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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 元北盧国皇宮を目指して進んでいた劉操の大行列は、ようやく残り30kmの最後の宿場までやってきた。


 舞阪県から続く山間の一本道を進むと所々に宿はあるものの、大きな町はしばらくない。ところがそれをさらに進むと突然開けた町が現れる。その開けた町は、皇宮から30km南の元北盧国国内で唯一温泉が出る場所で、その町の中央通りの両脇は全て温泉宿だった。その宿場町の宿全部を貸し切り、その中でも、ど真ん中にある旭館は、かつて北盧国が西域の呂磨まで支配していた時から創業していた老舗中の老舗で、数ある温泉宿の中で唯一呂磨式の風呂も兼ね備えた宿だった。


 劉煌と別れてからここに泊り準備していた李亮は、全ての風呂場や皇帝と要人たちの部屋を入念にチェックし、一行が到着するや否や恭しく出迎えた。


 白凛はここで李亮と落ち合うことを国軍の将校から聞いていたので、ここに到着する半日前から鬱々としていた。何しろ半年前、白凛からすると喧嘩別れをした相手に対し、いったいどんな顔をして向き合えばよいというのか。


 そのため李亮が劉操に挨拶を終え、その横に立つ白凛の前に移動しようとした瞬間、白凛は「失礼。」と言って劉操に会釈してから軍隊式にクルリと踵を返し厠の方に向かった。白凛の後についていた常義は慌てて「お嬢様!」と言って彼女の後を追ったが、白凛は何やら常義に告げるとそのまま進行方向に足を進ませた。常義は走って李亮の元へ行くと礼をしてから「白将軍は女性故別行動を取りましたことお詫び申し上げます。なおお忙しい軍師将軍のお手を煩わす訳にはいきませんので、白将軍のお部屋の場所だけお知らせくださいませ。」と言うと、李亮が何か言う前に部屋の鍵だけ李亮の手からサッと奪うと、白凛の行った方向に向かって走りだした。


 あっけにとられ、その場に立ち尽くしていた李亮だったが、声を掛けられ我に返ると、すぐに劉操と影武者を含む白凛以外の要人達をそれぞれの部屋へと案内しようとしたまさにその瞬間、報!という掛け声と共に早馬が飛び込んできた。


 李亮は早馬からの文書を受け取ると、迷わずすぐに劉操付の宦官にその文書を手渡した。

 ”例の件だな。”


 劉操は皇宮など国の施設を除いて、皇帝であることがわからないように、皇帝の部屋には泊まらない。


 李亮が案内した奥の離れは、この宿の中でも最も侵入しにくい作りになっていたが、それは建物だけではなく、周囲の環境もそうで、裏がすぐ池になっていたり、建物の3方はうっそうとした林で、いったいどこが入口なのかわからないような作りになっていた。


 建物自体も大きな東西に長い平屋で、その中にたった5部屋しかなく、全てが200㎡以上ある特別室であった。中でも中央の鳳凰の間は300㎡もあったが、そこには影武者と宦官が入室し、その右隣が本物の皇帝である劉操、さらに劉操の右隣の端の部屋は黒雲軍将軍の白凛が入るよう割り当てられていた。


 勿論李亮は、仕事ではあるけれども、彼の想い人である白凛との再会を心待ちにしていた訳で、李亮としては部屋の案内の時に彼女と話そうと思っていた思惑が完全に肩透かしに終わってしまい、ガックリしていた。


 何しろこの宿だけで3000人泊まるのだから、最初のチャンスを逃せば後で話せるチャンスは限りなくゼロに近かった。


 ”皇宮についてからかな。”

 李亮は、そうガッカリしながら劉操を含む男の要人達に温泉の場所と温泉の入り方の説明をして奥の離れを後にした。


 ”お凛ちゃんと話せなかったのは残念だったけど、俺の本来の目的はそれじゃないからっ!”


 そう自分を慰めながら李亮はあたりを見回し、その敷地から出るふりをして、離れの庭の木々の中にそっと身をひそめた。

 李亮は先日の劉煌の顔を思い出していた。

 自分としてはすぐに劉煌に知らせる問題ではないと思っていたものが、意外なことに酷く劉煌の顔をしかめさせたことに、李亮は引っかかっていた。


 中ノ国の間者が、西乃国で3寸の大きさの蒼い石でできた観音像を探していたという火口衆の情報に、劉操がどう反応して、どう火口衆に指示を出すのかは、通常、北方領土のゲリラ(及びいつの間にか流出民防止)対策を命じられている李亮の耳に入る情報ではない。元北盧国の皇宮に入ってしまってはガードが厳しすぎるので、情報を盗み見るとするならば今から出立までの間である。


 李亮は巨体を小さくして木の間から離れを見張っていた。

 程なくして、白凛が一人でやってくると自分の部屋にいったん入った後、鎧兜を脱いで隣の劉操の部屋に入っていった。


 西乃国の上層部では、劉操が女性に興味がないということは暗黙の了解事項だった。それにも関わらず、李亮は、白凛が将校服とはいえ防具を一切身に着けないで男の部屋に一人で入っていったことにショックを受けていた。


 ”お凛ちゃん、何してるんだ~!俺、死にそう。”


 悶々と体を小さくして悶えている李亮の耳にギーっという扉を開ける音が響いた。


 しかし、それは期待していた部屋ではなく、別のどうでもよい3部屋の扉の音だった。

 中央の一番大きな部屋から劉操の影武者が、その左隣の部屋から禁衛軍統領、そのまた左隣で建物の端の部屋から国軍の将校が、まるで示し合わせていたかのように、一斉に部屋から出てきて、禁衛軍統領と国軍将校が劉操の影武者役をエスコートして離れから出て行った。李亮がその足取りを目で追ったところ、一行は呂磨風呂に向かったようだった。


 ”ちっ、くそー、劉操のことはお凛ちゃんが守るってことか。”


 そう思った矢先に、白凛が劉操の部屋から出てあたりを見回してから劉操を外へと誘導すると、なんと2人一緒に離れを出て行ったではないか。


 李亮は目を凝らして白凛の姿を見たが、心配していた白凛の着衣に乱れは無かったものの、劉操と肩を並べて歩く姿に激しく嫉妬した。


 そして今度はこともあろうに混浴風呂はここに無いのに、


 ”まさか、劉操とお凛ちゃんが混浴!?”


 と、自分自身のあらぬ妄想で勝手に傷つき、クラクラしながらもやはり彼らの向かう先を、指を咥えながらじっと目で追っていた。


 2人は呂磨風呂のある方向ではなく、大浴場のある建物の方に向かっていた。


 きっとここにしかない呂磨風呂に人気が集中し、いわゆるみんなに馴染みのある浴場は空いているからだろう。


 李亮は一度首を振って雑念を飛ばすと、あたりに気を配りながら、茂みから出て、完全にもぬけの殻になった離れに入り、劉操の部屋に難なく侵入した。


 李亮は息を潜めながら奥の机に向かって歩みを進めた。

 机の前で立ち止まった彼は、机の上の文書を一つ掴み、案件を読んだ。


 新皇宮建設案の件

 ”チッ、全くろくでもないことを考えるな。捨てたろかっ。”


 そう思いながらそれを元に戻し、2つ目の文書を手に取った李亮は、そこで固まってしまった。

 赤河北遷工事の件・・・

 ”いったいいつまでやってるんだ。どれだけ犠牲を出したら気が済むんだ!”

 李亮は、この案件で川に呑まれて死んだ父のことを思い出し、思わず文書の固い表紙を掴む手に力が入ってしまった。


 それに気づいてハッとした李亮は、文書をくるくると回して見て傷などつけていないことを確認するとフーと息を吐いて、3番目の文書を手に取り中身を確認した。そうやって次々机の上の文書を確認しているのに、肝心の”中ノ国”、”蒼い石”はおろか”観音像”というキーワードを有する文書は一つも見つからない。


 焦った李亮は文書探しに集中してしまい、彼の後ろで扉がそっと開かれ、忍び足で人が近づいてきているのに全く気づかなかった。

 そしてようやく李亮が誰かが背後にいると気づいた瞬間、剣が李亮の右首をスーッとかすめて止まった。


 ”もはやこれまでか” 李亮は死を覚悟し、観念して目を閉じた。


 ところが、剣はそこでピタッと止まったままだった。


()()()()()()()

 そう李亮をきつく責め立てるその声は、紛れもなく白凛の物だった。


 李亮は、ふっと笑うと目を開けた。


 彼は、白凛に殺られるなら本望だと思い「なんだ、風呂に行かなかったのか?」と、彼女に背を向けたまましらばっくれてそう聞いた。

「物陰に何かがいると思ったけど、アンタだったのね。」

白凛は、劉操と離れを出る際に気づいた視線を思い出し、忌々しそうに言った。

 李亮はそれには答えず「今迄ろくに汗を流せなかっただろう?女なのに臭うぞ。風呂に入ってこい。」としらばっくれた。


「余計なお世話よ。もう一度聞く。何してるの!」

「何してると思う?」


 白凛の胸の鼓動は、あたり一面に聞こえるのではないかと心配になるくらい大きく鳴っていた。


 皇帝の部屋とわかっていて侵入している李亮は、劉操やその側近達に見つかれば命は無い。


 ”何考えてんのよ!昔も馬鹿だったけど今も負けず劣らず大馬鹿野郎!”


 次の瞬間、白凛は何を思ったのか李亮に剣を突きつけたまま彼を移動させ、影武者の部屋へと続くコネクティングドアを開け、李亮の尻を蹴とばして隣の部屋に向かって彼をつき飛ばした。その拍子で李亮は前のめりになって影武者の部屋の中にダダダと倒れこんだ。白凛もその部屋に入るとすぐにコネクティングドアをしっかりと閉め、ようやく立ち上がった李亮に今度は正面から彼の首に剣を突きつけた。


 李亮は降参とでも言っているかのように両手を挙げて白凛を見下ろした。


 白凛はギロッと威嚇するように李亮を見上げて睨んでいたが、その目を見返している李亮の目は怖いほど優しかった。李亮は突きつけられている方とは反対側に首を傾けると「お凛ちゃん、君に殺られるなら本望だよ。」と穏やかに言った。


 ”殺されるってわかっていて、いったい何やってんのよ、この馬鹿男!”


 白凛は、それを聞くと顔を歪ませ「何で文書を盗み読みしていたの。」とさらに剣を握りしめながら唸った。

「キタにいると全く他の情報が入らないからな。」

 ところが李亮が悪びれることもなくそう返している最中に、なんと廊下をバタバタと歩く足音が響いてきたではないか。


 2人とも目を丸くして、ハッとすると、白凛はとっさに李亮に突きつけていた剣を鞘に戻した。白凛の全く想定外の行動にキョトンとしている李亮の、その腹を思いっきり蹴とばして彼をドンと床につき飛ばすと、白凛は心の中で”ええい、ままよ!”と叫び、目をギュッとつぶって李亮に覆いかぶさった。


 誰もいないはずの部屋の中から大きな物音が響いてきたことから廊下の人物たちは、慌てて中央に位置する最上級で最大級の特別室:鳳凰の間に飛び込んだ。


 その瞬間飛び込んできた男たちが目にしたのは、普通の男より小さい白将軍が、大男を抑え込み、馬乗りになってキスしている姿だった。


 李亮は何がなんだかわからず細い目をこれ以上開けられないほど大きく開け、口は少し半開きになっていた。そしてその口にはしっかり何かが押し付けられていた。李亮がようやく事態を把握した時には、白凛は目も口もギュッと閉じ、李亮の腹の上に馬乗りになって彼を抑え込んでいた。


 あまりに強烈に想定外のことを目にした禁衛軍統領と国軍の将校は、2人ともしばらく茫然として目の前に横たわっている男女を見ていたが、ようやく禁衛軍統領が我に返ると、床の男女に向かって叫んだ。


「お、お、お前ら!ここで何やってんだ!」


 その声で白凛が、顔を挙げて振り返り部屋に飛び込んできた男たちを睨みつけると「見ての通りよ!」と、叫び返しながら李亮の上からゆっくりと離れて立ち上がった。


 普通の女の子であれば、キスの現場を他人に見られたら恥じらうであろうに、白凛は勿論そんじょそこらの女の子ではない。全く恥じることも悪びれることもなく堂々と彼らの前に胸の前で両腕を組みながら自ら進んでいった。


 前々から白凛を良く知っている国軍の将校は、白凛に掴みかかろうとする禁衛軍統領の前に飛び出すと、白凛の肩に手を当てて白凛の顔を諭すように見て小声で囁く。

「こんなところでそんなことするなよ。自分の部屋ですればいいだろう?」

 白凛は顔を斜め上に挙げて国軍の将校を見返してブスっと呟く。

「こっちのほうが広い。」

 そう言われた国軍の将校がふっと目を上げると、彼の目に未だかつて見たこともないような巨大且つ絢爛なベッドがどーんと飛び込んできた。白凛は部屋が広いと言ったつもりだったのに、完全に国軍の将校は誤解して受け取り、すぐさま両手を挙げて降参のポーズを取ると、「わかったよ。でももうすぐこの部屋の奴が戻ってくるからここではやるな。」と言うと、くるっと軍隊式に踵を返して禁衛軍統領の肩を組むと頭を横に振りながら彼の耳元で何か囁いた。


 禁衛軍統領はうえっという顔をしながら白凛の方を振り返るとただ「早く出てけ。」と言った。


 白凛がそれに何か答えようとした瞬間、いつの間に彼女の横に来ていたのか、李亮が横から「わかってる。だけど誤解しないように言っておく、俺が彼女にこうしろって言ったんだ。俺がでかいから彼女が下だったらつぶれちまう。」そう言い放つと、彼らの面前で腕組している白凛の手を取ってその手の甲にそっと彼の唇をつけた。


 その行為を見て2人の男たちは目が点になって絶句してしまった。男たちにとって李亮のその姿は、到底演技とは思えなかった。それどころか、それは、何から何まで完全に一人の男が最愛の女性に対する愛の証そのものだった。そしてそれに目が点になったのは男たちだけでなく白凛も同じだった。彼女はすぐさま慌てて李亮の手から自分の手をひっこめようとした。その反動もあり、白凛の頭はさっきの咄嗟の誤魔化しキッスの時よりも真っ白になり、彼女はクラクラして体のバランスを崩し尻もちをつきそうになった。その瞬間、李亮は彼女の手を引っぱり自分の胸に彼女を抱きとめると、サッと彼女を横抱きにしてあっけにとられている2人の男たちに「失礼。」と言って彼女を抱いたまま堂々と廊下に出て行った。


 2人の男たちはしばし茫然としていたが、2人とも同時にゴクリと唾を呑みこんでから首を長くして廊下の様子をうかがった。

 禁衛軍統領は一度目をギューッとつぶってから目を開いて、隣に立っている国軍の将校に向かって言った。

「俺、なんか見たか?」

「俺も、、、そう思った。もしかして幻?白凛だったような、、、」

「でもあの白凛を好きになる男が、そんな命知らずが、この世に存在すると思うか?」

 そう言われた国軍の将校は思いっきり首を横に振った。


 何しろ本人も認めるほど女性であることを1滴も感じさせず、鬼だって怖くて相手にできないと言われてきた白凛である。


 禁衛軍統領はその場で呟いた。

「うん、幻を見たんだ。そうに違いない。この部屋は広すぎて異次元空間も存在するんじゃないか?だって見てみろよ。あんなベッドなんてこの世には存在しない。」


 一方、白凛の部屋に入った李亮は、そこで白凛を優しく降ろすとすぐに彼女を壁に押し付けて彼女の唇に自分の唇を重ねた。


 白凛の頭はさらに真っ白になり、自分にいったい何が起こっているのか全くわからなくなってしまった。ただ彼女は、感覚的にそれを嫌とは思わず、むしろ自分の理性とは裏腹に、何故だかとても嬉しく心地よく感じてしまっていて、そのことにも酷く戸惑っていた。自分には全く無いと思っていた女の本能が動き出し、今迄、女の守られ願望や愛され願望を耳にするたびに鼻で笑っていたのが嘘のように、今、目の前の男から大きな愛で優しく包まれ守られていることに、あろうことか身体の奥から震えるほどの喜びさえ感じてしまっていた。そうなると、もう白凛は、自分自身がすっかりわからなくなり、立っていることさえままならなくなってきた。


 白凛の唇から彼女の中の葛藤を感じ取った李亮は、もっとキスしていたいという自分の欲望を飲み込んで彼女の唇から自分の唇をわずかに離すと同時に彼女が倒れこまないように彼女を自分の左腕でがっしりと支えた。


 白凛は震えていた。


 怖いもの知らずで、五剣士隊の男たちが震えあがった雪女の話でも鼻で笑い飛ばし、趙明の敵討ちでは見事に北盧国の皇帝を仕留め、世の兵士たちを震えあがらせるほどの実力を持つ彼女が、まるで小鳥のようにプルプルと李亮の腕の中で震えていた。


 ”今日は本当に危うかった。でもこれからは常に命の危険にさらされるだろう。これを逃したらもうお凛ちゃんに伝えられないかもしれない。”


 李亮は小刻みに震えている白凛を自分の胸に優しく抱きしめると、彼女の耳元で愛の告白を始めた。


「初めて会った時からずっと好きだった。あの後、君がいなくなって一人で京安中を毎日毎日探し回った。小白府(白凛の家)も羅家(白凛の母方の実家)も君がどこにいるのか誰も知らなかった。だから、生きているならきっと軍隊に入っているだろうと思った。だから俺は君を探すために軍に入った。君の行方がわかった時は嬉しくてたまらなかったよ。すぐに従軍するため、本部に嘘をついて前線基地に俺が派遣されるよう仕向けた。君の後を追って舞阪県に行き、君のとと様の敵打ちを目指していた時は、君には申し訳ないが俺の中では至福の時だった。ずっと君の側にいられて嬉しくてたまらなかった。本当は君に許可を得てからキスをするべきだったが、さっきのキスが君の中で俺のキスと記憶されたくなくて、今本気で俺のキスを君に捧げた。順番が逆になって申し訳ない。」


 李亮にそう告白され、胸の鼓動は心臓が飛び出してしまうかもと心配になるほど高まり、頭の中はますます混乱し、心身ともに文字通り青天の霹靂が起こってしまった白凛は、とうとう膝までガクガクしてきてしまった。李亮は足がおぼつかない白凛を抱えて彼女をベッドに座らせると、彼女の前に跪き、彼女の両手をとって彼女の目をしっかりと見ながら真剣に「愛している。」と一言言うと、立ち上がり「ゆっくり休め。」と言って白凛の部屋から出て行ってしまった。


 部屋に一人残された白凛は、大きな目をさらに大きく見開いて、しばらくベッドに座ったまま茫然としていた。

 そして何を思ったのか震える指で自分の唇にそっと触れた。

 すると彼女の頭の中では、李亮との出会いから今迄のことが、まるで目の前で早回しで再生されているかのように次々と浮かんでは消え、浮かんでは消えて行った。

 そうやって振り返ると、確かに彼は随所で彼女に好意を見せていた。


 ”まさか私に普通の女の子と同じようなことが起こるなんて、、、”

 白凛はふっと笑うとその場で一人はにかんで俯いた。


 しかし、次の瞬間、普通の女の子とはまるで異なり、白凛の将軍としての触角が動き始めた。


 劉操と、文字通り常に行動を共にし始めて、彼の疑り深い性格を嫌というほど味合わされている白凛は、ここで一大決心をした。


 ”あの2人はうまく誤魔化せたけど、この話はきっと劉操に行く。なんとしても亮兄ちゃんが疑われないように仕向けなくては。”


 翌朝、出立の時、白凛は隣の劉操の部屋に入った。


 昨晩一睡もせず最終的に140通りの言い訳を考えていた白凛は、劉操に何と聞かれるやらと内心かなり心配していたが、結局部屋を出て集合場所に行くまでも劉操から何も昨日のスキャンダルの話は出なかった。


 ところが集合場所についた途端、周囲の奇異の視線を感じた白凛は、周囲には昨日の話が伝わっていると悟った。


 いつものようにすぐに常義が側に来た時、いつもとは違って白凛の方が「何か知ってるの?」と常義に話しかけてきた。常義は困った顔をして苦笑しながら「実は、根も葉もない噂が流れてまして、こともあろうにお嬢様が、男を手込めにしていたなどと。そんな馬鹿な。」と言うと、白凛は涼しい顔で「そのとおりよ。」とサラッと言ってからあたりを見渡した。


 それを聞いた常義は焦りまくった。

「お、お嬢様そんな。亡くなられた旦那様や大奥様が知ったらどんなにか、」

必死の形相で常義がそう取り繕っても、白凛はどこ吹く風で「知られないから大丈夫よ。」と言いながらあたりを見回した。


 そこにようやく宿の清算を済ませた李亮がやってきた。既に白凛のスキャンダル話を耳にしていた李亮は、背の高さに物を言わせ白凛を見つけるや否や、真っすぐに白凛の方へ向かってきた。


 白凛は李亮に一言も言わせないようにと思っていたのに、それより早く李亮は大真面目に挨拶抜きで突然白凛に向かって言い始めた。「京安に戻ったらすぐに小白府に挨拶に、、、」


 ”馬鹿男!アンタは噂になっていないのに、なんで自分が相手だってわざわざ劉操にバラすのよ!”


 白凛は離れの宿泊者だからまだ何とかなっても、李亮が離れにいたことを劉操が知れば、劉操の性格から李亮にどんな疑いをかけてくるかわからない。


 次の瞬間、白凛は公衆の面前で李亮の腹を足の裏で思いっきり蹴とばして倒すと、動けないように足で彼の腹を踏みつけ彼を睨みながら啖呵を切った。


「馬鹿なこと言わないでよ。たまたまアンタが良さそうだったから連れ込んだだけなんだから。もう二度とごめんよ。」


 次に白凛は周囲に向かって「あんた達だってしょっちゅう遊郭でいい思いしてんじゃない。でもこの世は不公平で女がいい思いできるところは無いのよ。わかった?」と叫ぶと、李亮から足を離しその場に倒れている彼を残してスタスタと奥へと歩き出した。


 その場にいる者皆が苦笑しているなか、白凛は堂々と劉操の前に行き「陛下お騒がせして申し訳ありません。」と言って深々と礼をした。


 本当は白凛を失脚させたいのだが、何しろ彼女ほど頼りになる護衛はいないのが現状なのである。

 

 それをよく知っている劉操は白凛に向かって「ふん」とだけしか言えなかった。しかし、内心ではこの白凛スキャンダルを世間にばらすことで大衆の白凛人気ががた落ちするだろうと小躍りしていた。


 ”そして、そんな女でも許す朕の心の広さが伝わるに違いない。”


 3日後、京安の講談師は新しい演目を語り始めた。


 その名も「女将軍慰浪(いろ)事情」。


 勿論事実からはほど遠い作品で、『白凛が、実は夜な夜な兵士に襲い掛かり骨の髄までいただいてしまう肉食系いただき女将軍であった。』という内容だった。


 当初聞き手は老若男女皆顔をしかめていたが、クライマックスで白凛が、


「男はしょっちゅう遊郭でいい思いをしているのに、なぜ女がいい思いをできる所は無いのか!」


と訴えるシーンで、そのセリフは、まさに男尊女卑の世界で悶々と耐えている女性達の心のど真ん中に命中し、彼女らの目を覚ませ、意識革命を起こし、完全なショーストッパーとなって拍手喝さいの嵐になってしまった。


 そして最後に、劉操が最も力を込めて大衆にインプットしたかった

「そんなあばずれな女将軍をも許し、再起の機会を与えている心の広い我が国の皇帝がいるからこそ、民は安心して暮らせているのだ。」

という結びの句は、完全に大衆から無視されてしまった。


そのため、劉操の意図とはまっ・・・・・・たく裏腹に、次々と白凛の共感者が名乗り出て、ますます白凛の人気が高まってしまう結果になってしまった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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