2.千鳥は困惑する
「私が、隣国のお祝いの席に?」
久しぶりに一緒に取る夕食で、ルモンドさんから開口一番に言われたのは意外な内容だった。
「フランネール王国でしょうか? あ、ラピラス公国もですね」
隣国といっても大きな川や険しい山岳地帯を超えねばならないはず。
「フランネール王国です」
フランネール王国というと。
「気温が高く雨季があり、特産品は栄養価の高い赤い宝石と呼ばれている果実のラスと金の鉱山があるので装飾品も輸出されている。あとは、国民の男女は二年間は軍に必ず入らねばならない」
千鳥はこんな感じだったかなと食べる手を止め独り言のように口に出せば、正面に座っているルモンドさんは、少し表情が柔らかくなった。
「概ねあっています。では、我が国との関係はどうでしょうか?」
なんだか今夜のルモンドさんは、騎士様というよりルモンド先生だなぁと思いながら答えていく。
「えっと、私がいさせてもらっているラードリー王国とフランネール王国は過去に戦をした事があり、長期間の争いの後に、停戦になったけれど」
私は、メインディッシュの魚の皮を慎重に取り除きホワイトソースを絡めながらオブラートに伝えるべきか悩んだものの。
「仲はあまり良いとは言えない。けれど現国王と我が国の陛下とは互いに若い頃に短期間の留学をしており犬猿の仲のわりに、上手く交流を重ねている」
でも、タダの仲の良さではない。
「ラードリーには魔法を蓄積できる魔法石が採れ、山々から流れる水と海があるので淡水でのみ生息可能な貝の養殖も大切な収入源であり、それらを上手くフランネールに輸出し、輸入は、先程挙げた果実と金属類であり、取引は順調である。あれ?」
まだ食べ終えてないのに食後の紅茶と恐らくアップルパイにそっくりなケーキが右端に用意された。
「お茶は保温されておりますので、少しの間は温かい状態です」
食事を上げ下げしてくれる、料理を作ってくれているダンさんの奥さんはニッコリ笑うと部屋から出ていってしまった。不思議だなと首を傾げていると、周囲にあの氷の梅模様が現れ、消えた。
「言葉を聞き取れないだけだと口元で読める者もいますので。いえ、念の為なだけですよ」
ようは音消しの結界らしい。
「危険性はないのですが、私があまり人に聞かれたくないだけです」
怖がらなくて大丈夫ですよと宥められましたが、気になります。じっと見つめ続ければ、ハァとため息を零されました。
「実は、先程の話に付け足しがありまして。以前、少し話にでましたが、私が千鳥さんをどうしても手に入れたくて裏から手を回し、無理やり諦めさせた相手がフランネール王国の第一王子グレインです」
えっ、王子様?
「恐らくとても根に持っていると思われます」
私は、平凡な人間なのになぜだろう。日頃お世話になりっぱなしのルモンドさんの役に立てそうで嬉しいかもと思ったのもつかの間である。
「私が行くことは決定なんですよね?」
陛下から言われたという時点で拒否権はないよね。
でも、ルモンドさんからは、明らかに私を同行させたくない匂いがプンプンしています。
……私は、どうしたら良いでしょうか。