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合流編Ⅰ・前

 眠りに就いたと思っていた俺は、見知らぬ場所に飛ばされていた。目の前にはツルギとセタ。また"追体験"かと思ったが、どうも様子がおかしい。

 まず、ここはツルギの世界じゃない。古びた石柱や崩れた瓦礫がある。あいつの寝床は木造の宿屋のはずだ。だから違うと判断できた。

 そして極めつけは、眼前にいるのがツルギとセタだけではないということだ。バレッタだけならまだしも、マジーナまでいる。一体全体どうなっているんだ…?


「ちょっと…。なんだいここは? マズル、アタシ夢でも見てるの…?」

「ツルギ、ここどこよ? それに、あの人たちは誰…?」


 ほぼ同時に目覚めたバレッタとマジーナは、それぞれ俺とツルギに尋ねてきた。夢だと思うのも無理はない。だが、現実味を帯びた感覚からして、すぐに夢ではないとわかるはずだ。


「俺に聞かれても何がなんだか…。なぁ?」

「そ、そうです。僕らもこれは予想外のことで…」


 思わず、ツルギに助け舟を出してしまった俺は後悔した。不審に思ったバレッタたちは矢継ぎ早に質問を重ねてきたのだ。


「アンタたち、知り合いなの? だったら何か知ってるはずでしょ?」

「ツルギ、隠し事してる? 私にも言えないことなの?」

「いや、知り合いというかなんというか…」

「どう言えばいいのか、難しいんだけど…」


 曖昧な返しをする俺たちに、バレッタとマジーナは同時に叫んでいた。



「「もうっ、ちゃんと説明しなさいよ!!」」



 互いの顔を見合わせた後、二人は気まずそうに目を背けた。そこに、セタが口を挟んだ。


「私からご説明いたしましょう。マジーナ様、バレッタ様」


 見知らぬ男が自分たちの名を知っていることに警戒したのか、マジーナはツルギの後ろに隠れた。バレッタはと言うと、セタから目を離さず、身構えていた。


「私、セタと申します。以後、お見知りおきを。このような場所にお連れして心苦しい限りではありますが、実はかくかくしかじかで御座いまして…」


 セタは回りくどく説明を始めた。




「…で、つまるところはうちのマズルと、そちらのツルギって子を会わせて、お互いの世界で"追体験"ってのをさせたいと?」


 何度目かの質問と解説を経て、バレッタはなんとかそこまでは理解したようだった。普段使わない所まで頭をフル回転させた彼女はややくたびれた様子だったが、セタは嫌な顔ひとつせず、満足そうに頷いていた。


「その通りです。ご理解が早くて嬉しいです」

「こちらとしては褒められてもあまり嬉しいモンじゃないね。それで、アタシらまで巻き込んでどうするつもり? もちろん帰してくれるんだろうね?」

「そ、そうよ。私だって、一刻も早く帰りたいんだから」


 ずっとツルギの後ろで話を聞いていたマジーナは、バレッタの勢いに乗じて言った。

 セタはまぁまぁと彼女らをなだめるように、手を前にかざして続けた。


「当然、元の世界にはお帰しいたします。ですが、ここにお呼びしたのも理由あってのこと。こちらの依頼を達成していただいてからになります」


「依頼? 前に『(えにし)』をそれぞれの世界で探してと言ってましたけど、それとは違うんですか?」

「そちらとはまた別の件です、ツルギ様。此度の依頼というのは戦闘…とだけ申しておきましょう」

「戦闘? 何と戦えって言うんだ?」


 セタは身体をその場から退け、自分の後ろを指した。そこには、さらに奥へと続く通路があった。今いる場所もそうだが、見上げるほど天井の高い、とてつもなく大きな通路だった。


「この奥に標的はいます。今回は私も精一杯のサポートをさせていただきますが、攻撃は皆様にお任せいたしますので、何とぞご了承を。…では、参りましょうか」

「ちょっと待ちなよ。そんな勝手な話があるかい? いきなり連れてきて戦えだなんて、納得できるわけないだろ…!!」


 バレッタは果敢に、セタに向かっていった。だが、見えない壁に阻まれているかのように、奴に触れることはできなかった。


「何だよこれは…? 手が…届かない…?」

「申し訳ありません。酷なお願いとは重々承知しております。早くお帰りになりたければ、こちらの依頼をクリアしていただくことです」


 セタは丁寧ながらも冷たく言い放つと、つかつかと奥へと歩いて行った。残された俺たちは何も言い返せず、仕方なくその背を追いかけた。



 しばらく歩いた後、セタは歩みを止めた。目の前には、見たこともない奇怪な生物がもぞもぞと動いていた。

 それは鼠のようだが、よく見るものよりも何倍も大きく、大型犬ほどの大きさがあった。爪や歯は鋭く、まるで刃物のようだ。そして一番目を引くのは、長い尻尾の先に棘のついた鉄球が付いていることだった。


「何だアレ。鼠にしてはデカすぎるし、第一、尻尾に付いてるのは…?」

「鉄球と鼠の混ざり合った怪物、『ラット・スター』です。我々は"狭魔獣(はざまじゅう)"と呼んでおります。この場所に巣食う、いわばモンスターですね」

「アイツを倒せばいいんですね。そしたら帰してもらえると」

「その通りで御座います。先ほど申し上げた通り、私もサポートいたしますので存分に戦ってください。よろしくお願いいたします」


 ラット・スターはこちらを敵と認識したのか、歯をカチカチと鳴らして威嚇してきた。


「やれやれ。もうこうなりゃやるっきゃないね。早いとこ済ませて、元の世界に帰るよ、マズル」

「ツルギ、私は後ろから支援するから、前衛は任せたからね」


 バレッタとマジーナも覚悟を決め、俺たちも武器を構えて戦闘態勢をとった。

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