総代①
いや、ほんとに一日寝てたわ。
起きたら、日が暮れかかってるし、レサンさんもキーやんもいない。
焦る。
何かメモでも残しておけよ。
いや、キーやんには無理だな。
レサンさん……も期待できないな。
前言撤回する。
無茶なことを言って悪い。
しかし、もう夜だぞ。昨日はヴェルツさんが晩御飯を持ってきてくれたからいいものの、この部屋から俺たちを出す気がないレサンさんのせいで、食いっぱぐれるところだっった。
それが最後の食事。
今日一日寝てたもんだがら、腹が減ってる。
キーやんを探しに行くか、食欲を優先させるか。
難しいところだな……。
ここで食欲を優先させたらヘルさんにすごく怒られるだろう。うん。
そりゃそうだ。もう目を離すなって言われたんだし。
でも空腹なんだよ。
ギルドの表の方に行って、偶々そこにいたヴェルツさんにご飯を所望した。
まだギルドマスター? 総代って人には会ってないんだよな。
ざっくりレサンさんに聞いたところだと、政治系らしい。いや、冒険者としてもBランクらしいから、冒険者でもあるんだろうけど。
町の取りまとめ役の一人で、ギルドマスターと町役人の兼業って感じかな。だから、ギルドマスターじゃなくて総代って呼んでるんだな。
総代っていうくらいだから、平の町役人じゃなくて、かなり上のほうだろうな。
多分、町の仕事と冒険者ギルドの仕事が、7:3くらいみたいで、実質的に冒険者ギルドの運営はソレナさんが担うところが大きいっぽい。
で、まぁ、ブルエモンの冒険者ギルド職員の人間関係。
野暮と思われそうだが、すでにある人間関係に後からポッと入っていく人間としては大事なわけよ。
レサンさんとヘルさんの関係はもう知って通り。レサンさんは、ヘルさんの育ての母親なわけだな。
ヘルさんが冒険者になった時くらいに、ギルドマスターが代替わりして今のランドンさんになった。で、ヘルさんがCランクに上がったあたりでソレナさんが赴任してきたらしい。
その当時は、ランドンさんも冒険者ギルドの仕事をそこそここなしていたそうな。まぁ、ギルドマスターに成りたてで仕事を覚えるって意味もあるよな。レサンさんはずっといるらしいから、レサンさんとランドンさん、そしてソレナさんの三人でなんとかしてたってことだよな。
そのソレナさんはアーランドっていうボルテ王国一の海港街から飛ばされてきたらしい。なんか色々あるみたいだが、流石に突っ込んで聞くのはやめた。
ソレナさんはすっかりブルエモンに居着いて数年後。ヘルさんも職員になった。
また数年。ブヴォーニュの街にヘルさんが転任。その時入れ替わりで来た職員二人が、責任と仕事の多さに耐えかねて夜逃げ。その補填として来たのがヴェルツさんらしい。
ヴェルツさんの着任が二年立ってないくらいとか。
レサンさんの話、掴みどころがなくてあれなんだが。ざっくりそう言う感じ。
で。
ヘルさんはブルエモン生まれブルエモン育ち。全員昔からの馴染みなんだが、ヴェルツさんはブルエモンにきて二年弱。慣れてきたところにヘルさんが帰ってきて、ちょっと立ち位置に迷っているっぽい。
まーそうなるよな。
だから、俺が話しかけた今も、ちょっと彼は迷った。
ヘルさん担当の俺を勝手にどうこうしていいのかっていう迷いかね。
ただ、目敏いのは目敏くて。
「キーやんだっけか? いないな」
「あーはい、まー好きに帰ってくると思うので」
ちょっと待て俺、腹が空きすぎて適当になってるぞ。だめだ。
ヴェルツさんが無表情になった。
元から表情がない人だ。ザ・筋肉だが表情筋は動かない。
笑いはするが、顔は動いてない。声色は表情豊かだし、笑い上戸っぽい。しょっちゅう笑ってる。
筋肉がありすぎると、顔が動かないとかあるのかね。
その人の、無表情。つまり、動きが止まったってこと。
頭の中が真白になったんだろうなー。
やらかしたな!
猛獣を放し飼いしてるようなもんだよな。
反省はしない。あいつだって意思があるんだし。っていうのか放し飼いしている人は。
高度な自我があるからな。叛旗を翻されたら面倒なんだよ。
「あー、レサンさんと一緒にいると思うんですけど」
「あぁ、レサンなら修練場に……」
「修練場ですか。どちらです?」
ヴェルツさんがまた躊躇する。表に彼しかいないから、その場を離れるわけにはってことだろう。
「あ、場所を教えてもらったら行きますから」
「いや、ちょっと待ってくれ。わかりにくいところにあるんだ。そろそろ総代が戻ってくるはずだから」
お?
総代、ついに見れるの?
正直、キーやんの居場所よりその好奇心の方が勝つ。
ヴェルツさんがそこに座って待っていてって指定してきた、さりげにヴェルツさんが仕事をしているカウンターから見える席に大人しく座る。
あー。俺から目を離したらいけないことになってるのか。
近々で王都に行ってクーデター問題を解決しなきゃならねーんだが?
まぁ。それより。
ご飯ください。その声は心の中に押し戻した。




