第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一緒に元北盧国から中ノ国に戻り、京陵で劉煌と別れたお陸は、久しぶりに森の中の自宅に戻ると、ちょうど百蔵が粥を炊き終わり食べようとしていた時だった。
「やっぱりまだここにいたねー。」
「出たってまた命狙われるだけだからなー。だからしばりつけもせずここに置いていったんだろう?それにしてもこんなに化けるんじゃあもう姐さんって呼べないなぁ。おいらよりよっぽど若く見える。」
「さすが単位蔵だ。」お陸はそう言うと勧められてもいないのに勝手に粥を掬って食べ始めた。
中ノ国の諜報組織骸組は、情報伝達だけの下っ端を含めて1万人は下らない巨大な組織だ。その中でも一蔵、十蔵、百蔵、千蔵、万蔵と各単位の名前を持てるのは骸組のトップクラスの実力者だけだ。そんな単位蔵を同じ組織の者が狙うのは、組織が崩壊しているか、乗っ取られているかのどちらかだ。そんな単位蔵である百蔵なだけに、自分の置かれている状況を決して見誤っていなかった。
百蔵も自分の粥をすすりながら言う。
「あ、そうだ。お陸さん宛にお頭から来てたよ。」
百蔵は机の方に1回顔を向けてからまた粥をすすった。
「お陸さんに会いたいなんて伝書鳩で知らせてくるなんて、お頭もよっぽど困ってるんだな。」
百蔵の作った粥は、生米を鶏ガラで取った出汁から炊いたもので、米以外に長芋、クコの実、松の実が入っており、全体がうっすらとベージュ色に染まっている中にところどころに赤いクコの実が浮かんでその存在を際立たせていた。
「あたしゃ、もう少し塩が効いている方が好きだね。」お陸は百蔵の言ったことには全く反応せず、そう文句を言った割にひたすら粥をすすっていたが、何を思ったのか粥を少し蓮華で掬うとそれにフーフーと息をかけて少し口に含み、冷めたことを確認してからそれを鳩にやった。
鳩はクルックルッと泣きながら粥を一心につついた。
「あー、やっぱり百蔵、あんた鳩に餌やってなかったろう?」
「そんなことねー。ちゃんとやってたよ。」鳩の世話は基本中の基本と心得ている百蔵は、むきになって怒った。
「冗談だよ。でもあんたこれからどうする?」
「どうするも、このままじゃこの家の周りで作物育てるしかないだろう。」
「ここはあたしんちだよ。」
「いいじゃないか。おいらがここに住んだって。どうせお陸さん、ここにいないんだから。だけど、、、もし出ていけって言うなら、、、」
「言うなら?」挑戦的にお陸は聞いた。
「おいらの顔も変えてくれ。」
”やっぱり単位蔵の中でも百蔵が一番切れ者だ。”そう思いながらもお陸は黙っていた。
「姿を変えて、おいらをはめた奴に仕返しするんだ。なあ、頼む、この通りだ。姐さんを変えた人を呼んでくれよ。」
「そりゃー無理な相談だね。」
「なんでだよ!金か?金だったら、、、」
「もう死んじゃったんだよ。」
「そんな、、、」
「まあ、慌てなさんな。同じくらい腕利きは知ってるから。あんた金だったらいくらでも払うっていう意気込みだったね。じゃあ内金で5貰っとこうか。」
「5千両か?それなら、、、」と言って懐をまさぐり始めた百蔵にお陸はすかさず
「甘い!5万両だよ。」
「それ内金だよな?残金もあるんだよな。」
「嫌だったらいいんだよ。」
「わ、わかったよ。」
背に腹は代えられぬ百蔵は、その場で服を脱ぐと、お陸に背を向けてガサゴソ何やらした後、5万両を掴んで空中にひらひらと札をはためかせると「証文書いてくれ」と言った。
証文と引き換えに札を百蔵の手からバサッとむしり取ったお陸は、指をなめてお札を数え始めたが、それを見た百蔵は目を細めて「姐さん、俺がここに運ばれたとき、襟の中開いてチェックしただろう?」と言った。
お陸は全く怯むことなく札を数えながら「まあまあまあ、百蔵を名乗れるお方が忍者の基本中の基本を聞く?」と言うと、百蔵は苦虫を嚙み潰したような顔をして「すぐに呼んでくれよ!」と叫んだ。
その夜お陸は、百蔵からまんまとせしめた5万両を持ったまま京陵の杏林堂を素通りして皇宮の北側にある宰相府に忍び込んだ。案の定万蔵は奥の離れた小屋に潜んでいた。既にお陸が宰相府に忍び込んだ時点で、同業者が忍び込んだことを察知していた万蔵は、自分への刺客かと臨戦態勢になって構えていた。そんな万蔵の様子も天下一の伝説のくノ一であるお陸はとうに気付いており、わざと、へたくそな猫の鳴き声をあげた。すると奥の小屋から猫の鳴き声が帰ってきた。
その猫の鳴き声を”お陸か?”と解釈できたお陸は、今度は犬そっくりに吠えた。
その瞬間、万蔵はさっと小屋の扉を開けるとお陸は瞬く間にその中に入って扉を閉めた。
「万蔵、あたしを呼び出したっていくらかかるかわかってんのかい?」
「すまん。でもどーしても教えてほしいことがあるんだ。」
「顔を変えた人を知りたいんだろ?」
「さすが、姐さんだ。」
「ちっ、百蔵も同じことを聞いてきたからさ。」
「百蔵は無事なのか。」
「無事じゃなきゃ聞けないだろ?それより何か肉でも焦がしたのかね。酷い匂いだ。」
「先日の火事の焼死体だ。」
そういうと万蔵は死体にかけてある藁を開いて見せた。
”ちゃっかり自分の身代わり死体を調達してるわ。さすが頭領をはってただけあるわ。”
そう思ったお陸は「内金8と百蔵の身代わり死体1体でどうだい。」と言った。
「8千両か、それなら、、、」
「あ、あ、あ、、、百蔵が7万両内金出したのに、頭領のあんたが8千両のわけないだろう?本当は10万両って言いたいところだけど、昔からのよしみと百蔵の分の死体の調達をしてもらうから8万両にまけてやってんだ。」
百蔵にふっかけたのは本当は5万両だったのに、わざと7万両と嘘をついたお陸は、骸組の頭領として万蔵が子分の百蔵以下の金額を内金にするのは面子が許さないことを知っていて、これで彼が内金を値切るのを阻止すると、金を満額受け取ってから「またね~。」と言ってドロンと消えた。
~
翌朝いつものように杏林堂を開けたフレッドは、長い行列を一瞥した後、中に入ろうとした瞬間ビクッとすると、振り返って行列の中央付近に並んでいる人物を二度見した。すぐにフレッドは血相を変えて中に入るとそのまま診察室に飛び込み、椅子に座っている劉煌に向かって「大変だ、ドクトル・レン。リク嬢が並んでる!」と叫んだ。
「なんですって?」劉煌もフレッドが言ったことが信じられず、思わず椅子から飛び上がった。
お陸は、劉煌から毎日並ぶことなくエステサービスを時間外にたっぷり受けるという特典を受けているのに。
さらにお陸は少しでも調子が悪いと、診察時間に関係なく真夜中でも遠慮せずに劉煌を起こすし、診察時間内であれば平気で横入りするのに。
そんなお陸が早朝から正式に列に並んでいるとは、、、
劉煌はお陸と11年以上の付き合いだし、フレッドは職業柄、人を見抜く力に長けている。
そんな二人だから、お陸としては奇怪極まる”巷での正道”を取ったことに、恐れおののいて震えあがった。
「なんか、気分が優れないわ。臨時休診にしようかしら。」劉煌が弱気になってそう言ってビビッていると、フレッドは直立不動の状態で「リク嬢のことです。今日がダメなら明日もきっと並びます。しかも休診なのに並んで待たせたって必ず因縁つけて、面倒が倍になるだけです。」と完璧にお陸の生態を読んでそう言った。
結局劉煌は観念して、バレバレを覚悟のうえで、お陸が並んでいるとは知らなかったふりを決め込むことにした。
そして運命の時がやってきた。
劉煌は、順番通りお陸を診察室の椅子に座らせると「本日はいかがなさいましたか?」と他人行儀に聞いた。
ところが、お陸の回答は劉煌のまったく予想外のものだった。
「顔の整形手術をしてほしいんだよ。」
・・・・・・
「!?.....その顔、、、気に入らなくなったの?」
「違う。あたしじゃないよ。別の人が依頼人。」
「あ、、、悪いけどそれは代理じゃできない......」
「んなの当たり前じゃないか。あん、もー、お嬢ちゃんは最近いつも愚痴ってるじゃないか。エステばっかりで医者の仕事が無いって。医者の仕事の中でも高度な、腕がなるような患者を2人も見つけてきてやったんだ。」
「2人?美容整形希望者が2人もいるの?」
「誰が美容整形って言った。」
「だって顔の整形手術なんでしょ?」
「患者は一人は50代、もう一人は20代、どちらも男。」
そこで劉煌は、お陸が誰から顔を変えてほしいと頼まれているのかがわかってしまった。
「良かった。二人とも無事なのね。」劉煌はホッとしてそう呟くと、
「そんなことはどうでもいいよ。だけどお嬢ちゃんのやりたい仕事を見つけてきてやったんだから、紹介料一人あたり1万でどうかね。」
「何?手術費用から1万両を師匠に渡せってこと?」
「違うよ、患者を紹介してやったんだからお嬢ちゃんが今あたしに一人あたり1万両払うんだよ。2人だから〆て2万両、耳そろえて今すぐ出して。」
ここに来てようやくお陸が行列に並んでいた意図をしると、劉煌は真っ赤になって怒り心頭で反論した。
「なんでよ!患者を紹介してくれなんて一言も頼んだことないじゃない!」
「毎晩のようにお嬢ちゃんの”エステじゃなくて医療がしたいっ”て愚痴を聞いている身にもなれってんだよ。患者をなんとか紹介しなきゃって思うだろう。」
勿論劉煌は心の中でそう叫んでも、人前で口に出して愚痴を言うような男ではない。
「言いがかりよ!そんなこと言ってないじゃない。」
「心の中で叫んでるだろ?全部聞こえちゃうんだよ。毎晩言ってる!」
このような屁理屈をお陸が言い出すときりがないから、次の患者に至るまで永遠と時間がかかってしまう。
劉煌はそう思うと、サッサと切り上げるべく、こう宣言した。
「それでなんで私が一人あたり1万両も師匠に払わなきゃならないわけ?意味不明。私がお金を払わなきゃいけないんだったら引き受けないだけよ。だって怪我や病気なわけではないんだし。別の医者に頼めばいいじゃない。」
報酬云々よりもドクトル・コンスタンティヌスの遺品である黄金の美容整形手術セットを使いたくてしょうがない劉煌は、喉から手が出るほど欲しい患者であったが、そんなことをおくびにも出さずにお陸に対して斜に構えて顎をクイッと上げて見せた。
”それに百蔵さんはどこにいるか知っているから、今晩店じまい後に行けば1人は確実にできるし。”
そう劉煌が頭の中で策を練っている中、お陸はというと、劉煌が両手を頬の所ですり合わせてうっとりしながら手術セットの箱の中を見ているのを何回も目撃していたので、まさか引き受けないと言うとは思ってもみず、完全に読みが外れて動揺していた。
お陸は苦虫を嚙み潰したような顔をして悔しがっていたが、
「仕方ない、家族割で2割引きでいいよ。」と歯を食いしばって言ったが、劉煌はけんもほろろに
「結構よ。言ったでしょ、紹介料を医者が払うような手術は引き受けない。」と言ってお陸を突き放した。お陸は怒って椅子から立ち上がると啖呵を切った。
「わかったよ。ほかの医者に連れてくよ!」
「どうぞ。では、ほかの患者さんが沢山待っているので、これにて。」劉煌はそう言ってポーカーフェイスで診療?会話?を打ち切ると中待合に向かって「次の人、どうぞ。」と叫んだ。
フレッドは酸っぱい顔をしながら、頭から湯気を出してうーうー唸っているお陸を診察室から待合室にエスコートしている中、劉煌は何やら机に向かって書いていたものをわざわざフレッドを呼び戻して渡すと、すぐに次の人の診察に入った。
フレッドは廊下に出た後、酸っぱい顔をさらに歪めて恐る恐るお陸にその紙を渡した。
お陸は怒りながらその紙をひったくるようにしてフレッドの手から取ると、顔を歪めながらその紙を見た。
”お陸殿 診療報酬請求書、相談案件:2件、相談料:千両×2件 計2千両 家族割80%適用 合計請求金額1600両 杏林堂医師 小高蓮”
キー!!
「なんだい、このあたしから銭むしり取ろうってのかい。100万年早いんだよ!こんなもの、引きちぎってやる!小高蓮、覚えてろよー!」
そう叫んでお陸がその場で顔を真っ赤にしながら診療報酬請求書を引きちぎっていると、杏林堂の入口から蓮のマークの入ったピンクの鉢巻とおそろいの法被を着た女の子集団がわんさと飛び込んできた。
彼女らは一様に鬼の形相をしており、キョトン?としているお陸の周りを数十人で取り囲むと彼女らは命知らずにもお陸に詰め寄った。
「親蓮隊は、蓮先生への暴言暴挙を絶対許しません!!謝りなさい!!」
”そうだった、お嬢ちゃんにはわけのわからない親衛隊がいるんだった。”
そう気づいたお陸は全く大人げなく、自分のひ孫のような年齢の娘たちに向かって、あっかんべーをしてから一言
「やなこった!」
と大声で叫ぶと、その場でドロンと消えた。
PC不具合で投稿に間があきましたが、今回もお読みいただきありがとうございました!
これからは毎日UPいたします。
またのお越しを心よりお待ちしております!