表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/135

救出突入作戦

 夜明けを目前にして仄かに明るくなった森の中を、ツルギたちはできる限り静かに、そして素早く移動していた。


 マズルとジェシカの居場所が特定され、一行はセタを先頭にして指定の場所へと急いだ。

 その道中、誰も言葉を交わす気は起きず、ただ二人の救出だけを考えていた。


 だが、マジーナはひとつ引っかかりがあった。走りながらツルギの耳元に近づくと、尋ねた。


「ねえ、ツルギ」


「なに?」


「なんていうか、上手く言えないんだけど、元気なくない? さっきからずっと」


「そうかな」


「その返事がもう覇気がないし。これから戦いになるってのに、そんなんじゃ……」


「恐れ入りますがマジーナ様、お静かに願います。そろそろ見えて参りますので」


 セタの言葉に、マジーナの口は閉じられた。


 見ると、前方には大きな建物がそびえ立っていた。灰色の壁が四方を囲み、窓は見当たらない。そこからは暖かな雰囲気はまるで感じられなかった。


「あそこはアンチ・ピースの所有する建物です。内部の様子は確認していませんが、どうやら捕虜を収容する施設のようで御座います」


「捕虜を? 確か、この世界には大国がひとつあると言っていたね。そこの人間が捕らえられているのかい?」


「以前はそうでした。しかし、現在では……。この説明は後にしましょう。今は一刻も早く、お二人を助け出しませんと」


 セタは話を切り上げ、目の前の建物を見渡した。


「どうやらここの警備は手薄のようです。ですが、くれぐれも油断なさらないよう」


「うう、いきなり敵陣突入ってわけですよね。緊張してきた……」


 ハウは楽器をぐっと抱きしめ、身を震わせた。


「もし怪我しても、ぼくが治すから安心して」


「あ、ありがとう。そうならないのが一番だけど……」


 ワカバの気遣いも、今のハウには逆効果だった。


「私もできる限りの助力をいたしますのでご安心ください。入口はひとつしかないようなので、そこへ向かいましょう」


 セタを先頭にして、一行は建物の入口へと向かった。


 入口の正面まで回り込み、セタは再び周囲を確認する。どうやら敵の気配は感じられなかったらしく、セタは目配せで合図を送り、突入を実行した。


 しかし、事は容易には行かなかった。どこからともなくゴツゴツした岩のような物体が飛んできて、地面に転がった。そこから細長い触手のような物が飛び出たかと思うと、四肢を形成して立ち上がった。


 マズルとジェシカが遭遇した、あの怪物たちだった。


「なんだい? 気持ち悪い奴らだね……」


「『ダスト』と呼ばれる、言わば敵の兵士です。大した戦闘力はありませんが、大量に湧き出てきます。お気をつけください」


 その言葉の通り、ダストたちは次々と現れ、ツルギたちににじり寄ってきた。


「き、来ましたよ……!」


「だ、大丈夫だよ。強くないって言ってたろ……」


 バレッタは強気に言ったが、未知の怪物を目の前にして迂闊に動けなかった。


 そんな中、ダストの一体が薙ぎ払われ、吹き飛ばされて消滅した。

 カサンドラが先陣を切ったのだった。


「恐れることはない。我々はこれまでも狭魔獣と戦ってきたのだ。マズル殿とジェシカ奪還のため、力を合わせよう!」


 カサンドラは全員に向けて言った。


「……その通りです。僕らならきっと大丈夫。勇気を出しましょう!」


「そうだね。気持ちで負けていては、勝てるものも勝てない。行こう!」


「や、やりましょう。やっぱり自信はありませんが、頑張ります!」


 ツルギを筆頭に、全員が奮起した。


(流石、主が選ばれた勇者様方です。正直なところ、マズル様たちが離反なされた時は不安になりましたが、やはり私の目に狂いはなかったということですかね……)


 セタは心の中で呟いた。


 ツルギたちはダストの集団を一体一体攻撃していき、ある程度は倒すことができた。

 だが、異変は突然起こる。


「ていっ! はっ……!? これは……!?」


 エールの剣が砕けた。それも刀身がぽっきり折れたわけではなく、まるでガラスが割れるように粉々になっていた。


「私の槍が……?」


 カサンドラの槍も同様だった。

 そこに、ハウの悲鳴が響いた。


「いやっ、離して! ボクの楽器……!」


 ダストの腕に巻き付かれたハウの楽器は、溶けるように消えてしまった。唯一の武器を失った三人は、マジーナたちの元へ集まった。


「アンタたちどうしたの? 武器と、ハウは楽器も壊れちゃって」


「私にもわからない。セタ君なら何か知っているのでは?」


「仮説ですが、武器がこの世界に適応できなかった可能性があります。あなた方の世界には存在しないダストと戦い続けた結果なのかも……」


 セタは考えながら言うと、ハウが疑問を投げかけた。


「で、でも、ボクたち今までも狭魔獣とは戦ってきましたよ。武器が壊れるなんてこと、なかったのに」


「それはおそらく、こちらの世界にいたのが短時間だったためでしょう。あるいは、これまで戦ってきた負担が蓄積して、今になって影響が現れたということかもしれません」


「そんな……」


 ハウは心細さに、自分の身を抱きしめた。


「とにかく、今戦えるのはバレッタ殿とマジーナ、クロマ、ワカバ、そしてツルギだけだ。我々は救出に回った方が良いのではないか?」


「仰る通りです。ここは二手に分かれるのが賢明でしょう」


「そうと決まれば、早く決めて向かおう。時間がかかればどちらにとっても不利になる」


 ツルギたちは救出側とダストたちの足止め側に分かれ、それぞれの場所へ向かった。


「ツルギもこちらなのだな。セタ殿はどうしても譲らなかったが」


 建物内部を駆けながら、カサンドラは訝しげに呟いた。

 救出側にはエールとカサンドラ、ハウと武器が壊れていないツルギも所属しており、残りは全員ダストの相手をしていた。

 これはセタが独断で決めた配分だった。


「僕にもわかりません。考えてる時間はないと思って、言われるままにしてしまいましたが」


「中にも敵がいることを想定したからかもしれない。それに、捕まっているのがあの二人だからかもね」


 ツルギとカサンドラの会話を聞いたエールは口を挟んだ。


「と言うと?」


「マズル君とジェシカ君はキミたちの縁の仲間だと言うことだよ。自分の相棒は自分で助け出せ、という意味なんじゃないかな?」


 それを聞いたツルギは、マジーナに言われたことも含め、考え込む。


「実を言うと、ジェシカじゃなく僕が行くべきだったと、そう思ってたんです。僕はアニキの相棒なんだから」


「彼の元にいられなかったと、後悔があったんだね」


「ええ。それに、アニキにはただの仲間という理由だけじゃない、不思議な気持ちがあったように思います。……もしかしたらだけど、父に似た何かをあの人に感じていたのかな、なんて。あ、これは言わないでくださいよ?」


「はは、もちろんだよ。それじゃ、早く二人を助けてここを出よう」


「はい、そうしましょ……おっと、やっぱり敵が」


 目の前に現れたダストを、ツルギは反射的に斬り伏せた。


 道が幾重にも分岐した建物内部を、ツルギたちは迷いながら進む。


 そして、一行はひとつの小部屋を見つけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ