3.やめどき
一年以上ぶりに更新しました。
結構書き溜めも作ったので、読んでいただけるとありがたいです。
「はあー…」
陰鬱な気持ちだった。
現在は、朝の10時。
昼からアルバイトがあるので、そろそろ準備をしなければならない時間帯だ。
昨日はアルバイトが無かったので、青井さんに謝罪した後、ネットサーフィンをしながら寝た。
中学校を卒業してからは、一人暮らしを始め、アルバイトで、なんとかこんな生活を続けている。
もっとも、どうしょうもなく仕事のできない僕は、いままでいくつかのアルバイト先を転々とし、現在、某牛丼チェーンで働いている。
ひどく人手不足な店は、僕のような人間でも必要らしく、一応半年ほどは、続けられている。
「どーせ、今日も怒られるんだろうなぁ」
行きたくないし、働きたくない。でも、生活を続けるためには、やるしかないのだ。
やるしかない。
そう自分に言い聞かせ、荷物を鞄に詰め始めた。
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牛丼を置きに行く席を間違える。
「違う!こっち!」
パートで働いている主婦の大きな声。
トッピングを間違える。おそらく、7,8回目のミス。
「何回言ったらわかるんですか….」
大学生の先輩の心底うんざりしたような声。
僕は何回も謝る。
「す、す、すみません」
その声は小さい。
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また、いつものように怒られた。
帰路を歩きながら、溜息をつく。
お昼時の牛丼チェーンは、戦場のように慌ただしく、殺伐とした状況になる。
僕だって、色々覚えようとか、考えて立ち回ろうとか、自分なりに頑張っているつもりだ。
でも、いざ仕事が始まると、情報が多すぎて、パニックになって、ミスを連発してしまう。
なんだか、情けない気持ちになってきて、涙ができそうになる。
でも、溢れそうな涙を、頑張ってこらえる。
泣いてしまうと、心が折れてしまう気がするからだ。
今日も、お酒を飲もう。
お酒は、嫌なこと忘れられるし、感情が解放できる感じが、心地良い。
もう日が沈み、あたりが暗くなったころ、自宅に到着した。
つまみになるようなものが家にないことを思い出した僕は、荷物だけを家に置いて、コンビニに行くために、エレベーターのボタンを押す。
スナック菓子を買おうか、好物のアメリカンドックを買おうか、あるいは、両方かってしまおうかと、うきうきとした気分で、エレベーターが来るのを待つ。
エレベーターから出てきたのは、新しい隣人の青井さんだった。
「こんばんは」
青井さんは、柔らかな笑みで、僕に挨拶をした。
透き通るような声だ。
「こっ、こんばんは」
僕は、どもりながらも、挨拶を返す。
目を見ようと思ったけれど、できなくて、うつむいてしまう。
青井さんは、僕の横をゆっくりと歩き去り、家の中に入っていった。
昨日のこともあり、挨拶しただけでも緊張した。
手汗が、止まらなくなっている。
「あ」
僕は、あることに気が付き、声が漏れ出た。
「そういや、お酒飲んじゃダメじゃん」
昨日は見逃してもらったが、今日騒ぐとどうなるかわからない。
僕は、お酒を飲むとおそらく自分が制御できないことを自覚していた。
お酒をやめるきっかけがなかったが、隣人の入居は、おそらく神様が僕に与えたきっかけなのだ。
つまり、今日からがやめ時だ。
そう自分に言い聞かせ、踵を返し、僕も家へと戻った。