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団体の日常は奇怪?

 信者たちの前に姿を見せたのは、彼らとは違い一際豪華な衣装を纏った人間だった。きっと、一般の信者とは格が違うということなんだろう。


 その人物は群集の前に立つと、一冊の本を取り出して声を上げた。


「それでは皆さん。本日も主に祈り、誓いを捧げましょう。さん、はい…」


「「「この世界をあるべき姿に。全ての者が平等であることを、我々の力で…」」」


 それがいつもの習慣のように、信者たちは何も見ずに詠唱する。その様子は、かなり不気味に見えた。


「こういうことを、信者は毎日やってんのか?」


 周囲を訝しげに見回し、アニキはエールに小声で尋ねた。


「どうだろう。彼らの活動については知らないことの方が多いが…、少なくとも我々はこのようなことはしてないね」

「それを聞いて安心したよ。もしアンタがこんなことを頻繁にしてたら、見る目が変わっちまいそうだ」


 バレッタも信者たちを不審に思っているようだった。

 ふとジェシカとハウはどうしているのかと探すと、彼女らは信者に詰め寄られていた。


「あなた方、新しい入信者ですか? まだ詠唱の文言を覚えていないのでしたら、教典はどうしたのです?」

「えと、あの、ボクたちは…」

「それに私服じゃありませんか。装束すらも用意できなかったのですか?」

「あちしたち、昨日入ったばっかなの。あとでちゃんとしとくから、許してよ」


 ジェシカは軽く流したつもりだったようだが、相手は顔をしかめていた。


「あなた、口の利き方がなっていませんね。我々ヒュジオンに入信するならば、まずはそこから学ぶはずですのに。まったく、親の顔が見てみたいものです…」


 親の、と言った時から、ジェシカの表情がこわばっていた。


「親は関係ないだろうが…。さっきから黙って聞いてりゃ偉そうに…!」


 育ての親か生みの親、またはその双方を侮辱されたジェシカは激しい怒りを見せる。こうなると何が起こるかは予想ができた。


「…なんですか? 暴力ですか? これだから育ちの悪い娘は…」

「ジェシカさん、どうか落ち着いて…。こんな所で…。いや、待てよ…?」


 ハウはジェシカを鎮めようとしたが、なぜか思い留まった。


「あちしの…親………我を、馬鹿にするなァァァッッ!!」


 ジェシカの第二人格が現れ、大声で叫んだ。辺りの机や椅子が見えない力で吹き飛ばされ、他の信者たちにも動揺が伝染していった。


「急に大声を出すのは誰ですか?」

「突然人が変わったように…。きっと、日頃の主への祈りが足りないのでしょう。可哀想に…」

「皆さん落ち着いてください。我らの祈りが主に届けば、全て救われましょう。さあ、引き続き祈るのです」


 次第に、辺りは落ち着きを取り戻していく。いきなり豹変した人間を前にして、主への祈りがあれば解決できると本気で信じ、誰も逃げようとはしない。僕にも初めて、この集団が恐ろしいと思えた。


「た、大変だ~。悪魔が降臨したぁ〜…」


 その時、声とともに不気味な旋律が聞こえた。見るとハウが、楽器を奏でながら芝居がかった台詞を口にしていた。


「あ、悪魔ですって…?」

「そ、そうなんです。この人、時々憑依されちゃうんですよ。早く逃げないと、皆さん殺されるぅぅぅ…」


 正直な感想を言えば下手な芝居だったが、第三者の言葉があると効果的なのか、信者たちに徐々に恐怖が広がっていった。


「貴様ら、我が力を見くびるか!? その身を持って、思い知らせてやろうぞ…!」

「ひ、ひえっ…」

「逃げろ! 今日の集会は中止だ!!」

「早く、早く!!」


 信者たちは一斉に出口へと駆け出していく。

 その後を追わんとするジェシカ。そしてハウ。


「待て…逃さんぞ! 我の力、存分に味わわせて…」

「ジェシカさんはいこれっ!!」


 ジェシカの手にケータイが渡される。いつものように、彼女の人格はすぐに元に戻った。


「ウっ………ふぃ〜…。あんがと、ハウりん。助かったよ」

「どういたしまして…。はぁ、本当に良かった…」


 ペタリとその場にしゃがみ込む二人。広間は僕を入れた六人以外、誰もいなくなっていた。


「ハウ、アンタさっきのは…」

「ちょっと思いついたんです。みんな追い出せれば、この広間内を捜索するのに都合がいいかなって。その後のことは考えてませんでしたが…」


 罰が悪そうに頬を掻くハウ。しかしアニキは、満足げに言った。


「ははっ、やるじゃんかハウ。お前がそんなことしでかすなんて、思いもしなかったぜ?」

「本当だね。おかげで仕事がやりやすいってもんだ」

「なかなか大胆な作戦だったが、結果的に大成功だ。グッジョブだよ、ハウ君」

「そ、そうですかね…。でひひひ…」


 三人から褒められたハウは不思議な笑みを浮かべた。心底嬉しそうだ。


「あちしもできるだけ力を抑えてたんだけどね。あのままだったらどーなってたかわかんないし。ハウりんさまさまだね」

「あれって力を抑えてたのか?」

「うん。アイツが出てきそうになったら、出てくんな、大人しくしろって念じたの。そしたら、いくらかはあちしの思い通りにできたっぽい。だってほら、誰も傷つけなかったっしょ?」


 確かに、周囲の物は倒れたり、壊されたりしていた。でも、人間は一人も傷つけてはいなかったはずだ。


「なるほどな。お前もだいぶ、自分の力を制御できるようになってたわけか」

「きっとそうでしょう。いつもみたいに暴れられたら、あのカサンドラさんじゃなきゃどうにかできませんでしたよ」

「そーかもね。ま、本当ならアイツが出てこなきゃいいって話なんだけど」


「さあ、お喋りはこのくらいにして仕事にかかろう。いつまた彼らが戻ってくるかもわからないからね」


 エールは手を叩いて促した。五人は手分けして、団体の悪事の手がかりを探し始めた。

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