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忘却の民

 セタは眼前の男に声をかけた。


「ご無沙汰しております。フォーグ王、エア様」


 エアと呼ばれた国王は俯いていた。顔を上げずに、声を出した。


「……セタ殿か。久しいですな。此度は何の用件か? さしずめ、各地の魔獣案件についてでしょうが……」


「本日はほかでも御座いません。以前に申し上げた、勇者様御一行をお連れしたのです」


 その言葉を聞くや、国王は顔を上げ、瞳を輝かせた。


「なんと……。それは真に? では、その方々が……?」


「はい。まさしく」


「そうでありましたか……。なんと言えばいいやら……。いや、失礼」


 エア国王は勇者たちの視線を感じたのか、姿勢を正して立ち上がり、言った。


「はじめまして皆さん。私はエア。既に存じているとは思いますが、ここフォーグの国王であります」


 国王でありながら、恭しく自己紹介をするエアを前にし、全員が反応に困っていた。


「では、今度こそ予言の通り皆様が奴らを討伐していただけると。これは思ってもいなかった朗報。早く皆に知らせなくては……。いやいやその前に……」


「エア国王。勇者様たちにまだ説明をしていないことも多々ありますので、どうかお鎮まりくださいませ」


 セタは子供を落ち着かせるかのように、静かに諌めた。


「そ、そうか。ではまずはそなたから説明を頼みましょう」


 我に返ったエアは再び座して一同を見渡し、口を閉ざした。


 そこから、セタの説明が始まる。


「フォーグの皆様は長きに渡り、敵組織”アンチ・ピース”と戦いを繰り広げてきました。しかし、それも少し前までの話。抗戦に敗れた今は戦いを忘れ、平和を忘れ、ただ漠然とした生を過ごすようになっていきました。いつしか、自分たちのことを”忘却の民”と呼称するようにもなったのです」


「なるほど、ここに来るまでの人々の様子を見れば、頷ける話だ」


 エールはフォーグに入ってからの情景を思い出して言った。


「それでも、国はちゃんと残ってますよね? 奴らは攻め滅ぼすことはしなかったんですか?」


 ツルギが疑問を投げかけた。


「そこは私にもわからないのです。確かに、戦う意志をなくした人々を殺し、国を滅ぼすことは容易でしょう。しかし、敵はそれをしなかった。何か他に目的があるのか、定かではありませんが……」


 セタは考え込んだ。彼自身にも、本当にわからないことらしい。


「それじゃ、予言がどうとかっていうのは?」


「私がエア国王に申し上げたことです。いずれこの世界に、平和を取り戻す勇者たちが現れると。もちろん、皆様のことで御座いますよ」


「予言だなんて曖昧なことでよく納得できたな王様は……。それはあの女神さんから賜ったのか?」


 エアに聞こえないように、マズルは小声で尋ねた。


「いえ、そういうことでは。ただ、主に選ばれた皆様が結集し、戦ってくださる確信がありましたので、そうお伝えしただけです」


 マズルはやれやれと言わんばかりにため息をつき、腕組みをした。


「……と、これでだいたいの説明は終了となります。エア様、これからはいかがいたしましょう?」


「私からも色々とお話をしたいところですが、皆様お疲れでしょう。こちらも準備を整えてから宴を開きたいので、まずは城下で疲れを癒やしていただきたい」


「承知いたしました。それでは一度失礼いたします。皆様、参りましょう」


 セタに連れられ、マズルたちは城下町へと向かった。



 城を出、一夜を過ごすために宿へと向かう一行。その道すがら、マジーナはある物が目に入った。


「? ねぇクロマさん。あれって……」


「あれとは? ……はっ!」


 二人が目にしたのは、人の手から炎が吹き出る様だった。

 まるで、自分たちの世界の魔法を見ているかのような光景に、マジーナとクロマは言葉が出なかった。


「ハウりん、あっち見て」


「なんですか? ……あ、あれは!?」


 ハウとジェシカの視線の先には、別の人間が車輪の付いた乗り物に手をかざし、力を注いでいる様だった。

 力を蓄えた車は、人を乗せて走り去ってしまった。


「セタさん、あれって魔法なの?」


「ボクらの世界の車みたいなのもありました。一体あれは……?」


「原型、とでもいいましょうか。あなたたちの世界の人々も、実はこの世界から移り住んだ人間が祖なのです」


 重要な話を、セタは淡々と説明した。その話も、全員初耳だった。


「そういうことはちゃんと説明しろよ。ったく……」


「申し訳ありません。なにぶん説明事項が多いもので。少しずつご説明していきますので。……おっと、宿に到着しましたよ」


 目の前には、白い壁の建物が建っていた。

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