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生物毒と後始末①

 ヘルさんと、えーと、サリムさん?

 今自己紹介してもらったばかりなのに。

 人の名前を覚えるのが苦手、というわけじゃないんだが。会う人会う人初めましてじゃキャパオーバーだっての。

 Bランクの冒険者らしい。ヘルさんの補足によると、Aランクになるのが嫌でBランク帯にいるっていう口だとか。

 確かに、俺より一回り年上っぽいもんな。


 俺はキーやんの短距離瞬間移動に振り回されてグロッキーなう。

 あれから、ヘルさんがピンチになっているあたりの草原に出たんだと思う。

 で、ヘルさんたちの姿を探してキーやんが空を駆け回り、俺は必死にそれに喚きながらひっついていた。

 絶対に、また妙な目撃情報が入るわ、これ、と確信しつつ。

 俺は必要なかったんじゃないかなー、とも思いつつ。

 で、キーやんが止まったと思えば、二人の真上だもんな。

 おい。


 で。俺らヘルさんが何でピンチかも知らずにきたわけよ。

 でっかい蜘蛛の群れに囲まれてらっしゃる。

 マジかー、と思う前に、キーやんがブルリと身体を震わせるもんだから。

 いや、蜘蛛な。お前にとっては餌でしかないよな。ただ、うちのはグルメなもんで。

 足しか食べないとかするんですわ。まぁ、それで方がつくからいいけどよ。

 俺はいいよ。

 でも、助けに来たのに殺しちゃ不味かろうよ。

 と言うわけで、咄嗟に叫んだわけだが。


 まぁ、詮索してこないってことは大丈夫だろ! うん! 

 五体満足だし! 窒息したらまず気絶してるもんな! どっちも意識あるってことはノープロブレム。

 助けに来たのこっちだしな。このまま押し通そう!


 というわけで、サリムさんと自己紹介を交わしたわけだ。

 うん。周りの惨状から、話を逸らしたかっただけだよ。

「こう見えてもうちの中じゃぁ一二を争う高火力でな」

「はは……あの方達と比べられても困りますって……。普通の冒険者としてって言ってくださいよ……」

 ヘルさんの自慢を受けても、なんか奥手? 引き気味?

 人の顔色を見て生きてる感じのタイプなの? 第一印象はそんな感じ。

 ヘルさんのが明らかに年下だろ。

 ただ、なんというか。

 それが板についている。


 これからどうする? と言う話に自然となるわけで。

 レサンさんから俺は何も聞いてないので、キーやんに任せの説明に終始した。俺はそれを補足する。

 結局、

「レサンさんが飯を一切持ってないので、俺たち暮れにはそっちに戻らなきゃならないですね。まぁ、どのみち、一旦、ギルドに顔だして報告になります? キーやん別に何人でも大丈夫なので、一緒に戻りましょうか?」

 と話はまとまった。

 ただ、キーやんが一気に無力化した蜘蛛。

 普通に叩き殺していけばいいと思ったのに、体液が酸性じゅわみたいな、ヤバイ液体らしい。

 それに取り囲まれて生きてたこの人たちはどういう身体してるの?

 人間なの?


 確かに、ヘルさんがふるっていた剣は金属が腐食する変な臭いがしている。ズタボロの刃は少しの衝撃でも崩れていきそうだ。

 二人とも服がところどころ、妙な色になって焼き切れてるのもそのせいだろう。

 ぶん殴りつつもその体液を避け続けてたってことだよな。

 うわー……。

 俺、一気にこの世界で冒険者やっていけるかどうか、不安になってきたわー……。


「どく!」と妙な食いつきを見せたキーやんが一匹に張り付いて、体液の解析を始める。

 その能力、俺、ギルドに説明してないんだってよ……。

 めんどくせぇので、「あー変なものが好きなんでちと食わせてやってください」と誤魔化しておいた。

 二人が顔を見合わせていたが、まぁ気にしないでおこう。

 うん。

 俺は、キーやん観察モードに入る。ヤンキー座りで観察。


 考えるのは、まず。

 ヘルさんにふくろのことまだ伝わってないんだよなー。

 うーん。ここで言うのもなんだしなぁ。後でギルドが伝えてくれるだろうし。

 あとは、何がどうなってるんだっけ。ギルド側って一まとまりにしてたから、ヘルさんが何を知ってて知らないのか、瞬時に判断がつかない。

 レサンさんとの3日旅に出て帰ってきたらいなかったんだもんな。対フェンリルとか知らないんだよな。

 もう、全部、後で誰かに聞いてくださいで済まそう。


 ヘルさんとサリムさんがどうするか話し合う声が聞こえる。サリムさんが魔力切れで高火力の火炎魔法が使えないらしい。

 で、ギルド側のヘルさん的には、なるべく大地に毒を流さずに駆除を済ませたいらしい。

 サリムさんの魔力回復を待ちつつ、火炎魔法で消し炭にしていくという方向になりつつある。

 体液を全部消し炭にするとなると相当の火力が必要で、だいぶん時間のかかる作業になりそうだ。


 ふと思ったんだが。

「この蜘蛛を食べる鳥とかがいるわけですよね?」

 なんてことを聞いてみる。

「まぁ、そうだが……? あとは蟻とか蜂とか」

「なら、放置でいいんじゃないですか? そいつらが食べてくれたらいいわけで」

「……いや、ここまで増えてるからな」

 ヘルさんが考え込む。

「もう死んだも同然ですよ? 放置しても長期的にそいつらが数を増やしりしないと思いますけどねぇ」

 と言いながら、キーやんに石を投げる。ぽよんと跳ね返された。

 ふーむ。解析中は貪食モードじゃないのか。大きさノーマルだったら、抱いて移動できるな。


 ちら、っとヘルさんがサリムさんを見る。

「いや、もう、俺はいいっすよ……。違反で半分貰えるんすよね? で、今日中にギルドに帰れるなら、まぁ間に合いますから……」

 あぁ。気が回らなかった。

 これ、サリムさんが受けた依頼だもんな。

 サリムさんがこの状態から駆除したら、一応ギルド的には解釈で満額の報酬を払うつもりはあるってことか。

 あー本当に気が回らなかった。そうだよなー……冒険者ってそういう世界だよな。

「すみません、忘れてください」

「いや、本当に助けてもらって虫のいい話で……」

 譲りあって妙な空気になる。こういうタイプ、苦手だな、俺。


 ヘルさんが考え込む。ソレナさんが悲鳴をあげてるだろうから、さっさと帰りたいってのが本心なんだろうなー。

 ただ、このまま放置も不穏がある、と。

 そして、そういう空気を読めない奴がいる。うちのテイム魔物だ。

「たかはしー、どく、わたしがぬく。それ、ためるもの、ある?」

「えー……。そういうことしますか、お前は」

 つまりこういうことだな。

 びゆっとキーやんが体液を抜く。俺が耐性のある入れ物を提供。

 そしたら、蜘蛛は潰すだけになって、みんなハッピー。


「ある、ない?」

 その二択で聞かれたら仕方ない。

「あるけどよー……。生物毒を溜め込むって俺はどういう行商人を目指すわけよ……?」

「きにしない」

「どれくらいの耐性がいるわけ?」

「こうてつのうろこ」

 対ドラゴンの溶け溶け大作戦のやつなー。それとこの毒液が似てたってこと?

 まぁ、そういうのならある。


「はいはい、あれね。ああいうのなら樽だけど、それでいい?」

「いれものなら、なんでも」

「待て待て待て」

 ヘルさんがようやく止めに入ってくる。

「何を、するんだ?」

「いや、こいつが体液抜いてくれるんで、それを樽に溜めて、死骸はバンバン踏み潰そうって話ですね」

 ヘルさんが頭を抱える。

 ん? どうした?


 こうしてみると。

 服がボロボロな分、なんというか。

 V系ファッションとして完成してるよな。

 悩む仕草もあれだ。そういうバンドのブロマイドっぽい。


「……蜘蛛から体液を抜けるなら、大地からも回収できるか?」

 ヘルさんが大暴れして撒き散らしたのでは、と言葉は飲み込む。

 その答えを知っているのは俺じゃない。キーやんに視線を向ける。

 ヘルさんの視線もそれに釣られてキーやんに行く。

「できるよー」

「だそうです」

 ヘルさんは口を軽く尖らせた。

 すぐに真顔に戻ったが、なんかそれレサンさんぽい仕草だな。


 一瞬、俺の方に視線を戻したヘルさん。

 なんだ?

 あーそっか。キーやんと話しにくいのか。

 エルフたちが自然とキーやんと話すから、俺もそういうもんだと思ってたが。

 あっちが普通じゃないよなー……それはなー……。

「じゃぁ、ともかくそれをお願いしても……?」

 ヘルさんの戸惑いがちな言葉をキーやんが受け取る。

「いいよー」

 そして、キーやんが移動を開始した。


 どうなるか俺は知ってるぞ。

 お馴染みの丸いスライムの形を失って、輪郭が消える。

 そして、大地と混ざり合っていく。魔物じゃない、糊で作ったスライムだったら重力に負けてそうなるように。

 ただ、あいつは意志がある。

 だから、じゃりじゃりと、土をかき混ぜると音が聞こえてくるはずだ。

 つまり、なんというか、エグい。


 俺は大地に広がっていくであろうはずのキーやんを視界に入れないよう、すっと動いた。

 その位置どりを不審そうにしている二人は知らない。

 だってエグいんだぞ。

 何も感じない人もいるかもしれない。でも俺はダメ。

 見たくない。


 ヘルさんがちょっと追求しにくそうな、でもせざるを得ないという複雑な表情で聞いてきた。

「それで、樽はどこに……?」

 あーそうだよ。

 そうだよな。

 ふくろの件、ヘルさんに伝わってないんだよな。

 俺、おっちょこちょいですむかね? 頭の変な人だと思われてねー?

 まぁ、その件はあれだよ。

「後でギルドの誰かから聞いてください」

 そう言って先に樽を出した。

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