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はぐれマズルの行方

 ツルギたちがセタとコスモから諸々の事実を聴かされていたその頃、はぐれたマズルは当てもなくソラトニアの地を彷徨っていた。


 たった独り、見知らぬ場所に放り出されればできることは恐ろしく限られ、最悪の場合命の危機にまで直結することは、少し考えればわかるはずであった。これまで追体験によってツルギの世界を見てきたマズルならば尚更である。


 そんな彼の心を衝き動かしたのは、ほんの少しばかりの猜疑心だった。


「はぁ、やっぱその場の感情に任せるんじゃなかったか……」


 足を止めて腰を下ろし、一人呟くマズル。

 その背後から、声がかけられる。


「後悔してんスか? マズさん」


「ジェシカ? お前……なんでここに?」


「なんでって、ついてきたからいるんスよ。まぁ、しーていうなら、向こうにはいたくなかった、みたいな?」


「……カサンドラか?」


 マズルは推察した。


「そんなトコ。なんてーか、まだ苦手なんだよね、あのオバさん。どーせみんな組になるんだろうし、そしたら絶対気まずくなるに決まってる。だからこっち来たワケ」


「そうか。前の俺とエールみたいなもんだな」


 マズルは苦笑した。ジェシカはマズルの元に寄ると、顔を近づけ尋ねた。


「だけど今回はセタっちにおこ、でしょ?」


「まぁな。あいつの言う通りにしてきて、これでようやく全部終わると思ってた。なのに今度は、この世界を救えだと? 冗談も大概にしろって……」


 マズルは血管が浮き出るほどにぐっと拳を強く握る。

 そんな男に対し、ジェシカは、危険物を扱うかのように声をかけた。


「……こんなこと言うのもなんだけど、あちしはあの人、そんなに悪くないと思う」


「セタがか? どうしてそう思う?」


「上手く説明できないからわかんないよ。だけど、あの女神さんって人の代わりに一生懸命働いてたみたいだし、あんまし責められないってゆーか……」


 ジェシカは口籠った。マズルはふうっと息を吐き、口を開いた。


「お前に免じて、あいつのことはこれ以上何も言わないことにする。ジェシカも余計な心配しなくていいからな」


「うん、そうする。ありがとマズさん。やっぱあちしたち、気が合うね」


 ジェシカはニコッと微笑んだ。マズルも精一杯の笑みを返し、頭を現実に引き戻した。


「さて、これからどうするか。すぐに戻ってもどの面下げて帰って来たって、最悪半殺しの目に遭うよな……」


「何か言い訳でも考える? それに、来た道は通れなくなってるみたいだよ。どうやってさっきの所に帰るつもり?」


「そうだな……。参った、こんな常識の通じない場所で何をどうしたらいいんだ」


 その時、近くに生えた草むらがガサガサと音を立てた。身構える二人。すると草むらから、一匹の大きな鼠が姿を表した。


「コイツ……、俺たちが最初に戦った狭魔獣か? 確か、ラット・スターとか言ったか」


「あちしは初見だね。てか、こっちの世界じゃ魔獣がそこら中に生きてるってこと?」


「どうもそうらしい。……来るぞ、気をつけろ!!」


 魔獣の尻尾に付いている鉄球が振り回され、二人のいた場所へ飛んできた。マズルとジェシカは反対方向へ飛び退いて躱し、マズルはすかさず銃を構え、引き金を引く。


 しかし、弾は出なかった。この時になって、マズルは重要なことに気づく。


(しまった……。バレッタがいねえと魂込めができねえ。うっかりしてた……)


 攻撃手段を失ったマズルだったが、魔獣はジェシカの方へとにじり寄った。武器を持たない彼女が格好の的だと判断したらしい。


「待て! 相手を間違えんじゃねぇぞ。こっちだ!」


 魔獣に対して声をあげ、注意を引き付けようとするマズル。だが、魔獣は向きを変えようとはしない。


「マズさん、それ投げて!」


 突然ジェシカは叫んだ。


「投げてって、コレをか?」


 マズルは銃を持ち上げて尋ねる。


「そう。早く!」


「お、おう。それっ!!」


 マズルは言われるがまま、銃をジェシカ目掛けて放り投げた。ジェシカはそれを、得意の念力で受け止め、器用に操ってみせた。


「よいしょっ、うりゃ、えいっ!!」


 ジェシカは銃身の刃を使って魔獣を切りつけ、ダメージを与えた。


 倒しきることはできなかったが、深手を負った魔獣は一目散に逃げ、姿を消した。


「ほっ、なんとかやっつけたね。あちしの……"念力武装(サイキック・アームズ)"だっけ。自分で名付けといて忘れてんの。あはは……」


「ああ。助かったぜジェシカ。つーか俺こそ、この新しくなった銃で接近戦もできるの忘れてたな。手間かけさせて悪かった」


「仕方ないよ。突然のことで慌ててたんだからさ」


「そう言って貰えれば助かるが。しかし、早いとこあいつらと合流しないとマズいな……」


 元は自分が撒いた種であることは承知しているため、マズルは自責の念にかられつつも解決策を模索した。


 その時、今度は黒い影が視界に入るのを、マズルは感じた。


 それは漆黒のローブに漆黒のフードを被り、全身が黒ずくめで本当に影のようだった。大きさと身体の線から見て、中身は人間だと思われた。


「何だ……お前は……?」


 マズルは呟くように問うが、黒ずくめは何も答えない。


 黒ずくめは少しマズルを窺うような素振りを見せると、すぐに踵を返し先にある森の中へと消えていった。


「おい、ちょっと待てよ!!」


 マズルは駆け出し、その後を追った。


「マズさん!? ちょっ、置いてかないでよ!」


 自分には目もくれず走るマズルを追い、ジェシカも駆け出した。

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