国王の依頼、再び?
スピルシティを後にし、俺はハルトダム王国で目を覚ます。この追体験にはもう慣れたもんだが、今日はいくらか気分が違っていた。
やはり、胸につかえていたものが無くなったということが大きいだろう。正直なところ、ホッとした部分とモヤモヤした部分とが、俺の中で混在していた。
本当なら、あいつが戻ってきてくれるのが一番だ。だがそう上手くいかないことは理解している。俺たちの所に帰ってくるのも、あいつの心次第だ。
だがしかし、もしも帰る気になった時には、どんな顔して迎えてやればいいかな…。
「んー…。ハルトダム王国…帰ってきたのか。おはようございます」
ツルギが傍で目を覚ます。大きく伸びをし、何か言いたげにこちらを見ていた。
「ああ。どうした? 何か俺の顔についてるのか?」
「いえ。ただちょっと…気になるだけです」
「フリントのことだろ? 言った通り、俺にとってはあれで充分なんだよ。気にしないで行ってくれ」
「…了解です。それじゃ、今日も追体験、よろしくお願いしますよ」
半分くらいは嘘になるが、無用な心配をかけさせないためだ。俺は自分にそう言い聞かせ、ツルギの後に続いた。
居間では全員がツルギを待っていた。今回はマジーナもおり、本当に全員だ。
「起きたわねツルギ。待ちくたびれたんだから」
「おはよう。えーと…。大丈夫か?」
おずおずと曖昧な質問をするツルギ。前回の魔法塾での一件を気にしているのだろう。
「大丈夫って? あたしのことならご心配なく。もう立ち直ってるし」
「それに、ヴァン先生もご無事だったんです。魔物に操られていた時の記憶はないそうですが…。でも命が助かって良かったですね」
あの先生は生きていたのか。確かにマジーナにとっては喜ばしいことかもしれないが、同時に辛いことかもしれない。先生の顔を見るたび、騙されていた記憶が蘇るだろうしな。
「それなら心配なさそうだね。ちょっと安心した」
「そういうこと。はいはい、わかったら早く支度して。これから出かけなきゃいけないんだから」
マジーナは自分の本心を誤魔化すように手をパチンと打って言った。
「クエストの依頼? そういや待ちくたびれたって言ってたけど」
「ちょっと違うの。あんたが眠ってる間にまたお呼びがかかったのよ。今すぐには行けないって、言い訳するの大変だったんだからね?」
「お呼びがかかったって、一体誰から?」
「国王陛下だ。また我々に、重要な依頼を任せたいと仰せだ」
そう言ったカサンドラの手には、またしても豪華な装飾の書状が握られている。前回は確か、隣国への手紙を持っていくだけの依頼だった。
今回もそんな仕事なら難しくはなさそうだが、俺にはなぜかそう思えなかった。
「僕たち、王様に信用されてるのかな? また手紙を届けるだけなら、簡単だよね」
「そうですね。陛下の期待にお応えできるように、頑張らないといけませんね」
ワカバとクロマは呑気だ。まぁ、あの人の良さそうな国王の依頼なら、そう思えても仕方ないのかもしれない。
「ということで、すぐに出発するぞ。理由もなく陛下を待たせてはならん」
五人は再び、ハルトダム国王の待つ城へと向かった。カサンドラの顔パスで警備を抜け、王の御前に立つと全員跪いて頭を下げた。
「苦しゅうないぞ。面を上げよ」
「ははっ。長らくお時間をいただき、申し訳ございません、陛下。今ここに全員参上いたしまして…」
恭しく謝罪の言葉を述べるカサンドラ。だが王は全く意に介していない様子だった。
「いや、儂も急に呼び出してすまぬ。何しろ重要かつ、内密にせねばならない依頼なのでな」
王の言葉で、俺はピンときてしまった。俺の勘が正しければ、おそらくは…。
「陛下、その依頼とは?」
「うむ、それに関しては召使いから伝えよう。…あやつをここへ呼んで参れ」
兵士が一人、場を離れて召使いとやらを呼びに行く。
しかし俺には、それが誰かわかっていた。
「なぁ、ツルギよ」
「はい、なんでしょう」
なるべく不自然にならないように声をかけ、ツルギもそれに応じた。
「なんとな~く俺にはこの後の展開が読めるんだが、お前は?」
「…実は僕もです。考えることは一緒ですか」
そうだよなぁ。だって同じようなことを見てたんだもんな。
そうしているうちに、召使いが一人の男を連れて戻ってくる。
俺たちの予想通り、その男はよく知る人物だった。
「ごきげんよう、皆様。セタで御座います。本日もよろしくお願いいたします」
セタは帽子を外し、ツルギを除いて唖然とする一同の前で、ぺこりと頭を下げた。




