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逃げる影、現れる影

 ひたすらに前を走る黒ずくめの人物を追い、マズルは森の中を走る。その後ろから、ジェシカも息を切らしながらマズルの背を追っていた。


「はぁっ、ちょっ、マズさん……。待ってってば……」


 しかし、その声は届かない。まるで何かに取り憑かれたかのようにマズルは走り、黒ずくめに向かって声をあげていた。


「おい、待てよ! お前、一体何なんだ!?」


 黒ずくめにはその声が届いているのかどうかわからない。正体不明のそれもまた、何かに取り憑かれたかのように前へ前へと走っていた。


 やがて、マズルは森を抜ける。眼前には暗い空が広がり、一寸先も見えないほど闇に包まれていた。


「くそっ、あいつどこへ……」


 暗闇に紛れたのか黒ずくめも完全に見失ったが、背後のジェシカのぜえぜえという呼吸の音で、マズルは我に返った。


「ジェシカ。悪い、あのローブの奴を見失っちまって……」


 その言葉が終わる前に、ジェシカの手はマズルの襟元を掴んでいた。


「……おいコラ、マズさん……いやマズル」


「は……?」


「は? じゃねーよ。女のコ残して勝手に行くなんてどーゆーつもりなんだっての。ええ!?」


「いや、俺はその……」


 ジェシカの気迫にマズルもたじたじで、手を挙げて固まっている。更に彼女の説教は続く。


「さっきから何度も呼んだんだよ? 聞こえてなかったの? さすがに怒るよ!?」


「す、すまない。悪かった反省してる。だからあれは止めてくれ、な?」


 あれ、というのはジェシカの力と人格の暴走ともいうべきものだろう。マズルは他に味方もいない状況で、彼女の第二人格が現れることを恐れたようだ。


「……わかればいいよ。もう、マジビビったんだからね? 置き去りはやめて」


 ジェシカはマズルから手を離し、そっぽを向いた。マズルはホッとして手を下ろした。


「ああ、本当に申し訳なかった。だってあいつ逃げるもんだからさ」


「あの黒い奴、マズさんに何かしたの? ずいぶん必死に追いかけてたけど」


「いや、特に何もされてねーが……」


 マズルは思い返した。黒ずくめはこちらに攻撃してきたわけでもなく、ただ逃げただけだった。


「そう言われると俺、なんであいつを追いかけたんだ……? 道を尋ねようにも、敵か味方もわかんない奴なのに」


「知り合いだったとか? ……でも、そんな人ココにいるはずないか」


「ああ、そうだな……」


 気のない返事をするマズル。

 その時、前方から何者かが接近した。二人は気配を感じ、視線を移した。


 そこにいたのは一人の男だった。

 暗闇の中でもわかるほどに深い漆黒の長髪に同じ色の瞳、対照的に純白のスーツに身を包み、手には手袋をはめている。

 そして、男はフワフワと宙に浮いていた。それだけで、只者ではない雰囲気を醸し出していた。


「誰だ……?」


 マズルは呟いた。

 その瞬間、男のいた場所から強烈な光が放たれ、二人は思わず目を瞑った。


「あいつ、何をしたんだ?」


「……どこもやられてなさそうッスけど」


 ジェシカは身体のあちこちを確認するが、マズル供に傷一つついていなかった。


「なるほど、塵芥ですか。それも外界の」


 男は初めて口を開いた。感情の感じられない、冷たい声だった。


「チリアクタって?」


「俺たちをゴミ扱いしてるってことらしい」


「ひどっ。初対面でそりゃないっしょ。てか、さっきのは攻撃と思っていいッスよね?」


「多分そうだろうな」


「そうとわかれば話は早い。それじゃ、正当防衛ってことで……」


 ジェシカは近くにあった岩を念力で持ち上げ、投げつけようとした。

 しかし、それは叶わなかった。岩が木っ端微塵になったのだ。それもジェシカが持ち上げる前に。


「えっ、まだ何もしてないのに……?」


「お前、何をした?」


 弾は出ないとわかっていても、マズルは銃を男に突きつける。


「妙な真似はしないでください。手を煩わせたくありませんので」


 男は指を鳴らした。すると、どこからともなく不気味な怪物が数体、現れた。


 怪物は人の形をしているが、頭はひびの入った石のようでゴツゴツとしており、目や口は見当たらない。代わりにひびからは内部の光が漏れていた。

 身体は頭部に不釣り合いに細く、手足には指がない。しかし不思議なことに、普通に歩行ができていた。


「拘束なさい」


 男が命じると、怪物たちはマズルとジェシカに襲いかかった。


「何しやがる!? 離せ!!」


「うげっ気持ち悪っ。やめてよ!!」


 触手のような怪物の腕は二人の身体に巻き付く形でしがみつき、動きを封じてしまった。


「悪いようにはしませんので安心しなさい。色々と聞きたいこともあります」


 男はマズルたちを連れ、何処かへと去っていった。

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