8.面接と孤独
色々と修正したため、投稿遅くなりました。
すみません
三日間くらい同じような日々が続いていた。
ごはんを食べさせてもらって、それから甘やかしてもらう、そんな日々だ。
今日もおいしいごはんを食べさせてもらって、ソファで一緒にテレビを見ている。
僕は青井さんの足の上に座って、すっぽりとおさまっている形だ。
「ねえ、ぼく明日面接なんだ」
僕を撫でてくれている彼女に向かってそう言う。
「伊織ちゃんなら大丈夫だよ」
彼女はテレビからこちらに視線を移し、そう微笑む。
「えへへっ、そうだよね」
僕も少し笑って、テレビに視線を戻す。
青井さんにそう言ってもらうと安心する。
彼女の言うことはいつでも正しいように思えるからだ。
テレビでは飲み歩きの番組が放映されていた。
いじられキャラの芸人が自虐して笑いを取っていて、周りのガヤも大爆笑だ。
ぼーっとその様子を眺めていると、
ふー
突然耳に息が吹きかけられた。
「ひうっ」
驚きで変な声がでるとともに体が少し跳ねる。
「びっくりした?」
青井さんはいつもとなんら変わらない表情で尋ねてくる。
当然びっくりして、心臓が早く脈打っているのを感じる。
むしろびっくりしすぎて返答ができない。
そのまま僕が黙っていると、
「いやなことがあっても逃げちゃだめだよ。我慢できなかったら私のところにきて」
彼女は僕の目を覗き込むようにして、そう言った。
その目は吸い込まれそうな黒色で、有無を言わせない魔力でも持っているように感じられた。
「うん」
唐突に言われたものだから、青井さんの言うことがあまり理解できていなかったが、そう短く返事をした。
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緊張感からか、おなかが痛い。
いよいよ面接の日を迎えてしまった。しかも、応募した4つすべてが今日だ。
青井さんに予定があって会えない今日に、全ての面接を入れた。
働かないと家賃が払えないし、なによりも家を追い出されてしまうと、青井さんと会えなくなってしまう。
やるしかない。やるしかない。
自分に何度もそう言い聞かせて家を出た。
まず向かったのは、軽作業の工場だった。
どこが勝手口なのかわからず、立ち尽くしていると、
大柄な男性に声をかけられた。
「君、面接の子?」
「は、はい」
「こっちついてきて」
この人が面接官だろうか。
穏やかな顔立ちで、声音も柔らかいが、
180?はゆうにあろうかと思われる巨体は、ただ歩いているだけでも威圧感がある。
「どうぞ、座って」
「し、失礼しまふ」
緊張が明らかに声に出てしまう。
しかも、噛んでしまった。
かなり幸先の悪いスタートだ。
余計に緊張感が高まる。
その後、履歴書を渡してからはほとんど記憶がない。
ただただ緊張したのを覚えている。
他に覚えていることと言えば、面接官の男性の名前が川久保啓ということくらいだ。
最後に退出するときなど、足が震えすぎてまともに歩けてなかった。
他の3つの面接も同じような調子だった。
緊張のせいでほとんど覚えていないので、夢でも見ていたかのような気分だ。
ただ、鞄の中に入れていた履歴書はすべてなくなっているので、現実に僕は面接をやり遂げたのだろう。
時計をみると、8時を過ぎたころだったので、
晩御飯を買うためにコンビニへ立ち寄ることにした。
かごを手に取り、商品を物色する。
だが、買うものはいつも大体同じだ。
ポテトチップスにポップコーン、アメリカンドック。
レジは混みあっていて、長い列が形成されていた。
列に並ぶと、横にはお酒のコーナーがあった。
無意識にごくりとつばを飲み込む。
レジの方に目をやると、若い店員が一人、いかにも気怠そうに対応していた。
買えるんじゃないか。
ふとそう思ってしまったが、急いで頭からその考えを消去する。
僕は青井さんと約束したのだ。
指切りをした。
だから、もうお酒は飲まない。
飲まなくても大丈夫。そう自分に言い聞かせる。
そのまま食べ物だけを会計して、コンビニを後にした。
僕は帰宅後、コンビニで買ったものを食べていた。
前までは美味しかったはずなのに、なにかもの足りない。
味が薄いとか量が足りないとかじゃないけれど、満足感と言えばいいのかそういうものが欠けている気がする。
好物のアメリカンドックを食べても、満たされない。
きっと青井さんとの食事を味わってしまったからだ。
彼女と過ごしたのは、たったの数日間のはずだ。
僕は今までの16年間、いつでも独りで頑張ってきたのに、いまはこの孤独が辛い。
孤独を紛らわすために、他のことを考えようとする。
しかし、すぐに頭に浮かんだのは今日の面接のことだった。
緊張のせいで全然覚えていないが、多分落ちているだろう。
いままで人手不足のところでしか採ってもらったことがないし、面接だってうまくいったことがない。
なにせ、僕は人の顔をまともに直視することしかできない。
まともに人と会話することだってできない。
正確だってなよなよしている。
自分の嫌な部分がぼろぼろと頭に浮かんでくる。
自身が負のスパイラルに陥っていることを自覚し、抜け出したいが自力で抜け出すことができない。
どうにか他のことを考えようとしても、自分の欠点が次々と脳を埋め尽くすのだ。
視界が回ってきて、呼吸が乱れて手足も震えている。
頭を空っぽにさせないと、自分が壊れてしまう。
脳が、そう危険信号を発している。
それを認識できたころには、いつのまにか冷蔵庫の前に立っていた。
手にはからっぽの缶があって、口にはアルコールのにおいが残っていた。