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創立と失敗

「勇者捜索プロジェクトって……? あたしたちのこと?」


 マジーナは聞き返す。突然飛び出した勇者という言葉。それが自分たちを指しているとなれば、理解が追いつかないのは当然といえる。


「左様です。主はそれぞれの世界に数人ずつ、『勇者の加護』を与えたのです。その方々こそ、私の目の前にいらっしゃる皆様で御座います」


「ほ、ほぉ……」


 マジーナは驚きや困惑が入り混じった声を出した。


「その、勇者の加護を授けられた人たちが私たちだとして、すぐに見つけることはできなかったんですか?」


 クロマはおずおずと尋ねた。


「その通りです。誠に恐縮なお話ですが、加護を授けられた方々をすぐに見つけ出すことは叶いませんでした。しかしながら、それぞれの世界における、勇者の長となるお二方を見つけることができたのです」


「それが、ツルギさんとマズルさんだったと?」


「はい。主の加護を授けられた方たちは、いずれ集う運命にあるとわかっておりました。つまり長となる方々を特定できれば、あとは自ずと見つけることができると考え、陰ながらサポートをさせていただいていたのです」


 話し終えるとセタは頭を下げた。


「だけどプロジェクトって言うからには、何か作戦的なモンがあったんだろ? ツルギとマズルの二人を見つけるにしたって、闇雲に探したところで簡単に見つかるわけないし」


 次にバレッタが尋ねると、セタは初めて顔を曇らせた。


「そうで御座いますね……。確かに、私には作戦というべきものがありました。しかし、それは成功とは言えないもので……」


「セタ。そのことにつきましては、私から説明しましょう」


「主の手を煩わせることには参りません。ここは私が」


 コスモは唐突に口を出した。セタは途端に恐縮し、即座に返した。


「いいえ。元は私が提案したこと。私から話すのが筋というものです」


「……承知いたしました。お願い致します」


 セタは横に退き、コスモとツルギたちの間に空間を作った。


「先ほどセタから説明があった通り、私はそれぞれの世界の人間に勇者の加護を与えました。そしてまずは勇者の長を探すべく、二つの組織を創らせたのです。その二つの組織とは、おそらく皆さんがよく知っているものだと思います」


 コスモは考える時間を与えるように、そこで話を止めた。

 しかし、答えはすぐに出ることとなる。


「もしかして……魔王軍?」


 ツルギはゆっくりと答えた。


「ボクたちの世界では、ヒュジオンですか?」


 ハウも答えた。


「そうです。その二つこそ、私が創らせた組織です。勇者を探すための」


 呆気にとられる一同を前に、コスモははっきり言った。


「ちょ、ちょっと待って。あの組織は、人に迷惑しかかけない連中だったんだよ? まさかそれを、神様が創らせただなんて……」


「そうよ。あたしらの世界の魔物たちだって、平気で人々に危害を加えるような奴らよ。それなのに……」


 バレッタとマジーナは信じられないといわんばかりに、言葉の続きが出なかった。他の全員も、何も言えずにいた。


「……お詫びのしようも御座いません。それぞれの世界で被害を受けた方々には。しかし、これだけはわかっていただきたい。魔王軍もヒュジオンも、初めからあのような集団ではなかったのです」


 セタは沈黙を破り、再び説明をした。


「どういうことですか?」


「先ほども申し上げた不の種。それらは実は、皆様の世界にも影響を及ぼしているのです」


「何だって?」


 エールは鋭い目線を投げかけた。


「誠に御座います。不の種は、人々の思考や感情を狂わせると説明しましたね? そのせいで、時を重ねるうちに組織の体制が変化してしまったのです。魔物たちは過度に人々を襲うようになり、存在するはずのない魔王の噂が立つようになってしまいました。

 ヒュジオンは、組織内でエール様のような原典派と過激派に分離してしまい、後者は奇怪な生物を造って野に放つようになりました……」


 セタは悔しげに俯いた。場の空気は更に重くなった。


「私どもに伝わる教義は、『二つを一つにすべし』でした。その真意は、我々勇者を二人一組にし、こうして一つの場に集めるということだったのでしょうか?」


 エールは尋ねた。口調からして、セタの背後のコスモに対してのようだ。


「ええ、そうです。永い時間を経た結果、内容が簡素化してしまったようですが、概ね伝えたいことは伝わっていたのですね。私の名前が少し間違って伝わったのも、そういうことだったのかと」


「なるほど……」


 エールは深い理解を示すように、腕を組んで大きく頷いた。


「つまりは、あなたが創られた、勇者を探すための組織が、敵の手によって邪悪なものに変化してしまったと、そういうことですか?」


 ツルギは要約して確認した。コスモとセタは、ゆっくりと頭を下げた。


「……なんというか、都合よく言いくるめられてるような気がしないでもない。今に始まったことじゃないけどさ。もしアイツがここにいるなら、間違いなく反発しただろう。正直いえば、アタシも同じ気持ちだよ」


「バレッタさん……」


 ハウは不安げに声をかけた。


「……だけど、今はマズルとジェシカを見つけ出すのが先決だ。そして事実、アンタらしか頼りにできる人たちはいない。だから、その……よろしくお願いします」


 バレッタは深々と頭を下げた。ツルギたちも続々とそれに倣う。


「もちろんです。最大限の努力をいたします。この世界の情報ならば、ある程度提供できるはずですので、ご安心ください」


「現時点ではまだ彼らの居場所はわかっていません。少し休んで、英気を養ってください」


 セタは力強く言い、コスモは一点を指差す。そこには部屋の入口と、中にはマズルとジェシカの分も含めたベッドがあった。



 一同は言われるがままにそこへ入り、話をしたり身体を休めたりと、各々の時間を過ごし始めた。


「色々あってまだ整理つかないところはあるけど、こうして一緒に過ごせるなんて考えもしなかったね」


「あたしもよ。こんな時に言うのもなんだけど、正直嬉しいの。こうやってみんなでいられるのが」


「そうだね。うちの二人があんなことしてくれなきゃ、余計な心配しなくて済んだのに」


「あは、そしたら今度はセタさんのことで揉めそうだけどね」


 マジーナとバレッタは会話を止め、相方のいないツルギとカサンドラの方を見る。

 カサンドラは腰を下ろし、瞑想をしていた。ツルギはベッドに入り、横になってはいたが眠れていなかった。


 時は過ぎ、辺りが闇夜に包まれた頃、全員が寝静まり、ツルギもようやく眠りに落ちた。


 ツルギは夢を見た。知らない土地で彷徨い歩く夢だった。

 目の前には見知った背中があったが、自分には目もくれず、前へ前へと進んでいく。


 ツルギはその背を追うが、一向に追いつける気配はない。思わず、名を呼びかけたところで目を醒ました。


「待って、アニキ!」



 目覚めたツルギの前には、ワカバとマジーナの姿があった。


「大丈夫? うなされてたみたいだけど……」


「……ああ。心配いらないよ、ワカバ」


「寝起きのところ悪いけど、早く支度した方がいいわよ。マズルさんとジェシカの気配があったって、女神様が」


 部屋の中は、三人を残して誰もいなかった。ツルギは飛び起きると、急いで身支度を始めた。

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