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合流編Ⅸ・中

 鶏の魔獣、アイアン・トリスは鋼鉄の羽根を飛ばし、遠距離から攻撃を仕掛けた。


「あ、あぶなっ、それっ!!」


 ハウは咄嗟に楽器を弾き鳴らし、防御した。羽根は空気の振動で作り出した壁に受け止められ、鋭い音を立てて地面に落ちた。


「ハウ、やるぅ。よーし、今度はこっちの番よ。クロマさんっ」


「ええ、一緒にいきましょう! はぁっ!!」


「あちしもいるんだってば。うりゃっ!!」


 マジーナとクロマが続けて魔法を放ち、ジェシカは近くの岩を念力で放り投げる。しかし魔獣は翼を広げて身を守り、大したダメージにはなっていないようだった。


 一方、カトラス・タイガーとの戦いは、互いに決め手を出せずに、戦況に進展はなかった。


「バレッタ君、ツルギ君、一度下がった方がいい。攻撃を欲張ると危険だ!」


 エールの指示で、二人は身を引く。危うく、鋭い牙が身体を掠めるところだった。


「はぁ、はぁっ、厄介ですね……。爪の一撃を躱したり弾いたりしても、すぐに牙が来るし、その逆も然りで……」


「そうだね。こっちの方がまだ戦い易いかもなんて思ってたけど、とんだ見当違いだよ……」


 俺も何か力にならなくては。苦戦するバレッタたちを少し離れた場所から静観するしかないマズルはそう考えていた。


「よし、やるだけやってやるさ」


 マズルは近くにあった手頃な石をひとつ掴むと、勢いよく魔獣に向けて投げつけた。

 石は魔獣の頭に見事命中したが当然、決定打にはなるはずもなく、魔獣はマズルの方に身体を向けた。


「はは……。やっぱりな」


 魔獣は顔を引きつらせるマズルめがけ、飛びかかった。すぐにツルギとエール、カサンドラが駆けつけ、双の剣と槍とで壁を作り、なんとか魔獣を受け止めることに成功した。


「バカかアンタは!! ただでさえ人手が足りないってのに何してんの!?」


「いや、気を逸らせたらなと思ってよ。その後は考えてなかったが…」


「余計なことすんなっての。ほら、わかったら後ろ下がる!」


 怒り心頭のバレッタに圧倒され、マズルは広間の隅に移動した。


 時を同じくして戦いから避難していたのは、マズルだけではなかった。ワカバも戦いに巻き込まれるのを恐れてか、壁沿いで戦いを見ていたのだった。


「…お互い、肩身が狭いな」


「かたみ? せまい?」


「ああ。みんな戦ってるのに、俺たちは何もできない。なんか、申し訳ないなってことだよ」


 自嘲気味にマズルは言った。純粋なワカバはそれをそのまま受け取った。


「確かに、ぼくは戦いは得意じゃないよ。でも今は、出番を待ってるだけだから、問題ないんじゃない?」


「出番を待ってる、か…。そうだな、お前は回復担当だけど、俺は……」


 マズルはふと考えた。これまでの追体験を思い返し、自分にしかできないことがあるのではないか、と。


 そして考えがまとまった後、ワカバに策を伝えた。


「ワカバよ、出番っていうのは待つばかりじゃなく、作るもんでもあるんだぜ」


「出番を…作る?」


「そうだ。よかったら、俺の作戦に協力してもらえないか?」


「うん、もちろんだよ」


「よし、それじゃあな……」


 マズルはワカバに耳打ちした。


 魔獣戦は、先にマジーナたちの方に疲労の色が出始めていた。ハウの腕や指は力がなくなり、クロマたちは呼吸が乱れていた。

 それでも、敵の攻撃は勢いを緩めることがない。魔獣は次の攻撃に転じようとしていた。


「ちょっと、ヤバいかもね…。あれをまともに食らったら、もう…」


「ボクももう限界かもです…。セタさん、助けてくれないかな~…」


 ハウは横目でちらりと見るも、当の本人はひたすらに傍観していた。


 その腕を、マズルは後ろから掴んだ。


「みんな、こっちに来い。俺に考えがあるんだ」


「ひゃいっ、マズルさん!?」


「考えって?」


「とにかく今は言う通りにしてくれ。説明してる暇はない」


 マズルはハウたちを引き連れ、別の場所で戦うバレッタたちの近くに向かった。


「マズルの奴、何考えてるんだ? こんなに近くで戦ったら大混乱じゃないか…」


 鶏は移動するマズルたちを目で追っていたが、やがて鋼鉄の羽根を投げつけようとした。

 その動作を確認したマズルは、ここぞとばかりにワカバを呼ぶ。


「ワカバ、今だ!!」


「はい、えいやっ!!」


 ワカバの声と共に、地面から太い根が生えた。根は虎の魔獣を絡め取り、鶏の直線上に移動させた。投げつけられた鋼鉄の羽根は虎の身体に刺さり、全員に被害はなかった。

 虎は傷で悶えている。マズルは機を逃すまいと、続けて指示を出した。


「マジーナ、クロマ。あいつに雷の魔法を。一番弱いのでいい」


「わかったわ。クロマさん、いくわよ」


「了解です。"レール"!!」


 二人の魔法使いの雷が、虎へと向かっていく。その身体に更に刺さった鉄の羽根から電気が伝わり、体内からの熱と感電により魔獣は大きな傷を負ったようだ。


「やったか…?」


 鶏とマズルたちの間で横たわる虎は、二度と動くことなく塵になって消え去った。


「やった! 一体撃破ね」


「さすがだねマズル君。皆の特技をわかっているが故のファインプレーだった」


「やるじゃんマズル。見直したよ」


 マズルを褒め称えるエールたちだが、彼とツルギの視線は別の方向に向けられていた。


「これであとは…」


「あいつだけだな」


 アイアン・トリスは、マズルたちに甲高い声をあげて威嚇した。

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