第八章 探索
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
一方劉煌は、相手が桃香とはいえ、久しぶりに自分が狙われたこともありいっそう気を引き締めて毎日暮らしていた。
日々の京陵内の外出は勿論のこと、毎月の薬草取りのための西乃国訪問は尚更慎重に行くようになった。
その日も西乃国から薬草を担いで中ノ国に戻ってきた劉煌は、いつものように伏見村の亀福寺に侵入して屋根裏からしばし寝ている小春を見守ってから、京陵を目指して歩き出した。
ところがいつもと違って、京陵への途中の峠道で劉煌は、金属が激しくぶつかり合うキーンゴーンキーーンという音に気づき、すぐさま道を外れて森の中に入った。森の中の高い木に登った劉煌は、いったい何が起こっているのかと音の方向に顔を向けて自分の目が見たものに衝撃を受けてしまった。
それは骸組同士の戦いだった。
正確に言うと、骸組1人対10人の骸組で、当然1人だけで戦っている者は追いつめられていた。
火口衆の場合、抜け忍はご法度で同胞から始末されていたが、お陸から聞いた限り骸組は去る者追わずで、同胞同士の戦いは有り得ないはずだった。
それなのに、目の前で堂々と骸組の内部抗争が繰り広げられているのを見て、劉煌は骸組の秩序崩壊に愕然としていた。
動きを見ている限り、仲間からの攻撃を受けている一人は、攻撃している10人の誰よりも良かったが、いかんせん同じ訓練を受けた10人に囲まれてはかなわない。結局崖っぷちまで追いつめられ、その一人は決死の覚悟で崖から飛び降りた。
やめておけばいいのに劉煌は、見て見ぬふりができず、結局崖から飛び降りた忍者を地面に落ちる前に助け、追手から隠し、追手が諦めた頃を見計らってそいつを伏見村の自宅まで連れて行った。大怪我をして意識不明の骸組の間者の手当をしようと部屋の蝋燭に火を灯した劉煌は、そいつの顔を見てまたもや衝撃を受けてしまった。
なんと、そいつは数か月前に火口衆から救った百蔵だったのである。
”この前は火口衆に追いつめられ、今度は骸組に追いつめられるって、いったいどんなヤバイ話をこいつは握っているのだろう?”
劉煌は、一月前試作した自白剤の丸薬ヴァージョンの入った壺を懐から取り出し、それを蝋燭の火に照らしてジャーンと言ってポーズを取ると不気味に低くグフフと笑った。
”グフフ、願っていた通り実験台が手に入ったぁ~♡”
しばしそのまま自分のポーズに悦に浸っていた劉煌は、小屋の扉が開いた音で我に返った。
すぐにくノ一モードになり、サッと扉の方を振り返った劉煌は、次の瞬間素っ頓狂な顔をして「まま~!」と叫んだ。清聴も劉煌を見て「み、、、じゃない、蓮じゃないか!」と叫んだ。
2人は同時に「どうしてここに?」と聞くと、まず清聴が「この家に灯りが見えたからさ~。蓮がいるか、泥棒がいるかのどちらかだろうと思って来た。」と告げると、劉煌が何か言う前に横に倒れている男を見て「また怪我人をここに運んだのかい?」と呆れたような声で聞いた。
劉煌は、意識を百蔵の方に戻すと清聴に背を向けて「そうなのよ。私は大丈夫だから、ままはもう帰った方がいいわ。男の着物を脱がさないといけないし。」と言った。
清聴はすぐに「じゃあ、あとで食べ物を持ってくるよ。」と言って扉を閉めた。
”そうだ。こうしてはおれない。すぐに百蔵さんとやらの怪我を治さなくっちゃっ♡死んじゃっちゃ自白剤の実験台になれないから~♡”
身体に無数の傷を追っている醜い百蔵を、劉煌は鼻歌交じりにルンルンしながらまず着物を脱がせ、傷の手当てを始めた。
”忍者に自白剤が効いたら、もうこれは百人力ね。”
百蔵の全ての傷の手当が終わり、彼に劉煌の着物を着せ終わった時、清聴が劉煌の自宅に食事を運んできた。
劉煌は以前と同じように外の切り株の所で一緒に食事を取る提案をすると、まず燭台を持っていき蝋燭を灯した後、清聴の手からお盆を取った。
”今日も1滴もこぼしていない。”
お盆の中の食べ物の状態を観察しながら心が重くなった劉煌は、心の荷を降ろすように切り株の上にお盆をそーっと置いた。
「あんた、まさかまた西乃国に薬草取りに行っていたんじゃないだろうね。」清聴は箸を取ると開口一番そう聞いた。
「毎月行ってる。」
「毎月って、それは薬草取りだけが目的じゃないだろう?まさかまだ......」
劉煌はここで箸を止めると、真剣な顔で清聴に伝えた。
「まま、僕は正統な後継者なんだ。亡くなった父や母のためにも、苦しんでいる民のためにも、このまま黙ってあの国を見過ごすことは出来ないんだ。」
「でも。」
「まま、わかってる。死んでしまっては元も子もない。だから11年以上かけて訓練をつんできたんだ。あとはチャンスを見逃さないようにするだけだ。」
それでも清聴は、なんだかんだと食事が終わっても異を唱えていたが、劉煌が突然「ところで小春はどうしてる?」と聞くや否やサッサとお盆を片づけて亀福寺の方に向かって歩き出した。
清聴の背中を見ながら心の中で劉煌は「まま、ありがとう。でもそんなに心配しないで。」と叫んでいた。
~
元北盧国の問題が少し落ち着いてきた西乃国北方領土では、今日も李亮が劉煌と孔羽との連絡に使う元北盧国の皇宮に近い丘の中腹にある秘密の鳩小屋に餌をやりにやってきていた。
その鳩小屋の上空では、孔羽からの文を携えた白い鳩が巣を目指して急降下していた。
ちょうど李亮がその小屋から出ようとした時、その鳩が窓から小屋の中に飛び込んできた。
李亮は慌ててその鳩を捕まえると傷つけないよう慎重にその脚から通信筒を外した。
通信筒から巻かれた小さな紙切れをくるくると広げると珍しく2枚重ねの紙がはいっていた。2枚の紙を読んだ李亮は、それを見てすぐに顔をしかめた。
”こんなに早く来るとは。。。すぐ太子に知らせねば......”
李亮は2枚の紙のうち1枚を元の通りくるくると丸めて通信筒に入れると、劉煌の鳩の脚につけてそれを飛ばした。劉煌の鳩なら暗くなる前には文書が劉煌の手元に届くだろう。
問題は、、、
残った1枚を改めて読み直した李亮は、大きなため息をついた後、首を傾げた。
”中ノ国の間者が、西乃国で蒼い石でできた観音像を探していたって暗号か何かか?”
~
結局またお陸の小屋に連れていかれた百蔵は、まだ傷が癒えていないのに柱に括り付けられて無理やり劉煌の試作品である自白丸剤を飲まされていた。
しかし、さすがに忍者修行をしてきただけあって、百蔵は汗を流しながらも必死に自分の口を噛んで意識をコントロールして踏ん張っていた。
そうでなくても身体中傷だらけなのに、自傷で口からも血を流している百蔵に、劉煌は丸剤をもう1つ追加で飲ませるべきか、それとも酒を飲ませて丸剤の効果を引き上げるべきか考えていた。
それを察知したのかお陸は突然酒樽を持ってくると、劉煌にこう言った。
「お嬢ちゃん、この丸薬ひょっとして効いていないんじゃないかい?酒飲ませれば効いているか効いていないかわかるんじゃ?」
くノ一修行に薬の知識は必要なれど、専門的な知識は皆無なはずのお陸の薬剤使用判断はいつも怖いほど的を得ている。
自白丸剤が効いているとすれば酒との相乗効果で真実を話すだろうし、効いていなければ酒を追加しても酔っぱらうだけである。
劉煌は、百蔵に無理やり酒を飲ませた。
10分もしないうちに百蔵の意識は混濁し、簡単な彼に関する身近な問いかけに答え始めた。
それを見ていたお陸が待ちきれずに本題を彼にぶつけた。「指令はなんだったのかい?」
すると、目の焦点の合っていない百蔵はなんと
『西乃国の皇宮で3寸ほどの蒼石観音像を見つけて持ち帰ること。』
と、答えたではないか。
百蔵の横で彼の脈を取りながら聞いていた劉煌は、真っ青になって思わず彼の手首を手放して彼の顔を凝視した。
百蔵は相変らず焦点の合っていない目でボーっと先を見ていた。
”なるほど、それで火口衆(西乃国諜報機関)にも骸組(中ノ国諜報機関)にも命を狙われていた訳だ。骸組も百蔵さんを殺そうとしていたってことは、蒼石観音を持って帰ったんだな。でも皇宮内にはもう無かったはずだが、どうやって持ち帰ったのだろう。質屋で買ったとか?”
劉煌が先を読んでいた時、事情を知らないお陸は先に進めた。
「西乃国皇宮でそれを見つけたのか?」
「無かった。」
「じゃあ、どこにあったのか?」
「どこにもない。」
その百蔵の返事に劉煌は思った。
”質屋に入れた子は、あれを買い戻したんだな。質入れした物と違うって気づかなかったんだ。”
「持ち帰らなかったから命を狙われたのか?」
「偽物だと気づいたのかもしれない。」
「偽物?」
「お頭がそれでいいというので、そっくりの物を作って渡した。」
これには百戦錬磨のお陸も完全に首をかしげてしまった。
お陸は突然劉煌の手を取って別室に彼を連れて行くと、彼に向かって訝しげに言った。
「お嬢ちゃん、あんたの薬失敗じゃないかえ?どこの忍者の頭領が、偽物作って依頼主に渡していいなんて言うんだよ。そんなのありえない。百蔵は、効いたふりしてガセネタ掴ませといて解放してもらおうという魂胆だよ。」
確かにお陸のこの見解はもっともなのだが、劉煌は東中西の3か国の皇族の中でも、直系の長男しか知らないはずの蒼石観音の情報を百蔵が知っていることが、とても引っかかっていた。
もし仮に薬に効果が無かったとしたら、こんなトップ中のトップシークレットは答えないだろう。 と言うか、蒼石観音の情報は門外不出の情報であり、その門も皇帝と皇太子しか知りえない情報なだけに本当に狭いのだ。
それに、この情報を知っていれば任務遂行後同胞に消されることは有り得る、、、というか、絶対にこの情報を持っている者は容赦なく消されるはずである。とすると、百蔵が所属する骸組から命を狙われたのは、至極当然のことと言える。
劉煌は頭の中で、今百蔵が話した情報を整理していた。
”忍者の世界ではお頭から指令がでる。つまり百蔵さんは骸組頭領からこの話を聞いたはず。では頭領はどこから情報を得たのか。。。骸組頭領なら皇帝が直々に隠密に指令を出せるはずだ。皇帝の門外不出の情報を持つのは百蔵さんと骸組頭領、、、ということは、、、、”
自分の出した結論に劉煌は飛び上がると、お陸に向かって叫んだ。
「師匠、骸組頭領の命が危ない!」
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