黒界②
また、無言が黒い世界を支配した。
「あんたさー、人のステータス? が見えるんだっけ?」
立ち上がって赤い女神が言う。
そういえば、レイピアの鞘が見当たらないのはどう言うことだろう。
「見えますが」
「アタシの、のぞいてみ? こっちにそーゆーのないから、どう見えるかわからないんだけれどもね」
魔力がなかった。
何もなかった。
普通の、少女だった。
とんでもなく長生きをして、死ねないだけの。
「苦労してますね。お互いに」
「まー、そう言うことさね」
レイピアしかふるえない女神が肩をすくめた。
「だから、アタシは何も餞別とかあげられないんだけれどもね」
「あー、お気持ちだけありがたく頂戴しておきます」
「……」
無言、多いな。
「欲しいもの、ちょっと言ってみ?」
「通販系が欲しいですね。こっちの世界のものが買えるみたいな」
「無理。他の世界との繋がりを切りたい」
「危機管理の問題、ですか」
「別に、どう言うかは知らない」
またしゃがみ込んだ彼女の姿は小さく見えた。髪だけが、やたらに、広がって。
「それじゃぁ、移動手段ですかね。軽トラかキャンピングカー。それと、尽きないガソリン」
「……ほかは?」
「私が、今までの活躍で手にしたスキルとか魔法とかそう言うものがあれば嬉しいですねー」
「見境なく言うねぇ……」
「どうせ、殺されるだけですしね。うーん、パッと思いつくのはそれくらいですかね」
「はいはい、了解。ちょっと待ちな」
「ええ、待ちますとも」
俺も座ろう。
「胡座にしなよ……なんで体育座りする……」
「あぁ、癖で」
「……」
その無言はなんなんだ。
彼女は携帯を取り出して。
「あー親父? ちょっとお願いがあるんだけどさ。一番上等な軽トラに詰めるだけのガソリン詰んで、今アタシがいるところに飛ばしてくれない? うん。はいはい。うるさいな。いいから、とっとと頼むよ。……は? 今って分かる? うん、今すぐ。アタシが、今、いるところに。確かに唐揚げは温度管理が大事かもしれないけれどもそんなの魔術使ってやりな。こっちの案件に魔術使ってくれてもいいんだよ。とりあえず大至急ね。別に孤立とかしてんじゃないから、いちいち心配しないでくれる? て言うか、今日朝イチであげた報告読んでない? 読んでないの!? は? もう死ね」
親父さんはすぐに軽トラ調達できて、魔法使えて、今唐揚げ調理中なのかー。
思春期の女の子と親父さんらしい電話だよねー。
しかも、一等上級な軽トラをくれるんだって。
嬉しいねぇ。
「ニヤつくな」
すっごい目つきで睨まれた。
キュンときちゃうぜ。
「唐揚げの肉獲りに行ってたんだってさ……こちとら戦場で単独の誘導作戦してるのに」
誰でも愚痴る相手はよかったんだろう。頬杖をついて黄昏ている。
「それは、また、ワイルドな親父さんで」
「全く、ワイルドがすぎるさ。アタシは向こうの管理者にあんた押し付けられるか頼んでくるからね。いくらか前の能力も戻してもらえないか掛け合ってみる。面白半分でできることじゃないからね、こう言うのは。何かしらの危機があるんでしょ。それならまぁ、協力してくれるかもしれないからね」
「ありがたいんですが。でも、なんだって協力してくれるんです?」
「……」
「……」
だから無言、怖ぇんだってよ。
「好きな人になんとなく似てるから」
そんな光栄なことは、そうそうねーな、と言う前に俺の意識は再び闇に飲まれた。