第一話「まずは牛タン、ネギ塩で」
僕は兎の獣人、ラビア・キャロッツ、通り名は獣闘士ラヴィ。
6人兄弟の末っ子。
ご飯だっていつも取り合いだ。
そんな僕も大人になった。
兵士だった僕は拳闘士にスカウトされ。
公営のコロシアムで荒稼ぎを続け、1位で無敗。
1年で殿堂入り、王都で僕の顔を知らぬ者は居なかった。
そして僕は職を失った。
勝ち続ける闘士は賭けにならないからだ。
ファイトマネーで荒くなった金遣いのせいだが。
僕は兵士に戻るのが不服だったから拠点を移し。
新天地で裏カジノのオーナーから闘技場ファイターを任された。
どちらかが倒れるか最悪死ぬまで戦う場所だ。
それでも僕の姿を見て下らない喧嘩を売って来る者がいる。
「ウサギちゃん、家に帰るなら今だぜ」
「それは僕の事かな?」
「当り前だろ、やめとけよ、ライオンに勝つなんて無理、常識だろう?」
「それはどうかな、戦ってみなくちゃわからないよ」
「おい、そのウサギはやめろって、そいつは王都で無敗の」
僕はライオンの頭目掛けて軽く蹴り飛ばした。
「ウサギ様らしいからよ……あー、手遅れかご愁傷様」
トラの獣人が嘆く横で人間の酒場の亭主が僕の肩を叩いて言った。
「ここで暴れないでくれないか」
「ごめんよ、弱そうだからついね」
お金にならない無駄試合だ、僕だってこんな真似はしたくない。
見慣れない獣人だったが。
どうやら今夜の対戦相手の一人だったらしい。
度胸試しの参加だったようで相方のトラの獣人は棄権。
今日は違う相手が組まれるらしい。
「王都からやってきた無敗の獣闘士ラヴィ対する相手は。
地元では負けを知らない、率いる仲間は数知れず狼男のワン・コサンだー!」
試合を盛り上げる実況が続く。
「両者、初対戦、生き残れるのはどっちだ?」
「兎なんてやっちまえー!」
「血を見せろー!」
野次が大量に飛ぶ、王都よりも観客も過激だ。
「ハッ、うさぎちゃんよぉ、帰るなら今の内だぜぇ?」
「僕は帰らないよ」
「キャーワンさまー素敵ー!」
「ワン様ーこっちみてー!」
僕は助走を付けて頭部を全力で蹴り倒す。
一瞬で狼男ワン・コサンは動かなくなった。
その後の試合も全て一撃で仕留める。
僕は賞金を手に入れた。
今日は初試合だから多くはない、それでも嬉しい重み。
このお金を持ってさっそく向かう場所があった。
炭火焼肉モウジュウ亭だ。
ここはどんな肉も出してくれる魔法のお店。
もちろんドラゴンだって扱ってる。
どんな注文も許されるらしい当然ワンドリンク制でもない。
僕にとっては理想的な夢のようなお店だ。
「いらっしゃい、ご注文は」
「牛タンを下さい10人前」
「ネギ塩、レモン、特性タレがございますが」
タンでタレだって?
どんな味か気になるがここは……。
「ネギ塩で!」
次回の楽しみにとっておこう、今日は無難に食べよう。
「牛タン、ネギシオ10人前、オーダーはいりまーす」
故郷では毎食ニンジンだった。
意外に思われるかもしれないが僕はニンジンが嫌いだ。
届けられたタンはピンク色で均一な薄切りだ。
別容器のネギ塩からはごま油の香りがした。
早速片面をさっと焼く、多少生焼けでも自己責任だ。
完璧な焼き加減を目指して見守る。
七輪の上で少しずつ焼ける肉が愛おしい。
両面、網の焼き目を付けたら、ネギ塩を乗せて頂く。
美味しい! 一皿750Gはするだけあった。
これだけで7500Gが吹き飛んだが安いものだ。
酒も米も要らない、純粋な肉の旨味だけを求めていた。
獣人とはいえ兎は草食動物だ、僕の消化器官は耐えられない。
後で腹痛に悩まされるのは間違いないが。
この味を知っていて、そんな事程度で食べないなんて出来るわけがない!
お腹が空いていたせいで一瞬で食べきってしまった。
次は、野菜なんて冗談じゃない、当然牛カルビだ。
タンはどの店でも牛だが。
この店のカルビは牛だけじゃない。
モンスターもあるから種族を指定する必要がある。
「牛カルビ10人前お願いします」
「タレ、プレーン、塩、味噌どれにしますか」
「タレでお願いします」
「牛カルビ、タレ10人前、オーダーはいりまーす」
よくみたら特上もあった。
予算の問題もある、今回は普通のカルビにしよう。
カルビの油を燃料に火が昇り。
煙の中から焼けた肉が見える。
焦げないように急いで引っ繰り返しながら焼いていく。
一枚の脂身の比率が半分のカルビは、とても僕好みだった。
噛めば噛むほど染み出る肉本来の油の甘み。
一口で終わらない、心地よい噛み応えだ。
高い肉特有の溶ける様な食感では無いがそれが良い。
タレの絡んだ脂身の味に白米が恋しくなったが。
米を食べたら肉が食べられなくなってしまう。
ここの付けダレは甘めだ、単体でも十分食べれる。
米の誘惑を断ち切り肉を食い続けた。
一皿650Gだがそれ以上の何かがある。
この店は当たりだ。
20人前の肉を平らげて支払いを済ませる。
14000Gでこれだけ食べられるなんて予想以上に良い店だ。
僕は焼肉屋モウジュウ亭を後にする。
今借りている寝床に戻ると。
雇い主である闇カジノのオーナーが出迎えてくれた。
「ラヴィくん今日はどうだったかね、明日も出場できるかな?」
「勿論です、オーナー、明日も勝って焼肉を食べるぞ!」
僕はご飯の為に生きている!
焼肉最高!