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最終決戦は唐突に?

 おそるおそる魔王城へと足を踏み入れた一行。前方はツルギが、左右はマジーナとワカバ、クロマが、そして後方はカサンドラが警戒をし、四方八方からの敵襲に備えていた。

 俺も、ツルギに声しか届かないとはいえ、いざという時に備えて上や足元にも注意を向けていた。

 しかしある程度進んでも魔物が出てくる気配はない。あんなに外にはたくさんいたというのに、全て出払ってしまったとでもいうのか?


「出ないわね」


 しばらく進んだ後、マジーナは苛立ったように呟く。


「出ないね」


 ワカバも退屈そうに言った。


「出ないですね…」


 クロマは警戒を続けつつも、少し安心したのか言葉を漏らした。杖を持つ手も緩んでいた。


「気を抜くな。奴らは我々が油断したところを襲うに違いない。魔王を倒すまでは、決して…」


 カサンドラだけは歴戦の経験の賜物か、優れた集中力を研ぎ澄ませ、警戒を怠ることはなかった。

 しかし、その言葉が届く前にマジーナはある物に気を取られた。


「あっ、宝箱だ! 開けよ開けよっ」


「こら、言っているそばからお前は…!? マジーナ、止まれ!!」


 カサンドラは何かに気づいたのか、必死にマジーナを制止させようとした。


 その時、宝箱の陰から何かが飛び出し、マジーナに襲いかかった。


「ぎゃっ…何ッ…!?」


 一瞬驚いたマジーナだったが、咄嗟に魔法を相手の顔面にぶつけることに成功した。

 襲ってきた相手は自身の後方に飛ばされ、地に伏したが、まだ息はあるようだった。ツルギはすかさず剣を下に構えて相手に飛び乗り、腹部に突き刺す。敵は今度こそ動きを停止し、すぐさま消え去った。


「あ、あっぶな。びっくりした…」


「だから言ったのだ。気を抜くなと。あれは宝箱の見張りの魔物だ。これから魔王と戦うのに、万が一こんな所で死んでしまっては情けないぞ」


「…ごめんなさい。気をつけます」


 マジーナはしゅんと小さくなり、反省の色を見せた。カサンドラは頷いて宝箱の方を指す。


「わかればいい。ではせっかくだから宝箱を開けてみるとしようか。クロマ、この宝箱は安全か?」


「はい。魔物の反応はありません。開けても問題ないはずです」


「ぼく開けたい。…よいしょっと。…これ、何?」


 ワカバは宝箱を開けると、子供の大きさほどの長さの杖が一本出てきた。金属のような素材で作られており、先端には宝石と鳥の片翼の装飾が付けられている。


「そ、それはもしかして、『甦りの杖』!?」


 クロマはその杖をひと目見るなり、珍しく大声を上げ、直後にハッとして自分の口を押さえた。


「知ってるんですか、クロマさん?」


「ええ。伝説でしか聞いたことはなかったんですが、特徴は完全に同じですから間違いありません。これは死者を蘇生させることができる、とても貴重な杖なんですが…」


 それだけ聞くととんでもない代物だが、クロマの口ぶりからは何か裏がありそうな予感がした。


「何かあるの? 力の代償とか?」


「そういうものはないのですが、難しい条件がいくつかあるんです。まず、蘇生は一度だけ、一人にしかできません。

 ただ、死んでから使うのではなく、生きている時に使わないといけません。

 その上、使用してから一日以内にしか効果が現れず、時間が過ぎると効力を失い、二度と使えなくなるという物、らしいです」


 なんとも複雑なアイテムだが、死者蘇生ができるとなれば、それくらいの制限はかかっても仕方ないのだろうか。


「つまりは一日以内に死ぬことがわかってる人間一人にしか使えないってこと? めんどくさっ」


「このあと魔王と戦うんだし、その時に使ってみるのはどう?」


「だけど一人にしか使えないなら無駄になってしまうかもしれないし、誰が死ぬかなんて考えられないよ。難しいもんだな…」


 考えあぐねる五人だったが、今は使わないという結論に至り、杖はクロマが預かる形に落ち着いた。




 その後、階段をいくつも上がり、城の上層部へと到着した一行。そこまでの道中も、宝箱の番以外の魔物は出てこなかった。


 目の前には、正門と同じくらい巨大な扉。中に居る者の大きさを物語っていた。


「ここだな、きっと…」


「遂に来ちゃったわね…」


「こ、怖くないぞ…全然…」


「私の魔法が通用しますように…。皆さん生きて帰れますように…。それから、先生やハウさんたちにまた会えますように…」


「イーノ、アンジェリカ。私たちをどうか、護ってくれ…」


 それぞれが決意や祈りを呟いた後、ツルギは扉の取っ手に手をかける。そして勢いよく、扉を押し開けた。


 部屋の中は数十人ほどが余裕で入れるほどの広さがあったが、小さなテーブルと椅子が一つずつあるだけの質素なものだった。


「ここが魔王の間よね? どうやら本人はいないみたいだけど…。留守ってこと?」


「それなら、外に出た形跡があるはずですが…。あっ、あれを」


 奥の壁は丸々失われており、外が丸見えだった。


「魔王、あそこから外に出たのかな?」


「そう考えるのが自然だが、どうも引っかかる。ここだけ壁が無いのは不自然だ」


 ツルギ以外の四人は、不在の城主の行方を訝しむ。


 その時ツルギは、まじまじと何かを見つめていた。


「ちょっとツルギ、何してんのよ」


「ああごめん。ちょっとこれが気になってさ。一緒にテーブルに突き刺さってたんだ」


 ツルギの手には短剣と、紙切れが一枚握られていた。紙切れには文字が書かれている。


「何か書いてあったの?」


「うん。『誠の敵はここに有らず。ここに辿り着いた者よ、真実を掴み取るべし』って」


「なにそれ。誰かのイタズラ? でもこんな所まで来て、そんなことする人はいないか…」


「だろうね。それにこの字、なんだか見覚えがあるんだ。………多分だけど、僕の父さんの字だ」


 俺も含めて一同、しばらく言葉が出なかった。




 それから五人は城を出た。居もしない相手と戦うことなどできず、とりあえず手に入れた甦りの杖と短剣を証拠の戦利品とすることに決まった。


「おお、皆様よくぞご無事で!」


 兵士たちと別れた場所へ到着すると、隊長がこちらに敬礼をする。


「ご苦労様です。そちらの被害は…?」


「ご安心ください。誰ひとり失っておりません。我々を見くびっていただいては困りますぞ」


 隊長は拳をグッと握って笑った。しかし鎧は傷だらけで、戦いの激しさを物語っているようだ。


「して、大魔王は? お帰りになったということは…」


「詳しくは後で話します。とにかく今は、王様の所に」


「承知しました。馬車は準備しております。さぁ、どうぞ」


 一行は王城への帰路についた。




「ふむ、魔王は城にいなかった、とな。不思議なものじゃのう…」


 王城へと帰還し、ツルギたちは国王に報告した。さすがにこの真実はすぐには受け入れてもらえないと思われた。


「陛下、私も皆と共に行動しておりましたゆえ、証言できます。信じがたいことではございますが、確かに魔王の姿は何処にもなく…」


「よいよい。疑ってなどおらぬよ。そもそも、誰も見たことのない魔王というのも奇妙なことじゃった。今後も、あの周辺の警戒を怠らぬようにせねばな」


 国王の傍にいるセタが、微かに顔を背けたような気がした。あいつ、まだ何か隠してやがるな…。


「さて、とにかく魔王城へと足を踏み入れた勇敢な者たちを祝福しようではないか。だが準備にはまだ少しかかる。今夜は家に帰り、ゆっくりと身体を労るといい!」


 国王の計らいで、五人は家に帰された。件の杖と短剣も、ツルギたちに預けられたままに。




 その夜、就寝時間になった居間で、ツルギはマジーナと二人でいた。


「…なんだか拍子抜けだったね。魔王と戦えなくて」


「…うん」


「ま、その方が良かったけど。大した苦労もせず、王様からのご褒美が貰えるんだもん。ご馳走、何が出るかな…?」


「…うん」


 ツルギは上の空だった。その理由は、きっとマジーナにもわかっていただろう。


「…あの手紙のこと、気にしてるんでしょ」


「まぁね」


「無理もないよね。お父さんの字なんだし。あんまりわかったようなこと言えないけど、考えすぎないようにして、早く休んだ方がいいわよ」


「…そうだな。ありがとう、マジーナ」


「どういたしまして。じゃ、あたしも寝るから。またね」


 マジーナは自室へと戻っていった。


 同じく自室ヘ戻ったツルギに、俺はやっと声をかける。


「色々話したいことはあるが、とりあえずお疲れさん」


「アニキもお疲れ様です。今日は色んなことがありすぎて…」


「ああ。本当に謎だらけだが、一番はあの紙切れか」


「ええ。あの文言、一体なんなんでしょう。そっちの世界でも、心当たりは?」


「ないな。誠の敵とか、さっぱりだ。それに、お前の親父さんの字ってのは、マジなのか?」


「そう聞かれるとちょっと自信がないような…。もしかしたら気のせいってこともありますし」


 ツルギは微笑んで言う。だが俺には、確信を誤魔化しているように見えた。


「お前が本物だと思うならきっと本物だぞ。俺がフリントの字をそうだと思ったようにな」


「…そうですよね。だとしたら、父もまだ生きている可能性があるってことですよね?」


「まぁ、ぬか喜びはごめんだからな。俺には何も言えねえよ。そうだ、今度こそあのセタに問いただしてやろう」


「その機会はすぐですよ。今夜はあそこへ行くんですから…」


 そして、例の如く意識が薄れ、俺たちは合流の場へと向かうのだった。

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