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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 西乃国皇帝の劉操は、いつものように影武者を馬車に乗せて、北盧国を手に入れてから2回目の北盧国訪問のため行列をなして北へ移動していた。


ただ以前と違って影武者を乗せた馬車の後に馬に乗ってついている劉操の横には、彼の私軍:黒雲軍の将軍:白凛が周囲に目を光らせながら劉操の馬とピッタリ合わせて進んでいた。


 かつて白凛が過ごした舞阪県の趙候府は、北方領土に入る前の安全が確保されている最終地点で、白凛はここで北方領土から迎えに来た李亮軍師将軍率いる国軍の配下並びに禁衛軍の統領とこれからの警護体制について詰めていた。


 「ゲリラ対策は功を奏していて最近はほとんど被害は出ていないが、皇帝の行列としれたら総攻撃をかけてくる可能性があるので、とにかく目立たないよう編隊を分けた方がよいのでは?」


と、李亮の配下は、李亮に言われた通りにそう提案したが、白凛は敵に知られても数で圧倒できるからこのままの編隊で行くことがよいのではと考えを示した。


 そして一番長く皇帝の警護の経験を持つはずの禁衛軍はというと、何故か独自の提案はなく、陛下に従うの一点張りだった。


 結局最終的に劉操の判断に任せられ、本当は李亮の案が安全と思いながらも、彼はあえてリスクの高い白凛の案を採用した。


 なぜなら何か不測の事態が起きた場合、責任を全て白凛になすりつけられる=白凛を失脚させる大義名分になるからだった。


 とにかく自分の世論操作の失敗で、自分自身ではなく白凛の大衆支持が鰻登りになってしまい、むしゃくしゃしている劉操としては、そうでなくとも軍人としての実力はぴか一な上に、これ以上白凛に活躍されては、下手をすると自分の進退を脅かすことになりかねない。


 李亮が国軍3万を迎えに出したので、総勢4万の大行列になったとは言え、国軍、禁衛軍、と黒雲軍3つの軍が入り乱れ、肝心の指揮系統は統一されていない。


 というか、できたばかりで、しかも若い女が率いる黒雲軍の言うことなど、国軍や禁衛軍が聞くはずがないのだ。


 いくら皇帝自らが白凛の意見を支持したところで、4万騎が彼女に統率される訳がないのだ。


 案の定、3軍の長の主張は平行線で、結局1つの行列の指揮系統を統一できず、もし何かあった場合について詰めようにも話し合いにすらならず決裂して終わった。結局行列の先頭を禁衛軍、ダミー馬車のすぐ後ろを黒雲軍、ダミー馬車周囲と行列の終わりを北方領土の対策軍が守るという壮大な行列で、一行は北方領土に足を踏み入れた。


 案の定ゲリラは北方領土に入ってから35Kmの地点で行列を攻撃した。


 それにいち早く気づいたのは白凛だった。


「気をつけて!!」


 馬や車輪、人の足音しか聞こえないような険しい山道で、突然白凛のそう叫ぶ高い声が響いたかと思うと、大小の石が行列に容赦なく左右から降り注いだ。


 馬から飛び降り、白凛はすぐに本物の劉操を馬車の下に隠すと、まず国軍の周りを大きく囲むように黒雲軍を配備して国軍のサボタージュを阻止した。そして自らは残りの黒雲軍と共に石の飛んでくる方向に向かって突撃した。


 馬の走る地響きと共に、長槍を高く突き上げて迫る集団を見て、土地勘のあるゲリラ達は四方八方に逃げた。しかし、その中の一人が運悪く途中で転んでしまい、まさに迫りくる白凛の長槍の餌食にならんとしたその瞬間、目にもとまらぬ速さで何かが白凛の前を横切ると、なぜか彼女の長槍は地面を突き刺していた。


 ”そんな馬鹿な。人が瞬間に消えて無くなるなんて.....”


 驚愕した白凛は顔を上げると彼女の視界の端に草色の衣服をまとった人物が、白凛が打ち取ろうとしていたゲリラを抱えて走りだそうとしていた。


 白凛は、長槍を地面から引き抜くとその草色服の人物に向かって「待てぇー!」と叫んだ。


 その瞬間、草色服人は明らかにハッとして振り返り、白凛の目とその目がしかと合った。


 ”えっ?!”


 白凛の時はその瞬間で止まった。


 しかし、その草色服人はすぐに白凛から目を反らすと、ゲリラを左脇に抱えたまま目にもとまらぬ速さでその場から居なくなった。


 ”わ、私は幻を見たの?”


 草色服人の反応とは対照的に、白凛はしばらく呼吸をすることさえも忘れて、ただ茫然とそこで馬にまたがっていた。


 白凛に続いていた黒雲軍は、ようやく白凛に追いついたが、そこにはゲリラを含め彼らの将軍以外は誰もいなかった。


「白将軍!」


 黒雲軍の兵士の呼びかけでようやく我に返った白凛は、すぐに馬の向きを反転させると「退却!」とだけ言って馬を元の行列の方に向けて走らせ始めた。


 ~


 その夜、北方領土の宿で白凛は出された食事も取らず、心配する常義も寄せ付けず完全に人払いをして部屋に一人引きこもっていた。


 部屋で白凛は蝋燭を1本しか灯さず、薄暗い部屋の中で膝を抱えながら今日起こった出来事を思い出していた。


 草色の服の人物は、草色の頭巾をかぶり、鼻から下も草色の共布で覆っていた。


 だから顔の露出していた部分は目元だけだったが、それでも白凛はその目が忘れられなかった。


 何故なら、彼女が見たその目は、かつて自分を慈しみ、自分の夢を応援してくれた初めての人物の目とそっくりだったからだ。


 白凛は自分の中で封印していた言葉を約12年ぶりにおそるおそる口にした。


「太子兄ちゃん......」


 ”私にはわかる。あの目は太子兄ちゃんに間違いない!あの人は太子兄ちゃんだ!生きていたんだ!”

 ”生きていたんだ!”

 ”()()()()()()()()


 白凛は喜びのあまりふふと笑った瞬間、目から涙がこぼれはじめ、しゃくりあげながら泣き笑い始めた。


 彼女は、こんなところで泣くまいと思った。


 しかし、12年前劉操が自宅である小白府に押し入って来た時でさえ、

また親から引き離され一人罪人車に載せられ遠い舞阪県に連れてこられた時でさえも泣くのを我慢できたのに、

ばあやが殺された時でももう泣くまいと思った時点で涙を止められたのに、

何故か今日はどうしても彼女は泣くのを我慢できそうになかった。


 白凛の心の中で12年前の政変から築き上げた巨大な壁は、今日あの人物の目を見たほんの一瞬で、もろくも崩壊してしまった。まるで決壊したダムのように流れる涙をどうしても抑えることができず、とうとう彼女は自分の声が外に漏れないように布団をガバっと掴むとそれを顔に押しつけ、薄暗い部屋の中で一人歯を食いしばって泣きじゃくった。


 同じ頃、そこから東に20km離れた北方領土の小屋の屋根の上で、お陸がその小屋の中の話に聞き耳を立てていた。


「李亮、ありがとう。劉操の移動編隊や軍の規模・レベルがこれであらかたわかったよ。」

草色の頭巾とお揃いのマスクを取り、懐から手鏡を取り出して髪の乱れを四方八方からチェックし、気になる部分を手で撫でつけた後、劉煌はそう言うと、出されたお茶を一口すすった。


 礼を言われた方の李亮は、劉煌の対面に座り、やはり茶をすすってから湯呑を机に置くと、きちんと座りなおして「こちらこそです。おかげさまで双方一人も犠牲者無く、これで北盧国人にも面目が立ちました。」と、言って劉煌に向かって叩頭した。


 李亮は、怪しまれないよう普段通り高級なオーダーメイドの黒い着物を羽織っていたが、普段とは異なり扇子は畳んで袖の中に入れていた。


「うん」そう言ってから劉煌は、ようやく手鏡を懐にしまい、李亮の衣装をしげしげと眺めて「こんなところにそんな着物で来たら折角のお召し物がだいなしよ。」と言って顔をしかめた。


 呂磨でもファッションの最先端を行っていた劉煌は、ぼろ小屋の汚い椅子に座って李亮の着物が汚れないか気になって気になって仕方がなかった。


「普段と違う格好では何事かと、目立ってしまうので。」

 李亮は、劉煌と完全に身分逆転の着物であることにばつが悪そうに首の後ろを掻きながらそう言い訳すると、劉煌は目を丸くして「普段着がそうなの?」と感嘆した。


 李亮としては、年齢的にも家柄的にも不相応なほど高い地位についてしまったため、相手から舐められないように普段から高級着物を着たり、大きな扇子をバサバサ仰ぐことで彼としては”武装”していたつもりだったのだ。


 劉煌に申し訳無いと思っている李亮は、扇子は封印して劉煌に会っているものの、自分でも分不相応な着物だという後ろめたさから、益々恐縮して「はああ。」と曖昧な返事をすると、劉煌は右耳の横で両手を組んでそれを振り回しながら「すごくいいわ!すてき!京安の仕立てやさん?」と、興奮しながら李亮の予想を遙かに越えたことを聞いてきた。


 李亮は、劉煌から嫌味を言われているのかと戸惑いながらも、馬鹿正直に「いえ、中安です。」と答えると、劉煌は、あからさまにガクッとして全身でガッカリを表現しながら「残念!中安か!とにかく西乃国の後宮の宮女の制服が許せないほどダサイのよ!その仕立て屋さんが京安にあるんだったら、絶対にそこに制服の発注をするのに!」と言って、最後には憤慨していた。


 こうなると、李亮はいったい何がなんだかわからずポカンとしていたが、屋根の上からお陸が


「お嬢ちゃん、おっきいお兄ちゃんに宮女の制服のことを愚痴ってもしょうがないだろう?おっきいお兄ちゃん、ごめんよ。最近お嬢ちゃんは、女装の時とは違って地味な着物しか着ていないからストレスがたまってるんだよ。」とフォローした。


「ああ。」

 李亮はただそう呟くと、なんと返事してよいやらわからず下を向いてお茶をすすった。


 そしてお陸に図星をつかれた劉煌はというと、ぶすっとしながら、「師匠、そこにいるんならここに入ってくればいいじゃない。」とお陸に悪態をついたが、お陸は全然降りてこようとはしなかった。


 劉煌は不貞腐れてしばらくお茶をすすっていたが、突然穏やかな顔つきになると「立派になったな~。」と呟いた。


 完全に劉煌の言葉の裏が読めなかった李亮が冷や汗をかいて戸惑っていると、劉煌は、茶碗を机の上に置いて「お凛ちゃんのことだ。」と言って李亮に向かって微笑んだ。


 白凛が劉操側についている(と信じている)ために気まずそうに李亮は「あっ。」とだけ言うと、劉煌は空を見つめて「「待てぇー!」って叫び声、昔と全然変わらなくて、、、思わず彼女の顔を見てしまった。」と言った。


 さらに気まずそうに李亮は「彼女は将軍になりました。劉操の私軍の......」と劉操の私軍の部分は消え入りそうな声で囁いた。


 それを聞いた劉煌は、何度も頷いて茶碗の縁を指でさすりながら「そうか。」とだけ答えた。


 ”李亮が情報を出し渋っているところを見ても、彼女は劉操についたということだな。”

 ”なんて言ったって、彼女の夢を叶えたのは僕ではなく、劉操なのだから。仕方のないことだ。”


 しばらく沈黙が続いたが、意外にも李亮がその沈黙を破った。

「太子、実は良くわからない情報が入ってきて......」

 そう言った李亮は、劉煌に孔羽から自分宛てに来たメッセージを渡した。


 それを一読した劉煌は、眉毛がつながるほど顔をしかめた。

 ”劉操がこれをどう受け取るかだな。”


 劉煌の険しい顔を見た李亮は、

「太子、、、」と心配そうに呼びかけると、劉煌は険しい顔で下を向いたまま「劉操はこれに何か指示を出したのか?」と聞いた。

「まだ劉操に情報は伝わっていないと思います。この前太子に鳩を送った時に一緒に入ってきた情報なので。」

 李亮がそうお茶を濁すと、険しい顔つきだった劉煌は一転して目が点になってしまった。


 ”諜報機関のなんとお粗末な情報伝達方法。こっちのほうがよっぽど早く情報を掴んでいるなんて。”

 ”きっと劉操が怖がって火口衆に直接会わないのだろうな。”

 ”これだけ情報に疎ければ意外といけるかもしれない。”


 しばらくして今ここに戻った劉煌は、李亮に視線を戻すとその場で立ち上がって突然話を変え


「北盧国のゲリラたちもそうは待ってくれないだろうからな。来年が正念場になろう。」


と告げると、そこでクルリと回って草色から黒装束に変わるや否やドロンとその場から消えていなくなってしまった。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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