第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一方、中ノ国大原県の香向村に実質幽閉されている備前小春改め仲邑波留になった小春は、はじめこそ御令嬢になるべく頑張っていたが、学ぶことのあまりの膨大な量に、昔の癖がムクムクと起きだし、だんだんとできないものはできないと放棄するようになっていた。
京陵の宰相府で、今日も小春の報告を受けた備中は、ようやく宰相府の火事の跡片付けが済んだのに全く気の休まる日はなかった。小春を大原県の香向村に送り出して10日しか経っていないのに、日々の報告を読んだだけでもう備中の目の周りには真っ黒の大きな隈ができて、まるでゾンビのようになっていた。
小春を引き取って10日にして、備中は清聴の言い放った猿並みという言葉を身に染みて感じていた。
人とは面白いもので知らず知らずのうちに、自分なりのスタンダードというものが出来上がる。
双子の姉の方であった仲邑波留を育ててきた仲邑備中にとって、双子の妹である小春の物事の習得スピードは亀のように遅いと感じていたが、小春を育ててきた清聴がこの報告を読んだならば、清聴基準で亀だった小春がウサギに大変身したと感じただろう。
それでも、小春が御令嬢までに変身するのには3か月の猶予しかなく、残念ながらウサギであろうが亀であろうが3か月は3か月で移り行く時間としては全く同じなのである。デッドラインが決まっている以上、小春は、備中基準でウサギ、いやチーターを越える速さになって貰わねば間に合わない。
悩んでもどうにもならないとわかっていながらも悩んで眠れなかった備中は、夜中に宰相府の中を手を後ろで組みながら練り歩いていた。そしてふと気づくと備中は奥の小屋まで来ていた。備中は迷うことなく小屋の扉を開けると万蔵が片膝を立てて出迎えた。
「この臭いはなんだ?」
「死体が2体ありまして。」
「2体?」
「はい、私と子分の分です。」
「百蔵とやらの分もか?」
「はい。ところで備中殿はなぜここに?」
備中は大きなため息をつくと、皇帝の指示で波留の身代わりを見つけたが、内的な資質に問題がありこのままだと姿形はそっくりでも、すぐに波留でないとバレてしまうと愚痴った。
万蔵はしばらく考えていたが
「備中殿、火事が起こったのは幸いでしたな。火事の中毒をご存じですか?後遺症で記憶障害が出ることがあるのですよ。後々不審がられないように、そう説明しておくのも手かと。」
結局、備中は、万蔵の入れ知恵からその晩あれこれ考えて一睡もできず、なんとか翌朝の朝政の間は立っていられたものの、皇帝が退席した途端眩暈をおこしてその場でうずくまってしまった。
いち早く異変に気づいた皇太子:成多照挙は、慌てて備中の側に駆け寄ると備中を抱き起こした。
「どうした備中。」
「殿下。恐れ入ります。実は波留が、、、」
「小波留の具合が悪いのか?」
「はあ、何しろあの怪我の上に、火事で中毒を起こしたのであまり芳しくないようです。」
「それはいけない。陛下に頼んで私が見舞いに、、、」
「殿下、それはとんでもないことでございます。それに火事の中毒でまだ意識も戻らないですし、医者の話では目覚めても記憶障害が残ると。」
「そんな、、、」
「殿下、もしよろしければ殿下の身の回りのお品を賜れませんでしょうか。波留も殿下のお品があれば、本人の励みになるでしょう。それにそれがあればもし記憶障害が残ったとしても殿下を認識できるでしょう。」
「勿論構わぬ。そうだ、この扇子を送ろう。それからちょっと待て。手紙も書いてくる。手紙は毎日送ろう。」
「殿下、でも波留はまだ意識がなくお返事もできませぬ。」
「案ずるな。手紙は私が送りたいから送るのだ。意識が戻っても返事は不要だ。」
数日後、この飴が大原県の香向村に着くと、それらは想像以上に効力を持っていることがわかった。
なんと小春は、合格すれば貰える照挙直筆の手紙欲しさに、毎日真っ赤な唐辛子を噛みしめて、14時間の特訓と1時間の復習試験をクリアしていったのだった。
~
小春の特訓が始まって1か月後、中ノ国の大原県の宰相:仲邑備中別荘にいる小春は、遠目に見るとなんとか波留に見えなくもないくらいにまで御令嬢度が上がったものの、まだまだ皇太子を騙せるレベルとはほど遠かった。
一方、中ノ国伏見村の劉煌の小屋では、百蔵と万蔵の顔の包帯を劉煌が右回りに解いていた。
結局劉煌への相談料は踏み倒し、ゾロンにせびって劉煌から巻き上げ損ねた紹介料を補填?させたお陸も、呼んでいないのにやってきて、包帯が少しずつ解かれ顔が見えてくるのをワクワクしながら見守っていた。
まず百蔵の顔がリニューアルオープンされると、お陸は思わずヒューっと指笛を吹いた。
「この美男子が百蔵だったなんて信じられない!腕前、ドクトルを超えたんじゃないかい?」とお陸が鼻息を荒くして言うほど、百蔵はイケメンに変身していた。
次に万蔵の顔の包帯が全て解かれると、お陸は今度は声も出ないほど驚いて腰を抜かしてしまった。あの泥臭い顔だった万蔵が、熟女が振り向いて飛びついてしまいかねないほどのロマンスグレーに大変身していたのだ。
2人とも全く今迄の顔と変わってしまうと、他はどこもいじっていないのに全体の雰囲気まで変わり、さっそくテスト走行と称してそのままの姿で京陵までの公道を歩いてみようということになった。
はじめこそ緊張して歩いていた2人だったが、途中で何人もの骸組員にすれ違っても誰も彼らに気づかないことに安心して、京陵に入るころには誰にも自分達が誰だったかわからないことに完全に自信がついていた。特に京陵に入ってからは、女性達からの熱い視線に気づいた2人は、洒落っ気まで出てきてすぐに呉服屋に入ると、選ぶ着物まで変わっていた。
2人が納得したコーディネートで呉服屋を出た時には、なんと噂を聞きつけた女性のギャラリーで呉服屋の門前が芋の子を洗うような状態になっていた。
ギャラリーは2人が扉から出てくると、キャーと黄色い声を上げながら2人をいっせいに襲ってきたではないか。とっさに2人はその場からドロンと消えると屋根の上に現れ、何が起こったのかとキョトキョトしながら、呉服屋の前の通りを見下した。
「お頭、いったい何だったんすか?」
「わからん。全くわからん。でも女子が大群で騒いでいる。」
「お頭。。。」
「わかっておる、この顔で骸組は誤魔化せるが、肝心の仕事には全くならぬ。」
結局2人はそのまま杏林堂に忍び込み、劉煌に迫った。
「頼む、顔を普通にしてくれ!」
~
毎月の西乃国訪問で薬草と共に白凛の噂話を耳にした劉煌は、まさか白凛がそんなことをするはずがないと、まして彼女の相手のモデルが李亮だとは露にも思わず、初めて女の子が将軍になるとこんなに酷い言われようをするのかと心を痛めていた。
そしてまたいつものように、帰り道に伏見村の亀福寺に潜り込んだ劉煌は、屋根裏から一目見て小春の部屋がもぬけの殻になっていることに気づくと、慌てて彼女の部屋に降り立った。
部屋の壁いっぱいに貼ってあった(忌々しい)成多照挙の姿絵や机の上にあった成多照挙グッズが無くなっているのはいいとしても、うっすらとカビの臭いのするその部屋は、そこの主がいなくなって少なくとも数週間は経っているということを物語っていた。
”おかしい。箪笥には小春の着物はそっくりそのまま残っているのに。”
”ま、まさか小春の身に何か起こったのでは!”
劉煌は、居ても立っても居られず、そのままこともあろうに清聴の部屋に飛び込んでしまった。
清聴は劉煌がこの寺を去って初めて(正式に)訪問したことに、喜んで「蓮、今日は美蓮の恰好なんだね。尼寺だから気を使ってくれたんだね。ありがと。」と言った。しかし劉煌はそれに全く応えず「まま、小春はどうしたの?」といきなり清聴に迫った。
清聴は小春が去ってから、いつかこの日が来るとは思って準備はしていたものの、まさかこんなに早く劉煌に気づかれるとは思わず、苦い顔をして「小春は出て行ったんだよ。」と告げた。
「出て行ったって、着物は全部あるじゃない。」
「蓮、あんた小春の部屋に忍び込んだのかい?何やってんだよ。そんなことしていいと思ってんのかい。」
「忍び込んだわよ。それが何か?それより出て行ったってどういうことよ?」
「小春の父親が引き取ったんだよ。」
「小春の父親?小春に父親がいたの?」
「いなかったら小春はできないだろう。」
「そうだけど、どうして今頃。それに父親のくせに今迄何にもしてくれなかったじゃない。」
「ちゃんと養育費はくれてたよ。」
「じゃあ、なんで今さら引き取るの?」
「それはあんたには関係ないことさ。」
「ままはそれでいいの?」
「いいに決まっているじゃないか。今迄奉公先が決まらなくって困っていたのに、父親が引き取ってくれたんだから。」
「父親って誰なの?」
「あたしのプライバシーに関わることを、あんたに話す筋合いはない。」
「まま!」
「前にも言ったけど、小春をあんたには絶対やらない。」
「逃亡者だから?国を取り戻しても?もう少しで取り戻せそうなんだ!」
「もう何回同じこと言わせるんだい?仮に国を取り戻せたって、あんた小春に構ってられるのかい?無理だろう?女の旬は長くないんだ。勘弁しておくれ。」
そう叫ぶと清聴は劉煌を部屋から追い出して扉をピシャリと閉めた。
「どっから入ったか知らないけど、ちゃんと戸締りして出て行っておくれよ。」
扉の向こう側から清聴の言葉を聞いた劉煌は、茫然としながら回廊を歩いた。
回廊はひっそりとしていた。
かつてこの回廊沿いの全ての部屋に住人がいて、笑い声であふれていた日々が劉煌の頭の中で走馬灯のように駆け巡った。
”夏朮も秋梨も柊さえも行先はどこだかわかっているのに、一番知りたい小春がどこに行ってしまったのか、全く見当がつかないなんて。”
劉煌はもう一度小春の部屋に入った。
壁に手を当ててその手を左から右にゆっくりとスライドさせた。
しかし劉煌の手の感覚が捉えたのは、ただの木の壁で、そこには小春につながる情報は少しも伝わってこなかった。
何を思ったのか劉煌は突然人が変わったかのように、箪笥を片っ端から開け、中の物を全部ひっくり返して小春の痕跡を探した。一つ一つ着物を広げたり、振ったりして彼女がどこに行ったのかの手がかりを必死になって探した。そのうち着物の柄は、何故か霞んで良く見えなくなった。劉煌は手で目をこすると何故か手が水浸しになっていた。なんと劉煌は、あまりに小春のことが気がかりで、自分が泣いていることにも気づかなかったのだ。
劉煌は、小春が一番気に入っていた着物を手に取ると、その場でそれを顔に押し付けておいおい大声をあげて泣いた。
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