黒界①
はい、こんにちは〜。
なんと31歳にして、本日、6個目の異世界に飛ばされたタカハシでーす。
片仮名タカハシ久々に使うぜ。
地球を入れて、7個目の世界だぜ。ラッキー7。今度こそ幸せになりてーなー。
もう、人生やり直しが聞かない。
ここは、帰還コマンドを使わずに頑張りたい。
まともな世界だといいが。
しっかし、遅いなー。
なかなか、体の再構成? みたいなのがされない。
えー。
失敗とかあるー?
俺、このまま、宙ぶらりんなわけ?
まぁ、なるようにしかならん。
「また、またあんたかー!」
その声とともに世界が黒く染まって、俺の体が再構成された。
はい、また俺です。
赤い長髪に、無造作なシャツとジーパン。
つり目の黄色い目。瞳孔がひらいて猫みてーで。それだけが人間じゃねーって証拠に見える。
片手にレイピア。
今日は、血糊つき。
高校生かそこらにしか見えない、この少女が地球を含む宇宙の管理者様なんだとよ。
爺様が言ってた。
「あのー、お初にお目にかかります。高橋謙吾と申します」
とりあえず自己紹介と90度のお辞儀だ。いわゆる最高神だからな。うん。
「……どういう字書くの」
その目に射抜かれて、流石に身がすくむ。
「高い橋に、謙虚の謙、吾で高橋謙吾です」
ていうか、なんだなんだ。日本に理解あるのかよ。日本語だしよ。
ぐるっと目を回した彼女は、ヤンキー座りで、レイピアを地面にぶっ刺して、俺を見上げた。
「あー……苦労しそう」
「はい、苦労してます」
姓名診断も総画が凶っすからね。仕事運が特にないらしいんですよ。下は良くて、特殊なんちゃらってのがあるらしいんすけど。
タカハシじゃなくて、ケンゴって名乗った方がいいのかね。
「あんたさー。何で魔術使わないかねー……」
いや、レイピアに両手置いて項垂れられても知りませんがな。
「魔法、使えるんですか、日本で? 初耳なんですが」
「んー、まぁ、試しもしないとは思わなかったさね……」
「まー魔法が使えたところで、ですからねぇ」
コンビニの品出しとか魔法使えたら便利だけど、人に見られたら一発でアウトじゃねぇかよ。
なんで、無言ですか、赤い女神様。
意外とサバサバ系なんだなー。髪、地毛なのかね。綺麗なのに手入れしなくていいのか。血が染み込んでる気がするけど気のせいっすか。
「はー……奴らはさ、地球をなんだと思ってるのやら」
ため息とともに言葉が吐き出される。
「魔法、使ってたらどうなりました?」
「いや、殺せたなーって」
うわ。
怖。
「殺すはひどいんじゃないですかねー」
「別に? アタシがやらなくても、別が動いてくれるからね。地球は」
ん? わからん。
でも、別に殺意とかは感じないんだよな。彼女から。
レイピア、地面にさして、しゃがみこんでんのも戦意ないよーってことだろうし……。
深いため息。
「あー、アタシさ、ちょっと仕事抜けてきてるんさ」
「あ、別に仕事がおありで。それは申し訳ありません」
俺と同じ感じかね?
それはマジで申し訳ねぇぞ。兼業・神って初めて聞くんだが。血糊じゃなくて血ですかそれは。どういう職業なんだよ。血塗れのレイピア持って戦うってよ。
「まー、いいよ。で、あんた、どうしたい?」
「えーと。選択肢は」
無言で見つめるのやめてくれー。
「ここでアタシに殺されるか」
「それは避けたいですね」
魔王ちゃん殺したことがある身としては優しさ感じるけどね。自ら手を下してくれるってのは。
すっと目を逸らして彼女が言う。
「もう、こっちに戻ってこないか。どっちかさね」
はいとイエスの選択ってやつじゃねーか。
上等だね。
初めて、姿を見せてくれたと思ったら、俺の背中を押してくれるとは。
「いーじゃねーか。消えてやるよ、この世界から」