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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 その頃、中ノ国の首都:京陵の宰相府に男女が忍び込んでいた。


 男は仲邑備中の部屋の屋根裏に忍び込むと、部屋で寝ている備中の横に飛び降りた。

 備中はすぐにそれが誰かわかると、容赦なく言った。

「臭いなぁ。」

「宰相殿、あなたの娘が豚の荷車に乗るといって聞かなかったのですよ。おかげで全く道中狙われることはありませんでしたがね。」

「小春はどこにいる。」

「庭で待たせています。すぐに湯あみを。」


 翌朝、豚の臭いも取れ、髪を貴族の令嬢風に結い上げ、美しい着物を着せられた小春が備中に呼ばれ宰相府の中の間(なかのま)にしずしずと入ってきた。


「お父様、おはようございます。」

 彼女がしっかりと貴族の立ち居振る舞い、挨拶をこなせているのを見て備中はホッとした。


「おはよう。これからいくつか質問をする。それによどみなく答えるように。お前の名前は?」

「仲邑波留でございます。」

「どこで生まれ育ったのか?」

「京陵の宰相府と聞いているのですが、あの火事で記憶が曖昧になってしまいました。」

「以前のことは覚えていないのか?」

「はい、、、申し訳ございません。」

「よしよし、それでよい。いいか、お前が波留でないとバレたらお前の命は無いと思いなさい。絶対に殿下に悟られないように。」

 備中がそう念を推すと、小春は途端に足を投げ出して備中に向かっていった。

「ねえ、ねえ、狸親父。バレたらあんたも殺されるんじゃないの?」

「私は陛下の要請でお前を波留に仕立て上げたのだ。それに殿下に嫁ぐのは私の娘であるからお前でも何も問題ないのだ。それより狸親父と呼ぶのはやめろ。」

「どうして?外側も内側もそのものじゃない。自分は聖旨を盾にして、娘は見殺しなんだから、ままの言う通り狸親父。」

「いいか、ままは存在しない、お前の母は誰だ?」

 小春は突然スイッチが入って波留モードに切り替わると、居住まいを正し、たおやかな作り笑顔で言った。


「仲邑寧子でございます。」”って顔を見たこともないけど......”


 それに満足した備中は、実の娘に狸親父と呼ばれたことをすっかり忘れて、ご満悦に答えた。


「そうだ。その調子で切り抜けろ。とにかく皇宮は夫婦が一緒に過ごすことはほとんどないのだから、極力体調を言い訳にしてお前にあてがわれた後宮の住まいから外に出ないように。そしてこれから式までの3日間も家から出ずにじっとしているんだ。いいな。」


 そんな会話の数時間後、皇宮から帰宅した備中が門を開けた途端、目の前に未だかつて見たことのない般若のような顔をした彼の妻:寧子が仁王立ちしていた。


 「ど、、どうした?」


 あまりの寧子の迫力に恐る恐る備中が聞くと、寧子は怒涛のように怒りに任せて時に身振り手振りだけでは飽き足らず、独特の意味不明な擬態語を山のように織り交ぜて叫び続けた。


 「つ、つまりだ。小春が問題を起こしているということかな?」


 備中は、寧子の怒りをそう解釈して彼女に質問すると、

 寧子は、元皇族とは思えぬ形相で両こぶしを顔の横で握りしめ「問題などというかわいい言葉ではすまされません!!!!!!」と叫んでから、踵を返して自室の方に肩を怒らせて戻っていった。


 備中は着替えもせず官服のまま下男に声を掛け、すぐに小春の元に連れて行くよう命じた。


 下男に連れられて中庭に出た備中は、まずそこにあったはずの小ぶりの松の木が根元付近でバッサリ切られ、その切り株がテーブルにされているのを発見して、愕然とした。

「おい、ま、松の木を、切ったのか?」

「うん、だって寒いし、お腹すいたのに何も食べるものが無いって言われたんだもん。だから切って薪にしたの。」

「お、おまえっ!!こ、この木は陛下から賜った家宝の御前松なんだぞ。」

「ふーん。でもどうせ陛下はここには来ないんだから大丈夫よ。それより今私が凍え死んだ方が狸親父は困るでしょ。」

「うーん。」備中は絶句しながらも肉の焼ける香ばしい香りが漂い、鼻をピクピクとさせた。

「なかなかいい臭いだな。何を焼いている?」備中が薪の火の側で串にさしてある物体を指さして聞いた。

「鳥」

「ほう、鶏は厨房にあったのか?」

「はあ?鳥は厨房になんかいない。空飛んでるにきまってるでしょ。」

「そ、空?」

「そうよ。鳥なんだから。これは急降下してきたところを私のパチンコで仕留めたんだよ。」

 ”とり・急降下、、、まさか、、、”

 備中は嫌な予感がして伝書鳩の小屋に向かって駆け出した。

 すると、その方向に向かって鳩の羽がうじゃうじゃとそこら中に落ちていることに気づいた。

「小春ぅ~!!!!!!!!」

 備中が中庭のかつて松の木があったところまで戻ってくると、小春は大きな口を開けて焼きあがった鳥をうまそうに食っていた。

「小春!その鳩には脚に筒がついていただろう?」怒り狂いながら備中は小春にそう聞いた。

「うん、あったよ。ほら。」そう言って、彼女の唾液がたっぷりついた食べかけの鳥の串を小春は無邪気に備中に見せた。


 鉄製の通信筒は、薪の火位ではびくともせず元伝書鳩だったとりの丸焼きの脚にしっかりと括り付けられてあった。


 ”まったく竹筒だったらこれもダメになっていたわい”


 備中はホッとして、すぐに睨みながら小春から串を荒々しく奪った。

「まったく飛んでいる伝書鳩を狩るとは、どういう育ち方をしたのだわあちゃあーーー!」

 通信筒の中身が知りたくて通信筒を取ろうとした備中は、それが薪にくべられたために出来立ての燻製状態であることに全く気づかず、それを素手で触ってしまったため、高温に熱せられた鉄で大火傷を負ってしまった。


 備中の悲鳴で中庭に集まってきた家来に向かって彼は「医者を連れてこい!」と叫びながら、冷水の中に手を突っ込んだ。


 そして小春はというと、、、

「あああ。食べ物ほっぽり出して、地面に落ちちゃったじゃないか。まったくどういう育ち方をしたんだか。」とぶつぶつ嫌味を言うと、手でついた泥を落としてフーフーと息をかけてからまたその鳥の丸焼きにかぶりついた。


 備中は自分の手のヒリヒリとした痛さと、血のつながった我が娘の原人ぶりに眩暈がしていた。


「とにかく、その鳥を持って行っていいから部屋に戻りなさい。それから着物は波留の物が沢山あるだろう。その着物はもう捨てなさい。」

「わかったよ。」

「ああ、待て。」

「まだ何か?」

「筒のついた鳥の脚は置いていきなさい。」

「はいはい」

「はいは、一つでよい!」

「はいはい。脚はここに置いたから。じゃあね、狸親父。」


 そう言って松の切り株の上にちぎった筒付きの脚をポンと置くと、小春は泥だらけの鳥の丸焼きにかぶりつきながら波留の部屋へと向かっていった。


「いいか、嫁入りまでその部屋から出てはならんぞ!誰か波留の部屋の前に見張りをつけろ!」


 手だけではなく頭からも煙が出る勢いで備中は自室へと向かった。


 歩きながらこんな夜更けなのに、外の雑踏が気になった備中は、横にいる冷水の入った桶を持った下男に外の様子を聞いた。

「ああ、ようやく小高先生が来られたんでしょう。」

「へ?」

「小高先生の往診には女の子たちの行列がついてくるんですよ。小高先生はかっこいいですから。」

「あんななよなよしたのが、どこがかっこいいのだ。剣だって小指を立てて持ちそう、、、いや、あの感じだと剣だってまともに持てそうにないではないか。」

「今どき硬派なんて流行らないんですよ。なんて言ったって太平の世ですからねぇ。」


 北盧国が西乃国に侵攻し、逆に西乃国が北盧国を乗っ取り勢力を拡大したために隣国の脅威が高まって千年以来の緊張が中ノ国を襲ったことなど、下々は知る由もなく、軍が活躍する機会もないことから、女の子の憧れの対象も筋骨隆々の兵士から舞台劇の俳優、それも最近は俳優の中でも顔だちが優しく細身の体つきの女形の人気が高まっていた。


 備中は先日皇后に付き合わさせられて観た劇の、なよっとした女形へ女性から熱い歓声が湧き上がっていたことを思い出し思いっきり顔をしかめた。


「世も末だな。」そう言って自室の扉を開けようとした時、備中の右手からちょうど劉煌が往診ケースをもってやってきた。


 劉煌は往診ケースを床に置いてから丁寧に備中に向かって挨拶すると、備中は彼のそのなよなよしたお辞儀の仕方に苦虫を嚙み潰したような顔して、ただ顎を自室の扉の方に向けて彼に入れと促した。


 劉煌が指示通り備中の部屋に入るやいなや「火傷は右手ですか?見せてください。」と言って備中の手を見た。


 備中の掌は、中央から指にかけて、真っ赤に色づいており、その色の濃淡から何か燃えるように熱い小さな円筒形の物を掴んだのではと劉煌は推察した。


 ”この形、伝書鳩の通信筒みたいだが、それがこんな火傷を起こすほど熱せられていたら伝書鳩自体焼け死んでいる。というか、長時間熱源にさらされたはずだ。それにもし焼け死んだ伝書鳩から通信筒を取ろうとしての火傷なら指先の方が火傷するはずだ。いったいどういうことだ?”


 劉煌は珍しく眉間にしわを寄せて備中の火傷の処置をしていった。


 火傷の処置が終わり、備中に説明しようとしていた矢先に突然廊下が騒がしくなった。

 何事かと備中が下男に廊下の様子を探らせると、下男は「波留さまが旦那様に話があると。」と言って戻ってきた。


 わらわらと思った備中は、劉煌に金貨を投げつけるように渡し「何もお構いできずに申し訳ないが、お引き取りを。」と言うと、まだ手当の道具を片づけている劉煌を置き去りにして慌てて廊下に飛び出していった。


 きな臭さを感じた劉煌は、「御意」と答えながら、備中が部屋の扉を閉めた瞬間に屋根裏に上り、屋根裏伝いに波留の部屋の屋根裏にやってきた。


 天井の隙間から下をうかがうと、確かに波留と備中がいて何やらひそひそと話をしていた。

 ”しかし、波留殿はずいぶんと回復されたな。予想よりもぐんと早く治った。元気そうで何よりだけど。”

 まさか彼が見ている頭のてっぺんが小春のものとは気づかず、劉煌は彼女の頭のてっぺんを見ながらそう思った。


 劉煌はすぐに備中の部屋に戻り、道具を往診ケースの中に詰め込むと何事もなかったような顔をして宰相府を後にした。


 備中は劉煌と入れ違いに自室に戻ると、袂に入れておいた通信筒を氷上に置いた。ジューという音とともに氷が気化して白い煙を立てるのをボーっと眺めながら備中は、先ほど小春とした会話を思い出していた。


「あれだけ部屋から出るなと言っただろう!」

「だって、医者が来てるって聞いたから、狸親父でも実の父だから娘の私が挨拶しないと、、、ねえ。」

「あの医者は波留を診ていた奴なんだぞ。そいつがお前を診たらすぐ偽物だと気づくじゃないか!そんなに早く死にたいのか!」

「だって、ねえ。ほら、下女たちもキャアキャア言っているから、どんな人かちょっとだけでも見せてくれない?」

「まったく、どいつもこいつもなんであんな女みたいな男がいいんだ!」

「女みたいな男って?」

「小高蓮のことだ。」

「こたかれん?」

「知っているのか?」

「いや、全然知らない。これっぽっちも知らない。見たことも聞いたこともないし、もう別に見たくない。お父さま、波留は嫁入りまでここから1歩も動かないから安心して。」


 明らかに小春は小高蓮と聞いて動揺していた。知らないと言い張ったが、明らかに知っているようだった。


 ”ま、小春が皇太子妃になりさえすれば、小高蓮と顔を合わせることも無いから問題はないか。”


 そう思いながらようやく冷めた通信筒を取って中の私信を取り出した備中は、その中身を見て腰を抜かしてしまった。そして小春とのやり取りもすっかり飛んで行ってしまった。


「誰か、誰かある!至急参内する!準備を!」


 ~


 その夜、もう真夜中だというのに、中ノ国の重鎮達は大理殿に集められた。


 何事かと目をこすりながら参内した重鎮たちは、宰相の報告を聞いた途端、眠気がすっ飛び皆左右を振り向いて焦り始めた。


 それもそのはず、なんと、西乃国の皇帝が呼んでもいないのに皇太子の婚儀に参列するために中ノ国に向かっているというのだ。


 当然招待した訳ではないので、出席するとの連絡が公式にあった訳ではなく、間者として送り込んでいる骸組の千蔵からの密書でわかったことだった。


 おろおろするばかりの文官と、実戦経験は全くないのに威勢のいいことばかりを言っている武官を見て皇帝はため息をついた。


「暗殺などできるわけがないであろう!北盧国の二の舞になりたいのか!」

 皇帝は鼻息の荒い将軍に向かってそう一喝すると、

「とにかく当日皇宮内に劉操を入れるわけにはいかない。」

 と叫んだ。


 ここで備中は、第一報を得てからずっと考えていたことを皇帝に進言した。


「陛下、では、宰相府で西乃国皇帝をおもてなしするのではいかがでしょうか。私の娘が嫁入りするのですから、私が皇帝の名代で隣国の皇帝をお世話するのは失礼に当たらないでしょう。宰相府も皇太子婚礼の儀の儀式の場の一つでもありますし。」

 すると筆頭宦官が恭しく皇帝の横で礼をすると、「陛下、20年前陛下が唐妃をお迎えするにあたって、西乃国の婚儀礼式と我が国とは全く異なっていて難儀したことを覚えております。皇宮に西乃国の皇帝をお迎えしなくても、こちらの婚礼の儀の習慣を盾にすれば非礼を受けたとは思われないのではないでしょうか。」ともっともらしい口実を口にした。


 重鎮たちは、そうでなくても仲邑備中が次期皇帝の岳父となるという多大な権力を得ることに危機感を覚えていたので、本音では誰も彼の案を通したくなかった。しかし、だからと言って、誰もそれに匹敵する代替案を出せるわけでもなく、結局皇帝も重鎮たちも、宰相案でこの危機を切り抜けることに落ち着いたのは、もう東の空が白みかけた頃だった。


 重鎮たちはそれぞれ帰路につき、宦官を下がらせた広い大理殿は、皇帝:成多照宗と宰相:仲邑備中の2人っきりとなった。


「念のため、皇宮内通路に禁軍を配備させておこう。」

「御意。」


 重鎮たちから遅れること1時間、大理殿を後にした宰相の仲邑備中は、そのまま自宅に戻らず皇后に謁見を願い出た。


 ~


 その日の真夜中、突然父である仲邑備中に花嫁衣裳と共に無理やり馬車に乗せられた小春は、馬車の中で婚礼まで皇后楼で待機するよう言われて腰を抜かしていた。


「婚礼の日に照挙殿下が馬に乗って迎えに来るはずじゃなかったの?」


 それなりに結婚儀式への憧れを持っていた小春は、照挙が白馬にまたがって花嫁衣裳を着た自分を前に乗せて皇宮への道を戻ることを想像していただけに、酷く残念がった。


「それはダミーがやる。」

「へ?なんで?ダミーじゃなくて本物でやろうよ。」

「危険回避のためだ。皇太子殿下が射貫かれたらどうする。」

「・・・・・・」

「皇后はわしのはとこだ。皇后の言う通りにしておけば問題はない。それから先ほども言った通り、婚姻まで皇后楼を出てはならぬ。あと桃香からの贈り物には十分注意しろ。お前の命を狙っているからな。」


 何しろ自分の実姉を殺害した黒幕であろうと言われている人物の名前が備中の口から出た時、小春は震えあがった。


 ”そうだった。姉は殺されたから私が替え玉になって嫁ぐんだった。”


 皇宮の門を潜り、そのまま後宮の皇后楼に横づけされた馬車から降りた小春は、出迎えた皇后の女官たちに頭から白い布をすっぽり被せられ、まるで連行されるかのように楼の中へと消えて行った。


 その姿を馬車の窓越しから眺めていた備中は、小春がなんとか最低でも2日は生き延びて婚礼の儀を滞りなく済ませられるようにと祈らずにはおれなかった。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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