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第八章 探索

初投稿です。

仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー

 西乃国の海の御用邸は、海岸に続く砂浜から100m内陸に入った一帯の松林の中にある。空を飛べない限り、この細長く万里に続く松林の中に広大な邸宅があるとは誰も気づかない。


 劉操は首都京安の皇宮よりも、この御用邸の方がずっと気が休まることから年々ここに滞在する日数が増えていたが、ここでも彼の記憶が彼の心の平安を妨げるようになってしまっていた。そこで彼は別邸をつくる計画をしていたのだが、思いがけず北盧国が手に入ったことから北盧国の皇宮に住むつもりでいた。それなのに北盧国の国内が不安定で結局ここに舞い戻っていたのだ。


 とりあえず貴族の次男坊以下1000人が集められた劉操の私軍である黒雲軍の将軍となった白凛は、また一から素人を訓練する日々となった。彼女は毎朝日が登る前からひ弱な男達を海岸に集めランニングさせ、防具の付け方、武器の扱い方等手取り足取り教えていた。


 ちょうど白凛が長槍の扱い方の指導をしている時、早馬が「北方領土より報!」と連呼しながら海の御用邸に飛び込んできた。


 最近元北盧国という言い方に不快感を露骨に表す劉操の命で、元北盧国を北方領土と言換えるようになっていたが多くはまだそれに慣れず、早馬の声を聞いてもまだそれがどこなのか誰もピンと来ていなかった。


 しかし、早馬がまだ遠いところを走っていた時からその動きを横目で見ていた白凛は「北方領土より報!」と確かに聞き取った瞬間、長槍を持ったまま身体の向きを完全に小路の方に向け、首を傾げながら早馬が小路を主家屋に向かって駆け抜けていくのをジッと見送った。


「白将軍!白将軍!」


 自分が呼ばれていることでようやく我に返った白凛は、慌てて兵士達の方を振り向くと、もれなく白凛の持っていた長槍もやってきたので、兵士達は瞬間にヒッと叫びながら両腕を挙げて降参のポーズをした。


 白凛としてはただ振り返っただけなのだが、たまたま長槍を持っていたためそれも漏れなくついてきただけで、勿論剣先は彼らに全く向かってはいないのに、兵士達は失禁する勢いだった。


 それにしても貴族の次男坊以下達は始末が悪い。


 武術に興味がないだけではなく、ひ弱ですぐ泣き言を言う。


 彼らに比べれば徴兵された農民達の方がよっぽど兵としての心構えができていた。

 

 白凛は、久しぶりに劉操に殺された従兄のことを思い出した。

 彼は武官ではなく文官の次男坊で彼女をいじめはしたが、それでも武術の心得はあったし、自ら降参など一度もしたことはなかった。当時は彼を嘘つきで卑怯者と思っていたが、それでもここに集まっている誰よりもマシだった。思えば気骨のある貴族の大部分は劉操の前に立つこともなく、皆一族郎党11年前の政変後間もなく断頭台の露と消えた。


 そう考えてみれば、骨のある若者を今の貴族から見つけられるはずがなかった。


 白凛は長槍の端を地面に落としてはああと大きく息を吐いた。


 すると、先ほど目の前を通り過ぎたばかりの早馬が、今度は何も言わずに先ほどとは反対方向に彼女の後ろを通り過ぎていった。


 白凛は、馬の動きに合わせて顔を主家屋から門の方に回転させながら思った。


 ”北方領土からの報告って何だったんだろう?それにしても早馬だから早急に知らせなければならない重要事項だと思うのに、あっという間に戻っていくなんて。”


 頭を何回か振って白凛は今ここにフォーカスすると、気を取り直して訓練の続きを始めた。


 それは、その日の訓練を終えて武器庫に武器をしまいに行く途中だった。

 白凛が脇道を歩いていると、建物の横脇で宦官達がひそひそ話をしているのが耳に入ってきた。


「しかし、軍師将軍も哀れだな。」

「まったくだ。北方領土の広さは西乃国の比じゃないほど広大なのに。ゲリラの鎮圧だけでなく逃亡民衆の始末までしろって。身体がいくつあっても足りないよ。」

「本当にな。」

「大出世ってやっかみが凄いけど、こんな目にあうとな、、、出世も考え物だな。」

「全くだ。」

「失脚も時間の問題かもな。」

「あーいやだいやだ。」


 ”逃亡民衆の始末っていったいどういうこと?” 


 白凛は完全に歩みを止め宦官たちの噂話に耳を傾けていたが、李亮の失脚の可能性の話が出るといたたまれなくなってその場を離れた。


 考えてみれば、何度も助けてくれた彼の喉元に剣先を突きつけて脅したのが、彼との最後の会話だった。


 その日の晩、食事を終えた白凛は常義を呼び出し今日の早馬の話を探るよう指示した。


 ~


 中ノ国の北の国境は東西に500Km続く。


 国境の関所はちょうどその東西の国境線の中間付近にあり、地形的にはこの国境の唯一の谷合の場所だった。他の国境は高い山の頂が連なる所でおよそ人の往来はない。その中でも最も険しい切り立った岩肌のそびえるところは、中ノ国の首都:京陵から最も近いが、かなりの難所でここから国境を破るのはリスクが高すぎてまず有り得ない場所だった。


 それなのにこのところ、特にここを通って元北盧国、西乃国でいうところの西乃国の北方領土からの脱北者が後をたたなかった。


 勿論ごく普通の庶民の彼らがこんな技を自ら成し遂げられる訳はなく、彼らを手助けしていたのはゾロンとお陸だったのだが、その日もいつもと同じ手順で脱北者を誘導していたところに、突然前方から西乃国の軍隊がやってきて嫌がる難民を無理やり捕まえて中ノ国への流入を阻止してしまった。


 ゾロンは同胞への想いから深追いしようとしたが、そこは百戦錬磨のお陸がサッとゾロンを眠らせ、煙玉を地面に叩きつけてその場から消えてゾロンを救出した。お陸がゾロンを担いで京陵の杏林堂に戻ってきたのは夜中の2時のことだった。


 百蔵は予想通り脱走してどこかにいなくなり、宰相の娘仲邑波留の治療もようやく週1回の往診で済むようになって、杏林堂の外来患者中心にシフトしていた劉煌は、毎日毎日溢れかえる外来患者相手に疲れきっていた。そしてその日の真夜中、ゾロンとお陸が帰ってきたときも彼は2階の自室で爆睡していた。


 お陸はその姿を見て「全く、くノ一どころか忍者としても」と呟いた瞬間に、いびきの合間に「失格!って言いたいんでしょ」と言う劉煌の声が響いた。

「なんだ、お嬢ちゃん寝ていたんじゃないのかぇ?」

「寝ていたわよ。安眠妨害しないでくれる?」

「あたしらがこんなに早く帰ってきておかしいと思わないのかね。」

「思うわよ。第一このいびきは私のじゃなくて出かけているはずのゾロンのなんだから。」

「軍に阻止されたんだよ。」

「そんなの想定内じゃない。」

「中ノ国のじゃないんだよ。西乃国の軍だった。」


 その言葉に劉煌は今迄の余裕しゃくしゃくの横臥位から突然飛び起きると、お陸に掴みかかるようにして「劉操が北盧国人の流出を阻止したんだな。」と低い声で言った。


「そのようだね。これからは別ルートを開拓した方がよさそうだね。」お陸が冷静にそう呟くと、劉煌は腕を組ながら「今日入国に失敗した人達はどこに連れていかれたかわかる?」と聞いた。


 お陸は珍しく俯いて首を横に振った。


 ”ゾロンの命を守るので精一杯だったんだな。。。”


 劉煌は少し考えてから「今晩一緒に探りに行こう。」と一言言って、すぐにまた横になって寝てしまった。


 その日の晩、目の部分しか出ていない全身黒装束の姿になった大小2人組が、中ノ国国境にほど近い元北盧国の山麓に陣取られた西乃国国軍の基地に現れた。彼らは兵士たちの目を欺き基地内に侵入すると、本陣の陰に身を潜めた。


 本陣では、ちょうど使いが劉操からの回答を報告をしているところだった。

 劉煌とお陸が耳を澄ましていると、突然中から大きな怒鳴り声が響いた。


「何だと?全員殺せだと?それじゃ、何のために連れ戻したのかわからないじゃないかっ!!!」


 その声を聞いた劉煌とお陸は互いに目を見合わせるとさらに息を潜めた。

 彼らは目で話し合った。

お陸:『この声、、、おっきいお兄ちゃんの声に似てないかい?』

劉煌:『うーん。。。どうだろう。。。ただそっくりの声の人なだけかも?』

 ”だって李亮は西域との戦いの最前線にいるはずだから、、、” 劉煌はそう思った。


 劉煌が隙間から中を覗こうとした瞬間に、あたり一体に

 うおおおおおお

 という叫び声が、地響きを伴って響き始めた。


 その声で本陣から「ゲリラだ!守れ!」と口々に叫びながら人々が飛び出した。


 劉煌とお陸はすぐに後方にあった大きな木の上に飛び乗った。


 2人は元北盧国のゲリラと西乃国軍の交戦を上から眺めていたが、最後に本陣から飛び出してきた人物を見て思いっきり顔をしかめた。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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