合流編Ⅷ・前
八回目となる、ツルギたちとマズルたちの合流。互いの姿が確認でき、一番に仲間の元に駆け寄った者は、涙で顔をくしゃくしゃにしていた。
「ワカバ君〜。会いたかったぁぁぁ…」
「ど、どうしたのハウさん…? あの、鼻水…」
「うう、ごめん…。だってさ、ジェシカさんたら酷いんだよ。ボクが怖がってるのわかってて、わざと怪談を聴かせてくるんだから…」
ちらりと横目でジェシカを見ながら、ハウは言った。
「だからぁ、ごめんてば。悪かったって思ってるよ」
「…もうしません?」
「しない。約束ね」
「じゃあ、許します」
ジェシカからの謝罪を受け入れたハウは、落ち着きを取り戻した。
一方、まだ心の整理ができていない者もいた。
「よっ、元気かい? マジーナ」
「…うん。まぁね」
気さくに声をかけたバレッタだが、相手からの返事は素っ気ない。理由を知る由もないバレッタは戸惑った。
「…なんだかいつものアンタらしくないね。何かあったのかい? そういえば前にもこんなことあったような…」
「バレッタ殿。少し良いか。実はかくかくしかじかで…」
カサンドラはマジーナに背を向け、バレッタの耳元で小声で説明をした。
「なるほどねぇ。慕ってた先生が化け物で、ショックだったのか。で、アタシならなんとかできるかもと」
「うむ。我々もできるだけ気を遣い、慰めようとした。だがこの件は貴殿の方が適任だと考えている。彼女のこと、任せてもいいか?」
「もちろん。…といいたいところだけど、正直自信はないよ。アタシらの世界でそんなシチュエーション、経験あるわけないし…」
「そうであろうな。しかし、貴殿なりのやり方でいい。マジーナの心に火を点けて貰えれば…」
「難しい依頼だけど、承知した。できるだけ期待に添えるようにしてみるよ」
その時、セタからの号令が入る。
「えー…、皆様お集まりになりましたね。では、魔獣の元へとご案内いたします」
セタの口調は、その場の誰もが違和感を覚えるものだった。
それに気づいたマズルは、真っ先に問いかけた。
「いつになく元気がないな。何かあったのか?」
「いえ…といえば、嘘になりますね。隠しても仕方ありませんが、皆様の目で直に見ていただいた方がわかりやすいでしょう。とにかく、ついてきてください」
それだけ言うと、セタは先頭を歩き始めた。
「ったく、まわりくどい奴だ。何で説明しねえんだ」
文句を垂れつつも、マズルはその後についた。
「今回の魔獣はどんな姿なのだろう。まあ何者が相手でも、私たちが力を合わせればどうということはないはずさ。頑張ろう」
「流石は先生…。その自信、心強いです。私も見習わないと…」
「はぁ…お化けも怖いけど、魔獣と戦うのも毎回怖いんだよなぁ…。大丈夫かな…」
「僕がいるから、怪我の心配ないよ。きっと大丈夫」
各々が会話を交えながら進む最中も、セタは一言も発さない。ツルギはその一帯の空気が、心なしか重くなっているように感じられた。
(なんだろう。いつもより気配が大きいような…? 大きな敵? それとも…)
やがて一行は、魔獣の待ち受ける広間にたどり着く。
しかし、そこで光景は、今までと明らかに違っていた。
魔獣は二体いた。片や、兎を模した身体に鋭い目と、刃のような耳を備えている。
もう片方は、馬の身体に異様な長さの尾を持った魔獣だった。
「兎の姿の方が『シザース・ロップ』、馬の方が『ウィップ・ホース』で御座います。ご覧の通り、今回の相手は二体おりますので、十分お気をつけ…」
「ちょっと待て。聞いてないぞ、魔獣が二体だなんてよ…」
「ええ。ですから見た方が理解しやすいかと。実を申しますと私にも予想外のことでありまして…」
「何だよそりゃ…。無責任も大概に…!」
「四の五の言ってる場合か? ほら、向こうは敵意むき出しだよ!」
セタに対して憤りを隠せないマズルだが、バレッタの一声で中断される。彼女の言葉通り、魔獣二体は威嚇のような姿勢をとっていた。
「仕方ねえ…。やるぞ、みんな!」
「僕たちも! 力を合わせて乗り切りましょう」
二人の指示で、魔獣たちとの戦いが始まる。




