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【キング】わたしはまもので、あいつはひとで

 私はどうとでもできた。

 これを殺すこともできたし、何も言わずに別の場所へ行ってしまってもよかった。

 しかし、タカハシはここの城主との信任の上で居候の身である。

 城主とのいざこざを起こせば、住処を失い、か弱な人間の身であるタカハシは面倒なことになるに違いない。

 病気になるだとか、そうなって人の群れから追われたりだとか、そして食べ物を得る手段を失って死ぬとか、まぁ、そういったことにならないとも限らない。

 穏便に済ます必要があると判断する。


 日の光の角度から察するに、もうタカハシは朝食を済ましてるかもしれない時間だ。

 タカハシは兎角、レサンが少し可哀想だし、その後にはカーチの相手をしにいかなければならないし、ネスマーについたからにはタカハシだけでも送っていかねばならないし。

 つまるところ、私はとても忙しい。

 勝手にタカハシに忙しくさせられているのだが、忙しい。

 簡便に済ます必要があると判断する。


 基本的に隣の彼は動物型である。

 どんな魔術を使うか不明だ。しかし、私の居場所を瞬時に察して、気配もなく忍び寄る魔術は使えないと踏んでいい。

 となれば、ここに前からいたはずだ。

 日当たりがいい……そう、多分、陽を浴びにきていた、とか。

 だから、言うべきことは。


「じゃま、した、か?」

 まぁ、タカハシの言うところの完璧だろう。

「貴殿の帰りを待っていた」

 タカハシの言う完璧は4割がた完璧ではない。

 そう言うことだ。


 人間であれば、動物型であれば何かしらの動作をするのだろう。

 私はそれを完全に理解することはできないが。

 それは、時には動揺と呼ばれる。今にふさわしいだろう。

 ちなみに、場合によっては親愛の印となり、場合によっては敵対の証になる。

 兎角、複雑なものなのである。


 ゆえに、私は、何もしない。

 動かない。

 無難な選択をする。


 帰宅、そして留守までバレているとなると厄介だ。

 そして、こうして、サシできてるとなると、私だけに話があることになる。

 ふーむ。面倒だ。

 物分かりの悪いタカハシの理解を促すために追いかけっこをしている方がマシだ。


 あぁ、そうだった。

 何か反応を返さないと聞いているかどうか分からない、らしい。

 まぁ、無難を攻めよう。

「なにか、ようが?」

 あるから待っていたのだろうが。


「お前はなんのために人間に仕えている?」

 仕えていると言うのは語弊があるが、修正をしていると手間取りそうだ。

 率直に本題にきた。

 おそらく。


 人間流に、本日はお日柄がとか、あそこの誰それがとかやっていると、特に異種間では話が通じない。

 一方が事の了承を得たと思い、一方がただの世間話と思うなどはありふれたことで。

 だから、単刀直入が一番手っ取り早い。


「たかはし……けんごが、しぬのは」

 かつて言葉が交わした人間が死ぬのは。

 たとえ、かつて敵同士だったとしても。

 私の自由を彼が奪っていたのだとしても。

 それでも。

「かなしい」


 まぁ、タカハシに思うところはある。

 植物の神に騙されていた底なしのお人好しの馬鹿だ。

 それが、「異世界はもう7回目だ」とかいつも笑ってばかりいる。

 基本的には他人に下手に出るし、かと思えば戦闘狂いな命知らずだ。

 誰かが面倒を見なければならない。


 彼もそれがわかっていたから、私を起こしたのだろう。

 目論見が異なることもあるとわかっていながら。

 目下の私の目論見は、早急に王国の危機を収束することと、タカハシの寿命を伸ばすこと、この二つである。

 特に後者は重要だ。なんとかしなければ私はこの世界に一人残されることになる。


 その返事に雷狼が納得したかどうか、私には分からない。

 熱があるから、横に彼がいるとは知れるが、その感情まで知る術はない。

 怒らせたら魔力がみなぎったり暴れたりしてわかるだろうが。

 さて。どうしたものか。


「たかはしと、わたしは、てきどうしだった」

 ちょっと喋ってみよう。

「わたしたちは、ながいあいだ、たたかってきた。たたかいは、ぎむで、せきむだった。しかし、どうじに、だせいでもあった」

 言葉を作るのは、疲れる。

「たかはしが、きた。たたかいは、かわった。わたしは、だつらくした。かれに、まけた」


「まけたから、かれの、いのちに、せきにんが、あるわけではない。つかえている、つもりも、ない。ゆうじんとして、たがいに、かこを、しるものとして」

 なんと続ければいいか迷った。

 一つ、一つ、私は音を作る。

「たがいに、たすけあって、いきられれば、それで、いい」

 彼は何も言わない。


 一つ。雷狼も私と同様に喋りが不得意な種である可能性。

 違う。決闘の場では普通に喋っていた、はず。

 太陽が徐々に登っていく。

 無駄にしている時間は私にはない。


「たかはしの、もとに、もどらなければ」

 タカハシは兎角、レサンは待っているはずだ。

 返事はないが、敵意も感じなかった。

 私は礼儀として、瞬間移動ではなく、這ってその場を後にした。


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