団体の行動は理解不能?
レジーに連れられ、集会所という施設へ向かうアニキたち一行。その最中、レジーは唐突に口を開く。
「初めに言っておきますが、私は施設の前までしか行きません。ご了承ください」
「わかってるさ。そういう約束だったからね。ところで、もうどのくらい前だったかな。君が団体を抜けたのは?」
問いかけられたレジーは少し考えてから答える。
「五年ほど経つだろうか。早いものだよ。だが、あっという間だった。あの頃の罪の意識に苛まれている時間に比べたら、本当に一瞬のことだ…」
レジーは苦しそうに語った。あの頃、というのは団体に所属していた時の話だろうか。
「あの頃ってのは、ヒュジオンにいた時の話? もし嫌じゃなきゃ、色々聞きたいこともあるんだ」
偶然にも僕の気持ちを代弁してくれたバレッタが尋ねた。レジーはまた少し考えて、再び語りだす。
「いいでしょう。お話できる範囲ならば構いませんよ」
「ありがとう。それじゃ、アナタが所属していた過激派っていうのはどんな活動をしてたのかな? …最も、大体はわかる気がするけどね」
レジーは今度はじっくりと考え、話しだした。今までの言動から察するに、よほど思い出したくない記憶なのだろう。
「やはりそれが気になりますよね。過激派のすることといえば生物の合成や改造、そしてそれらを野に放つ。これだけです」
異世界の人間からしても、本当にそれだけかと疑問に思ってしまった。こちらの人たちの考えることもほとんど同じだった。
「単純明快といえばその通りだけどね…。まさかそれだけを目的に動いてるなんて」
「確かにそうですよね。何かその先に別の目的があるのかと疑ってしまいます」
「主曰く、世界をあるべき姿にせよ、というのが過激派に伝わる教えだといいます。しかし実際にやっていることは支離滅裂で、生態系の破壊やテロ行為に他なりません。私は早々に気づき、団体から足を洗ったのです…」
話すことは終わった、とばかりにレジーは前を向き、黙った。
その背にアニキは問いかける。
「ひとついいかな。あんたが所属していた頃、フリントって男が団体にいなかったか?」
「フリント………。そのお名前は存じ上げません。期間は短かったですが、団体に所属していた頃には聞いたことはなかったですね」
「そうか…」
アニキは俯いた。もしかしたら大きな手がかりが掴めるのではと期待していたのだろうし、その落ち込み様は自然と想像できた。
「お力になれず申し訳ありません。今回の潜入で、何か手がかりになることがあれば良いのですが。…おっと、もうすぐそこですよ」
目の前には、二階建ての建物が見えた。かなりの人数を収容できそうな大きさが見て取れる。
「それでは約束通り、私はここで失礼いたします。幸運を願っております…」
「ありがとう。助かったよ。後のことは気にしないでくれ」
レジーはそそくさと元来た道を帰っていった。
「すまないね。彼は本当に悔いているんだ。自分たちがしてきた罪の数々をね。どうか勘弁してやってほしい」
レジーの姿が見えなくなってから、エールは声を落として言った。
「別に怒りゃしないさ。彼のおかげで集会の場が分かってるんだし」
「そうだな。あとは中入って目的を果たすだけだが…」
五人は不安げに施設を見上げた。
「ねーマズさん、今日はここの潜入と制圧…だったっけ? それって具体的に何すんの?」
「おい、声が大きいぞジェシカ。周りよく見ろよ…」
信者のふりをして中に入り、廊下を歩くアニキたちの近くには、本物の信者と思われる人々がすれ違ったり追い越したりしていた。
ここはいわば敵の拠点のようなものなのだから、細心の注意を払うのは当然だ。
「あ、すんません。なんだかあんまり実感わかなくて」
「気をつけろよ。やることといえば、何か犯罪の証拠でも見つけて警察に持っていくくらいか。こんだけの人数を相手に制圧なんて、俺たちじゃできそうにねぇからな」
「くれぐれも慎重に行動するんだよ。万が一失敗したら、取り返しがつかないことになるかもしれない」
「も、もしそうなったら、ボクたちどうなるんでしょうか…?」
「そこまで心配はいらないと思うよ。過激派の連中が武装集団だとは聞いたことはない。もし怪虫たちを差し向けて来たとしても、我々ならなんとかできるだろうしね」
五人の中で一番怯えるハウは、エールの励ましを受けても不安を拭い去ることはできていない様子だった。
「そうですかね…。でもできれば、争い事なく済ませられたらいいな…」
「仕事とはいえ悪いなハウ、面倒ごとになっちまって。それに、少し俺の私情も絡んでるわけだし、なんつったらいいのか…」
「い、いえいえ! ボクは大丈夫です。頑張りますよっ」
アニキが申し訳なさそうに頭を掻くと、ハウは慌てて取り繕った。
「そうか? まぁあんまり無理せず…。ん? 何か始まるようだぞ」
周囲がざわつき、人々は隊列を組み始めた。




