カイロ(スライム)
たった5日だ。
人と話さなかっただけだ。よくあることだろ。
前言撤回。
生き物の命、直に奪っておいて一人になるのはちょい厳しい。
歳だなー。
結局、フゼ商体と話したのが最後。北上してから誰にも会っていないしさー。
冒険者結構いるって嘘じゃんー。俺ってば運が悪いのかなー。
人と話したいなー。
さみしいなーって思いながら起きて、備品片して、朝飯食べ終わって閃いた。
もう、クソスライムでよくね? 話し相手。
人がいないということは確認が取れている。
だって5日誰にも会えてないってことはいないわ。
ちょっと歩きながら手順確認しようぜ。
ふくろから出す。「テイム! 俺の下僕になれ!」。以上?
いや、これ今すぐやろう。
今すぐやりました。
馬鹿でかスライムを出した時点で後悔したよね。
でけーわ。
本当にでけーわ。
日本人のスケールで生きてたからね。ここ数年。
うわー。お前、そんなにデカかったっけ。
草原に突如現れたスライム(でかい)。
4階建てくらいの高さ。で、幅もそのくらいある。
でかいわー。
あれ、デフォルトの白濁色じゃん。虹色とか毒色とかステレスとか、テンション高めな色じゃないぞ。大丈夫か?
あ?
震えてるぞ待て震えてるぞ!?
うわ、逃げろ。
違う、ガチで逃げてしまった、違う。
「テイム! 俺に従え! この蒟蒻やろー!」
何も起きない。
あれ、俺より強いから、かな。
いや、俺の方が強いよ。窒息死しないからな俺は。1時間耐えるからな。
あー待て。一人コントしたくないから出したのによー。
「テーイームー! 聞こえてますかー! おーい、馬鹿蒟蒻―!」
震えてるだけだぞ、どうした。
蒟蒻言われて怒らないなんて珍しいな。
戦闘モードでばーんって出てきて、俺が「テイム!」って決める予定だったよな。
あれー? 俺、何か間違えてるっけ。
なんか勝手に小さくなってるしよー、スライム
どうしようもなくて、頭捻ったまま1時間くらい待ってたよね。うーん、これ、一勝一敗だよな。
「たかはしー」
「お、おう?」
ヤンキー座りで考え込んでいたら、視界に這ってきたスライムが喋った。あれ、なんかキャラ違うぞ。
だいぶん違うぞ。
吾輩的な感じだっただろう話し方。
「なかま、いない」
「あーうん、いないなー、別の世界だしなー」
「アホになったー」
「ん?」
「アホになったー」
「……俺が?」
急にディスってきたぞ、おい。
「ちがーう、ばかはし」
「黙れ蒟蒻。やめろ、のしかかってくんなやめろ死ぬやめろ、俺はもう1時間待ったぞ」
ちょっとデカくなったスライムとかけっこしました。
「ばかはしじゃないー」
「ああ、うん? お前? あーお前だな。アホになったのか」
「……」
「やめろやめろやめろやめろやめろもう疲れたよオジサンは」
またかけっこしました。
「ちょっと、待て。ちょっと待て蒟蒻、考える時間をくれ」
世界移ってきたら、エリートスライムが真正アホスライムになった。なぜ。うーん分からん。
5秒で詰んだな。
「賢さ落ちたのは分かった」
「かしこさ、変わってない」
「ちょっと待って、ステータス見せて」
「いいよー」
ぴょんと跳ねて俺の腕に飛び込んでくる。このあざとさに騙されて何人犠牲になったことか。
ステータスを見る。
賢さ落ちてなかった。
「ごめん、ばかはし、分からない。もうちょい頑張って解説してくれる?」
「なかま、いない。だから、アホになった」
えーと?
おい?
「なかまいないとアホになるの? なぜ?」
「かりてる。かりてた」
「何を?」
ちょっと考え込む蒟蒻。
「脳みそ?」
なるほどなるほど。仲間のスライムの頭を借りて、高速処理をしていたってことか。
「……え、じゃぁ、この世界、スライム、いないの?」
「さいしょからそういってる」
「最初から長文話せるなら話そうな?」
「しね」
今度は無言で追いかけっこした。
だめだ。スライムと戯れてる間に、なんか夜になってる。
「おい、蒟蒻、なんかした?」
「ねぼうしたんじゃない?」
「……かもしれない」
まー、俺がうまくボケかました感じになってるけど、空気大丈夫かなー。
スライム、気づいたら異世界にいて、仲間全滅してるんだもんなー可哀想……可哀想かぁ?
同族の脳みそ借りてるってかなりの暴君じゃね? さすがエリートスライム。
特技:調略って感じだったしな。
うん、あんまり同情とかやめとこう。
「はー、焚き火するわー」
「あっため、する?」
「いや、今から火を付けるからよ」
「ばかはし」
スライムが赤くなって発熱した。カイロ的な。そのまま抱いて寝た。




