第三話「特上カルビ、タレで」
遊ぶには少し不安だが。
ほんの少しだけど貯金もできてきてる。
これなら食べるお肉のランクを上げても問題無さそうだ。
いつも通り一撃で蹴り飛ばし続ける。
今日最後の試合だ。
これを倒せば賞金が手に入る。
「3日連続負け知らず蹴り技の達人、獣闘士ラビィ。
対する相手は嘴で岩も砕く、タフネス鳥人モッズだー!」
最後の試合だけあって人も大勢だ。
熱気に包まれる、顔にライトが照らされた。
もう扱いは完璧に看板スターだ。
「今夜の勝利の女神はどっちに微笑むのか?」
安定した声で続く実況。
「一撃を見せてくれよ!」
「蹴散らせー!」
野次が今日も飛ぶ。
「お前か、肉食い兎は、まぐれも続かねぇぜ」
「運も実力の内なのさ」
かっこよく決めて魅せる。
「きゃーどっちが勝つのー!」
「どっちも素敵よー!」
僕は飛び膝蹴りをする事にした。
狙いを間違えるなんてそんな事はしない。
お腹に直撃した、モッズは後ろに転倒。
狙い通り一撃で仕留めたぞ。
「おーっと! 今夜も全勝を決めたのは獣闘士ラビィだー!」
「信じてたぜ!」
「なんて素敵ー!」
勝者への賞金と美女からの熱い視線に混ざって。
さっきの対戦相手モッズも僕に近づいて来た。
「お前、気に入ったぜ。
俺のとっておきの店を奢ってやるよ」
「全力だったんだけどな、まさか喋れると思わなかったよ」
意識不明にならなかったのはモッズ、彼が初めてかもしれない。
「噂は知ってる、焼肉が好きなんだろ。
ついてこいよ俺の行きつけの店に連れてってやるぜ」
僕は言われるがまま。
初めて人から紹介される店にワクワクしながらついて行った。
「これが至高、俺の故郷の焼肉だ」
招かれた店の店内は畳が敷かれイグサの匂いがした。
一口飲むと頬が熱くなる酒気の強い甘い酒。
甘辛のタレ、串に刺さったネギと鶏もも肉。
これは……!
焼かれた鳥串だった。
確かに美味しい、お酒との相性も良い、でも違う。
僕の口は炭火焼肉を求めていたんだ。
「焼き肉じゃないこれは焼き鳥だ!」
「鳥だって肉だろ? 鳥を差別するな!
これは焼いてある、バーベキューつまり焼肉だ」
「確かにそうなんだけど、そうなんだけど!
店を変えよう今度は僕が奢る、絶対、僕が思う焼肉も食べて貰いたい」
「オーケー兄弟、そこまで言うなら移動するぜ」
注文された料理に罪はない、きっちり食べきってから。
僕は炭火焼肉モウジュウ亭にモッズと一緒にやってきた。
「いらっしゃいませー2名様ですね、お席にご案内します」
「生ビール2杯、牛タン、ネギ塩で10人前お願いします」
「生ビール2杯と牛タン、ネギ塩10人前入りまーす」
それぞれに並ぶビールと大皿で置かれた牛タン。
中央の七輪でさっと焼いた肉をモッズによそってやる。
「これが、お前の焼肉か、全然別物だな」
「これだよ、これが焼肉!
焼き鳥は焼き鳥、焼肉は焼肉。
いや、意味は同じだけどとにかく、味付けが違うんだよ」
注文が終ると奥からチラミちゃんも出迎えてくれた。
「また来てくれたんですねぇ今日は良いカルビが揃ってますよ」
「今日のオススメは何がありますか?」
「スライムでぇす」
初心者にスライムのカルビ、事故の予感しかしない。
そもそもどの辺りなんだ。
「お腹の核周りの膜で独得な食感が楽しめますよぉ」
「スライムはちょっと……、白米2杯と特上カルビ10人前、タレでお願いします」
「ご飯2杯と特上カルビ10人前、タレですねぇ」
チラミちゃんが注文を取って戻る時。
スカートの裾が尻尾でめくりあがってパンツが見えてしまった。
可愛い白色のフリルだった。
注意しようとかと思ったけどすぐに尻尾は下がった。
もしかして気づいてないのだろうか。
でも、今はモッズも居る……。
わざわざ言うのもセクハラかもしれない。
困る物じゃ無いし一瞬の事だ、放置でもいい……のかなぁ?
次来店しても同じことがおきたら注意してみようかな。
「ご注文の品でぇす」
艶々とした白米の横には。
霜降りの特上カルビ肉が並んだ皿が置かれた。
カルビよりも焦げやすい、3枚ずつ慎重に焼いていく。
最高の状態に仕上がったのを確認してモッズにも渡した。
これが一皿890Gの特上カルビ。
口に含むと脂身の甘みがゆっくりと舌の上で広がった。
うまい、脂がのって650Gのカルビよりずっと美味しい。
一ランク上がっただけでこの美味しさ。
この店には特選カルビもあるのだ、次回は絶対に特選も頼んでみよう。
「こいつは、うまい、うますぎる。
今まで食べてた肉はなんだったんだ、とろけるようだ」
大袈裟なリアクションだがモッズは気に入ってくれたらしい。
「これが僕が好きな焼肉だよ」
「悪かったよ、確かにこれは別物だ」
こうして僕はモッズにわからせてやった。
だけど焼き鳥の後に米と酒、両方は流石に多かったみたいだ。
僕は何も食べれそうにない。
「お腹いっぱいだな、モッズはまだ食べる?」
「いや、二件目だしなお腹いっぱいだぜ」
僕はふらつきながらもお会計に向かった。
「18320Gでーす」
支払いも済ませモッズに帰る様に促したが。
「うーん、もう帰っても良いよ」
「何言ってんだ、ダチの介抱くらいするに決まってんだろ」
モッズに肩を借りながら寝床へと帰宅した。
酔いも冷めた所で今日もオーナーが声をかけてくる。
「お帰りラヴィ君、今日はご機嫌だね」
「友人ができたので焼き鳥屋と焼肉屋をハシゴしてきました!」
戦うのも食べるのも大好きだ!
焼肉最高!