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第二話「とりあえず、生」


借りている寝床で目を覚ます。

堅剛な石造りの牢屋のような部屋だが。

逆にカッコいい気がして僕は大好きだ。


この治安最悪なイカれた街でも。

来たばかりの日とは違い、僕はすっかり有名人だ。

嬉しい事に女の子達が僕も素敵と囁くのを聞いてしまった。

暴力だけが支配する。

ここは勝者だけが全てを手に入れられる理想郷(ユートピア)だ。


もう少し資金が貯まったらオーナーの所の。

闇カジノで遊ばせて貰うのも良いかも知れない。

当面は焼肉に費やしてしまう予定だけれど。


今日も試合がはじまった、僕の資金源……もとい対戦相手だ。

この戦いはルール無用で行う、動けなくなれば終わり。


「無敗の獣闘士ラヴィに勇猛果敢にも挑む。

今日の対戦相手はトイガーのニャンコ・シャンダー。

果たしてラヴィは軽やかな身のこなしについてこれるのか?」


「余裕ですにゃ、トラだって倒せましたにゃ」


「おっと、手から爪をにょっと出した、ニャンコ・シャンダーはやる気だ!」


「いけー、目を狙え!」


「脚なんてダメにしちまえ!」


「昨日は遅くてつまらない試合だったにゃ、今日は違うにゃ」


「僕だって負けないからね」


「きゃーどっちが勝つのかしら」


「きっとラヴィ様よ」


ニャンコ・シャンダーが僕に向かって直線状に走り出す。

僕はカウンターキックをお見舞いした。

顔面に炸裂した蹴りにニャンコ・シャンダーは鼻血を出して倒れた。


その後も連勝を決め込み今日も絶好調、僕はここでも負け知らずだ。

これで今日の賞金は僕の物。

当然、資金が手に入ったら向かう場所がある、焼肉屋さんだ。


店先から肉が焼ける焼肉の良い匂いが漂ってくる。


初来店で酒を飲むと味がわからなくなりそうだったが。

昨日の感じだと絶対米と酒があったほうがいい。

肉を5人前減らしてお酒を頼もう。


今日も昨日行った焼肉屋に行く、出迎えてくれたのは。

この炭火焼肉モウジュウ亭のチンチラの獣人チラミちゃんだ。

昨日は居なかったが僕が見た雑誌に載っていた看板娘だ。


つぶらな瞳に丸い大きなお耳が本当に可愛い。

ちょっとタイプかもしれない。


彼女は穏やかに、お一人様用のテーブル席に案内してくれた。

この個室のような場所は一人焼肉にも配慮された空間だ。


「とりあえず、生ビール、牛タンをネギ塩で5人前下さい」


「かしこまりました、少々お待ちくださいねぇ」


届いたビールを一口、七輪の熱気で蒸し暑い。

店内でキンキンに冷えたビール、相性最高。

ほろ苦い味わいと麦の風味、店で飲むのは格別だ。

のど越しの良さに思わず飲み干してしまいたくなる。

気持ちをぐっと我慢して半分飲んだ。

これはお米はやめてオカワリを貰いたい。


お品書きを見てみると沢山のホルモンの名前が並ぶ。

今日はお酒と一緒に楽しんでみるのも一興かもしれない。


「ミックスホルモン5人前とオークのハツ3人前。

それから牛ハチノス1人前下さい、あとビールもう一杯」


「はーい、ミックスホルモン5人前、オークハツ3人前。

牛ハチノス一人前とおビールさんですねぇ」


ミックスホルモンは恐らくシマチョウだ。

なんのモンスターか不明だったけど。

オススメと書いてあったから美味しいに違いない。

とりあえずハツにハズレは無いだろう。


気が大きくなった僕は普段頼まない。

内臓にも手を出すことにした。

試しだから一人前にしてみた。

ハチノス、どんなものだろうか。


「ご注文の品でぇす」


ホルモンミックスのシマチョウは。

両面少し焦げるくらいによく焼いてから頂く。

表面から油が(こぼ)れそうだ、カルビよりも強い歯応え。

脂身がぎゅっと濃縮されているのに臭みが一切ない。


ハツは強い歯応えだがシマチョウと比べてしまうとあっさりしている。

レバーに近くタンと比べてしまうとパサパサしていた。

少し風味が独特だがその癖もビールと相性が良い。


最後はハチノスだ。

見た限り本当にハチノスの形状だ。


軽く焼いて食べてみよう。

ポスポスとしてスポンジのような食感。

これは……大失敗だ僕は得意ではない。


僕は涙目になりながら残すのも申し訳なくて飲み込んだ。

ハチノスを頼むのは次から絶対やめよう。


慌ててサービスの水で飲み干したらお腹が膨れてしまった。

今日はもう帰る事にしよう。


「お会計9660Gでぇす」


「ありがとう、チラミちゃん、これお代」


僕は酔いが回っていたのか足を滑らせ渡そうとした金貨袋を持った手が。

チラミちゃんのささやかな胸に埋め込まれるように当たってしまった。

むにむにと柔らかな弾力が手の甲に伝わる。


「きゃあ、なにするんですか、セクハラはめっです」


「うわっ、本当にごめん」


「もう仕方ないですねぇ、一回だけなら見逃してあげます」


チラミちゃんのくるりんとした尻尾が膨れ上がり臨戦態勢に入っているが。

お会計を無事に済ませられた。

この店がこの辺の焼き肉屋で一番美味しいからこんな事で入れなくなるのは。

とっても困る、見逃されてよかった、なんとか助かった。


寝床に戻って来た、今日もオーナーが僕を出迎えてくれる。


「君は連日焼肉だね、ラヴィくん」


「勿論です、資金尽きるまで通いたい!」


これこそが僕の生きがいだ!

焼肉最高!


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