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脱出、帰還

 アンチ・ピースの捕虜収容所。その一角にて、マズルとジェシカは捕らえられていた……が、実際は縄も鎖も付けられず、ただ椅子に座らされていただけだった。


「あいつ、俺たちをどうするつもりなんだろうな」


 ため息混じりに、マズルは呟いた。


「さぁ。あちしらに聞きたいことがあるとかなんとか言ってたくせに、何も聞いてこなかったよね。あん時みたいにピカピカって、何か光らせてただけじゃん。そんで、ここで待てってさ。よくわかんない」


 ジェシカの言う通り、得体の知れない男はここに来てからもマズルとジェシカに向けて謎の光を放った後、何処かへ消えてしまっていた。

 やはり二人に実害は無いに等しかった。


「そうだな。しかしどこにも怪我はねえわけだし、まったく何のつもりなんだか」


「もしかしてだけど、時間が経ってから効果が現れる、なんてこと……ないよね?」


「怖えこと言うなって。帰ったら、一応ワカバに回復してもらおう」


 帰ったら。その言葉がマズルの口から出た時、二人の間に沈黙が流れた。


「帰るつもり、あるんだ」


 ジェシカが尋ねた。


「……どうだかな。あんな風に出てきたわけだから、今さらどの面下げて戻ってきた、ってなるだろ」


「そりゃそうだよ。いっぱい怒られるに決まってる。……そんでもあちしは、帰りたいって思う。わがままかもしんないけど」


「お前は自由にしたらいいさ。でもなぁ、こっからどうやってあそこへ帰るか……」


 その時、一団が部屋の中に現れた。

 救出にやってきた、ツルギとエール、ハウ、カサンドラの四人だった。


「おー、これは皆さんお……そろ……いで……」


 いつもの調子で軽い挨拶をしようとしたジェシカだが、流石に場の空気といきさつを考えたのか、途中からしどろもどろになった。


「……褒められたものじゃないぞ、二人とも。みんなに心配と迷惑をかけたんだ。その気持ちと苦労を、ちゃんと理解しているのかい!?」


「ご、ごめんエーさん。反省してる。ちゃんと帰るからさ、許して?」


 普段より強い口調で叱るエールに、ジェシカは慌てて謝罪する。


「と、とにかく話は後にして、早くここから出ましょう。見張りが来るかもしれません」


 ハウは部屋の外を確かめ、安全を確認すると指のOKサインで合図した。


 全員が出口に向かう中、マズルだけはその場を動こうとしなかった。


「どうしたんですかアニキ? 早く出ましょう」


「外ではマジーナたちが戦っている。彼女らのためにも、急ぐべきだ」


 だが、ツルギとカサンドラの言葉でも、マズルの足を動かすには至らなかった。


「……行かねえよ。俺は」


 マズルはポツリと呟いた。


「えっ……」


「マズルさん……?」


「何を申している? 今の状況がわからないのか?」


「マズル君、今は意地を張っている場合じゃない。……こんなことしたくはないが、行かないつもりなら君一人を置いていくことになるんだぞ!?」


「マズさん、帰ろうよ。ちゃんと謝れば許してくれるって。……多分」


 全員が帰還を促したが、マズルの意志は変わることはなかった。


「俺のことは構わないでくれ。突然こんな世界に連れて来られて、お前たちみたいに受け入れることなんてできなかったんだよ。それにセタやあの女神さんの命令でこの世界を救うなんて、する義理はねえ……」


「そんな……。でもここにいたら何をされるかわかりませんよ。脱出できたとしても、知らない場所で一人で生きていくなんて無謀です。だったら僕らと一緒にいた方が良くないですか?」


 ツルギは必死に説得するが、それでもマズルは簡単には折れなかった。


「だから言ってるだろ。構わないでくれって。何かしらでおっ死んじまったら、それはそれで運がなかったってことで諦めて……」


 マズルは続きを口にできなかった。ツルギは素早い動きで、マズルの胸ぐらを掴んでいたのだ。


「ツルギ……! 何を!?」


 突然の行動に、カサンドラは驚いて声をあげた。


「いい加減にしてください……! 見損ないましたよ。今の言葉、本気で言ってませんよね!?」


「お、お前……」


 マズルはそれ以上言い返せず、ツルギの顔を正面から見る以外に何もできなかった。


 その頬には、光る涙が伝っていた。


「生きられる望みが目の前にあるのに、それをわざわざ逃すなんて間違ってる! 父さんに昔、そう教わった。僕は……あんたに父を重ねて見ていたのに……!」


「つ、ツルギ君、それは言わない約束だったのでは……。しかも自分で言ってしまうとは」


 エールはツルギの剣幕に驚きつつも、早い約束の破棄に戸惑いを隠せなかった。


「行きましょうよ。強がりも意地っぱりも、このピンチを切り抜けてからでもいいでしょう?」


「…………」


 涙を拭い、ツルギは言った。しかしマズルからの返事はなかった。


 その時、激しい轟音と共に、マズルの背後の壁が砕け散った。


「あら、意外と近かった……?」


「だから止めようって言ったじゃないですか……。皆さんに当たったらどうするんです」


 空けられた大穴から、ひょっこりマジーナが顔を覗かせた。クロマの声も近くからした。


「お前たち、外の戦いはどうした?」


「だいぶ片付いたから、みんなを助けに行こうと考えたの。でも中に入って探すのも面倒だと思ったから、思い切ってあちこち壁をぶっ壊してみたら偶然ここに繋がって」


「マジーナさんたち、色々とナイスタイミングです! さ、早く出ましょう」


「よくわかんないけど、役に立ったならなによりよ。外はこっちよ」


 事情は分からずとも誇らしげなマジーナの手招きで、全員が次々と外に出た。


「行きますよ、アニキ」


「あ、ああ……」


 ツルギとマズルは揃って、最後に穴をくぐった。



 施設の外へと脱出したツルギたちは、ダストをほぼ制圧できたバレッタと合流した。


「ジェシカ! 無事だったのね? 良かった……」


「ごめんなさいバレさん。もう勝手なことはしないから……」


「いいんだよ。ちゃんと帰ってきてくれたんだから。……それはさておき、アンタって奴は……!」


 ジェシカを抱きしめた後、バレッタはマズルを睨みつける。


「……すまん、俺の勝手な行動が原因だ。責めるなら俺を」


「当然だよ。覚悟しな!」


 バレッタの制裁がマズルに下されようとしたその時、ジェシカは声をあげた。


「ちょっと待って、あそこ! あいつが……!」


 ジェシカの指差す先、施設の屋根の上に、『あいつ』はいた。

 マズルとジェシカの前に現れ、二人を連れ去った謎の男だった。


「何者だ? 奴は」


「俺たちを攫った男だ。何をするつもりなのか、よくわからねえ」


 男は上から一同を見渡し、顎に手を当てて何かを考えるような仕草をとると、口を開いた。


「やはり仲間がいたのですか。ダストたちに警備をさせていましたが、どうやら力不足だったということですね」


 誰に言うまでもなく、男は一人呟いた。

 それから、明らかに全員に聞こえる声で言った。


「あなた方の健闘に敬意を表し、教えておきましょう。我が名はエクリプス。アンチ・ピースの代表にして、主ネビュラ様の代弁者。コスモの眷属ならば、また必ず遭うことになりましょう。せいぜい憶えておくことです。ではこれにて、失礼」


 エクリプスは、ツルギたちの前から一瞬で姿を消した。

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