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合流編Ⅷ・後

 セタさえも予想していなかった、魔獣二体との戦い。協議の結果、ハウとワカバ、カサンドラとジェシカ、エールとクロマが馬の魔獣を。残りの人員で兎の魔獣を相手にすることになった。


「それじゃ、こっちは任せておきたまえ。この人数ならなんとかなるだろう」

「ああ。指揮は頼む」


 エールはマズルにサムズアップを決めると、戦いの場へと向かった。


「さて、こっちも行くぞ。あっちに比べれば、そんなに苦戦はしないと思うが…」


 マズルは横目でマジーナを見る。未だに彼女は魂が抜けたかのように上の空で、ほとんど集中できていなかった。


「マジーナのことは任せてよ。ただでさえ少ない戦力を減らすのは辛いだろうけど…。足手まといにはならないようにするから」


 バレッタはマジーナの肩に手を置き、笑みを浮かべた。


「そうしてもらえるとありがたいです。すみません、うちの魔法使いがお手数をおかけして」

「気になさんな。これもアタシの仕事ってことさ。みんなと違って、直接戦えるわけじゃないからね」


 バレッタは無念そうに付け加える。ずっとサポートに徹していたことを、密かに悔やんでいたのだろうか。


「んじゃ、とりあえず俺たちだけでやるぞ」

「了解です、アニキ」


 ツルギは新しくなった剣の切っ先を、魔獣に向けた。



 兎は他の魔獣に比べると小柄で、頭部のハサミにさえ気をつければ大丈夫だと、マズルはたかをくくっていたようだった。

 だが、そう上手くはいかなかった。兎ならではの跳躍を活かし、魔獣はあちらこちらへ跳び回る。マズルの銃弾も、無闇に撃てば味方に当てかねないために手をこまねいていた。


「くそっ、これじゃ思うように攻撃が…」

「ここは僕に任せてください。新しくなったこの剣、試してみたいので」


 ツルギは剣を両手で構え、目を閉じて力を込めた。たちまち剣には炎が走り、熱気が辺りに伝わった。


「お前、それ使いこなせてんのか? いつの間に…」

「確信はありませんでした。でも魔物たちをやっつけたあの時、きっと魔法の類の技だと思ったんです。だから同じようにすればできるのかなと…!」


 ツルギは剣を振るい、魔獣に斬りかかる。攻撃範囲が広くなったためか、魔獣は避けきれずに傷を負ったらしい。


「いいぞ…。効いてるようだ。これなら、俺たちだけでもなんとかなるか」


 マズルはエールたちの様子を見た。そちらの魔獣は文字通り暴れ馬のように荒々しかったが、クロマの魔法やジェシカの念力によって、ある程度動きを抑えられていた。


「アニキ! そっち行きましたよ!!」


 ツルギの声に、マズルは目の前に兎がいることにたった今気づいた。


「やべっ…」


 不幸中の幸いか、ハサミではなく後ろ脚がマズル目がけて飛んできた。咄嗟に手持ちの武器で防御すると、強烈な蹴りで銃もろとも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてしまった。


「いてて……俺の銃…!?」


 マズルの愛銃には亀裂が入っていた。慌てて引き金を引くマズルだが、弾はおろか煙すら出てこない。


「何やってんの! 貴重な戦力がひとつ減っちゃったじゃないか…」

「俺の心配はなしかよ! 仕方ねえだろ…危ねえとこだったんだから」

「ここは僕がなんとか食い止めますから、早くその銃を、直してもらえると…ありがたい…」


 ツルギは勇ましく立ち向かうが、言葉の一端に不安が表れていた。

 マズルは自力で銃の修復を試みるが、機械に強いわけではないのか、直る気配は一向になかった。


「アンタもいつまでもウジウジしていない。危機的状況なのはわかってんだろ? だったら…」


 バレッタはマジーナに発破をかけたつもりだった。だが、かえって逆効果だったらしい。


「…うるさいわね」

「なんだって?」

「うるさいって言ったのよ。魔法使いでもないくせに、偉そうなこと言わないで!」


 何も言い返せない、あるいは言い返さないバレッタ。マジーナは更に続ける。


「…ダメなのよ。あの時は無我夢中で、やったことのない呪文が飛び出たけど、それ以来下級の魔法すら使えないの…。きっと心が乱れてるから、()()()()()が得られなくなったのよ…」


 がくりと膝をついてうずくまるマジーナ。これでは誰かさんと同じだと、バレッタは思った。


「確かにアタシは魔法なんて使えないよ。でもね、心の奥底にあるものは、多分みんな一緒なんだよ。凡人も、魔法使いもね」


 マジーナの傍に腰を降ろし、バレッタは優しく語りかける。マジーナはゆっくりと顔を上げた。


「心の…?」

「そうさ。住む世界が違うだけで、アンタもアタシも、同じ人間だろう? アンタの痛み、苦しみだって、アタシらとそうそう変わらないと思うんだ」

「…でも、そっちには魔物なんていない。同じなわけ…」


 その時、バレッタはマジーナを抱きかかえて横に飛んだ。兎の魔獣が飛んできたのだった。ツルギの攻撃を食らったのか、頭のハサミが片方欠けてしまっていた。


「マジーナ、心に留めときな。アンタもアタシも同じ過去を背負ってる。アタシがそうだったように、アンタも立ち直れるって信じてるから」

「…うん、わかった」


 マジーナは弱った魔獣の正面に立つと、深く息を吸って、大声で唱えた。


「はあぁぁぁっ! "ギガ・エル"!!」


 激流のように吹き出した火炎が、魔獣の身体を包む。その熱気は、周囲の空気の温度を急激に上げたようだった。

 炎が消えると、魔獣の骨も残さずに消し飛ばされていた。


「や、やった…。できた…あの時と同じ…」


 マジーナは喜びと驚きの入り混じった表情でバレッタの方を見た。


 その表情はすぐに、恐怖のものへと変わった。

 エールたちと戦っていた馬の魔獣が、仲間を倒された怒りからなのか、こちらへ向かってきていたのだ。


「二人とも危ない!! 早くそこから逃げ…!」


 エールの声に気づいたバレッタは振り返るが、もう避けることは間に合わない距離まで魔獣は迫っていた。マズルとツルギ、セタも含めた全員が彼女の元に駆け寄ろうとしていた。


「このっ…邪魔すんじゃないよ!!」


 破れかぶれに蹴りを繰り出したバレッタだったが、その足には蒼白い光を纏わせていた。

 彼女の回し蹴りは魔獣の頭を薙ぎ払い、地に横たわらせた。動きを止めた魔獣は塵となって消え失せ、二体の魔獣戦は決着がついた。




「いやはや、バレッタ君にあんな力があったとは。今回は二人に美味しい所を持っていかれてしまったね」


 エールの賛辞を受けたマジーナは、珍しく顔を紅くしていた。


「あはは…。ま、まぐれかもだけどね。それにしてもバレ姉。あの技、どうやって覚えたの?」

「アタシもさっぱりだよ。特訓なんかした覚えないし…。セタ、アンタなら何か知ってるんじゃないの?」


 呼ばれたセタはふらりと現れた。魔獣が二体いたことの動揺は、もう落ち着いているようだ。


「私からは何もお伝えできることは御座いません。強いて言うならば、あなた方の絆の賜物、とでも言いましょうか」


 普段通りの答えを返すセタ。当然、マズルは噛みついた。


「またそれか。だが今回は逃さねえぞ。気になってたこと全部、答えてもらおうか…」


 マズルがセタに詰め寄り、怒涛の尋問をぶつけている間、バレッタもマジーナに質問をしていた。


「マジーナ、気になってたんだけど、さっき魔法を使うのに自然の赦しがどうとか言ってたよね? あれはどういう意味?」


「ああ、それね。あたしたちが使う炎とか雷とかの魔法って、実は自然界の精霊の力を借りてるの。だから呪文を唱える時には、悪いことには使いませんって心の中で誓わなきゃいけなくて、赦しがもらえなければ失敗するの。あとは使い手の精神状態も関係してくるから、さっきみたいに迷いがあってもダメなのよ」


「ふーん、けっこう面倒なモンなんだね、魔法って」


 バレッタは腕組みをして頷く。説明をし終えたマジーナは、今度は自分の番だとばかりに尋ねた。


「あたしからも質問。さっき言ってた同じ過去を背負ってるってどういう意味?」

「アタシもアンタも、同じく学び舎で苦い思い出があるって言いたかったの。アタシも昔、色々あってね…」


 簡潔に、バレッタは自らの過去を語った。


「そっか…。バレ姉にもそんな過去が…。ふふ、ふふふ…」

「マジーナ…?」


 唐突に、マジーナは俯いて笑みをこぼした。バレッタは心配そうに顔を覗き込む。


「ぷっ、あははっ。なんだかバカみたい。くだらないことで悩んでたなぁって。ありがと、バレ姉」

「あ、ああ。礼には及ばないさ。なんたってアタシらは縁の仲間なんだからね」

「うんうん。そうよね。やっぱりバレ姉とは気が合うわぁ。あたしたちが揃えば敵なしよ。わーっはっは!!」


 過剰なほど元気を取り戻したマジーナ。ワカバは正直に呟いた。


「お姉ちゃん、現金だね」

「ま、まぁまぁ。お元気になって良かったよ」

「うちの魔法使いがお騒がせしてるね。これからもひとつ、よろしく頼むよ」

「ちょっとぉ、そこのボクトリオ! 聞こえてるわよ?」


 新しくグループ名を付けられた三人は、顔を見合わせて苦笑いした。


「はは、ボクトリオか…。そういえばツルギさん、剣新しくしたんですね」


 腰の剣に気づいたハウは言った。


「ええ。僕にもよくわからないんだけど、戦いの中で突然形が変わって」

「へぇ〜…。そちらの世界では不思議なことがあるんですね」




 その後、一同が元の世界へと送還されると、セタのみがそこに残された。

 そこに、以前にも聞こえた声が響く。


「…セタ。状況の報告を願います」

「はい。魔獣が二体、一度に現れました。恥ずかしながら、私にも想定外のことでして…」

「よいのです。おそらくは、あの力が高まったことによるもの。もはや猶予はないと思われます」

「存じておりますとも。このようなこともあろうかと、水面下で進めてきたのですから」


 セタは目つきを鋭くして宙を見上げ呟くと、一瞬で姿を消した。


「セタ、動きます」

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