と申します。御令嬢のご入内誠におめでとうございます。ですが、貴宅も婚礼の儀で準備が必要なはず、それなのに貴宅は受け入れられて、皇宮は受け入れられないのはなんとも解せません。こちらは西乃国皇帝自らお祝いにと駆けつけているのです。ここを通していただきたい。」

「ごもっとも。ただ梁途殿、貴国と我が国では婚礼に関しても習慣が異なるのです。我が国では、儀式は婿の家で婿側だけで全て行うのです。嫁に出す家の方は、嫁を迎えに来た婿に娘を渡す、ただそれだけ。それ故婿側の準備は嫁側とは比べ物にならないほど大変なのです。ましてや、一国の皇太子の婚礼ですから、我々からは考えられないほど準備が大変なのはお判りいただけますよね。皇宮では西乃国の皇帝陛下のお世話まで手が回らない状態で、粗相があってもなんでございますので、拙宅でできる限りのおもてなしをさせていただきたい次第で、この通りお願いでございます。」


 梁途は後ろを振り向き白凛に頷いて見せた。

 白凛が隣にいる劉操の方を向くと、彼は仕方なく頷いた。

 白凛は梁途に向かって頷くと、梁途は仲邑備中に向かって「では世話になる。」と小さい声で伝えた。


 劉操は、すぐに白凛に何か耳打ちすると、歩き出した一行の最後尾につき、少しずつ隊から離れ、京陵の街を歩いて脱出すると待機していた黒雲軍と合流した。


 一方宰相府に入った一行は、相変らず劉操の影武者を劉操として扱っていたので、宰相府の人々は、家長の仲邑備中でさえ、最上級の客間に入室した人物を劉操だと信じてまったく疑っていなかった。


 夜になり辺りが真っ暗になった頃、宰相府前にやってきた、白凛と劉操は火口衆(西乃国諜報組織)から、今日の花嫁行列の下男下女の衣装を受け取った。


 まさか仲邑波留は死んでいて、その替え玉の備前小春が皇帝の指示で皇太子妃になるとは露にも思っていない劉操率いる西乃国一行と劉煌は、さらにその小春が先だって皇宮に避難しており、現時点で仲邑波留を装っているのは、”替え玉の替え玉”だとは勿論知る由もなかった。


 すっかり替え玉の替え玉を仲邑波留と信じきっている劉操と白凛は、真夜中になり皇太子成多照挙の影武者(これも彼らは皇太子だと信じている)が花嫁の迎えに来た時、花嫁行列にすっと横入りした。


 一方、孔羽からの伝書鳩で劉操の中ノ国京陵入りを知った劉煌は、花嫁行列が出発した隙に手薄になった宰相府にお陸と共に忍び込んだ。勿論すぐに最上級の客間で寝ているのは影武者だと気づいた劉煌は、広い宰相府のどこに劉操が潜んでいるのか途方にくれた。何しろ花嫁を出した後でも、皇宮で結婚の儀が滞りなく終了するまで宰相府は眠りにつくことができないのだ。そんな屋敷中が緊張に溢れている中で、不法侵入者が招かざる客を探すのは、夜のとばりの中でもあり、困難を極めた。


 劉煌が宰相府の屋根裏で苦戦していた時、劉操と白凛を含む花嫁に付き添って参内した宰相府の人間は、皇宮に入った後、すぐに花嫁花婿から引き離され迎賓館に連れていかれていた。なんでも宦官の話では儀式終了後、婚姻証明と皇帝からの贈り物がこの場に運ばれるので、それを持って宰相府の仲邑備中への報告をするようにとのことだった。迎賓館に向かうふりをして列から離れた二人はすぐに草葉の陰に隠れた。


 北盧国皇宮でやった通り宦官と女官を眠らせた白凛が、彼らの着物を奪って劉操に宦官の着物を渡した頃には東の空がうっすらと白ばみかけていた。


 彼らは初めてやってきた中ノ国の皇宮内を彷徨った。


 西乃国の皇宮ほどではないにしろ、土地の面積は300万㎡もあるのだ。火口衆から地図を受け取っていたものの、現在地がわからないのだから、あってもなしのつぶてに近かった。さりとてこの皇宮に仕える者のふりをしていることから、すれ違う人に目的地がどこかを尋ねる訳にもいかない。


 やっと彼らが皇帝の居場所を探し当てたのは、結婚の儀が滞りなく終了し、新婚の皇太子夫妻が東宮に戻った後で、宰相府では劉煌がようやく厠で一人っきりになった梁途に接触していた。梁途から劉操の居場所を聞き出した劉煌は、慌ててお陸の待つ客間の屋根裏に戻った。


「師匠、皇帝が危ない!劉操が腕利きを連れて皇宮に忍び込んだんだ!」


 それを聞いたお陸は、急いで屋根の上に出るとそこで花火を一発打ち上げた。


 その花火は、皆皇太子の結婚を祝してのものだと、皇宮内も京陵の町の衆も信じて疑っていなかった。ところがただ一人皇宮内で密かに小春の警護をしていた万蔵は、それを見て真っ青になると、彼がいた東宮付近からドロンと消え、皇帝楼の屋根の上に現れた。すると、彼の目に、皇帝楼から数十mのところで(から)の皇帝の輿が地面に降ろされ、その周りに数人が倒れている情景が映ってしまった。


 ”陛下!”


 万蔵は、倒れている人物の一人が、先だって自分に極秘命令を出し、それが完了した後、まるで虫けらのように有無を言わさず自分を葬ろうとした非情な依頼主であることも忘れて、慌ててその場から飛び降りると、皇帝の輿を目指して一目散に走った。


 万蔵が現場に到着した時には、皇帝を含め、皇帝の周囲の宦官たちは全てその場に倒れていた。万蔵は皇帝を抱き起こすと、ようやく皇帝は目を覚まし、万蔵に向かって何か言おうとしたが何故か皇帝の口は彼の思い通りには動かず、あう、うと訳の分からない音しか発せられない状況になっていた。


 自分の置かれている立場をすっかり忘れて、万蔵は大声で助けを呼んだ。

 それに気づいた遠くを歩いていた宦官は、慌てて他の者の助けを呼びに駆け出した。そんな彼に向かって万蔵は「早く、御典医を!」と叫んだ。


 10分ほどで禁軍の馬に乗せられた御典医が到着すると、万蔵の腕の中で言葉にならないうめき声を上げている皇帝の脈を取った。皇帝は外傷は見られないものの、右腕は力を入れられないようで、彼は左腕を動かし言葉にならない声で何やら必死に訴えていた。

 御典医は、すぐに皇帝を屋内に連れて行くよう指示を出した。

 自分の腕の中から皇帝がいなくなると、万蔵は、皇帝を守るために攻撃され倒れている皇帝付きの宦官たちの救助にあたった。

 幸い殺された者はいなかったものの、皆口口に『知らない間に倒れてしまった』と言うだけで、誰も何も覚えていなかった。万蔵は、皇宮外からお陸が合図を送ってきたことや、彼がずっと警戒していた桃香は皇帝を襲っても百害あって一利なしの立場であることから、この事件に西乃国が関与しているのではないかと疑い始めた。


 ”皇宮内の西乃国の間者は、唐妃の協力でもうとっくに一掃したはずだ。いつの間にまた潜り込んでいたのだろう?”


 そう考え込んでいた万蔵の首筋に、突然キーンという音と共に刃物が突きつけられた。

「お前は何者だ!ここで何をしている!」禁軍の兵士の一人がそう叫ぶと、他の禁軍の兵士たちが万蔵をぐるりと取り囲んだ。


 先帝の時代から皇帝付きの影の者として仕えてきた万蔵だったが、彼と面識がある者は少なく皇帝と皇太子を除くと国の重鎮数名くらいだった。それでも筆頭宦官や禁軍統領は、骸組の頭領の万蔵のことを知っていた。


 しかし、悪いことに彼らが知っているのは前の顔の万蔵であり、今のロマンスグレイに変身したイケオジの万蔵のことは、備中しか知らない。しかもこともあろうに、今彼が必死になって助けた皇帝は、彼の抹殺命令を出しており、皇帝も骸組も、彼はもう既に死んでいると思い込んでいるのだ。


 ”備中殿に言えば、助かるかもしれないが、さすれば備中殿の立場がなくなり、備中殿が失脚すれば、皇太子殿下が危険にさらされる。そうでなくてもあのご様子では、皇帝陛下がご公務に復帰されるまで長い時間がかかるだろう。この一件に西乃国が関わっているのであれば、備中殿が今失脚してしまっては国が無くなりかねない。”


 万蔵はやけくそになって叫んだ。

「私は人助けをしていただけだ!考えてもみろ!私が襲ったなら証拠隠滅のために殺して逃げるだろう。捕まるってわかっていて人助けをする奴がいるか?」


「ではお前はいったい誰なのだ!皇宮の人間じゃないことは一目瞭然だ。それなのにどうしてここにいる!」

「・・・・・・」

 痛いところをつかれた万蔵は、何も答えられずにその場にただ佇んでいた。


「怪しい奴め、引っ立てい!」


 結局万蔵は抵抗することなくお縄になり、天牢へと連れていかれてしまった。


 皇宮内でそんなドタバタが起きている時、皇宮の外では白凛が皇宮の外で待機していた黒雲軍を指揮し、劉操を守りながら一路中ノ国の首都:京陵から脱出しようと馬を走らせていた。


 京陵の市民は馬に乗った大群が大通りを駆け抜けていくのに度肝を抜かれ、いったい何事かとあっけにとられながらただ彼らを遠巻きに見つめていた。


 とにかく京陵を抜けさえすれば、懸念の三分の一はなくなる。


「急げ!」


 白凛は黒雲軍にはっぱをかけながら京陵の門を強行突破した。


 しかし、京陵から出てホッとしたのも束の間、突然劉操目掛けて横から矢が飛んできたではないか!


 白凛は反射的にその矢を長槍で跳ねのけると「敵の攻撃だ!(陛下を)お守りしながら国境へ急げ!」と叫ぶと、矢が飛んできた方向へまるで人間の盾になるように身体の大きな兵を配置した。

 

 ところが、今度は反対方向から矢が射られ、白凛は慌てて手を伸ばしなんとか長槍の先で矢を落としたものの、彼女自身はバランスを崩し馬の背から身体が離れて空中に浮いてしまった。


 黒雲軍の兵士達はそんな状態の白凛を咄嗟によけられるほどの馬術の腕前は無く、白凛は空中に漂いながら万事休すと覚悟し、目をつぶって自身が馬に撥ねられることを予測し、保護するように両腕で頭を抱えた。


 ”私はここで死ぬんだ、、、”


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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