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39歳からの幸せ探し  作者: 猫屋敷
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肛門括約筋

私は料理が好きだ。

一人前のおかずやお弁当を作るのはコストパフォーマンスが悪いので、平日に食べるお弁当は週末に一気に作り、冷凍している。味噌や梅干しは手作りだ。


私は家庭菜園も好きだ。

今の家のベランダは狭いのでたくさん作ることはできないが、大葉、バジル、茗荷、ミントなどちょっとしたものは自家栽培している。


本や美術館も好きで、1人の時間を楽しむことができる自立したアラフォー独身女性だ。


私がよく行くスーパーは、仕入れの都合によるものなのか、金土日に備えてなのか、木曜の19時半を過ぎると金曜までの賞味期限のお肉たちに割引シールが貼られる。


私はそれを知っていて、18時に定時ダッシュした後、会社の近くで担々麺と小ライスを腹に入れ、定刻の19時半にスーパーに到着した。


お腹が空いていると余計なものまで買ってしまうというのを長年の経験で熟知しているが故の完璧な計画だ。


割引され、国産鶏もも肉107円/g、アメリカ産豚ローススライス77円/g、国産豚ひき肉108/g、国産鶏の手羽元38円/gになっていた肉たちを合計で4キロほど買った。


スーパーからバスが出ており、バス停から家までは徒歩2分の距離なので、4キロの肉が重くても耐えられる計算だ。


バスの中でお得にお肉が買えたな、何作ろうかなんて思いながら携帯を見ていたら、聞きなれない停車駅の名前が聞こえてきた。


しまった。バスを乗り間違えた。

曲がってほしくない方向に曲がって行くバスに乗ってしまったようだ。


車ではよく通る道で、全くわからないという訳ではないが、歩くとなると多少距離がある。


バスを降り、諦めて歩き出したところで、ポツポツと雨が降ってきた。


幸いにも折り畳み傘を持ってはいたが、仕事用のビジネスバッグを肩にかけ、左手には肉4キロ、右手で傘というなんとも悲惨な状態だった。


せめて肉がなければ…とさっきまでの気持ちとは裏腹に肉の重さが突然憎くなってきた。(肉だけに)


歩き出して数分して、お腹がゴロゴロ言い出した。


長年の経験でこれは大の方だと分かった。


ここから家まで後、10分、15分ほどだろうか。


200メートル先にコンビニが見える。


ただし家とは違う方向だ。


私は家に帰ることを選んだ。


歩くスピードが速くなる。


肉が重いのを忘れるほどの便意。


やばいやばいやばいやばい。


そう思い始めた頃にはコンビニに寄るという選択肢も選べないところにいた。


やばいやばいやばいやばい。


でもここまではまだ経験したことのある便意だ。


でもやばい。


どうか引っ込んでくれ。そう願って歩き続けた。


小雨だったのをいいことにさっきまでさしていた傘を閉じ競歩ばりの早歩きで歩き続けた。


まだ家は見えてこない。


やばいやばいやばいやばい。


水道の口に指で押さえ、蛇口を捻り水を出した経験は誰にでもあるだろう。

押さえきれない水圧で指の隙間から水が飛び出して行く。


まさにそれが起こっていた。


出てる出てるで出てる出てる!!!!

出ちゃってるー!!!


心の中で、いや小さな独り言で叫んだ。


腸の黄色い声援を受けた大と肛門括約筋の戦いで、肛門括約筋が押されている。


これは未経験だった。


見知らぬバス停からの帰路は、左手には住宅街、右手には割と大きな竹藪?空き地?が広がっており、下り坂だった。


人通りは少ないものも、猫背のサラリーマンを追い抜いたのは覚えている。


通りがかったワゴン車が住宅の車庫に駐車をしていたのも記憶している。


近くの家の人にトイレを借りるか?

インターホンを鳴らして出てこなかったら、終わる。

説明に手間取っても終わる。

というかもう漏れ始めてるので、すでに終わっている。


竹藪の中でするか。

それって人としてどうなの?

誰が通ったらどうしよう。

しかもお尻を虫に食われそう。


どうするどうするどうするどうする。


肛門括約筋はもう限界、奴らに押されて土俵際ギリギリだ。

気を抜いたら一瞬で全て出る。


やばいやばいやばいやばい


どうするどうするどうするどうする


絶対に家まで間に合わない。


こんな経験したことないけど、それだけは分かる。


やばいやばいやばいやばい。


顔を歪ませ、小声で叫び続けた。


ふと左手空き地、右手竹藪、街灯無し。という最も適した場所を見つけた。

周囲に、歩行者、車無し。


私はズボンとパンツを一気に下ろし、竹藪の手前にある溝にお尻を向けて、あたりを見回せるよう住宅街側を向いてしゃがみ込んだ。


予定していた大から予定していなかった小まで一気に済ませて、どうせパンツにうんこついてるからもうどうでもいい!という気持ちとお尻を綺麗にしたい気持ちで葛藤していたところで、咄嗟にウェットティッシュがあることを思い出し、お尻をさっと拭き、その場からものすごい早さで立ち去った。


自分はヤバいやつだ、変態だ、スッキリした、情けない、とんでもない、便意ないってありがたい、当たり前じゃなかった。


味わったことない複雑な感情と共に、足早に帰宅した。


家に帰ると3匹の猫が尻尾を立てて歓迎してくれたが、それに構う余裕はなく、トイレに直行し、パンツを洗い、チャットgptに今の出来事を報告した。


その日は、なにもできなかった。


私は自分のことを計画的な性格だと思っていた。

想定していることもそう外れていないという自負もあった。


でも違った。

私の肛門括約筋は、衰えてきている。

40なりの肛門括約筋なのだ。


トイレに行きたいと思ったら、迷わず1番近いトイレに行く。


これができて初めて丁寧な暮らしをしている素敵な独身アラフォー女性なのだと大変勉強になった1日であった。


なにが丁寧な暮らしだ。計画的だ。とんでもない。こんなの冗談でも人に言えない。


皆さんもお気をつけて。

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