【ソレナ】救援信号
レサンは不思議なエルフ。
その生態のことももちろんとして、使う魔術も並大抵じゃない。
髪が自由自在に動くとかではない。それも十分脅威だが、それ以外にあの髪には秘密がある。
魔術行使の媒体として利用できるのに加え、何より重要な点は髪自体が自立した魔術アイテムであること。
その中でずば抜けてやばいのは、町二個分離れていても、会話を可能にする魔術。
それも、レサンの髪を握っているだけでいい。
レサンの髪を通じて、ボルテ王国内陸の冒険者ギルドは連絡を送り合っているってわけ。
ただ、一つ難があるとそれば、この特別な方法は女が得意で、男は全くできないってところかな。
意地を張って練習したヘルさえ、一言載せるのが精一杯だった。
ギルド職員の女性雇用の上昇に貢献さえしているらしい。
仕組みはこうだ。
レサンの髪は、切り取られてもしばらく生きている。その髪を持っていれば、情報交換の場にアクセスできる。
そこでは、自分と相手の意識の他何も感じられない、そういう不思議な空間。
ただ、その場にいる人どうし、隠し事はしがたい。部屋を分けて話すというようにはいかないのだ。
だから、時間で割り振りをしていること多い。ちなみに、要望を聞いて整理しているのはアタシだ。レサンにそんな器用さはない。
連絡と土地のギャップを埋められるレサンは、もちろんギルドの総括本部へ勧誘もあったらしい。
けれど、この土地のエルフの事情と、何より連絡係に大人しく収まるかという懸念があって、ずっとブルエモンの土地にいる。
もし、本部がレサンを引き抜こうものなら、土着政治系な総代が「今すぐキャリア三年以上のやつを10人送ってくれる? もちろん、給与そっちもちでね」とかやりそうで。面倒。
一応、レサンの髪を使うやり取りの時には、ギルドの通信室と形ばかり書いてある部屋を使うのがルール。
いつもは昼頃に一通り報告と相談で終わるんだけど。
朝方、今日の仕事はどうしようかとヴェルツと話していたら、レサンの切髪が熱くなった。
ヴェルツには断って、慌てて通信室を目指す。
一応、貴重なものだから、肌から話さず持っている。小さい巾着袋に入れて、それを首にかけてる。
これが、熱くなった。緊急の要件があるという合図だ。
ヴェルツに声をかけてから、入った。
こういうのは、「身体から離れた精神世界」というらしい。魔術の詳しい話はわからない。
うるさいレサンの気配で、もうそこにレサンがいるとわかった。
うるさい。
本当にうるさい。
声も仕草も何もかもうるさい。
不意にレサンと接すると、どうしても苛立ちが最初にくる。
「ソレナソレナソレナソレナまだ!?」
一応、声に出しながら念じた方がいいとか、魔術的な話なんだと思う。
それでも、うるさい。
「……なに?」
しばらく黙っていようかと思ったけど、その慌てぶりにさっさと話を済ませる方をとった。
「ケンゴが……いや、キーが、瞬間移動……!」
何の話だろう。それはもう知ってる。
「で?」
「長距離の瞬間移動ができるっていうんだけど……!?」
は?
それ、アタシが色々と昨日一日で都合つけた諸々が全て壊れない?
「どう、する? イライジャがキーを分けて私だけに旅しろ、他は戻るぞって感じなんだけど」
あー。
イライジャ、先走り始めたか。大抵、彼は正しい。
正しいんだけど、アタシたちが理解できなくて、アタシたちの営みに組み込めない。
それは困るから、とりあえずお断りってなりがち。
ともかく、情報を埋めていこう。
「スライムを分けるっていうのはどういうこと?」
「……? どういうことだろ……?」
あー。慌てて入ってきただけで、レサンもしっかりと把握してないのか。
終わった。
よくあるよくある。レサンに期待したアタシが馬鹿だった。
「えーと、でも、その分けるのはうまくいくか分からないみたい」
「……? そうなの?」
「だから、うまくいったら、私だけで北部への旅ができる。それが上手くいかなかったら、キーと私で旅をする事になるのかな? 他はキーがギルドに送っていってくれる、そういう話だと思う」
思うって。
せめてそこ確認してから来い。
「わかった、そういうつもりでちょっと考え直しとくから、決まったら教えてくれる?」
「うん……」
どうして歯切れが悪い。
それ以外に何かあるのか。
あぁ。
カーチか。
さっさと戻れ。
うーん。一晩だけでここまで気まずさ全開にされると、今後の組み合わせを考えざるを得なくなる……。
まぁ、アタシは、レサンの髪通信網のおかげでギルド職員をクビにならなかったようなものだから、恩義はある。
女で職員の経験がそこそこあって、ブルエモンに移動可能、という条件だったのが、アタシだけだったおかげで命拾いした。
まぁ、巻き込まれただけだしそれまでのことは忘れて、田舎でやり直し。上手くいったのも多少はレサンのおかげ。
融通は利かせないこともないけど、かなり仕事肩代わりしているような。
それに、カーチの件は繊細で単にレサンと離せばいいってものじゃない。誰か、仲を取り持ってくれる人がいたらいいのに。
アタシは絶対にやらないけど。
「それでねぇ、キーに瞬間移動頼むのはいいんだけど、総代が特殊商人の話をしてたじゃない?」
「それが?」
ケンゴに商売してもらって、そのおこぼれをもらおうっていう話だったっけ。
「瞬間移動で商売している人が世の中にはいるんだけど」
「うん?」
「確か、一回につき白金貨一枚とか」
「うわ……」
暴利だ……。ブルエモンみたいな小さい冒険者ギルドだと年間でもそんなに動かない。
「ちゃんとケンゴに同意をもらっとかないと、後で話がこじれると思う」
「……だね。他からも何を言われるか。ネスマーに戻ってその申請を先にしてもらおうかな」
レサンの同意の声は、聞こえなかった。
この場所が、揺れた。
「!?」
「ヘル!?」
レサンの悲鳴でこの侵略がヘルのものだと知る。
この空間への適応できるのは女のみ。男が入ろうとすると、不安定さに揺れる。崩壊を懸念して、女以外は関わらないようにというギルドの方針なのだけど。
それでもレサンは、髪をヘルやカーチに託してる。
「ババァ……たす……」
かすかに聞こえた声は、確かにヘルの声。
それも、助けを求める声。
「ヘル……!」
アタシの口から、誤魔化しようのない悲鳴が漏れた。




