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ポータルと種まき

サナ:エクリプスを父と慕う少女。レンの姉。


レン:エクリプスを父と慕う少年。サナの弟。

 宿に到着した一行は、案内により大部屋へと入れられた。

 椅子に腰を下ろし、神殿からはほとんどここまで歩きっぱなしの立ちっぱなしだったため、全員が疲労の色を見せていた。


「まだ夜になるまで時間があります。今のうちに、ご説明できることはしておきましょう。まずは何をお話しましょうか?」


 一息ついたところで、セタは口を開いた。


「それじゃさっきのやつから。この世界の人たちが、あたしたちやバレ姉たちの祖っていうのは、どういうこと?」


 誰にも先を越させまいという勢いで、マジーナは尋ねた。


「特別な意味はなく、あなた方の世界の人々は皆、このソラトニアの人々の子孫だということです。数百年ほど前、少数ではありましたが、人々は外界への入口をくぐり、二つの世界に移住をしたのです」


「それは、敵の横暴に我慢ならなくなったから?」


「定かではありませんが、その通りかもしれません。かのネビュラという邪教につきましても、不明点が多いですから……」


「なるほど。ところで、僕らの世界にはやっぱりあの神殿から行くんですか?」


 次の質問はツルギからだった。


「いえ。あの入口は比較的最近繋がったものです。ソラトニアの移住者たちは、『ポータル』をくぐって移動しました」


「『ポータル』?」


「はい。簡単に言えば、世界と世界を繋ぐ見えない穴です。この世界と皆様の世界に、数か所ずつあると言われています。私も正確な場所は把握しておりませんが、その数はごく僅かだと思われます」


「ポータル、ねぇ。あいつらがばら撒いてる不の種ってのも、その穴を通って行くのか?」


 マズルが横から質問を重ねた。


「おそらくは。しかし不の種も、空気中を漂う塵のようなもの。任意の場所に撒くならば、その場所に行かなければいけないはずです。何者かがポータルを利用して皆様の世界に種を撒いているやもしれません」


「……いよいよ見過ごせなくなってきたね。そいつも見つけ出して、とっちめてやらなきゃ」


 バレッタは拳を握り、憤りをグッと堪えた。


「奴らと戦っていくなら、そのうち出くわすことになんだろな。……そうだ、おいセタ。俺とツルギの銃と剣についてだが、知ってることを話してもらおうか」


 マズルは今度こそ逃がすまいとばかりに、セタに問いただす。


「ええ。ちょうどお話する時期になりましたし、お教えしましょう。それは……」


 その時、扉が外から開いた。そこには黒髪を後ろで結んだ、つなぎ服に似た出で立ちの女性がいた。


「失礼。風の噂で聞いたんだけど、勇者様たちがこちらにいるって。もしかして……」


 また邪魔が入ったか。そんな気持ちが顔に出るマズルだったが、セタは満足げに女性を迎えた。


「これはまたグッドタイミング。マズル様、ツルギ様、こちらは鍛冶師のヒノコ様。お二人の武器を作られたのは彼女のお父様です。お察しの通り、こちらの方々が勇者の皆様で御座います、ヒノコ様」


「ああやっぱり! いやぁ、こんな形でお目にかかれるなんて。よかったらこれから、あたしの仕事場に来ない? その武器、よく見せてもらいたいんだ!」


 ヒノコは軽快に足踏みし、今にも走り出しそうな勢いで言った。


「いい時間つぶしでしょうから、行きましょうか。何から何までちょうど良い機会です」


「そうと決まれば! 先に行って待ってる!!」


 一行はセタの独断で、ヒノコの仕事場へと向かった。




 ヒノコの仕事場は国の端にあり、外観は他の建物よりも劣化が進み、中は道具や素材が散らばっていた。


「あはは……。ボロっちくてゴメンね。何しろお客なんてほとんどこないから」


 全員の心情を察してか、ヒノコは言った。


「お気になさらないでください。衣食住は生活に必要なものですが、残念ながら武器は二の次。こんな状況では尚更です」


「あたしもそう思ってる。まぁ仕方ないよね。昔みたいな戦渦の中だったら、そんな心配なかったんだけど……」


 その後ヒノコの案内で、セタたちは小部屋に着いた。

 壁には額縁に飾られた、髭を生やした男の絵がある。


「ここ、あたしの部屋。あれ、あたしの父、ダイモン。さっきセタさんが言ってた通り、あなたたちの武器を作ったのも、父だよ」


 マズルとツルギはそれぞれ、自分の得物を取り出した。


「この剣は、僕の父からもらった物です。もしかしたら、この世界から僕たちの世界に移住した人が持ってきたのかもしれませんね」


「私もそう推測しています。ダイモン氏の作った武器はたくさんありましたが、戦いの中でほとんどが失われたといいます。生き残りの武器、といったところでありましょう」


「生き残りの武器か。俺のはゴミ捨て場にあったはずだが、大戦で使われた武器の末路としてそれは……。しかし、剣はともかくとして、こんな機械仕掛けの武器も作れるのか?」


「うん。父はカラクリ仕掛けや、魔法や人の魂を込めた武器を作るのに関しては天才だった。あたしもできるっちゃできるけど、父には遠く及ばずで。父の作った武器には命が宿る、なんて言われてたの」


「命が宿る……」


 ツルギとマズルはもう一度自分の得物を眺めた。戦いの中で成長した武器。命が宿る魔法武器と言われれば、不思議と納得がいったのだった。


「さて、せっかくだしあたしも皆さんの手助けをしたいんだ。武器でお困りのことはない? 新品に打ち直し、何でもやるよ!?」


「まさしくお願いしたいところです。ここに来るまでに、武器を失った方々がいらっしゃいますので」


 セタはエール、カサンドラ、ハウを指して言った。


「そりゃいい具合だね。何を作ったらいいんだい?」


「私は剣を。できれば軽い、細身の剣をお願いしたい」


「私は槍だ。多少重量があっても構わない」


「細身の剣に、槍ね。そちらのお嬢さんは?」


「ぼ、ボクは武器ではありませんが……。こんなものを使ってました」


 ハウはケータイの画面に映る、以前まで使っていた楽器をヒノコに見せた。


「これは珍しい。音を奏でる物かな?」


「そうです。できればこれと同じように、音楽を奏でて戦いにも役立つ物を作っていただきたいのですが……」


「了解だよ。こう見えて覚えはいいからね。一度見た物はだいたい作れるのさ。任しといて!」


 ヒノコは胸をトンと叩いて自信を見せた。


「ねぇねぇ。あちしにも何か作ってくれない?」


 ジェシカは唐突に頼みこんだ。


「いいけど、あなたは何が得意なの?」


「武器は使ったことないよ。でも何か、あちしにも使えるようなのない?」


「悪いけどそういうのは受け付けられないよ。武器と人ってのは、多かれ少なかれ相性があるんだ。身に合わない武器は体を滅ぼすって、言い伝えがあるからね」


「そっか。ちょっと残念だけど、わかったよ」


 ジェシカは踵を返して、ふらりと後ろへ下がった。


「すまないな。私の仲間が無礼を」


 カサンドラは申し訳なさそうに、ヒノコに囁いた。


「気にしないで。こちらも力になれず申し訳ない。その代わり、いい出来なのを作ったげる。一晩もあればできるからさ」


「一晩でか? それはまた仕事が早い」


「こんな仕事も久しぶりだからね。気合い入ってるんだ。徹夜でやったげるから、楽しみにしてて!!」


 ヒノコは再び、自信満々に胸を叩いた。


「それでは宿に戻りましょうか。疲れを癒やし、明日また参りますので」


「はいよ、待ってるからね!」


 力強く送り出された一行は、宿へと戻っていった。





 同じ頃、アンチ・ピースの居城。エクリプスを慕う二人の幼き男女は、自室で暇を持て余していた。


「退屈ね、レン」


「退屈だな、サナ」


 互いをレン、サナと呼ぶ男女は、積み木を積み上げて暇を潰していたが、すぐにそれを崩して寝転んだ。


「あーあ、外に出たいな。”工作”したい」


「ダメよ。あれはお父さんの許しがあってからでしょう?」


「だけどさ、みんなを困らせればお父さんは喜ぶんだろ? だったらいいじゃん。勝手にやっても」


「でも言いつけを守らないとお父さん怒るわよ」


「だけどさ……ん?」


 部屋の扉が開く音がしたため、二人は会話を止めた。


 そこにいたのはフリント、この世界ではロッシュと呼ばれたその人だった。


「退屈そうだね、二人とも」


「ロッシュお兄ちゃん。お仕事終わったの?」


「うん。さっき帰ったところ。それより、退屈なら外に行ってくれば?」


「え? いいの!?」


「エクリプスにはオレが上手く言っておく。内緒だぞ?」


 ロッシュは悪戯っぽく微笑んで言った。


「ありがとう、ロッシュ兄ちゃん! さ、行こう行こう」


「ま、待ちなさいよレン」


 サナとレンは、城の外へと走っていった。


「みーちゃった、みーちゃった」


 独り残されたロッシュの耳に、男の意地の悪い声が響いた。


「……ライサ。何か用?」


「別に? お主も悪よのう、ってな」


 ライサは顔を不気味な仮面で隠した、異常なほど身体の細い男で、ロッシュの周りをフラフラと回りながら喋っていた。


「エクリプスに知れたらうるせえぞ。俺ぁ知らねえからな?」


「お気遣いどうも。オレはただ、あの子たちに自由が必要だと思ったからそうしただけだよ。エクリプスだって、きっとわかってくれる」


「ずいぶん余裕だな。さては、仕事を褒められたな? ”種まき”のよぉ」


「まあね」


 ロッシュは空っぽの筒状の容器を見せ、にやりと口元を緩めた。

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